【レポート】『サガ』シリーズの名曲届けたオーケストラコンサート<Orchestral SaGa>

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7月31日(土)、2019年に誕生30周年を迎えた人気RPG『サガ』シリーズの楽曲を演奏するオーケストラコンサート<Orchestral SaGa>が開催された。このイベントは、7月31日(土)、8月1日(日)の2日間で全3公演を、東京・Bunkamuraオーチャードホールにて開催する予定になっていたのだが、新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言が発令されている現状を踏まえ、有観客公演を中止し、無観客配信ライブとして行なわれることに。当日は、佐々木新平による指揮のもと、東京フィルハーモニー交響楽団の演奏で、物語を彩ってきた名曲達が続々と届けられた。

◆コンサート画像(全31枚)

この日のコンサートは2部構成で、『サガ』シリーズの歴史を辿る形で進んでいった。第1部は、シリーズ第1作目となる『魔界塔士サ・ガ』の「プロローグ」で開幕。柔らく奏でられた音色達が徐々に重なり合っていくアレンジは、まさに始まりの曲にふさわしい仕上がりだった。その熱を高めるように、ゲームボーイで発売された初期3部作のバトル曲メドレー「進化する戦い〜おいしくいただきます!」へ。バイオリンの不穏な音色から始まった「戦闘」から「必殺の一撃」を経て、重厚なアンサンブルで迫り来る「戦!」では、クライマックスで打楽器が連打。そして、「Eat the meat」で歓喜のファンファーレが鳴り響き、序盤から雄々しくも美しい演奏で視聴者を魅了していく。



演奏はもちろんのこと、曲間にも視聴者を楽しませる様々な仕組みが施されていた。今回のコンサートには“詩人”というテーマが設けられていて、曲間には『サガ』シリーズの各タイトルをイメージした詩の朗読を挟みながら進んでいく形がとられていた。朗読を務めたのは、声優の杉田智和。作品の奥深くまで、ゆっくりと誘っていくような語り口は、まさに詩人そのもの。名シーンの感動を呼び覚ますものになっていた。他にも、コンサートの司会進行を務めた市川雅統(「『サガ』シリーズ プロデューサー)と、河津秋敏(『サガ』シリーズ 総合ディレクター)、伊藤賢治(『サガ』シリーズ 作曲家)の3人が、当時のエピソードや制作秘話を話す場面も。この日の編曲について伊藤から話があったのだが、今回は彼が信頼を置いている7名のアレンジャー(タカノユウヤ、伊藤翼、小林洋平、亀岡夏海、宮野幸子、山下康介、関美奈子)に依頼したとのこと。様々な編曲家によって新たな命を与えられた楽曲群に、視聴者達は深く酔いしれていた。




そんな極上の演奏を楽しむ方法にも、ひと工夫されていた。それは、コンサートホールで演奏されているシーンをメインにした“ライブ映像”と、演奏中にゲーム映像や美麗イラストが流れ続ける“ゲーム映像”の2アングルを、視聴者が選べるようになっていたところ。1枚のチケットを買ったら2通りのライブが楽しめるものになっていたのは、かなりユーザー思いな施策だったと思う。また、ひとつのプログラムに対して様々な楽しみ方を提供するところ、ユーザーが好きなものを選べる部分を用意しているところは、フリーシナリオやマルチエンディングが醍醐味の『サガ』シリーズらしいところと言えるかもしれない。

初期3部作に続けて披露されたのは、『ロマンシング サ・ガ』シリーズの楽曲群。戦闘曲を繋げた「バトル No.1」で勇ましく突き進んでいけば、フィールドや名場面を切り取った「彷徨(さすらい)、それは自由」では、「人魚の伝説」や「ボドールイ」など、神秘的かつ幻想的な光景が目の前に浮かんでくる音像に、思わず息を飲む。再びバトル曲メドレー「2号が一番カッコいい!」になだれ込むと、「熱情の律動」では、池川寿一がエキゾチックなクラシックギターを奏で、勇壮なアンサンブルをより豊潤なものにしていた。続いて、今年4月にリマスター版が発売された『サガ フロンティア』のブロックへ。壮大なスケールで繰り広げられた「領域(リージョン)への旅立ち」や、森下唯が奏でるピアノのリフレインが寂寥感を高めた「ALONE」から、けたたましく「Battle #1」になだれ込んでいく「全てを失っても」など、ドラマティックな構成で一部を締めくくった。



