【インタビュー】近石涼、変幻自在さに土台あり。「いろんなことがつながって今この場所に立てています」

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神戸出身のシンガーソングライター・近石 涼。過去には<閃光ライオット2014>のコピバンステージのファイナリスト、<COMIN'KOBE16>オーディションのグランプリ、『THE☆カラオケバトル』への出演、<eo Music Try 19/20>の準グランプリなど、様々な功績を残しているだけでなく、アカペラバンドとしての活動経験もあるなど、様々な経験を重ねている。

2020年秋からコンスタントにデジタルシングルをリリースしてきた彼が、2021年11月には新作アルバム『Chameleon』をリリース。同作から先行デジタルリリースされる「ライヴハウスブレイバー」「兄弟 Ⅱ」「ハンドクラフトラジオ」の3曲は、それぞれでまったく異なるカラーを持った楽曲たちだ。ロックバンド的な熱量を感じさせる躍動感、アカペラならではの正確な音程と声で作り出すグルーヴ、幼少期から培われたポップスのセンスなど、多彩な表現方法を持つ彼は、音楽とどのように向き合っているのだろうか。これまでの活動を辿りながら、現在の彼の姿をあらわにしていった。

   ◆   ◆   ◆

■なんでもやりたくなっちゃう性格。
■一旦は自分で把握しておきたいんです


──作品のジャケットも近石さんが描いてらっしゃるんですよね。非常にクオリティが高いですが、絵のお勉強もなさっていたんですか?

近石 涼:いやいや、まったく(笑)。10歳上の兄が絵描きで、僕も小さい頃から兄の真似をして絵を描いていたんです。描くのは好き、というレベルです(笑)。

──お母様がピアノの先生でお兄様が絵描きさん。芸術に触れる機会は多いご家庭だからこそ、ご自身でギターの弾き語りを始めることも自然だったのでしょうか?

近石:家でつねに音楽が流れていました。兄も歌が好きで、その横で僕も一緒に歌って。物心つくころから歌は歌っていたと思います。母の影響でピアノは習っていたんですけど、自分でギターを弾くようになったのは中学3年生の終わりからですね。

──BUMP OF CHICKENとの出会いですよね。お友達から急にBUMP OF CHICIKENのCDを7枚貸し出される。

近石:中学時代は友達とよくカラオケに行っていたので、EXILEや湘南乃風を歌ったり、当時流行っていたAKB48の「ヘビーローテーション」を7回連続で歌ってほんまにヘビーローテーションする、みたいなことをしていて(笑)。弾き語りの人やバンドのことはあんまり知らなかったんです。そんな時に“とやかく言わんといいから聴け!”と一気にBUMP OF CHICKENのCDを7枚渡されて(笑)。どこから手をつけたらええんやろ……と思いながら最初に聴いたのが『ユグドラシル』でした。ジャケットや歌詞カードの絵が印象的やったんですよね。

──ギターヴォーカルの藤原基央さんの手によるものですよね。絵が身近な近石さんにとって、絵で構成されたジャケットや歌詞カードは入りやすかったのかもしれません。

近石:“歌詞カードだけでひとつの作品みたいやな”と思ったんです。それから音楽を聴いてみたら、それまで聴いてきた音楽とは全然違う切り口の歌詞やサウンドで、まずは“これってどういうこと?”という知的好奇心を刺激されて。何度も聴いていくうちにずぶずぶと世界観にのめり込んでいきました。CDを貸してくれた友人はギターをかじってて、面前で「花の名」(※BUMP OF CHICKENの13thシングル曲。2007年10月リリース)のイントロを弾いてくれて。出来不出来はさておき“ギター始めたばっかりの人間でも弾けちゃうんや”と衝撃を受けて、僕もギターを始めました。今の僕になるきっかけは、すべてその友人なんですよね。

──2021年8月にリリースされた「ライブハウスブレイバー」には、ギターに目覚めてからの近石さんの歩みと葛藤が克明に記されています。近石さんがオリジナル曲を作り始めたきっかけは、他人の歌を歌って褒めてもらうことに疑問を抱くようになったからだそうですね。

近石:<閃光ライオット2014>のコピバンステージに出演した後くらいから、人の歌でなんでこんな大きなステージ立ってるんやろ? “一緒に写真撮って”と頼まれたり、注目してもらえるんやろ? と罪悪感みたいなものが生まれてきたんです。レギュラーステージでは、同年代や年下の子たちがオリジナル曲でしのぎを削っている。そこへの悔しさもあったんだと思います。


──歌詞にも《声が似てた歌手 歌い方を真似して/みんなは褒めてくれた「凄い似てる」って/だけどあの人にはなれなかった あの人の歌だから》とあります。

近石:僕はBUMP OF CHICKENの楽曲にすごく勇気をもらっていて、僕もそういう存在になりたいと思ってカバーをしていたんです。でもそうなるためには、僕から生まれた曲が誰かの心に響かないと意味がない。カバーをするなかでそれに気付かされました。

──それからシンガーソングライターとしてオリジナル曲を作るかたわら、2015年に大学に入学して“歌がうまくなりたい”という理由からアカペラサークルに加入するようになると。

近石:友達に誘われて行ってみたら、プロ並みの歌唱力を持っている方々ばっかりで。“この方々に教えてもらったら歌がうまくなれるかも”と思ったんです。アカペラは音楽を丁寧に学べる場で。正確な音程を取る技術はもちろん、楽器のアレンジを歌に落とし込まないといけないので、音楽理論やリズム、グルーヴについてもじっくり考えられました。アカペラサークルでの4年間は、今の活動にものすごくプラスになっているんですよね。

──シンガーソングライターとアカペラバンドを同時進行している方は珍しいと思うのですが、音楽への向き合い方は変わるのでしょうか?

