【インタビュー】TENSONG、正解のなさを愛する“十人十色”の美学

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■正解なんてこの世界にはないから、自分自身を貫いてほしい

──「昇進者」では《正解ばかりの世界と 戦うにはどうすればいいか》という歌詞を書かれていますよね。

たか坊:その歌詞も、「本当は正解なんてないんだよ」って言いたかったんです。みんながみんな「これが正解」「これが正しい」「これがいいんだ」ってバーッ!と言っていて、その人は〈正解ばかりの世界〉と思うんだけど。でも、本当はどうすればいいのかなって考えている、それが正解なのかもしれないけど、違うと思っている自分がいる。そういう葛藤を綴った歌詞だったので。

──そういった葛藤を書くことが多いですか?

たか坊:多いですね。今までの経験を基に書いているので、基本的には葛藤したものが出てくるには出てくるんですけど、やっぱりニュアンスが大切になってくるなと思っていて。自分が過去に葛藤した経験を書いたところで、それが人に伝わるかと言われたら、それは違うかなと思うので。だから、自分が書いた歌詞を第三者として読んでみて、これは葛藤してないと思ったら、そこを何回も修正して、やっと葛藤したと思ったらすらすら書けるんですけど、そこまでが長いですね。

──確かに過去の経験から歌詞を書くとなると、記憶に残っているもの=印象深いものだから、自動的に歌詞もエモくなるんでしょうね。

たか坊:いや、僕の歌詞、エモくないですよ?(笑)

──そうですか?

たか坊:なんていうか、あんまりうまく書けないんですよね。たとえば、ボーカロイドの曲に多いと思うんですけど、「こんな言葉聞いたことない!」っていうものを入れながらも、ちゃんと成り立っている感じがあるじゃないですか。すげえなと思いながらいつも聴いているんですけど。今一番挑戦してみたい歌詞の書き方なんですよね。

──確かに、ボカロ曲的な言葉選びや詰めこみ方をしている歌詞は、今のところ書かれていないですね。でも、「カタルシス」とか充分エモいと思いますけど。

たか坊:「カタルシス」は……もうちょい詰めれましたね(苦笑)。

──(笑)。たか坊さんって結構後悔しがちな人ですか?

たか坊:僕、超後悔するタイプの人間です。

──いろんなことを引きずってしまったり。

たか坊:引きずりますね。引きずってないと、今回の「纏」みたいな歌詞とか書いてない(笑)。

──確かに、纏ってしまっているわけですからね(笑)。先ほど、スポーツ系男子だったというお話をされていましたけど、結構明るいタイプというわけでもなく?

たか坊:ひとりでいるときは暗いですね。基本的にチルというか。僕、真っ暗な部屋が好きなんですよ。ひとりのときは部屋を真っ暗にして、パソコンの灯りひとつだけで……っていうのは、たぶん明るい人はしないと思うんですけど(笑)。人と一緒にいるときは明るいんですけどね。

──人と会うときにはスイッチをオンにするというか。

たか坊:オン/オフは激しいですね。多重人格者なんじゃないかっていうぐらい。歌詞を書くときやものを作るときにはちょっとオフの自分が出てきてると思います。

▲TENSONG/「纏」(まとい)

──そして、先ほどからお話に度々出ている新曲「纏」に関してなんですけども、シンプルな歌詞もそうですし、サビのメロディがすごく印象的でした。

たか坊:あのサビは、拓まんが鼻歌で歌ったボイスメモがあって。そこから作った曲なんですよ。

──一そうだったんですね。一発で耳に残るメロディだなと思いました。

たか坊:あれは残りますよね。僕も残りましたもん。初めて聴いたときに「これいい!」って。(サビの歌詞の)《誰に何を言われようが 君を愛していたかった》って書いてたんで、これはそのまま使おうって。で、一緒に作ろうってなって、海に行って、3時間とか4時間ぐらい、いろんなことを話しながら作っていきました。失恋って何なのかなとか(笑)。

──確かに海辺にすごく似合う曲になってますね。爽やかさはあるんだけど、ちょっと切なさもあるところが、夕暮れの時間帯に映えるなと思いました。でも、失恋って何だと思ったんです?


たか坊:結局、好きになった人のことって忘れられないよねって。じゃあ、忘れる必要なんてなくない?って。じゃあ前を向かせるための曲を作ろうと思って、ラスサビまでひたすら引きずった言葉を使って、それぐらい忘れられないんだから、忘れる必要はないよっていう。完全に忘れようとする人もいると思うけど、大事な思い出として残しておいてもいいんじゃない?って。

──この歌詞は、たか坊さんの失恋を基にしたとのことでしたけど。

たか坊:僕はもうこの歌詞通りですね。忘れられないし、忘れようとしたこともあったけど、結局ダメだったから、それはもう思い出でいいやって。なんでそうやって切り替えられたのかはわからないんですけど、僕の中ではこの曲のおかげというのもあって。書いた後にスッキリした感じもありました。あと、この歌詞はもうひとつあって。

──もうひとつ?

たか坊:今の世の中って、みんなが平等になる世界を作ろうっていう声がある中で、そこに対する誹謗中傷がすごくあって。たとえば、トランスジェンダーのことを認めて欲しいということに対して、いろんな中傷があったりとか。そういう状況に対して、僕としては、大丈夫だよっていうことを伝えたかったんですよ。サビの《誰に何を言われようが 君を愛していたかった》って、そういう意味も含めているんですよね。恋愛の歌詞って、男性と女性という目線で捉えがちになると思うんですけど、別にトランスジェンダーの方でもおかしい歌詞じゃないっていうか。

──言葉はシンプルにしながらも、奥行きを持たせようと。

たか坊:そうですね。失恋の曲とも捉えられるけど、そういう誹謗中傷をなくしたいなと思って書いていたし、正解なんてこの世界にはないから、自分自身を貫いてほしいっていう。多くの方に届いてくれたらいいなと思ってます。


──今後のことについてもお聞きしたんですが、本格的に活動していこうと思ったときに、こういう活動をしてきたいなとか、いろいろ考えられたんですか?

