【インタビュー】南こうせつ、“自分の心の声に耳を澄ませた”新アルバム『夜明けの風』

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■魂が欲する音楽を聴いたほうが絶対に元気になれる。
■これがいまの時代の先端だからとか、そんなことは気にしなくていい。


──「プライベート・ソングⅡ」。こちらは「プライベート・ソング」の続編なんですか?

南:そうなんですよ。昔、(吉田)拓郎さんとよくやってらっしゃた作詞家の岡本おさみさんに30年以上前に「プライベート・ソング」の歌詞を頂いて。1つは曲にして出したんですけどⅡは本箱に入れてお蔵入りにしてたんですよね。今回のアルバムを作る際に「これ、まだメロディーつけてなかった」という感じで発見しまして。歌詞を読んだときにね、とても沁みたんですよね。

──その沁みいる感じが、フォークやカントリーブルースが匂い立つRy Cooderのようなギターからも出ている気がしました。

南:むちゃくちゃ嬉しいわ〜。そういっていただけると。これやったら受けるとかまったく思わずにポロ〜ンと口ずさむままにできた曲だから。これを話題に取り上げてくれたことが嬉しい。

──こうせつさんのなかのルーツとなっているプライベート・ソングといえば?

南:田舎に住んでたから、入ってくるものはラジオから流れてくるアメリカのヒットチャートしかなかったんですよ。そこにはポップスもあればカントリー、ブルースもある。サッチモ(Louis Armstrong)みたいに“うぇ〜”って歌い上げる人がいれば、日本の演歌では“わらにまみれてヨー” (と「達者でナ」を伸びやかなハイトーンでコブシを回しながら)と歌う三橋美智也もいて。そういうものがいっぱい私の中に入ってきたんすね。「プライベート・ソングⅡ」を心のままぽろっと歌ったら、それが出ちゃったんでしょうね。きっと。

──いまお話を聞いて思ったんですが、10代の頃の音楽体験というのは、大事な記憶として生涯自分の中に残り続けるものなんですね。

南:本当にそうだと思います。残りますね。音楽とね、その頃見ていた田舎の風景。あぜ道があって田んぼがあって。じいちゃんが牛を引いてるような、そんな風景を見ながら頭のなかではアメリカンポップス。(Neil Sedaka の)「Oh! Carol」が鳴ってる。そういう時代だったんですよね。僕らの頃は。だからね、音楽は命そのものですよね。

──えーっ!

南:人間は他の生き物と違って、魂とか心が支えになるの。肉体ももちろん支えになってるんだけど、それと心、魂のバランス。その2つが見事に備わっているのが人間なんです。肉体は血が正常に流れていると健康で、病気もしません。ところが心、魂は見えないもの。これらを正常にする血に相当するもの。それが“気”なんです。この気が流れていれば血も正常に流れて人間は元気になる。気の流れをよくするためにはなにが必要か。“感じること”なんです。それは音楽であったり、文学かもしれないし、あるいは可愛い女の子を見たらときめいてワクワクした、とかでもいいんです。感じることは、生きていく上でとても重要なことなんです。

──感じることで人間は生きていけるんだと。

南:そう。友達と集まったとき、誰かが「俺は今こういうの聴いてるんだ」っていったとする。自分に無理強いして、聴いてみたら好きになるというケースもあるけど。合わせなくっていいんだよ。みんながそれを好きでも「私は歌舞伎が好き」なら、それでいい。元気になるから。周りから「ダサい」といわれようが、自分の魂が好きなもの。魂が欲する音楽を聴いたほうが絶対に元気になれる。クラシックだったらクラシックでいいし、フォークならフォークでいいし。これがいまの時代の先端だからとか、そんなことは気にしなくていい。

──自分が感じること、魂が好きなものを。

南:抱きしめればいい。と、思います。

──ではもう1曲、「歌うたいのブルース」についても聞かせて下さい。これは、ライブ感あるサウンドにのせてこうせつさんのこれまでの音楽人生が歌いこまれた楽曲ですよね。