約20分間の休憩を挟んで、第2部は『サガ フロンティア2』の「世界は優しく美しい」からスタート。登場キャラクター達を見事に演じ分けた杉田の朗読も素晴らしく、そこから繋げた「アニマは紡がれる」を、より壮麗かつエモーショナルなものにしていた。続けて届けられたのは『アンリミテッド:サガ』のバトルBGMで構成された「限界無い世界で」。軽やかに弾むピアノや打楽器の音色は、他のバトル曲とはまた異なった趣があり、『サガ』シリーズには個性豊かな楽曲群が揃っていることを改めて感じさせられた。

曲を終えると、市川、河津、伊藤の3人がステージに登場。この日のゲストであるソプラノ歌手・野々村彩乃がステージに呼び込まれた。披露されたのは、『サガ スカーレット グレイス 緋色の野望』の主題歌「砕かれし星」。作品タイトルに合わせて、緋色のドレスをまとった野々村は、力強く、それでいて優しさに満ちた美しい歌声を届けていく。この曲の作詞を手がけた河津は、「悲壮感、絶望感もあるんだけど、希望もあるようなもの」にしたかったとのこと。荘厳かつ重厚な演奏と、祈りや光を感じさせる歌声は、コンサートホールに力強く響き渡っていた。



また、第2部後半では、『インペリアル サガ エクリプス』から「序章〜悠久の天地〜」、『ロマンシング サガ リ・ユニバース』から「再生の絆〜Re;univerSe〜」を披露。両作品の楽曲を手がけている伊藤がMCで話していたのだが、どちらも『サガ』の世界を根底に置きつつ、『インペリアル サガ エクリプス』では、ここまで続いてきた“伝統”を、『ロマンシング サガ リ・ユニバース』はここからの“未来”を強調して作曲しているとのこと。この2タイトルは、今も新たな物語が紡がれている最中なのもあって、シナリオ同様、ここから生まれてくる新たな楽曲達も楽しみにしていただきたい。

本編も残すところあと一曲となったところで、この日最大のサプライズがやってきた。司会進行の市川が、とある方からビデオメッセージが届いていると紹介すると、映像がスタート。そこに映っていたのは、シンガーソングライターの山崎まさよしだった。この日は残念ながらスケジュールが合わず、現場に駆けつけることが難しいのだが、映像で演奏に参加することを告げると、彼が歌う『ロマンシング サガ -ミンストレルソング-』のテーマ曲に、この日のためのスペシャルアレンジが施された「メヌエット -オーケストラアレンジ Ver.-」が披露された。原曲は、哀愁溢れるアコーディオンの音色が悠久の旅を想起させるものになっていたが、オーケストラの演奏によって、繊細かつ力強いものに生まれ変わっていた。詩人の服装をした山崎の歌声も熱を帯びていき、驚きと興奮に包まれたまま、本編の幕が降りた。


アンコールで登場した市川、河津、伊藤の3人も先の演奏に感激していて、事前収録した山崎の歌唱映像と生のオーケストラ演奏を完璧に合わせて届けた指揮者の佐々木新平に賛辞を送っていた。そして、最後に『ロマンシング サガ -ミンストレルソング-』より「オーバーチュア〜オープニングタイトル」を披露。雄大で胸を熱くさせる演奏に、『サガ』シリーズはこれからもプレイヤーの心を揺さぶる多くの物語と音楽を生み出していくことを確信させられるエンディングとなった。


オーケストラコンサート<Orchestral SaGa>は、8月8日(日)23:59までアーカイブ配信されているので(チケット販売期間は、8月8日(日)21:00まで)、見逃してしまった方はお忘れなく。また、同公演で演奏された楽曲が収録されたオーケストラアレンジCDも、現在リリースされている。いつまでも色褪せない名曲に施された美麗アレンジを、じっくりとご堪能いただけると幸いだ。

取材・文◎山口哲生
撮影◎築地孝典、大谷ZUN純一朗
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