【ライブレポート】ヴァージュの新たな息吹「この曲を伝えることが使命だと思っています」

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8月18日に初のベストアルバム『遺言-2017~2021-』をリリースし、8月30日から同作を携えた<ONEMAN TOUR「境界線」>へと旅立ったヴァージュ。

◆ライブ画像(12枚)

硬派なヴィジュアル系の魅力を継承するバンドとして語られることの多い彼らだが、『遺言-2017~2021-』リリース時にBARKSが行なった遼(Vo)へのインタビューで、彼はそんなイメージに留まることなく進化していきたい、新しいところを目指したいと語っていた。つまり、現在のヴァージュは変革期にあるというわけだ。そして、彼らが新たな領域に歩を進めた最初の姿を披露する場が<ONEMAN TOUR「境界線」>だ。

今の彼らを生で体感したいと思ったリスナーは多かったことは想像に難くない。9月20日に新宿BLAZEで行なわれたツアーファイナルには感染症対策による入場者制限の限界までオーディエンスが集結。ヴァージュが多数のリスナーから熱い支持を得ていると同時に、彼らに対する期待が一層高まっていることを感じさせる中でのライブとなった。


暗転した場内に耽美感を湛えたオープニングSEが流れ、ヴァージュのメンバーがステージに姿を表し、ライブは「-ガラシャ-」から始まった。翳りを帯びた曲調と全身を揺さぶる重厚かつハードなサウンド、力強さと繊細さを同時に感じさせるボーカルなどがひとつになって生まれる強靭な世界観は魅力的で、ステージに強く惹き寄せられずにいられない。オーディエンスのボルテージも一気に高まり、オープニングから場内はヘッドバンギングの嵐と化した。

「-ガラシャ-」の勢いを保ったままヘヴィネスとキャッチーなサビを融合させた「二枚舌」やダーク&ドラマチックな「凶夢」、抑揚を効かせた構成が光る「ボクノ悪イ癖」などが相次いで演奏された。


ミステリアスなオーラを発しながら表現力に富んだ歌声を聴かせる遼。熱いステージングと曲調や曲中のシーンに寄り添う幅広いギタープレイのマッチングが印象的な紫月(G)。紫月と同じくフレキシブルなギターワークを行いつつ魅せるステージングを展開する氷龍(G)。クールな立ち居振る舞いとファットにグルーブするベースでオーディエンスを魅了する憂璃(B)。全身を使ったパワフル&タイトなドラミングでサウンドを牽引していく或(Dr)。

現在のヴァージュはメンバーそれぞれの個性がさらに強まっていながら散漫さを感じさせることなく、より強固なバンド感を放っている。この辺りからもバンドの状態が良好なことがうかがえた。


ライブ中盤では「海月」や「毒苺」「Vanish」などをプレイ。ヴァージュの楽曲は転調やスピーディな展開を活かしたものが多く、“パチッ・パチッ”とテイストが切り替わっていく流れが心地いいし、アグレッシブでいながら映像的な味わいがあることもポイントといえる。そんな楽曲の特性とヴァージュが誇る高い演奏力が相まって、MCを一切入れずに激しく突き進むライブでいながら平坦さは微塵もなく、観飽きることがなかった。

せつなさが胸に響くサビを配したスローチューンの「紋白蝶」や或の肉感的なドラムソロと楽器陣にスポットをあてたインストゥルメンタルなどを経て、「共依存」からライブは後半へ。遼の「やれんのか? 着いてこい! 着いてこい!」という熱いアジテーションを挟みつつ「ベラドンナリリーにナイフを添えて」や「お人形遊び」「籠女」といったアグレッシブ&ハイテンションなナンバーが相次いで演奏された。


感情を露わにしてステージ上を行き来し、客席に煽りを入れながら轟音を鳴り響かせるヴァージュと、そんな彼らに応えて熱狂的なリアクションを見せるオーディエンス。マナーを守って一言も声を発することなく、ステージ前に詰めかけることもなく、オーディエンスはお互いの距離を保ったうえで激しくヘッドバンギングや折り畳み、ジャンプなどを繰り返すという状態だったが、そんなネガティブを全く感じさせない怒涛の盛り上がりを見せた。

場内がひとつになっていることを感じさせる中、「この1年、何度もこの曲も歌ってきました。この曲を伝えることがヴァージュの使命だと思っています。早く悪夢が覚めますように」という遼の言葉と共に「千」が届けられた。激情や包み込むような柔らかさ、せつなさといった様々な情感が折り重なった「千」は、ヴァージュの核となっている楽曲達とは趣が大きく異なっている。

強く心を打たれたし、ライブを通して熱いリアクションを見せていたオーディエンスが静まり返って、ヴァージュが生み出すエモーショナルな世界に浸っていることも印象的だった。


その後は本編のラストソングとして、ハードな歌中と気持ちを駆り立てるサビを配した新曲の「悲鳴」をプレイ。場内は最高潮の盛り上がりを見て、心地いい余韻を残してヴァージュはステージから去っていった。

<ONEMAN TOUR「境界線」>を最良といえる形で締め括ったヴァージュ。“たとえ入場者制限があっても、オーディエンスが声を出せない状態でも、自分達は全力でいって、すべて出し切るぜ!”というメンバーの強い意思を感じさせるステージは本当に観応えがあったし、メンバー全員が引き締まった表情で演奏していながらライブを楽しんでいることが伝わってくるのも実によかった。そんな彼らの硬派なアティチュードが多くのリスナーを魅了していることを、今回のライブであらためて感じることができた。


そして、冒頭に書いた“ヴァージュの新たな息吹”も、しっかりと感じ取ることができた。アンコールの最後に演奏された新曲の「遺言」の抒情的かつドラマチックな味わいは今までのヴァージュにはなかったものであると同時に、非常に魅力的だった。

「遺言」披露前に遼はこう述べた。「きっと人はいつか何もかも忘れていく生き物だと思います。だからこそ誰かの記憶の中にいれるうちに何かを遺せていけたら、そう思います。このバンドに骨をうずめる覚悟で今日も、これからも歌っていきます。最後にこの曲を遺していきます」

リスナーを引きずり込むようなダークな楽曲作りに長けたヴァージュに、「千」や「遺言」といった光を感じさせる要素が加わったことにはワクワクせずにいられない。いい方向に幅を広げたことで、今後のヴァージュがより多くのリスナーを虜にしていくことを強く予感させる、上質という言葉が似つかわしいライブだった。

取材・文◎村上孝之
写真◎釘野孝宏

セットリスト

1.-ガラシャ-
2.二枚舌
3.凶夢
4.ワイセツCandy
5.ボクノ悪イ癖
6.私ノ悪イ癖
7.海月
8.毒苺
9.Vanish
10.紋白蝶
11.共依存
12.べランドナリリーにナイフを添えて
13.お人形遊び
14.籠女
15.家族ごっこ
16.千
17.悲鳴

en1.醜劣
en2.万華鏡
en3.「怨ミ言」
en4.Le ciel
en5.遺言

◆ヴァージュ オフィシャルサイト
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