【インタビュー】Hilcrhyme、10thアルバムに軌跡と意思表示「成功して、1回立ち止まって、再出発。この15年でほぼ全てを経験した」

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結成15周年を迎えたHilcrhymeが9月29日、通算10枚目のオリジナルアルバム『FRONTIER』をリリースする。タイトルの“FRONTIER”は、「未開拓の分野を自らのラップで開拓していき、自分にしか作れない轍を残していきたい」という想いが込められたものだ。同アルバムには全10曲を収録。Hilcrhymeのステイトメント的な楽曲「FRONTIER」から幕を開け、先行デジタルシングル「Lost love song【III】」「Lost love song【III】-サレタガワ-」や相川七瀬の名曲「夢見る少女じゃいられない」カバー、新曲「リスケ~君のせい~」「East Area -戒-」「夜光性」など、新鮮にして自身の王道を貫くナンバーの数々が心を躍らせる。

◆ Hilcrhyme 動画 / 画像

これまでの活動の中で切り拓いてきた道なき道を未来へと繋げていく覚悟──それを様々な形で示しているのが、10枚目のオリジナルアルバム『FRONTIER』だ。切れ味の良いラップ、絶妙なライミングを満載しながら、たくさんの物語とメッセージを浮き彫りにしている。ジャンルの壁に縛られることなく、独自のスタイルを確立し続けている姿も再確認させてくれる今作について、TOCが語ってくれた。

   ◆   ◆   ◆

■1人になったことや現実的なことも描いた
■それでも無理矢理にでも幸せな方向へ

──どのようなアルバムにしたいとイメージしていました?

TOC:自分の生い立ちだったり、Hilcrhymeの軌跡を振り返りながら、今後の自分の道を示していく1枚にしたいと思っていました。コロナのことも含めて、これから先について想像もつかない世界で音楽をやっていくということは、道なき道を行くことでもあるし、自分のルーツである新潟を拠点にしてこれからも活動していくというのもそういうことなんです。地元にはそもそも同業者がいないですし、自分が轍を作らなければいけないという使命を15年活動してきた中で感じているんですね。だからアルバムのタイトルが『FRONTIER』になりました。


──自分の気持ち、考え方を大切にして生きる姿勢は、Hilcrhymeがこれまでも作品に描いてきたことですけど、それを改めてじっくりと表現しているアルバムだと感じました。

TOC:そうですね。より現実的なリリックが増えてきたなということも自分で思っています。昔からこういうスタンスでしたけど、誰かを勇気づけるための楽曲を結構意識して作っていたんです。でも、今回は自分を奮い立たせるアルバムにしたいということも思っていました。自分にフォーカスを当てて描くことをすごく重視して作ったというか。ちょっと前だったら恥ずかしいと思ったかもしれないんですけど、今回は自分自身がドラマの主人公であり、脚本家であり、演者でありということですね。

──それぞれの曲に、とても説得力があります。

TOC:Hilcrhymeは、かなりの紆余曲折を経ていますからね。地方で結成して、成功して、安定して、挫折して、1回立ち止まって、再出発……っていう、この15年間でほとんどのことを経験したので、こういう歌詞を書けるようになったのかもしれないです。

──1曲目の「FRONTIER」は、アルバム全体を貫いているテーマがとても凝縮されていると思います。

TOC:はい。こういう意思表示を最初にして、アルバムを聴いてもらいたかったんです。一気に言葉が出てきて、今の自分の立ち位置を意識しながら描きました。音楽シーン、地元、ヒップホップのシーンとか、いろんな面から見て自分はどういう立ち位置なのかを意識しながら意思を示している曲ですね。

──他の曲に関しても言えることですけど、ライミングが気持ちいいですね。

TOC:ありがとうございます。ラップって技術職だと思っているんです。年齢を重ねる中で衰えていくものではなくて、逆に研ぎ澄まされていくものだと思っているので。だからもっともっと上手くなっていきたいです。今はヒップホップが流行っていて。これまでで一番流行っている状況になりつつある中で、より自分が自分らしく、一聴して“TOCだ”とわかるようになれるように気をつけてもいます。今、みんなラップに対して耳が肥えていますから、何を言っているかをちゃんと耳で追っかけてもらえるんです。だからなおさら“上手くならないと”って思っています。


