【スペシャル対談】多田彰文&横山克「EAST ASIAはプレイヤー視点で作られていて、そこにすごく好感を持った」

ツイート

NATIVE INSTRUMENTSのSPOTLIGHT COLLECTION (旧名:DISCOVERY SERIES)に、日本/中国/韓国の楽器のライブラリー“EAST ASIA”が新たに加わった。ここでは、収録されているフレーズの制作者であり、劇伴作家として多彩なジャンルで活躍する多田彰文氏と横山克氏に、同製品の実力について語っていただいた。プライベートでも交流があるという2人は、普段からNATIVE INSTRUMENTSのその他の音源も愛用しているという。彼らにEAST ASIAの音色や機能はどのように映ったのだろうか。

◆EAST ASIA 関連動画&画像


■オーケストラ・サウンドとも相性が良いので
■適度なグルーブを出すために使ったり(多田)

▲多田彰文

──お2人は、普段からNATIVE INSTRUMENTS(以下、NI)の製品を使用されているのでしょうか?

多田:NI製品はかなり前から好んで使っています。主力として使っているのはSESSION STRINGS PRO 2。エッジが効いていて音が立つので、積極的に使っています。僕は劇伴作品の仕事をすることが多いということもあって、オーケストラ系の音源を使用する頻度は高くなります。あとは、ABBEY ROAD DRUMMERシリーズやSESSION GUITARIST – ELECTRIC SUNBURST DELUXEなども使っていますね。

──かなり多くの音源があると思うのですが、使い勝手はいかがですか?

多田:KONTAKTのUIが一貫しているので、あまり迷いがないんですよ。もうずっと使っているので、居場所が分かっているというか。音源を次々に立ち上げたりしながら作業するときには重宝しますね。劇伴の制作はスピード勝負みたいなところがあるので。横山さんもそうだと思うんですけど。

横山:そうですね。どの音源を使っているかと聞かれると“全部”になるんですが、やっぱり劇伴ではオーケストラ系の音源が中心になってきます。あと自分の作風としてエレクトロなサウンドを入れることも多いので、REAKTORの音源も結構使いますね。モジュラー・シンセ的な音作りができるREAKTOR BLOCKSとか。僕はハードウェアを全然使わないタイプなんですよ。なぜかと言うと、(音源などの機材を)旅行に持って出たいから(笑)。あと僕は、いろんな国のスタジオやホールで現地の人たちと録音をしているのですが、例えばSYMPHONY SERIES – PERCUSSIONに収録されている音源を録っている人たちをよく知っていたりもするんです。“あのハンガリーのホールの音だな”っていうのを感じたりしながら、親しみを持って使っています。


──SPOTLIGHT COLLECTIONに新しく加わったEAST ASIAは、日本/中国/韓国の楽器を収録したものですが、民族楽器やエスニックなサウンドは劇伴にもよく使用されると思います。お2人はどういったときにそういうサウンドを取り入れたいと考えるのでしょうか?

多田:特にアニメやゲームなど独特な世界観があるもので、その背景を表現するためにそういった民族楽器が必要なときがあります。まず監督や制作陣からオーダーがあって、どの楽器にするか話し合ってから入れることが多いですね。和楽器を使うなら、箏にしようとか。ただパーカッション系に関しては、EAST ASIAに入っているものもそうですけれど、その限りでもなくて。ハリウッド映画などでも、太鼓をドンドコ叩いている上でオーケストラが鳴っているようなシチュエーションが割とあるんですよ。メロディ楽器よりはパーカッションの方が汎用性は高いんですよね。オーケストラ・サウンドとも相性が良いので、僕自身は適度なグルーブを出すために使ったりします。

横山:どういうときに使いたいかというと、ちょっと期待を裏切りたいときです。いわばサプライズですよね。今はオーケストラの音を当たり前にみんなが使っていますけど、監督たちはもうちょっと刺激的なものを求めてるっていうのが、根本にあると思っているんです。その意識があるので、僕はエレクトロ・サウンドを結構使ったりするんですけれど、それもまた定番ではある。エスニック・サウンドも同様で、求められなくても入れるのは特別なことではないです。ただ、箏や三味線などの日本の楽器って、馴染みがあり過ぎる。で、それを入れるとどうなるかっていうと、監督からお叱りをくらったりすることもある(笑)。音自体はいいんだけど、そのものズバリになっちゃうというか、気恥ずかしくなるみたいで……あまりにも色が強いので、浮いて聴こえてしまう気がして、みんな避けがちなんですよね。でも逆に言えば、それはチャンスだと思うんです。うまく使えればいいわけですから。そういう実験っていうのはやはり“音源でこそ”やりやすい。

