【連載 番外編対談】櫻澤の本気 II、MUCCミヤと語る「ミュージシャン目線と制作現場目線」

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■「スタジオが完成しました」と連絡がきて
■もう速攻で遊びに行ったよ(笑)

──Sakuraさんもミヤさんも、エンジニアとしてのスキルを持たれていることや、プライベートスタジオを所有されていることも共通しています。

櫻澤:エンジニアリングに関しては、自然の流れで自分でやるようになったというか、ドラムサウンドを追求した結果なんだよね。ドラムチューニングに詳しいのも、L'Arc-en-Ciel時代、暇さえあればずっとチューニングしてた時期があったからで。当時、チューニングのことがわからなかったので、イベント出演とかでの本番前の空き時間は、舞台袖でずっとチューニングをしていたりね。そういう姿を見かねた事務所の社長が「チューナーを雇え」と言ってくれて(笑)。そのチューナーからいろんなことを覚えたし、自分で得た知恵もある。さっきミヤ君が「プロのチューニングとはこういうものなんだ!ってビックリした」と言ってくれたけど、そこらのドラマーよりチューニングや音響の知識はあるし、プロのチューナーでもここまでできる人はあまりいないんじゃないかな……自画自賛になってしまうけどね(笑)。

ミヤ:俺はSakuraさん以外のドラムチューナーのチューニングというものをあまり知らなかったんですよ。最近、職業チューナーと一緒に仕事するようになって、Sakuraさんのチューニングの個性がよりわかるようになった。Sakuraさんは職業チューナーとまた違って、チューニングにミュージシャンらしい部分があるんです。つまり、ミュージシャン目線と制作現場目線の両方を持っている。そこが当時のMUCCに一番合っていたんだと思うんです。ただ、当時の俺らは本当になにもわかってなかったから、イメージしている音にならないと「Sakuraさん、もっとこういうふうにしてくださいよ」とか、すごく言ってたと思う。Sakuraさんにしてみれば、“それはチューニングじゃなくて、プレイじゃね? もうちょっとちゃんとプレイすれば、イメージしている音になるんだけどなぁ……”とか思ってても、それを言わなかったみたいなことが相当あったんじゃないかと(笑)。


▲ミヤ [MUCC]

──ほとんどのチューナーや機材テクはそう言うと思いますが、Sakuraさんは言わなかったんですね?

櫻澤:言わなかったね。本当に大事なのは機材やチューニングじゃないんだよ、ミヤ君もわかっていると思うけど。機材よりもマイキングのほうが音色におよぼす影響が大きくて、それよりさらに影響するのがプレイヤーのタッチ。だから発言はしなかったけど、それっぽいことをSATOちの目の前で叩いてみせたりして、イメージしやすくなればと思ったんだよね。

ミヤ:“ブラインドドラム”をよくやってましたよね。SakuraさんもしくはSATOちが、一発パーンとドラムを叩いて、その音だけでどっちが叩いたかを当てるゲーム。もう一瞬でわかるんですよ、一回も間違えたことがなかったくらい。同じタイコを叩いても明らかに出てくる音が違う。

櫻澤:懐かしいな(笑)。話を戻すけど、ミヤ君もドラムチューニングだったりレコーディングのサウンドメイクに興味を持っていたので、お互いに情報交換みたいなことをしていたんですよ。一方で俺は、MUCCに限らず、シドやマーヴェリック所属若手バンドの現場もみていたから、その子達のレコーディングのときにプロのエンジニアの録り方を盗ませてもらったりしててね。その結果、今の自分がいるという感じで、意識的にエンジニアになりたかったわけじゃなくて、気がついたらそういうこともできるようになっていたんだ。

ミヤ:俺は元々エンジニア志望で、ミュージシャンとしてデビューしてからも、変わらずエンジニアリングが好きなんですよ。だからSakuraさんとは出発点が異なるし、作ったプライベートスタジオも、Sakuraさんと俺では若干方向性が違いますよね?

櫻澤:うん。ミヤ君の場合はボーカルやアコースティックギターのレコーディング、ミックスといった制作ができる場所がほしくて、スタジオを作ったんだよね? 俺のスタジオはバンドリハーサルもミックスもできるようにしたけど、根本は“毎日ドラムを叩きたい”ということだけだったんだ。そういう自分のスタジオがほしいと思っていたところに、ミヤ君から「自分のスタジオが完成しました」という連絡がきて、もう速攻で遊びに行ったよ(笑)。

