【インタビュー】ANCIENT MYTH、変貌を遂げた最新作『ArcheoNyx』

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■一つ鍵を開けると実は全部できる素養は育つ
■もっと高みを目指したかった

──なるほど。「天狼大神」は2018年12月に、「Träumerei: Luna」は2019年3月にショート・ヴァージョンがYouTubeで公開されましたよね。先ほどの声楽の話と重なりますが、その時点で歌に関しては、これも従来とは違った表現に挑もうという明確な目的意識があったからこその取り組みですよね?

Hal:あの時点では、ずっとソプラノ的な声でやるかもしれなかったよね。

Michal:まぁ、そうかもしれないですね。



Hal:その後に作った「Meteor Hunter」ではロックの歌い方とオペラの歌い方を両方使ってるんです。最初はオペラ的なもので全部行くと思いきや、確かそこで曲ごとに変えようということになったんだと思うんですよ。

Michal:私もNIGHTWISHは好きなんですけど、ターヤ(・トゥルネン)時代だけではなく、アネット(・オルゾン)さんのときもすごく好きで、そのいいとこどりができればいいなと思ったら、何と新加入のフロール(・ヤンセン)さんが両方できる人だった(笑)。なるほどなと思って。ARCH ENEMYのアリッサ(・ホワイト=グラズ)も実はあらゆる歌い方ができる人なんですよね。結局、歌って全部つながっているので、巧い人は一つ鍵を開けると実は全部できる素養は育つ。せっかくボトムアップしようというときに、私はこの歌い方しかやらないとか、これまでのものを封印するとか、そういう選択肢ではなく、もっと高みを目指したかったんですね。だからやっぱりどの歌い方もやっていく必要はあるのかなと。日本だとオペラっぽい歌い方の感じはあまりウケないのかなという気配もありつつ。

──歌の変化は最たるものだと思いますが、バンドの印象がこれまでとはまったく別ものになりましたね。Halさんが加入して、Michalさんと二人がメイン・コンポーザーへと変わったことは大きいですが、それまでのANCIENT MYTHの音楽性を変えているわけではない。曲のクオリティが上がったことは確実に言えると思うんですよ。

Kohei:HalさんとMichalさんは普段から世界観が強いんですよ(笑)。そういった二人と接する中で、何となく楽曲やバンドに対するイメージや意識も伝わってきてたんですね。曲だけじゃなくて、バンドとしてのまとまりもあったからこそ、こうやって作品としていい形でまとめることができた面もあると思うんです。個人的には今回は作曲には携わってないですけど、こうやってワンクッション置くことができたわけじゃないですか。頭の中のイメージや表現したい世界観が、これから自分の中にもより入ってくると思うので、自分の作曲能力が加わったとき、さらにいい化学反応が生まれたらいいなと思います。

──このアルバムに関して言うと、曲の中でギターがどうあるべきかというのを、ものすごく的確に押さえたプレイをしている印象ですよね。

Kohei:ありがとうございます。そう言えってもらえると嬉しいですね。かなり自分のことを俯瞰してました。

──THE GENIUS ORCHESTRATIONで弾いているようなテクニカルなフレーズも入ってはいますが、曲の印象をガラリと変えるような飛び道具にはしていない。世界観を維持させるためにはどうギターを弾くのか。そういう臨み方ですよね。

Kohei:そうですね。たとえば、同じメロディにしても何千ものギターのアプローチがあるんですよね。まず1音1音、弦の上から当てるのか、下から当てるか、ちょっとシャープさせるのか、フラットさせるのかとか、そういう面だけで言っても、別に自分がフレーズを作らなくてもその世界の中で僕の存在は確実に伝えることができる。Halさんもレコーディング中にかなり手応えを感じてくださったので、自分も間違ってなかったんだと思いながら、どんどん録っていきましたね。

▲Kohei(G)

──すごくプロフェッショナルなギターだなと思って聴いてました。ある意味、絶妙な抑え方なんですよね。それが逆に自己主張になっている。

Kohei:嬉しいです。自分には好き勝手荒らせる畑がすでにあるので、棲み分けができていたのかもしれないですね。僕は芯となる目標というか夢があって、絶対にギター・ヒーローになるぞと思って、中学生のときからギターをやってきたんですよ。最初に父親に教えられたのも、イングヴェイ・マルムスティーンだったり、マイケル・シェンカーだったり、ポール・ギルバートだったり。その目標に対して立ち上げたバンドが、THE GENIUS ORCHESTRATIONだったんですね。ANCIENT MYTHでは自分の信念を貫きつつも、バンドとして頑張ろうというだけじゃなくて、プロフェッショナルなギタリストであるという意識をもっと持って、コンポーザーとぶつかり合った。そういう中で生まれた作品でそう汲み取っていただけたのであれば、ホントに嬉しいですし、初めて聴く人にも、もともとANCIENT MYTHのファンであった人にも、ギタリストとして凄いヤツが来たって認識してもらえるなら、それこそ、ギター・ヒーローになるという道に一歩近づけたんじゃないかなと思えるんですよね。