多田:かつてピーター・ガブリエルが、自身の楽曲(「スレッジハンマー」)に入れた有名な尺八のフレーズがありますよね。“外国のアーティストは和楽器をこう使うのか!”っていう、新しい発見でした。

横山:EAST ASIAはそういう日本の楽器だけでなく、韓国や中国の楽器が入っているのがいいなと思っています。実際に作品で演奏してもらうミュージシャンに提示するモックアップとして使うこともできるし、音色の実験もできる。SPOTLIGHT COLLECTION全体がそうですよね。

■SPOTLIGHT COLLECTIONは
■分析して作られた“辞書”(横山)

▲横山克

──EAST ASIAに収録されている楽器のフレーズを制作されたということですが、実際に使ってみた感想を聞かせてもらえますか?

多田:これまでアジア系の民族楽器の音源をいろいろ使ってきた中で、音の再現性を突き詰めたものはあったんです。でもEAST ASIAは、演奏することをすごく想定している気がしましたね。プレイヤー視点で作られているのを感じましたし、そこにすごく好感を持ちました。

横山:僕も同じように、演奏しやすいなという印象です。あと、これは“辞書”だと思うんですね。そもそもSPOTLIGHT COLLECTIONがそうなんですが、“この国にはこういう楽器があるよ”っていうのを教えてくれるんです。僕らは、作品として必要となると、専門ではなくても民族楽器を扱わなきゃいけない場合がある。そういう時は、ネットや書籍で調べたり民族資料館みたいなところにも行ったりするんですけど、SPOTLIGHT COLLECTIONは楽器のことをちゃんと分析して作られているので、辞書の役割をしてくれるんですよ。音自体のクオリティも非常に高いし、そういったものが並んでいるというところに大きな価値があると思っています。

多田:辞書っていい表現ですね。単純にいろんな民族楽器の音が入っているというだけでは、使いこなすのはなかなか難しいですもんね。


──EAST ASIAに収録されている音色の中で、お二人が気に入ったものを教えてください。

多田:まずメロディ系の楽器は、箏と三味線。パーカッション系は、鼓(つづみ)、鞨鼓(かっこ)、桶胴太鼓(おけどだいこ)が良いなと思いました。箏は、音色がすごく好みですね。これは良い意味でなんですけど、和楽器の単なるシミュレーションというわけじゃないので、応用が効くなって。例えば、ポップスの歌モノで、エモーショナルな感じを出すといったときにも使えると思いました。中国に古筝(こそう)っていう楽器があって、EAST ASIAにも収録されているんですが、あれはいわゆる箏なんですけど鉄弦が張ってある。さらに21弦あって、すごく太くて切ない音が出るんです。それをポップスのバラードなんかにエッセンスとして入れると、すごくエモーショナルになります。箏の音色もそれに準じていて、曲のタイプを問わずわりと幅広く使えるんじゃないかなと思ったので、これからぜひ試してみたいですね。

それから三味線は奏法のライブラリーが豊富で、左手のピチカートが入っているのには驚きました。ここまで入れてるんだ!って。KOMPLETE KONTROLキーボードを使うと、左手のプリングオフを交えた速いパッセージを弾くことができるんです。あと開放弦が黒鍵に用意されていて、今まではできなかった三味線本来の弾き方を再現できたり。パーカッションは、先ほど挙げた3つだけでなく、皮モノ系は特にいいなって思います。皮モノは鳴りというか、質感が勝負。それがすごくいいと、例えばEQを使ったりしても音が崩れないし痩せないから、強調もできるし、逆にこもらせることもできる。やっぱり音がいいと、制作意欲も上がりますよね。

横山:僕が言いたかったこと、そのままです(笑)。こういう楽器って、品良く録るのが大事だと思っているんです。そういう意味でEAST ASIAは、マイクのかぶりなども含めて美しく録れているのがいいですね。使えるなと思った音色も多田さんとほぼ一緒です。実は、EAST ASIAに収録されている音色のフレーズ・パターンを作っていく中で、ちょっと困ったのが篳篥(ひちりき)。プレイアビリティが低い楽器は、それがそのまま出るんですよ。でもそう感じるってことは、楽器の特性がよく再現できているってことですよね。

多田:要するに正直ということですね。

横山:音源は、嘘をつかないことが大事だと思ってるんです。と言っても、あまりにも正直で使えないと仕方ないので、嘘をつき過ぎないっていうのかな。EAST ASIAはちょうどいい塩梅に嘘をついていないので、そこがすごくいいなって。

──フレーズ制作をする上で、この機能は便利だなとか、優れているなと思ったものはありますか?

