【インタビュー】シキドロップ、現状への憂いと、次なる挑戦へのときめき

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悲しすぎるほどに美しい、魂レベルの喪失と再生の物語を描き切ったアルバム三部作の先にいたのは、コンセプトをはぎとった裸のメッセージを歌うシキドロップだった──。新曲「青春の光と影」は、シンガー・宇野悠人が初めてセルフアレンジを手掛け、ソングライター・平牧仁がコロナ禍で思う本音を綴る歌詞、感情を揺さぶるメロディにくっきりとした陰影を刻み込む、新たな意欲みなぎる1曲。「生きる力を見つける、きっかけになりたい」──つらい現状への憂いと、次なる挑戦へのときめきとが鮮やかなコントラストを成す、シキドロップ流のポジティブソングに耳を傾けてほしい。

   ◆   ◆   ◆

■自分たちのやりたい方向が見えてきた。
■中身だけじゃなく、外身についても


──三部作が完結して、これが新しい一歩になるわけですけど、「青春の光と影」はどんな思いから生まれてきた曲ですか。

平牧仁:コロナが直撃したのが1年半くらい前ですよね。僕らエンタメ業界に限らずみなさん大変で、「生きる」という根本について考えさせられたというか、考えざるを得ないことが増えてしまって、結果的にそれが音楽に影響していると思います。今まで『シキハメグル』『ケモノアガリ』『イタンロマン』の三部作は、自分の中に伝えたいものがあって、それをコンセプトとしてラッピングしたものだったんですけど、今回はミュージシャンとして、人間として、今感じたものをそのまま伝えたいなと思って、「青春の光と影」という曲が生まれたという経緯ですね。

──今までとは、曲作りの動機が違うと。

平牧:この曲を作ったことで僕自身も救われたと思います。この1年半の間に全世界の人が感じたであろう、理不尽に選択を奪われてしまったという感覚があって、とはいえ時間は過ぎるわけで、ある意味前向きな気持ちも徐々に生まれてきている。それをそのまま歌にしたかったんですね。それって、ミュージシャンだからできることでもあるじゃないですか。それを曲としてみんなに伝えたいと思って作った曲です。

──「絶望の中の前向きさ」というのは、曲を聴いても確かに感じるところです。特にミュージックビデオには顕著に出ていると思います。

平牧:今回は「life goes on=それでも生きていく」ということがテーマなので、「励ます」というと安っぽい言葉ですけど、それでも生きなきゃいけないよねという気持ちがあります。「青春の光と影」というタイトルは、僕が敬愛しているジョニ・ミッチェルさんの「Both Sides Now」という歌があって、その邦題が「青春の光と影」なので、オマージュになっています。あの歌は、幼少期の夢いっぱいの時代から、青年期に入るにつれていろんなものが幻影だったことに気づいていって、「私は愛のことも、人生のことも何も知らない」という哲学を歌っていると思うんですけど、そのテーマが好きで、大学生の頃にすごく影響されたので、それを今持ってきたという感じです。タイトルが全然決まらなくて、どうしよう?と思っていた時に、その曲を思い出して、そこから引っ張ってきました。

──「青春の光と影」は、いろんな人がカバーしていますよね。時代を超える名曲だと思います。

平牧:ジョニ・ミッチェルさんが 2000年に出した『Both Sides Now』というアルバムで、ジャズ・オーケストラでリアレンジしたものがあるんですけど、そのバージョンがめちゃくちゃ好きなんです。

▲シキドロップ/「青春の光と影」

──そして今回、悠人くんは自らアレンジを手掛けるという、新しい役割にチャレンジしています。

宇野悠人:今までも、デモテープとしては二人でアレンジしていたんですけど、製品化というか、正式にリリースするのは初めてですね。

──それは大きい決断ですか、それとも自然な成り行きですか。

宇野:振り返れば、自然な成り行きかもしれないです。自分たちのやりたい方向が見えてきたというか、中身だけじゃなく、外身についても意見を持つようになってきたという感じで、アレンジもやってみたいと思ったんですね。今までも、二人で「こういうのがいいよね」みたいな話をしてから、アレンジャーさんと話していたわけですけど、やっぱり言葉じゃ伝わらない部分もいっぱいあって。前のアルバムでは、デモを作ってアレンジャーさんに伝える方法を取ったんですけど、今回はデモをそのまま出しちゃえという感じですかね。人に伝えるよりも、表現した方が早かったということです。

平牧:ずっとやりたいことだったので、ようやくできたことがすごくうれしかったです。アルバム制作中にもそういう考えはあったんですけど、途中でやり方を変えると混乱すると思って、タイミングを計っていたこともありますね。『イタンロマン』を作り終えて、キリがよかったので、やってみることにしました。

宇野:これはツイッターでもつぶやいたんですけど、仁ちゃんのデモに入っている声を使って、お遊びした部分があるんですよ。

平牧:それ、未だにわかんないんだけど。

宇野:今日はその答え合わせをしようと思うんですけど(笑)。歌の最初のところ、「当たり前を大切にし合えたの」のあとに、大きなブレスみたいな音が入るんですけど、あの部分はデモに入っていた仁ちゃんの声を加工して入れてます。

平牧:あ、それブレスなんだ! めっちゃしっかり入ってる。

宇野:ほかにも仁ちゃんの声の成分を使って、リヴァースを入れてる部分があるんです。何ヶ所もあるんですけど、わかりやすいのは、MVで言うと女の子がタバコを吸ったりお酒を飲んだりしているシーンの、裏で鳴っている「ひゅいー」みたいな音。あれは仁ちゃんの声の「イ」の音の成分だけ抜き出して使ってます。という、答え合わせでした。


──すごく面白いけど、聴く人は全然わからないですよね(笑)。ある意味、二人だけの世界。

平牧:元のデモを誰も知らないから。

宇野:まったくわからない(笑)。でもそういうちょっとしたこだわり、自分たちだけが知っている面白いこととかも大事にして、今回はアレンジをしたので。みなさんチェックしていただければ。

──自分たちが楽しむことは何より大事だと思います。そして、ミュージックビデオの作者は、おなじみのイラストレーターsakiyamaさん。これはMVがすごく大事な曲だと思っていて、なぜかというと、最後に「life goes on」というテロップが流れるでしょう。歌詞にはないフレーズだけど、それがこの曲の世界観をさらにポジティブに前に進めているように感じました。

平牧:それはまさかの、マネージャーのアイディアなんですよ。最初は「to be continued」みたいな文字を入れる予定だったんですけど、ちょっと合わないかなと思って、それに替わる言葉を探していた時に「life goes onがいいんじゃないか」と言ってくれて、それを使わせていただきました。

──マネージャーさん、グッジョブです。

平牧:今回は悠人がアレンジをやってくれているし、マネージャーさんの力を含めて、シキドロップのチームとしての力が強く出た1曲だなと思います。

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