【インタビュー】Shunsuke、“かいじゅう”を生み出した新世代SSW「音楽は競争ではなく、寄り添うもの」

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■自分にはない世界、自分とは違う感覚を理解することも、
■ひとつの共感


──「ぼくはかいじゅう」が生まれたきっかけは、映画『モスラ対ゴジラ』をご覧になったことだそうですね。ザ・ピーナッツも出演している、1964年公開の作品です。

Shunsuke:我が家ではBSを垂れ流しにしていて、そのなかで『モスラ対ゴジラ』が放送されていたんですよね。父親が観始めたから僕も一緒に観ていたんですけど、その映画のなかで、人間が海岸に漂着した巨大な卵を珍しがって展示物にするんですよね。と思ったら人間は怪獣たちを一方的に攻撃したりもして。たしかに怪獣は人間にとって脅威かもしれないけど、怪獣はただ生まれてきただけなのに人間たちに攻撃されるなんてすごく悲しいなって。どんどんゴジラに感情移入していったんです。そう考えたときに“人間にも同じことが言えるのかな”と思ったんですよね。

──人と違うことを悪しきものとする風潮、ということでしょうか。

Shunsuke:世の中的に“普通じゃない人”と言うことがありますよね。でも僕は普通とか普通じゃないとか、そんなものはないと思うし、自分と違う個性を持っているからといって軽蔑したり、否定するのは違うと思うんです。そうやって否定された人たちはすごく悲しんでいるし、傷ついている。『モスラ対ゴジラ』で怪獣に攻撃している人間を観ていて、自分と違うというだけで攻撃する人のことが思い起こされて生まれたのが「ぼくはかいじゅう」ですね。

──その人はその人らしく生きているだけなのに差別的な扱いを受けたり、誹謗中傷を受けること、悲しいけれど世の中に蔓延っていますものね。

Shunsuke:そうなんですよね。僕の身の回りにも同性愛者や障害のある人がいて、みんな差別的な扱いを受けた過去を持っているんです。僕からすればみんなすごくいい人だし、ただ男の子が好きな男の子というだけ、女の子が好きな女の子というだけなのに、足が悪くて生活が大変なのに、なんでいじめられちゃうんだろう? という疑問が小さい頃からずっとあって。SNSを覗いてみれば誹謗中傷の嵐だし、お前らいい加減にしろよ!という気持ちが募っていったんですよね。でもそれに対してただ腹を立てて意思表示をするのではなく、優しく“世の中にはいろんな人がいることを受け入れてみようよ”と呼びかけたかったんです。

──Shunsukeさんの“寄り添う”というスタンスは、差別的な扱いを受けていた人の話を小さい頃から聞いていたからこそ育まれたものなのかもしれないですね。

Shunsuke:うん、そうかもしれない。僕はアンチコメントとかまったく響かないタイプだけど、傷つきやすい人のなかには自ら命を絶ってしまう人がいるという現実があるし、そういう人の気持ちは理解できるんです。「ぼくはかいじゅう」は僕が一方的に主張するのではなく、物語に落とし込むことで“あなたはどう思いますか?”と聴いている人に問いたかったんですよね。だから「ぼくはかいじゅう」を聴いたあとに、歌詞の“かいじゅう”の部分に自分を当てはめてほしいなって。たとえば“納豆好き”に置き換えたら“納豆が好きなだけでなんでこんなに悲しい気持ちにならなきゃいけないの?”と思うと思うんですよ。

──うんうん。そうですね。納豆が好きなだけで攻撃されるなんて理不尽ですし。

Shunsuke:それと同じだと思うんです。みんなどんなふうに生まれるかなんて決められないし、不慮の事故に遭ってしまう人だっている。物語にしたら聴いてくれる人が自分に重ねて受け取ってくれると思ったんですよね。自分にはない世界、自分とは違う感覚を理解することも、ひとつの共感だと思うんです。

──誰からも受け入れられやすい普遍的なことを歌うというよりは、ご自分の考えを広く受け取ってもらうための曲作り。

Shunsuke:僕は中身がヒップホップなんですけど、表現方法がシンガーソングライターというか。「ぼくはかいじゅう」で伝えたかった思いは小さい頃からずっと強く思っていたことだし、シンガーソングライターとしての表現を続けていたからこそ、広く伝わるものとして作れたかなと思っています。実際コメント欄を見ると自分の思いを汲んでくれてる人がたくさんいて、やっと自分の思いを理想的なかたちで伝えられる曲が作れたんだなと実感できてうれしいですね。


