【ライブレポート】秦 基博、弾き語りで届けた豊潤さと願い。<GREEN MIND 2021>開催

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秦 基博が<GREEN MIND 2021>東京・LINE CUBE SHIBUYA公演を7月25日(日)に開催した。当日の模様を詳細レポートでお届けしよう。

◆秦 基博 画像

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秦 基博の原点にして、もっとも豊かな表現がここにある。そのことを改めて実感できる、素晴らしいライブだった。

全国弾き語りツアー<GREEN MIND 2021>の(ファイナル)、東京・LINE CUBE SHIBUYA公演。弾き語りベストアルバム第2弾『evergreen2』(CD1はシングル中心、CD2はリクエストで選ばれた楽曲を収録)を中心としたセットリスト、そして、“アコギと歌”というもっともシンプルなスタイルで、きわめて豊潤な音楽を表現してみせた。

2008年にスタートした<GREEN MIND>は、5月4日“みどりの日”に合わせて不定期で行われているアコースティック・ライブシリーズ。これまでホール、ライブハウス以外はもちろん、芝居小屋、酒蔵、全国各地の世界遺産での野外公演、スタジオライブ形式、さらに日本武道館やデビュー10周年を記念して行われた<LIVE AT YOKOHAMA STADIUM>の第2部など、さまざまな会場で開催されてきた。4月27日から始まった<GREEN MIND 2021>は、 同ライブシリーズとしては最大規模となる全27公演。弾き語りの全国ツアーは9年ぶりということもあり、大きな注目を集めた。


アコースティックギターの心地よい音色が響く「Theme of GREEN MIND」が聴こえてきて、秦 基博がステージに姿を見せた瞬間、大きな拍手が沸き起こる。最初の楽曲は、2007年の1stミニアルバムの表題曲「僕らをつなぐもの」。切なくも愛らしい《幼い僕らのこの恋》を描き出し、会場を埋め尽くした観客を瞬く間に惹きつけた。

「今日は弾き語りでのライブ。最後までじっくりと音楽に浸っていただけたらと思います」と簡潔な挨拶を挟み、最新アルバム「Sally」(5thアルバム『青の光景』/2015年)、『evergreen2』収録の新曲「Tell me,Tell me」を披露。アコギの弾き語りによって様々な時期の楽曲を堪能できる<GREEN MIND>の魅力を、冒頭からたっぷりと味わうことができた。

ここからは秦の持つ幅広い音楽性を実感できるシーンが続いた。「FaFaFa」(4thアルバム『Signed POP』/2013年)はロックンロールを基調にしたポップチューン。《FaFaFa〜》というフレーズと軽快なビートに誘われるように手拍子が起き、自然な一体感が生まれる。最新アルバム『コペルニクス』(2019年)収録の「漂流」では、ループマシンを使って演奏。ギターのカッティングやリフ、ボディを叩く音などを重ねて即興的にトラックを作り、憂いを帯びた旋律、刹那的な恋愛模様を描き出していく。エンディングのギターソロも絶品。「漂流」のパフォーマンスは、この日のライブの最初のハイライトだったと言っていい。

続く「さよならくちびる」(映画『さよならくちびる』主題歌)は、『evergreen2』DISC2のために行われたベストアルバムで「ダントツの1位」(秦)を獲得した楽曲。もともとは映画『さよならくちびる』に登場する“ハルレオ”(小松菜奈が演じる“レオ”、門脇麦が演じる“ハル”によるギターデュオ)のオリジナル曲として制作された曲で、映画の舞台挨拶の際に「ハルレオに挙げた曲なので、自分で歌いません」と明言したものの、リクエスト1位になったため歌うことに……というエピソードを話した後、この楽曲を披露。映画のストーリーに沿いながら、ハルとレオの関係性を反映した楽曲なのだが、弾き語りにより再構築され、完全に“秦 基博の歌”に昇華されていた。


さらに上白石萌音に提供した「告白」をセルフカバーした後、“みどりの窓口”へ。<GREEN MIND>恒例のこのコーナーは、観客からの質問に(実際に質問者と会話しながら)答えるコーナー。「シンガー・ソング・ライターと三刀流の秦くんですが、四刀流にするとしたら、何をやりますか?」「パンツの変えどきは?」といった質問にフランクに答え、リラックスした雰囲気が生まれる。この気の置けないないムードもまた、<GREEN MIND>の魅力だ。

