【インタビュー】新生ファンキー・モンキー・ベイビーズの覚悟

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■ファンモンのシングルって、こういう苦しみがあったよな

──あの頃一緒に夢を見た人が、今も社内にいるんでしょうね。そして新曲についてですけど、3月11日の『音楽の日』の時点ではもちろん何もなくて、いつから作り始めたんですか。

加藤:再始動を発表するなら、楽曲制作をして、ライブ会場を押さえないと、という気持ちはあったんですよ。どんな形でリリースされるかはわからずとも、まず1曲作ろうということで、すぐにスタッフのみなさんとミーティングを重ねて、スタジオに入り始めたのが、5月ぐらいだったかな。そこからがまあ、苦難の日々だったんですけど。

──めちゃめちゃいっぱい作ったと聞いてます。

モン吉:20曲近く作ったと思いますね。

加藤:最初はまず、モンちゃんが超苦労したと思います。役割分担が以前のファンモンと一緒なので、モンちゃんが最初にオケやメロディを作って、俺がそれを受け取って歌詞を書く。その間ケミカルは寝ているという(笑)。

──あはは。そうでした。

加藤:まず最初に苦労するのはモンちゃんなんですよ。スタジオに入って7,8時間ぐらいかけて4、5曲粘って作って、だけどなんとなく……。

モン吉:表題曲のラインを超えたものができない。

加藤:それで1週間後にまたスタジオに入って、また7、8時間ぐらい粘って、脂汗をかきながらやったけど、また……。

モン吉:ラインを超えられない (笑)。

加藤:毎回、肩を落として帰っていくような感じ。でもね、思い出したんですよ。「ファンモンのシングルって、こういう苦しみがあったよな」って。それぞれ、ソロで楽曲を作ってリリースしてきて、それはそれで一生懸命やってるんですけど、「ファンモンの、再始動の、一発目の、シングル」という、ハードルが3つ4つぐらい高いところをめがけなきゃいけないと思ったし、超えなきゃいけないと思ったし、それは言わずもがなだったんですけど。


──プレッシャーがハンパなかった。

モン吉:プレッシャーというか、数打ちゃ当たるだろうという感じで作ってはいましたね。

加藤:もともと、そうだからね。

──そんな作業の果てに、結果的に「エール」が選ばれたわけですね。これはどんなふうに?

モン吉:これは、合作ですね。僕がすべて作ったわけではないので、共同で作った感じです。

加藤:メロディのお手伝いを、大知(正紘)くんにしてもらったんですけど、そこからがまた大変で。今まで築き上げてきた「ファンモンらしさ」と、令和のファンモンという「新しさ」のバランスを取るのに、またそこでモンちゃんがすごく苦労して、Bメロを大幅に変更したり、オケに音を足したり引いたり。

モン吉:最初の段階のオケは、言ってみれば20,30年前の感じの曲調だったんですよね。そこに今っぽい要素をどうやって入れて行くかが難しかったし、今っぽすぎちゃっても何か違うなという、さじ加減が難しかったですね。10年ぐらい前のファンモンをそのまま出しても違うだろうし。

──逆にあんまり新しすぎてもファンは戸惑いますよね。

加藤:そこが一番難しかったんですよ。昔から応援してくれているファンは、「らしさ」を求めるじゃないですか。最先端の音楽で、オートチューンを使って歌ったものが第一弾シングルだったら、「えー!?」ってなるじゃないですか。「らしさ」と「新しさ」というところで、モンちゃんは苦労してましたね。俺もその時点で、もらったメロディにどうやって言葉をはめようかってずっと考えて、そこでなんとなく方向性が決まって、「じゃあ歌詞を頑張ります」というところから、また苦労が始まるんですけど。そんなこんなで、もともと9月15日のリリース予定が、まさかの後ろ倒しになり。

──やっちゃいましたね。

加藤:僕の人生で初めてです。関係者各位に申し訳ない思いを抱きながら、1週間の延長の時間をいただいて、そこでまた「ファンモンのシングルってこうだったな」と思い出しました。思い知ったというか。

