【インタビュー】サウンド・クリエイター鈴木光人、『FINAL FANTASY VII REMAKE』オリジナル・サウンドトラック制作の裏側

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2020年4月、ゲームファンにとって待望の『FINAL FANTASY VII REMAKE』(以下、FFVIIR)がリリースされた。そして今年6月には、PlayStation(R)5の発売に伴い、同作のバージョンアップ版『FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE』(以下、FFVIIR INTERGRADE)が登場。これらのBGM制作に深く携わったのが、スクウェア・エニックスのサウンド・クリエイター、鈴木光人だ。今回は、彼が得意とするダンス、エレクトロミュージックの要素がふんだんに盛り込まれたサウンドトラック『FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE Original Soundtrack』についてインタビューを敢行。その制作過程や作曲法、作品で活用されたというNative Instrumentsの音源について語ってもらった。

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鈴木光人(mitsuto suzuki) プロフィール

スクウェア・エニックス所属の作曲家。
『ファイナルファンタジー VII リメイク』、『ライトニング リターンズ ファイナルファンタジーXIII』、『メビウス ファイナルファンタジー』、『スクールガールストライカーズ』などを担当。
近年ではゲームのみならず、TVアニメ『スクールガールストライカーズ Animation Channel』の楽曲制作、音楽専門誌での機材レビュー執筆や舞台音楽の制作にも携わっており、多方面で才能を発揮している。
SQUARE ENIX MUSIC Official Blog「鈴木週報」
http://blog.jp.square-enix.com/music/cm_blog/suzuki/


■音楽のジャンルがぶっ飛んでて
■今までの『FF』のイメージとちょっと違う

──今回は『FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE Original Soundtrack』の制作についてお聞きしていきたいと思います。本作は、『FFVIIR INTERGRADE』版になって追加されたBGMを厳選して収録した作品ですが、どんなところが聴きどころでしょうか?

鈴木光人(以下、鈴木) まず、昨年『FINAL FANTASY VII REMAKE Original Soundtrack』がCD7枚組(初回限定盤はボーナスディスクを含め8枚組)で発売されて、約半年後にカットシーン楽曲を中心に収録した『FINAL FANTASY VII REMAKE Original Soundtrack Plus』がCD4枚組で発売、そして今回のCD3枚組のサウンドトラック作品『FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE Original Soundtrack』がリリースされました。だから、ゲーム全体として合計14枚組のような状態で、曲がめちゃくちゃ多い(笑)。先に出たサントラもたくさん聴きどころがあるのでぜひ併せて聴いてもらいたいですが、『FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE Original Soundtrack』について言うと、Disc 3には28曲入っていて、そのうち18曲が“かめ道楽”の曲なんです。なので、そこは1つの聴きどころではあります。

FFVIIRプロデューサーの北瀬佳範の言葉を借りると、“大人が本気でふざけて取り組んだ”という感じ。ゲームの演出上で音楽のジャンルがぶっ飛んでて、今までの『FF』のイメージとちょっと違うんです。みんなが思い浮かべるようなRPGのオケものの楽曲ではなく、ある意味ポップミュージックというか、開発からのオーダーを元に僕が普段聴いているダンスミュージックやエレクトロニックミュージックの要素を、かなり入れ込んでいるんです。割と客観的にモノを作る方なんですけど、たまに自分で“あれ?これゲームの音楽だったっけ?”みたいな感覚になってしまうこともありました。逆に「中途半端なものは作れないぞ」という気持ちで。

──作り方も違いましたか?

鈴木 使う音色が全く違うので、変わってくる部分はありますね。『FFVIIR』については、僕へ発注されるのはなぜかそういう曲が多くて。『FFVIIR INTERGRADE』ではさらに特化した感じで、UKポップやダンスミュージック系だったり、デスメタルだったり、めちゃくちゃ振り切った和楽器オンリーの曲だったり。やっぱ燃えますよね。


──1997年に発売された『FINAL FANTASY VII』はシリーズの中でも特に人気の作品でしたが、そのリメイク版の音楽を制作する上で意識したことはありましたか?