Shibuki:さっきKoheiくんが言ってましたけど、確かにMichalさんとHalさんの世界観って独特で……すごい変な人とすごい変な人(笑)。自分はそれ込みで面白いバンドだと思ってて。アルバムの制作を始めた当初は進捗状況も芳しくなかったりもしたんですけど、ホントにすごくカッコいいものができたと思うんですね。今回、自分でも1曲だけ作曲させてもらいましたけど、今後もいろんな曲を作っていきたいですね。今回はMichalさんの鼻歌をHalさんが曲に広げるみたいな作業が結構あったんですけど、次のアルバムのときには自分もそこに踏み込んでいってみたいなと思ってて。

Hal:いきなり電話かかってきて鼻歌を聴かされるよ(笑)。

──ははは(笑)。充実したアルバムができたからこそ、作り手自身もそう感じるのだと思いますが、実際に次の作品も早く聴きたくなりますよ。バンドの状態がいいことも伝わってきますし、Koheiくんが作曲することで、新たに加わるものもあるでしょうし。モーツァルトの歌劇『魔笛』で知られるアリア「Der Hölle Rache kocht in meinem Herzen(復讐の炎は地獄のように我が心に燃え)」を採り上げたのも興味深いですね。オペラ的ヴォーカル・スタイルがわかりやすく伝わる曲ではありますが、難曲としても知られていますよね。

Michal:私が今まで実力的に足りなかったのは、やっぱり高音域の部分だったんですよね。そこは実はずっと悩んでいて、もしかしたら、声楽をちゃんと習えば、ある程度まで克服できるんじゃないかなという期待はしていたんですね。そこでオペラの中でも、アリアで、ソプラノ歌手が「これはヤバい」というものを歌えるようになることを、まず自分の中の目標に据えようと思ったんです。それがたまたまこの曲だったんですね。かつ、作中で夜の女王が歌う曲なので、自分自身のイメージとも結構重なる。他にも、たとえば『ホフマン物語』でオランピアという機械人形が人間じゃない超絶フレーズを歌うみたいなものもあったんですけど、私は機械人形というよりは夜の女王だなと思って。そもそも声楽を習い始めるときから、先生にこれが歌えるようになりたいって持っていってた曲でもあったんです。“ArcheoNyx”という今回のタイトルの一部に、ギリシャ神話の夜の女神とされている“Nyx”の名前も入ってるんですけど、ANCIENT MYTHの世界観は、どちらかというと朝とか昼ではなくて夜だと思っていたこともあり、アルバムの中に入れても溶け込むんじゃないかなと。さらに、いきなり飛び級で実力を上げたんだなというのもわかりやすい曲かなと思いましたので、入れてみました。

──この曲を入れようという話があったとき、他のみなさんはどう思いました?

Kohei:最初にHalさんからデータが届いたときには歌が入ってなかったんですけど、これをバンドでやるかと。これもアレンジがなかなか鬼畜で(笑)。まず、ギターがベース寄りの扱いじゃないんですね。いわゆる簡単な力強いパワーコードとか、3度だけじゃなくて、さっきも話しましたけど、左右のギターの単音と単音とで和音になっているものが多いんですよ。そういった中で、あの歌も入ってくることを前提にアプローチを考えると、よくも悪くも楽器隊は抑えて、しっかりと歌が載る状態にしないといけないなと。実際に歌が載ったときは、「あぁ、よかった」と思いましたし、「Michalさんスゲェ、マジで歌ったんだ!?」っていうのはありましたね(笑)。

Hal:あの曲を声楽のレッスンでやってるって聴いたときに、「アルバムに入れる?」って言ったのは、多分、僕だったとは思うんです。せっかく歌えるようになったのであれば、作品に残したらいいかなと思って。しかも多くの人が知っている曲ですから、なおさら以前のヴォーカルとの変化が明確にわかる。そこでバンド・アレンジも進めていったんですね、ギターがこんなに大変だったとは知らず……いや、クラシックの原曲に合わせてギター・パートを作ったので、どうしても普通じゃないとは思いつつ(笑)。弾いていただいてありがとうございます、歌っていただいてありがとうございます。

Michal:私もHalくんもホントにメタルファンなんですけど、たとえば、私が一番大好きだったエリサ(C.・マルティン)期のDARK MOORも、2曲ぐらいクラシックのカヴァーをやってたんですよ。だから、シンフォニック・メタル系はクラシックのカヴァーをやるもんだという認識があって、いつか自分もやりたいとは思ってたんですね。やっとあの夢の一つが叶ったというのもあります。

▲Michal(Vo)

──この曲のアレンジにしても言えますが、シンフォニック・メタルというと、もっと大仰かつ壮大に音を重ねて作り込んで盛り上げるケースも多いですよね。ただ、このアルバムに関して言うと、押し出すところもありつつ、全体像としては、引くアプローチで絶妙に作られていると思うんですよ。音圧で聴かせるようなことはしない。自然にそういう作り方になったのかもしれませんが。

Hal:ミックス自体は僕がやってて、マスタリングはみんな立ち会ったんですけど、音圧でガツガツくるようなメタルの音にはしたくなかったんですよ。やっぱり生のストリングスとかも入っている以上、不自然な大きさにすればよさが削がれますからね。そこは狙ったところはあります。

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