ミヤ:俺の場合は“うまくバンドがまわるようにするためのスタジオ”に特化して作ったんです。場所的な問題もあって、“自分のスタジオでリハーサルもできるように”みたいなことは考えてなかったですね。爆音は外のスタジオで出せばいいと思っていたし。だからレコーディングとか制作。そのためにはしっかり作り込んでおかないと後々苦戦しそうなところに配慮して、最初から電源を200V仕様にしたり。自宅スタジオだから家庭用電気でいいという妥協は、プロフェッショナルな作業をするスタジオとしては甘いスペックになってしまうので、こだわるところはこだわりました。スタジオを作った当時は、ミックスからマスタリングまで自分で手がけるようになるとは思ってなかったんですよ。でも、実際そうなったので、そこはスタジオを作って良かった部分でもありますね。

──それに、ミヤさんのスタジオはすごく雰囲気が良くて、内装などにもこだわりが感じられます。

ミヤ:内装は単純に俺の好みですね。Sakuraさんのスタジオの内装が黒で統一されているのと一緒。

櫻澤:まだ制作途中だけどね。黒くないところが結構ある(笑)。


▲櫻澤泰徳

──楽しみながらスタジオを作っていることがわかります。もうひとつ、Sakuraさんのスタジオは演奏ブースの天井が高いことにも驚きました。家屋を改造したとは思えないほどです。

櫻澤:建物自体は鉄骨なんですけど、一般的な日本家屋は鉄骨だろうと木造だろうと床から天井までの高さは、だいたい決まっているんですよ。でも、スタジオにするために高さがほしかったから、まずは床と天井を取っ払って。床板は土間というか基礎の上にけい砂を敷いて、組んだ土台にほとんど直接乗せているし、天井もむき出しの躯体に自分で板を貼ったんだ。つまり、普通の家よりも床が低く、天井が高くなっているから、一番高いとことが3m20cm(一般家屋の平均は2m40cm程度)。音速に則った高さでいうと3m40cmが理想だから、本当はあと20cmほしかったんだけど、まあ十分かな。

ミヤ:俺はSakuraさんのスタジオでX SUGINAMIのデモテープをレコーディングしたことがあるし、Merry Go Round Respectsのリハーサルもやったんですけど、スタジオの鳴りがいいんですよ。レコーディングスタジオとしてもリハーサルスタジオとしても、ヘタなスタジオなんかより全然音がいい。

櫻澤:ZIGZOのリハーサルもここでやりたいんだけど、「いや、遠いからさぁ」とか「大音量出すから」って理由をつけて、他のメンバーが来やしねぇ(笑)。でも、gibkiy gibkiy gibkiyはリハーサルもここでやってるし、曲がある程度固まると、クリックを鳴らした状態で全部のパートをしっかり録るというプリプロをするんだ。そこからドラムだけ抜いて、正式なドラムトラックを1人でコツコツ録るという。他のメンバーも同じように、自分のトラックに差し替えるという録り方がずっと続いている。RayflowerもZIGZOの最新アルバム『across the horizon』もドラムは全部ここで録ったしね。

──スタジオのクオリティーが高いことがわかります。エンジニアリングといえば、ZIGZOの最新アルバム『across the horizon』はミックスをSakuraさんとDENさんが行なっていますね。

櫻澤:それも自然とそういう流れになっちゃっただけなんですけどね。ミックスに関してはこだわりというよりも、特に今回は、聴いてみて“嫌か/嫌じゃないか”を意識した。gibkiy gibkiy ginkiyの場合は、実験的な音を押し出したり、あえて混沌とさせたりするけど、ZIGZOは変に誇張しないほうがいいいから。要するにミックスするときはプレイヤー視点ではない。以前は“自分がドラムを叩いているときに聴こえてくるサウンド”を再現することにこだわっていたけど、それが徐々に変わって、今は“このドラムの音を聴いたらドラムを始めたくなるんじゃないかな?”っていうことを大事にしている。同じようにギターも、“自分もこんなギタリストになりたい”と思ってくれるようなサウンドを意識してミックスしたんですよ。

ミヤ:『across the horizon』のSakuraさんとDENさんのミックスは方向性が違っていて、Sakuraさんの音像のほうがクリアですよね。DENさんのミックスは楽器同士の音の被りを活かしているから、ある意味ライヴ感があってバンドマンっぽい感じ。最初に聴いたときは、元々俺が持っていたイメージとは逆だったから、DENさんのミックスがSakuraさんのミックスだと思ってたんです(笑)。つまり、Sakuraさんはミックスするバンドのキャラクターとかでアプローチを変えることができるんですよ。それが今回初めてわかった。ただ、ZIGZOの場合は、よほど間違った録り方をしない限り、エンジニアが誰であろうと音の印象は変わらないと思う。メンバーそれぞれが出す“瞬間の音”と“録音した音”に、そこまでギャップがないはずだから。ミックスした音を聴くと、それを感じるんです。

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