近石:んー、あんまり分けて考えたことはないかなあ……。音楽は音楽っていうか。大学3回生の時にオリジナル曲をやるアカペラバンドを組んで、シンガーソングライターとして作詞作曲をしていた経験が生かせたし、アカペラバンドの曲をシンガーソングライターとしての活動で歌うこともあるんです。だから大学時代は“音楽にのめり込んだ”っていう感覚なんですよね。勉強がちょっとおろそかになったところは否めないですけど……(笑)。

──いやいや(笑)。「ライブハウスブレイバー」の歌詞にも《もう一度やり直そうと新たな場所で歌い始めた大学3回の春》とありますし、大学生生活後半は近石さんのアーティスト人生にとって重要な期間であるとお見受けします。

近石:大学2回生の途中で、シンガーソングライターとしてのライブ活動を止めていたんです。ライブをするにもお金が掛かって、友達もあまり観に来れなくなって、このまま続けていくのは厳しいな……って。そんなときに、うちの大学の軽音楽部がほかの大学の軽音楽部と一緒に神戸VARIT.でジョイントライブをしたんですよね。そこに僕もRADWIMPSさんのコピバンで出たら、店長さんが“オリジナル曲もあるならライブ出てみない?”と声を掛けてくれたんです。それで初めてひとりでステージに立ったのが2017年、《大学3回の春》なんですよね。

──そして神戸VARIT.は近石さんのホームになる。なんて運命的な巡り合わせなんでしょう。あと、アカペラサークルだけでなく軽音楽部にも入ってらっしゃったんですね。フットワークが軽くていらっしゃる。

近石:すぐ辞めちゃったものもあるんですけど、7個くらいサークル入って。ゴルフ部にも入ってました(笑)。なんでもやりたくなっちゃう性格で。だから今もジャケットを描いてるし、ちょっと前に出した自主盤のレコーディングとミックスをひとりでやったり、自分でMVを作ったりもしているんですよね。誰かに任せるのも大事やし、才能やと思うんですけど、一旦は自分で把握しておきたいんです。

──なるほど。近石さんの人生はドキドキに突き動かされて、そのなかでいろんな気付きと縁が生まれることで進んでいるんですね。

近石:本当にそうなんです。“この時にこの人と出会っていたからこの機会をもらえているんだ”と思うことが言い出すときりがないくらいたくさんあって。家系図みたいな相関図が書けそうです(笑)。たとえば就職をするか音楽の道に進むか悩んでいた時に、アカペラサークルで出会ったすごく信頼している親友が“涼は音楽の道に進むべき人間やと思う”と真剣に言ってくれて。信頼している人のことは信じられるので、その一言のおかげで音楽に進む決意ができたんです。そのあとに『THE☆カラオケバトル』の出演が決まって、そこで出会った人に“歌の道に進むべき人だと思う”と言ってもらって──いろんなことがつながって今この場所に立てています。回り道のように見えるかもしれないんですけど、一つひとつが自分のプラスになっているんですよね。

──2018年の『THE☆カラオケバトル』のあとにクラウドファンディングを実施し、それで制作したのが2019年にリリースされた弾き語りの自主制作盤『歯形』。このアルバムには「ライブハウスブレイバー」と10月リリースの「ハンドクラフトラジオ」の弾き語りバージョンが収録されています。初期曲を2021年にバンドアレンジでリリースしようと思ったのはなぜでしょう?

近石:僕はバンドに憧れて音楽を始めたので、最初から2曲ともバンドサウンドで作りたいと思っていたんです。今まで大事にしてきた曲をここでバンドアレンジでリリースしたかったんですよね。

──「ハンドクラフトラジオ」はギター、ピアノ、豊かなコーラスといった、近石さんの音楽ルーツを詰め込んだアレンジだと思いました。間奏のノイジーなギターもアクセントになっています。

近石:最初はもうちょっとピアノが強いサウンド感やったんですけど、僕が“もう少しギター色を強くしたい”とアレンジャーさんにお願いして。たしかにギターとピアノがいい塩梅で噛み合ったサウンド感になりましたね。

──「ハンドクラフトラジオ」で描かれていることは、ちょうどギターにのめり込み始めた時のことですよね。

近石:そうです。技術の授業で作ったラジオのことを歌詞に書いていて。サウンドのギター色が強くなることで、そういうところも表現できたかなと思います。

▲近石涼/「ハンドクラフトラジオ」


◆インタビュー(2)
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