横山:やっぱり演奏しやすいところじゃないでしょうか。さっき多田さんがおっしゃっていた三味線のプリングオフの音とか、そういう奏法にまつわる音が入っている音源はいっぱいあるんですけど、パッチとして分かれちゃっていると、もはや使いにくいんですよ。これもSPOTLIGHT COLLECTION全部に言えるんですけど、KOMPLETE KONTROLのキーボードにそれらの奏法がアサインされているから演奏しやすいんですよね。あとチューニングについても、その楽器特有のものとクロマチックの両方があって、使う人が選べるというのもすごくいいんじゃないでしょうか。

多田:KOMPLETE KONTROLの使いやすさというのは先ほども申し上げましたけど、今回のEAST ASIAもそうですし、近年は特に向上していますよね。GUIがすごく見やすい。どこに何の音が割り当てられているか視認できるというのは、作業する上で非常に助かります。他にももちろん役立つ機能はあるけども、使い勝手という点ではそこがすごく便利です。


──割と楽器初心者にも優しいのかなと思ったんですが、その辺はどうですか?

多田:そうだと思います。例えば、箏のチューニング、平調子とか雲井調子とか言われてもよく分からないですよね。でも、それがあらかじめ鍵盤にアサインされているので、単純に横に弾いていったり、グリッサンドするだけでも演奏が成立する。それに加えて、黒鍵にアサインされているベンドとかを時折弾けば、乱暴な言い方だけど、デタラメにやってもそれなりに聴こえるっていうかね。楽器に詳しくない初心者にとってはすごくありがたいと思いますよ。

横山:黒鍵に奏法をアサインするっていう発想、僕もすごくいいと思います。クロマチックじゃないと弾きづらいってイメージがありますけど、EAST ASIAはすごく考えられて作られているので使いやすい。あと、やっぱりNKSのおかげで、音源とKOMPLETE KONTROLの連携がものすごくいいんです。僕は、自分の自宅、スタジオ、サテライト・スタジオに至るまでコントローラーは全部KOMPLETE KONTROLで、多分20台ぐらい持ってます(笑)。例えば、シンプルなことですけど、鍵盤の根元が点灯するんですよ。色が付く。それで楽器ごとの音域などを示してくれるので、本当に分かりやすいんです。

多田:今関わっている現場のサウンド・チームも、キーボードはみんなKOMPLETE KONTROLですね。

──お二人は今後、どのようにEAST ASIAを使っていきたいですか?

横山:最初にもちょっとお話しましたが、やっぱり和楽器を入れることは基本的にあまり肯定されないんですね。ただ、それはある意味チャンスでもあって、そのもの自体は難しいかもしれないけれど、その音を加工して入れてみたら、もしかしたら監督もいいと思うかもしれない。その一か八かっていうのは、クリエイターとしてやっぱり攻めるべきところだと思うんですよ。ありきたりなものを作りたくはないので。このEAST ASIAのおかげで、そういった挑戦がよりできるようになったと思うんです。あと、この質問の答えじゃないかもしれないけど、1個1個の楽器の写真が表示されるじゃないですか。これ、最高なんですよ。作曲家って全部の楽器を知ってるでしょ?みたいに思われるんですけど、ごめんなさい、結構知らないです(笑)。

多田:楽器名を言われただけじゃわからないこともありますね。だから、奏者から教わることが非常に多いですよ。

横山:ミュージシャンから教わることばっかりです。そういう意味でも、EAST ASIAのような音源を持っていると、ミュージシャンと話しやすくなりますよね。どの楽器を持ってきますか?って聞かれたときに、参照できるから。もちろんEAST ASIAを元に作ったものでミュージシャンとセッションすることもできるし。だからこの写真も相まって、翻訳機みたいなものが得られたなって思ってます。