▲『FRONTIER』初回盤

──TOCさんは、言葉の切り口も粋ですよね。「FRONTIER」の“己だけにしない忖度”とか、とてもイメージが湧く表現です。

TOC:この曲は勢いで書いたから、あまり読み返していなかったんですけど、結構いろんなことを言っていますね。“脱サラからの札束”は、今、自分で歌詞を改めて見てびっくりしました(笑)。比喩表現、暗喩表現、ダブルミーニングとか、いくらでも凝ることができるんですが、Hilcrhymeはわかりやすさを重視しています。あまりにも凝り過ぎるとわかりにくくなってしまうので、そこのバランスは結構気をつけていますね。

──“脱サラからの札束”は、とてもわかりやすいです。

TOC:その後に“俺はまっさら”と言っているのが、とても清々しい(笑)。この2行くらいで15年くらいの軌跡を大体表現できていますね。

──韻と共に密度濃く表現するのというのは、ラップの醍醐味だと思います。

TOC:そうですね。韻を踏んで展開していくというのはラップならではですし、それが楽器になっているので楽しいです。

──こういうラップの楽しさをポップスの要素と融合させて歩んできたのが、Hilcrhymeのこれまでの活動ですよね?

TOC:めちゃくちゃ嬉しい捉え方です。メロディと語感、一聴して何を言っているのかわかるというのは、ものすごくこだわってきたんです。だから「春夏秋冬」の頃とか、とにかくゆっくりのラップを選んでいたんですよ。当時はラップの言葉を追っかける土壌がまだ一般にはなかったから、聴こえやすいものを作るというのをあの頃は心がけていました。でも、今はそういうことを気を遣う必要がないくらいの状況になっているし、スマホで歌詞が表示される時代にもなっているし、それによって自由にできているという感じです。

──聴きやすさ、メロディアスさを取り入れるというのは、批判する人もいますよね?

TOC:はい。そういうのは今でもあるんです。でも、言われてなんぼですし、名指しで誰かに何か言われてる内は自分に話題性があると思っていて、良いほうに捉えています。

──新潟を拠点にして活動していることに関しても、いろいろ言われてきました? 例えば、“東京に出た方がいろいろスムーズになるんじゃないの?”とかいうことも含めて。

TOC:そうですね。むしろ“東京にいるんでしょ?”という認識の人の方が多いですし。でも、新潟にずっといるんです。1回も住民票を移したことがないですから。地元の人たちが“TOCは新潟にいる”と認識したのはつい最近で、そこら辺は今回のアルバムで描いていますね。


──今回、様々な切り口でご自身のことを描いていますよね。昨年の中野サンプラザ公演で初披露した「唯一無二」も、TOCさんの姿がありありと浮かびます。

TOC:“ロックスター” “ポップスター” “ラップスター” “TVスター” “ムービースター” “コメディアン” って、様々なスターたちを並べるヴァースが上手く描けたと思っています。

──自分自身で判断して未来を作っていくことの大切さについて考えさせてくれる曲です。

TOC:自分は綺麗事を常に言っていたいと思っているんです。歌だけはそうでいたいので。もちろん、なかなかそうはいかないのが現実なんですけど、“音楽ぐらいは綺麗事でいたいな”という感覚がHilcrhymeは強いんですよね。

──綺麗事と呼ばれることには大切な何かが含まれていると多くの人はわかっていると思うんですけど、現実はなかなか理想通りに動かないから否定的なことを言いたくなるんでしょうね。

TOC:そうなんです。本来、ハッピーエンドが一番幸せなはずなんですから。そういえば、この前、2時間半くらいのバッドエンドの映画を観ちゃって、すごくつらくて(笑)。丁度アルバムを作っている最中だったんですけど、“もっと明るい歌を入れよう”って思いましたね。聴いてくれる人たちをあまり重い気分にさせたくなかったので。だから、なるべくハッピーになるように曲を作っていったんです。

──バッドエンドの作品だからこそ描けることも確実にありますけど、綺麗事と呼ばれるような理想も、世の中にとって大切ですよね。

TOC:そう思います。僕はもっと綺麗事を言われたいんですよ。音楽に関しては、非現実でいたいので。今回、2人だったHilcrhymeが1人になったこととか、現実的なことも描いていますけど、それでも幸せな方向へと無理矢理にでも持って行きたいんです。そういうことはいろんな曲から感じてもらえるんじゃないかなと思います。

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