【インタビュー】ReN、3rdアルバム『ReNBRANDT』に最後の試み「この2年間を肯定するために」

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■次があると思っている人たちは
■世界に立てないはず

──そして7月にはシングル「One Last Try (feat. Maisie Peters)」がリリースされました。ReNさん初のコラボレーション曲ですが、メイジー・ピーターズとはどういうきっかけでコラボレーションに至ったんですか?

ReN:もともとこの曲のデモ自体は以前からあったものなんです。アシックスのCMソングとして使用する楽曲を探しているということで、デモを聴いてもらったんです。そのときに、この曲がすごくハマっているということで、そこから完成に向けて進めていきました。そのなかで、これまでは僕ひとりで作品を歌ってきましたけど、初めてコラボレーションをするなら、こういう機会かなと感じて。というのも、CMソングのテーマが、“選手たちの応援をする、頑張っている人たちの背中を押す”というものだったし、特に2020年とか2021年というこの時期、世界的なコロナの影響や、オリンピックがあったり。国境や性別を超えるようなことが世の中としてもテーマになることが多かったので。そこで生まれた国境を越えた男女のコラボだったんです。僕自身がずっとUKの音楽を聴いていて、すごく声が独特で自分が最近気に入っているアーティストに、メイジー・ピーターズがいた。お願いをしてみたら、「ぜひやりたい」と言ってくれたことがはじまりでした。


──メイジー・ピーターズのヴォーカルの、どういったところがポイントでしたか?

ReN:メロディや譜割りにしても、“イギリスのシンガーソングライターだな”っていうのが表れているんですよね。すごく個性的で。今、日本で鳴っている海外の音楽は、アメリカのものや、アメリカナイズされたものがすごく多いんだけど。僕の好きなパッセンジャーとかもそうですけど、彼女の作っている作品はリズムにきっぱりはめてない、独特で泳ぐような歌い方をしているのがよくて。

──声にグルーヴがあるシンガーですよね。ReNさんのヴォーカルとの相性や、前半のReNさんの日本語の歌と、後半のメイジーの英語詞の歌、それぞれが生む物語性もいいなと思いました。

ReN:最初は自分が歌うことを想定して作っていたから、“キーの高さはどうだろう?”という心配はあったんです。だけど、彼女のいろんな曲を聴いたときに、低いキーも確実に出るのがわかったから。で、歌ってもらった音源を聴いてみたら、彼女がさらにいろんなアイディアを入れてきてくれたんですよ。それに、「日本語でも歌いたい」と言ってくれた。日本語って、世界的に見てもすごく難しい言語だと思うし、歌となるとなおさら。英語とは違う発音だから、どうなるのか不安もあったんです。でも、もともとこの曲は、英語と日本語という国境を超えたものを意識して作っているし、ひとつの作品に対してお互いにチャレンジがあるのがいいなということで、日本語でも歌ってもらったんです。最後のパートを歌ってもらったんですけど、これが想像を絶するくらい良くて。

──その日本語のパートはReNさんがヴォーカルのディレクションをした感じですか?

ReN:一度自分がガイドとして歌ったものを送ったんですけど、返ってきた音源が“日本人が歌っているのかな?”と思うくらい高いクオリティだったから、びっくりしました(笑)。そこはやっぱり耳が良かったり、もともと音楽的な才能を持っている人だからこそ、短時間できたんだと思うんですけどね。でも嬉しかったですよ、「チャレンジをしたい」と言ってくれたことが。


──それこそコラボレーションの醍醐味ですよね。CMソングであり、テーマは“アスリートの応援歌”ということですが、ReNさんはどんなところを一番描きたいと思った曲ですか?

ReN:そのテーマで考えていく上で、自分にも近い感情があるなと思ったのは、僕の場合、ライブだったんです。コロナ禍で、本来できていたはずのものや目指していたものが取り上げられてしまったという失望感と苛立ち。でもその苛立ちを、今はなかなか表に出せないという違和感もある。人間だから当然、怒りの感情も喪失感もあるけれど、それを言ってしまうことが許されない状況が、オリンピック選手やアスリートにもあるだろうなと思ったんです。コロナ以前から、ずっと目指してやってきたものがあって、たくさんの人が“頑張れ!”って背中を押してくれて、その壮絶なプレッシャーを背負って走っていたのに……。仕方がないことだけど、こういう状況になっていきなりみんなが背中を向け始めたり。そういう孤独のなかで戦う、その気持ちを思ったとき、自分にさらに火を点けることができるサウンドと言葉が必要なのかなと思ったんです。悔しさや孤独をはねのけて、すべてを忘れて、目指しているものに向かって走っていこうという気持ちにさせられる曲にしたい。そこだけを思って作りました。

──だからこそ、“One Last Try=最後の試み”というタイトルであり歌詞なんですね。

ReN:そうです。“次がある”と思っている人たちは、その世界に立てないはず。だからそういった強い言葉になりました。


──サウンド面では徐々に熱が高まっていくようなドラマ性があって、大きなビート感が高揚感を生むものなっています。この曲で重視したのはどういったところですか?

ReN:僕がイメージしたのは大きなスタジアムで。ブワーッとした歓声があるなか、フィールドでひとりポツンと立って極限の世界を戦う、という世界を想像しました。自分だったらそこでどういう音楽やサウンドを聴いたら、恐怖や不安を乗り越えられるかを考えたとき、立っているときはひとりだけど壮大な世界にいるような、それを感じさせられるダイナミックなサウンドが必要だと思ったんです。だから、スタジアムアンセムっぽい世界にしようと思いました。

──ReNさんはギタリストでもありますが、この曲はギターというより、ビートやリズムがフィーチャーされていますね。

ReN:そこは意識したというより、作っていくなかでいろんな変化をしていったんです。最初はギターでコード進行を作って、それに対して歌メロをのせていったんですけど、その後半にはピアノやストリングスが入ってきたり、最終的にはいろんなサンプリングの音が入ったりする。骨組みになっていたものはギターの音ですけど、それが必要じゃないところではピアノやサンプリングが出てきたという感じです。

──いろんな音が重なっているけれど決してうるさいものでないですし、ふたりの声が際立つサウンドメイキングになっていますね。

ReN:感覚的ではあるけれど、とにかく風を感じるものにしたかったというか。緊張しつつも一歩踏み出そうというときは、誰しも自分の世界に入り込むじゃないですか。あとはもう目指すものを信じ込ませるような、そういう世界が鳴っていれば無敵な状態になれる。この曲には、それがしっかりと宿ったなと自分でも思います。

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