多田:僕は、横山さんがおっしゃったように実験的にも使う機会も出てくると思いますが、基本的には割とオーソドックスに、劇伴制作の必要なシーンに使っていくかな。EAST ASIAの音が最終的に製品化する場合もあるし、作品のモックアップになる場合もありますけど、いずれにおいても優先度高く使っていきたいなって思っていますね。とにかく音色へのアクセスが速いので、あまり悩まずに、とりあえずバババっとフレーズを並べたりできる。それは非常に助かりますよ。ミュージシャンにモックアップとして提出するときにも、ひちりきなんかがいい例ですが、ここまでしか音域がないっていうのがすぐ分かるから、無理のない譜面を書ける。あと、僕はレッスンもしているので、和楽器について後進に教えていくときに良いツールとして使えるなと思っています。


──最後に、お2人の最近の活動について聞かせてもらえますか?

横山:今は10月期のドラマや、来年のアニメ、映画などの音楽を制作しています。最近は中国の仕事も多いですね。アメリカの仕事もありますし、制作に国境がなくなってきました。

多田:確かにそうですね。

横山:あと、TOKYO SCORING STRINGSという日本のストリングス・ミュージシャンとスタジオで制作された音源を、IMPACT SOUNDWORKSというアメリカのメーカーと作っています。単純にそういう音源を作りたいというのはあるんですけれど、一番は海外の方に日本のストリングスの音を知ってもらいたいんですね。僕が普段やっているリモート・レコーディングでは、ロンドンはもちろん、ブルガリア、ハンガリー、マケドニアとか、いろんな国の音を録るんです。日本もそういうリモート・レコーディングの選択肢の1つになれればいいなと思っていて。それだけ、国ごとにミュージシャン、スタジオそれぞれに個性があります。実際、日本の楽器をリモートで録りたいっていう海外のコンポーザーもいて。僕は作曲家のアシスタントをする会社を運営しているのですが、そこではそういったお手伝いもしています。EAST ASIAをきっかけに、ミュージシャンの仕事がもっとグローバルに繋がっていくような世界が広がればいいなと思ってます。

多田:僕の方の近況としては、ネイティブアプリ・ソーシャルゲームの音楽を制作しています。そのうちの1つで、もうかれこれ3年続いているのがCygamesの『プリンセスコネクト!Re:Dive』の劇伴です。この作品は、作曲や編曲をチームでやっているんですが、僕は当初から弦楽器録音の指揮としてかかわっています。あと、ぜひ今回お伝えしておきたいのが、クレヨンしんちゃんのスピンオフ・アニメで『SUPER SHIRO』っていう作品があって、その劇伴にNIの音源をそのまま使っています。

ABEMAとTELASAで配信されていたんですけれど、SESSION STRINGS PRO 2の音を聴くことができます。それから、DTMライターの藤本健さんと一緒に、足かけ7年以上運営してる配信番組『DTMステーションPlus!』というものもありまして。その番組では司会進行と、必要であれば、作曲家や演奏者としてデモンストレーションを行ったりしています。他にもオンラインスクール「MANAB」にて、劇伴・シネマサウンドメイキング講座を開いていたりします。

横山:僕もこれまではずっとコンポーザーとしての活動だけだったんですけど、先程も申し上げた通り、今はいろいろなコンポーザーをアシストするPlugnoteという会社をやっていて。EAST ASIAのフレーズ・パターン制作も、僕だけではなくその中の何人かでやっています。先ほど言ったTOKYO SCORING STRINGSもそういった活動の一環なんです。ミュージシャンと世界中のコンポーザーを繋げるとか、そういったことに今、興味を持っていて。コロナ禍になってリモートへの理解が深まったので、より新しい作り方の模索へのニーズが出てくるんじゃないかなって思うので、そういったことにも注力していきたいです。

多田:新しいことやっていますね。そういう精神は、音楽家にとって大切です。

取材・文:山本奈緒

「SPOTLIGHT COLLECTION: EAST ASIA」

Native Instrumentsウェブストアにて販売中
■販売価格
フルバージョン ¥13,400
SPOTLIGHT COLLECTION (シリーズ6製品収録)
フルバージョン ¥26,800

◆Native Instruments オフィシャルサイト
◆多田彰文 Twitter
◆横山克 Twitter
この記事をツイート

この記事の関連情報