たか坊:特になくて、「有名になりたいな」みたいな、ほんとに軽い感じだったんですよね。そこからたかが1年ですけど、いろんな経験をして、ただ有名になりたいだけじゃなくて、一人でも多くの人に、こういう思いがあって作った曲が届いてくれたらなと思いながら音楽ができるようになって。まだまだなところもありますけど、そういったところを意識しながら、これからも頑張っていこうかなと思います。

──ここまで短期間で一気に楽曲を発表されてきましたが、このタイミングでこういう曲をアップしようみたいなことも考えられていたりしました?

たか坊:いや、流行りの曲はもちろん聴いたりするんですけど、曲に関しては自分たちのやりたいようにやってますね。自分がやりたいことをやればいいというのを伝えたいところもあるし、楽しく歌っている自分を見て欲しいとも思っていて。僕、感情がすぐ顔に出ちゃうんですよ。なので、やっぱり、自分の好きな曲、楽しいと思える曲じゃないと。

──たとえば、「ネット発」とか「SNS発」と言われている方々、あとはインフルエンサーと言わている方々って、バズるための仕掛けを考えるところもあるじゃないですか。

たか坊:そこはもう彼(社長)が考えます。僕は一切考えません(笑)。

──とにかく自分達の好きなものを作ろうと。

たか坊:そうですね。楽しく音楽ができればそれでいいかなって。だから、彼は縁の下の力持ちですね。フロントマンである僕らを、ちゃんと前に立たせようと努力してくれるので。そうやって裏で頑張ってくれる人たちの期待に応えるためにも、自分達は楽しんでいる姿を見せようって。だから、彼によく言ってるのは「いい曲をちゃんと作る努力をするから、人に届ける努力をしてな?」って。そういう話をして、いつも逃げてます(笑)。

──「逃げてます」って(笑)。でも、元々友達だったんですよね?

たか坊:そうです。全員同級生で友達なんですよ。

──めちゃくちゃ素敵ですし、いいですよね。仲間で発信していくという。

たか坊:なんでそうなったんですかね。自然とそうなったんですけど。ありがたいですね。縁に恵まれてました、僕は。

──そういった方達の支えもありつつ、急速に名前が広まっていった状況を、たか坊さんとしてはどうみていたんです?

たか坊:どうだろう……。いろんな人が見てくれているんだなぁ……ぐらいの感覚でした。

──すごい勢いで伸びていることに怖さを感じたりとかは?

たか坊:そういうのはなかったですね。嬉しいなって。なんていうか、あんまり物事を深く考えるタイプでもないんですよ(笑)。

──たとえば、優里さんを始めとした様々なアーティストと動画でコラボされたり、ナオト・インティライミさんのライヴに出演したりもされていましたけど、そういった状況に対しては?

たか坊:もうこんな方々とコラボできるところまで行けたんだ……!って。それは嬉しいとともに、めちゃくちゃ緊張しました。ナオトさんなんて中学校の頃から聴いていたし、恋愛したときには絶対に聴いてましたから(笑)。そんな方の隣で歌えているんだと思って、めちゃめちゃ幸せでしたね。


──なんか、今日いろいろお話を聞いていて、たか坊さんって浮き足立っている感じがまったくないというか。

たか坊:全然浮かれてないです。もう恐縮でしかないですよ。見ていただけて嬉しいですし、逆に、なんでこんなに聴いてくれるんだろうって思っちゃったりしたこともあったんで。音楽を始めたときは「なんでこんな俺みたいな……」って、自信がとにかくなかったんで。いまは自信しかないですけど。

──もともと自分の声も好きじゃなかったとのことでしたからね。

たか坊:でも、やっぱり自信がないと、人前で歌を歌うことなんてできないなと思ったんですよね。それで、自分が歌った曲をめっちゃリピートして聴いて、こういうところが人から認めてもらえてるんだなって、自分の声を好きになる努力をしたというか。たとえばハイトーンボイスとか、ここが出るからみんな気持ちいいと言ってくれたりしてくれるんだなとか。で、「いい声を持ったね」って自分を褒めていたら(笑)、だんだん自信がついてくるようになって。もちろん、聴いてくれる人が「いいね」って言ってくれるから、自信がついたところはあるんですけど、それプラス、自分はこういうところができているっていうところを褒めてあげて、やっと自信がついて、今は歌えるっていう感じですね。

──確かに、周りの人が褒めてくれていても、もし自分に自信がなかったとしたら、その言葉も入ってこない場合もあるでしょうしね。嘘くさく感じてしまうというか。だけど、今は自信しかないと。

たか坊:もちろん、まだまだ足りないところはあるんですけどね。でも、「まだいける」って奮い立たせられるというか、僕らは絶対にいけると思っているので。まだスタート地点に立ったばかり、もしかしたらまだ立ってもいないかもしれないけど、ここから音楽で生きていくと決めたので、決めたからには成し遂げようかなと思っています。

取材・文◎山口哲生

7thシングル「纏」(まとい)

2021年7月24日(土)
各種サブスクリプション・サービスにて配信
収録曲:
1. 纏

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