──でもまさに、「らしさ」と「新しさ」がどちらもある曲に仕上がっていると思います。いい曲です。

モン吉:良かったです。声とか歌い方は、ファンモンもソロも、変わりようがないので、変えるところと言えば、やっぱりオケかな?と。でもやりすぎてローファイっぽくしすぎても、ファンモンの応援ソングっぽくなくなっちゃうし、そのさじ加減が難しかったですね。コードも限られていて、ザ・ポップスのコードなので。

──どうなんでしょうね。声や歌い方は変えようがないとしても、ファンキーモンキーベイビーズとソロとでは、たとえば歌詞を書く時の言葉の選び方とか、違うのかどうか。

加藤:違いますね。ソロのほうがパーソナルで、自分のためと言ったらおかしいですけど、「自分が自分が」というものが2,3歩前に出ているんですけど、ファンモンは完全に「みんなのため」であるし、「みんなのうた」であるべきという、自分の中では分かれていますね。それはきっとこれからもそうだし、今までもそうだったなという思いはあります。


──モンちゃんはどうですか。メロディなりサウンドなりで、ソロとファンモンとでは、こだわりポイントが違うのか。

モン吉:うーん、どうなんですかね。基本的な作り方は変わっていないんですけど、ファンモンのシングルということになると、時間のかけ方が違うし、関わる人数もそうですし、1曲に対してずっと考えるというところが違いますね。ソロのほうは直感的にポンポン作る感じなので、そこに関してはかなり違いますね。

──でもそれがファンモンだとわかっているから、苦にはならない。

モン吉:いや、大変ですよ(笑)。でも解散前の経験があったので、ちょっと制作期間長いなとは思ったんですけど、「前もそうだったよな」とか。前だったら、若さもあって、たぶんいろんな気持ちが生まれたと思うんですけど、今回は「うーん、長いな」と思っても、「まあまあ」っていう感じで。

加藤:大人になったんですよ、ひとことで言うと。前は本当に、ガキの延長でファンモンをやっていたような気がしますよね。ソロでお互い、苦労もしたし、モンちゃんは世界を旅して、いろいろ見てきたものもあるだろうし、自分たちがどれだけ恵まれた環境にいたかということも、すごくわかったし。今、大人になったんじゃないですかね。42歳になって「大人になった」と言うのもどうかと思いますけど(笑)。

モン吉:ヤバい発言だね(笑)。

──でもそれは本当にそうで、ファンモン解散以降のソロ活動の経験は、メンバーを成長させたと思うし、それが楽曲に自然に出ていると思います。「エール」の歌詞を聞いて思うのは、かつてのファンモンのファンだけではなくて、もっと幅広い聴き手に向けて歌っているような気がします。

モン吉:聴いてくれた人みんなと、自分も含めて全部という感じですね。それが直接の題材ではないけど、コロナのこともあるだろうし。

──やっぱり、時代背景は関係ありますか。

モン吉:直接にはないですけどね。たぶんファンちゃんも、あえて(歌詞に)入れないようにしていると思うんですけど。普遍的なものが一番だと思うので。でも、「とはいえ」というところですよね。僕の歌詞に関しては、そういうものは少し入った感じはします。

加藤:今、何かを表現する人で、コロナの影響がまったくゼロという人はいないと思うんですね。それは意図的に外そうとか、入れようとかではなくて、ナチュラルににじみ出てくるものじゃないかなと思うので。そこは別に、過度に反応もせず粛々と、という感じですね。コロナというものに関して言えば。

──言葉使いが繊細で、優しいなという印象を受けたんですね。「もうすぐ夜が明けそうだよ」とか、「自分なりの空を見上げればいい」とか。その柔らかい感じが、かつての応援ソングとはちょっと違うのかなと、思ったりはしました。それもきっと年齢なりの、自然なことだと思います。

加藤:そうかもしれないですね。

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