“日替わり曲”(曲名が書かれたボールが入った箱から秦自身が取り出した楽曲を演奏)の「やわらかな午後に遅い朝食を」(1stシングル「シンクロ」/2006年)、そして、官能的なイメージを強く反映した「恋の奴隷」(『エンドロールEP』/2012年)を表情豊かに歌い上げた後——楽曲に込められたストーリーや情景が匂い立つように浮かび上がる——「70億のピース」(シングル「70憶のピース/終わりのない空」/2016年)へ。今の世界では様々な悲劇が起きていて、《愛の歌が届かない 暗い闇》も確かにある。自分たちに出来ることは、大切な人と隣り合えた意味を感じ、小さな幸せを積み重ねること。それが拡がればきっと、希望のある未来に近づけるはず——そんな思いを込めた「70憶のピース」は、パンデミックが続く現状とも強くリンクしていた。過去に作った楽曲が、社会の在り方や聴き手の感情によって聴こえ方が変わり、新たな意味を生み出す。それもまた名曲の条件なのだと、再確認できる場面だった。

再びルーパーを使い、R&B的なグルーヴを生み出した「Raspberry Lover」(アルバム『コペルニクス』)からライブは後半へ。リズムマシンのビートを鳴らし、「手拍子でみんなと盛り上がれたらと思います!」とハンドクラップを促した「グッバイ・アイザック」(アルバム『Signed POP』収録)、さらにテンポを上げ、揃いの振り付けによって気持ちいい高揚感を生み出した「スミレ」(シングル「スミレ」/2016年)へ。弾き語りを中心に置きながらも、様々な演出で観客を楽しませようとする姿勢も心に残った。


この後は秦 基博のキャリアを代表する名曲が続いた。「鱗」(シングル「鱗」/2007年)では、伸びやかな歌声とともに《君に今 会いたいんだ 会いに行くよ》というフレーズを会場全体に響かせる。そして「声は出せないですけど、よかったから心のなかで歌ってもらえたらなと思います」という言葉に導かれたのは、今はスタンダードになったと言っても過言ではない「ひまわりの約束」(シングル「ひまわりの約束」/2014年)。大切な人に向けられた《ずっと君に 笑っていたほしくて》という切実な思いは、この日も大きな感動を生み出していた。

ここで秦は、観客にゆっくりと語りかけた。
「今も世界中が大変な状況ですけど、その中でも自分にできる、みなさんに音楽を届けられる形を探しながら、全国弾き語りツアーを回ってきました。こんなふうにみなさんと会えて、ホントに幸せだと思います。またこんなふうに笑顔で会える日が来ることを願ってます」

本編ラストは、最新シングル「泣き笑いのエピソード」。笑顔をあきらめず、前に進んでいきたいという願いは、観客ひとりひとりの心にしっかり届いたはずだ。


鳴り止まない拍手に迎えられ、再びステージに登場。無事ツアーを回れたこと、会場に足を運んでくれたことに対する感謝を言葉にした後、かけがえのない人へとの出会い、滲み溢れる愛の在り方を描いた「アイ」(シングル「アイ」/2010年)、そして、《あなたを守れるように やさしくいられるように》というフレーズが響いた「風景」(1stアルバム『コントラスト』/2007年)を叙情豊かに奏で、ライブはエンディングを迎えた。

デビュー15年目を迎え、さらに豊かさを増している秦 基博の音楽。それは11月に横浜アリーナ、大阪城ホールで開催されるアニバーサリーライブ<Hata Motohiro 15th Anniversary LIVE>でも存分に味わえるはず。そう、秦はここから、アーティストとしてさらなる充実期に向かうことになるだろう。

取材・文◎森朋之

<GREEN MIND 2021>7月25日(日)東京・LINE CUBE SHIBUYA公演セットリスト

M0 Theme of GREEN MIND
M1 僕らをつなぐもの
M2 Sally
M3 Tell me, Tell me
M4 FaFaFa
M5 漂流
M6 さよならくちびる
M7 告白
M8 日替わり曲
M9 恋の奴隷
M10 70億のピース
M11 Raspberry Lover
M12 グッバイ・アイザック
M13 スミレ
M14 鱗(うろこ)
M15 ひまわりの約束
M16 泣き笑いのエピソード
EN1 アイ
EN2 風景

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