──Shunsukeさんのラブソングが好きな人にこの曲が届くのも、大きな意味を持ちますよね。

Shunsuke:そうですね。自分の思いを広く伝えるためには、まず有名にならなきゃいけない。そのためにはヒットする曲を作らなきゃいけないなと思っていて。それは売れるために音楽をやっていることとイコールにならないと思うし、フックになるヒットする曲を作るにしても、そこにちゃんと意味を作りたいんです。だからフィクションのラブソングにも力を入れているんですよね。しっかり考えたうえで作らないと“歌”にはならないと思うんですよ。

──と言いますと?

Shunsuke:“歌”の語源は“訴う”から来るものと言われていて、アーティストから聴いてくれる人に訴えるような要素はなにかしら必要だと思うんです。ラブソングを作るうえでも、どんなことを伝えたいのか、気持ちや考えをしっかり持っていないと意味がないと思う。だから軽い音楽を作りたくないんですよね。

──Twitterにもそれに近いことを書いてらっしゃいましたね。“音楽本来の良さが消えつつある”と。

Shunsuke:こんなことを僕ごときが言うのもなんですけど……綺麗でキャッチーなメロディだけど、歌詞だけ見たら“なにこれ?”と思うものも多いと思うんです。今の時代、TikTokで流行ればメディアに取り上げられるけど、数字がある音楽ばかりを追いかけているのかな?と思ってしまうことがあって。数字が大きければ大きいほどいい曲なわけではないし、数字がなくてもめちゃくちゃいい曲を作るアーティストはいっぱいいる。やっぱり僕にとって音楽は、聴き心地がよくて楽しく消費されるものというよりは、心の奥に響いてくるものなんです。ただこれでは今の音楽シーンを否定しているように聞こえてしまうと思いますが、今流行っている曲はたくさんの人の心を動かし、楽しませていると思うから魅力的な音楽なのは間違いないと思います。なので僕は全てのアーティストを尊敬してます。単純に“僕と他のアーティストの方とスタンスが少し違う”ということで。

──Shunsukeさんがフィクションのラブソングでも生々しい表現を多々用いているのも、そういう精神が影響しているんでしょうね。

Shunsuke:僕が幼い頃にはいい曲がいっぱいあったと思うんです。ネットが発達して誰でも発信できるようになって、いろんな音楽で溢れているけれど、それによって伝えたい思いが見えにくい曲も増えてきている気がするし、それによっていい音楽が埋もれているような印象もあるんです。数字は大事だけど、アーティストとしての質や中身は数字では測れないと思っています。音楽は競争ではなく、聴く人を楽しませたり、励ましたり、みんなの心に寄り添うものだから。

──「ぼくはかいじゅう」は、そのメンタリティが感じられる曲になっているのではないでしょうか?

Shunsuke:あははは。そうだといいな。この曲を作れたことは、シンガーソングライターとしてすごく大きな一歩なんです。「ぼくはかいじゅう」や過去にリリースした「明暗」という曲はヒップホップ精神とシンガーソングライターの表現方法がうまく混じりあったけれど、みんなにわかりやすい伝え方で、自分の伝えたいことを曲にするのは実際すごく難しくて。自分の考えを曲にするとなると、どうしてもヒップホップになっちゃうんですよね。

──ヒップホップは自分の主張を表現するのに適した音楽ですしね。

Shunsuke:だから自分の考えを曲にしたものは、「ぼくはかいじゅう」や「明暗」並みに自分で完璧だと納得できる曲にならないと出さないと思います。とはいえそういう曲も増やしていきたい気持ちはあるので、ラブソングやバラードと並行して今後も地道にトライしていきたいですね。それ以外にももうちょっとヒップホップ系の楽曲を取っつきやすい感じに作っていきたいし、世の中がどうなるかわからないけれど、ゆくゆくはワンマンライブもやりたいし。

──作詞作曲教室もありますし。

Shunsuke:そうですね。音楽で自己表現をする良さを小学校の頃からずっと学んできていたので、音楽好きの人には歌詞を書く楽しみも知ってほしいし、自分と同じような意思を持ったアーティストが生まれてくれたらすごくうれしい。ゆくゆくはいろんな人の耳に届くようなアーティストになれるように、一歩一歩進んでいけたらと思います。

取材・文◎沖さやこ

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