南:自分のまんまです。田舎から東京に出てきて。僕が小さい頃にいろいろラジオで聴いてた歌はここが発信源だったのかという街にやってきて。いったいあれは誰が流してたんだと思ってニッポン放送や文化放送を探りに行って。自分も音楽で携われたらいいなと思いながらも、人を感動させる歌を作るのはなかなか大変で。そんななか、たまたま「神田川」というのが当たって売れた。でも、そのうち売れなくなっていく。いままではどこに行ってもお客さんで会場はいっぱいだったのに、それがどんどん減っていく。これは、売れなくなったときにミュージシャン全員が感じることです。「去年あんなにいっぱいだったのに今年は半分しか埋まらないのか」って。売れた人ほどその幅が大きくて。でも「負けるものか。来年は絶対に埋めてやる」っていいライブをやり続けても観客は減っていく一方で。それはプロのミュージシャンにとっては悔しいし、不安なんですよ。でも、どこかで「ああー。こんなものか。人生は」って思うようになるんです。いいじゃん。アマチュアのときはお客さん4〜5人の前でギター弾いて歌えるだけであんなに嬉しかったんだから。それを考えたら「歌えるっていいよね」って。というのが3番に出てくることです。拍手の嵐を浴びた日もあれば、波がすっと引くように忘れ去られたこともある。それはね、お客さんが悪いんじゃないんだよ。全部自分が悪いの。すべてのことは時の彼方。華やかな日々も忘れ去られた日々も、悔しかったこともいまはその全部愛おしいという。それが、このアルバムなんですよ。

──すべてが愛おしいと思えるような日々がいつかはやってくる、と。

南:ええ。武道館でやった、東京ドームでやった、凄いね。でも、それは時の彼方。すべては時の彼方、何もないところに帰っていく。鴨長明の歌です。“ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし”(『方丈記』)。我々の暮らしもそう。ギター1本持ってマイク1本持って、チケットが何枚売れたとかCDが何枚売れたとか気にせずに好きな歌を歌いなさい。というのが、おいちゃんからいえる言葉かな。

──それで“今日もまた 歌ってるよ”と。

南:そうです。“いま”というときを幸せに感じるということはとても素敵なことなんだよね。そう思えるようになったら、夜の最初の1杯が美味しいんだよ。そうやって運命を全託してしまうと、いつ死んでもいいと思えるようになる。どうぞ好きなときにもっていってくれ。わしゃ知らんって。それが運命なんだから。と思いつつ、日々を過ごしてます。

▲南こうせつ/『夜明けの風』

──分かりました。アルバム発売前からコンサートのほうも。

南:やっと始まりました。もうねー、昨日も大阪でコンサートだったんですが、1曲目から泣けてきますよね。ホールで歌える。それだけで。やっぱり僕は人前で歌うことが好きなんだな、と思いましたね。

──それでは最後に、読者のみなさんにこうせつさんからメッセージをお願いします。

南:いま72歳なんですけど、このコロナ禍で自分が歌い手として何を作ってどう歌いたいのか。それをそのまま表現しました。お口に合わない歌もあるかと思いますが、いまの気持ちのまま作りましたので、もしよろしければ聴いていただければ嬉しいなと思います。音楽はロックもフォークも民族音楽もクラシックもレゲエも全部好き。どんなときも音楽があるって素敵なことだなと思います。

取材・文◎東條祥恵

ニューアルバム『夜明けの風』

2021年9月8日発売
CRCP-20578  定価:¥2,200(税抜価格 ¥2,000)
収録曲:
01.夜明けの風
02.がんばってみようか
03.ぽつんとひとりきり
04.プライベート・ソングⅡ
05.歌うたいのブルース

<南こうせつコンサートツアー2021~いつも歌があった~>

2021年10月31日(日)埼玉県 深谷市民文化会館 大ホール
¥6,800発売中
【問い合わせ】桐生音協 0277-53-3133

2021年11月6日(土)富山県 滑川市民会館 大ホール
¥4,500 ※滑川市助成のため特別料金
チケット発売日:9月25日(土)
【問い合わせ】(一財)滑川市文化・スポーツ振興財団 076-476-9120

2021年11月11日(木)高知県 高知県立県民文化ホール(オレンジ)
S席¥7,500 A席¥7,000
チケット発売日:9月16日(木)
【問い合わせ】高知放送営推事業部 088-825-4235

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