鈴木 意識はもちろんするんですけど、一番大きかったのは当時リアルタイムで遊んでいた受け手の立場だったことですね。それが約20年経って今度は送り手になったときに、“ここではこの曲が鳴っている”というのがだいたい頭に入ってるんです。PlayStation(R)の内蔵音源で鳴っている音の質感が刻まれている中で、もう一度アレンジし直して、今のサウンドに差し替えるっていうのはある種の挑戦ではありました。これも先ほどの話につながるんですが、もともとあった曲のリアレンジもあったんですけど、以前のシーンをさらに深掘りしたときに当てる新曲を作ってくれっていう発注も多くて。そうなるとオリジナルとは切り離して考えた方がいいなと思ったので、逆にやりやすくなりました。

──曲ごとにアレンジャーが違う中で、自分ならではのテイストを加えようと考えたりはしましたか?

鈴木 意図的に違うことをしてやろうというのは一切ないです。あくまでシーンに合ったものを出すというのがあって。それに僕が担当している曲については放っておいても自分の色って出ちゃうんですよ、やっぱり。だから、単純にゲームをプレイしていて、気分が上がる曲を作るというアプローチですね。そうやっていくと、僕が普段から聴いている音楽の要素が混じって発信されていく。あと、作品にかかわっている外部アレンジャーさんがたくさんいるんですけど、見事にうまくアサインされていて、みんなカラーが違うのでそんなにかぶらないんです。だから僕らの方はひたすら曲作りをしていくんですけど、最終的にそれを取りまとめる人がいるわけです。スクウェア・エニックス サウンド部の河盛慶次が、そのミュージック・ディレクターという役割をしてるんですが、河盛の元にいろいろな曲がたくさん集まるんです。アレンジの方向性も、音の質感も、ミックスエンジニアもみんな違うから、それをまとめ上げるという作業の方が大変だったんじゃないかなと思います。

──鈴木さんの作曲の仕方について聞かせてください。ゲームの場合、どうイメージしてどのように進めていくんですか?

鈴木 『FFVIIR』、『FFVIIR INTERGRADE』の両方とも、1つのシーンの曲を丸ごとお願いされるパターンが多かったですね。ステージのロケーションにはそれぞれの世界観があるから、その方がやりやすい。ある1ヶ所に当てる曲だけ作るというのではなく、そこのブロック全体をプロデュースするような感じなので。ある意味ゲームではない感覚というか、“このロケーションではこの選曲をしよう”というような、ちょっとDJっぽいんです。もちろん自分で作る曲もあるんですけど、一緒に作っているチームの曲を振り分けていくときも同じで、テンポ感の統一を重視して進めていくことが多いんです。例えばいきなりBPM80から120にいくことはなくて、常に120近辺で統一とか。それでシーンが変わってバトルになると、同一テンポでアレンジがガラッと変わったり、アップテンポを差し込んだり。


──『FFVIIR INTERGRADE』ではユフィという登場人物が新たに加わりましたが、ゲームのキャラクターはどの程度意識して曲を作ったり、アレンジをするのでしょうか? 

鈴木 ゲーム音楽では、よく“何々のキャラクターのテーマ”というのがありますけど、『FF』は特に多いんですよね。だから、ユフィに限らずなんですが、まずはそこをメインにして考えます。どういうキャラなのかっていう情報も、もちろん事前に集めます。特にリメイク版の場合、昔からいるキャラでもグラフィックが全然違うから、そういった映像や絵を含めてそのときにある素材を全部もらって、しばらく考えるところから始めますね。『FFVIIR』では売れない演歌歌手のAKILAや忠犬スタンプのような新キャラクターもいるわけなので。『FFVIIR INTERGRADE』だったら、サントラ盤のDisc 1の2曲目、ユフィのテーマ的な「忍びの末裔」という曲があるんですけど、それがユフィの頭で鳴っているようなBGMなんです。これは、島(翔太朗)氏がアレンジされていて、ユフィの躍動感をうまく表現していて見事だなと思います。多分、島氏もプレイ中の動画を事前にもらって合わせて作ってると思うんですけど、そういう外部の作家さんがやっているものを聴くと、アプローチの違いがわかりやすくて刺激になりますね。コルネオの手下とのバトル曲では、メタルを得意とするShootie HG氏というアーティストに参加してもらったり。

▲Shootie HG氏

──キャラについて考えるところから始まるんですね。

鈴木 ケース・バイ・ケースではあるんですけどね。あと、動きの速いキャラだったり、特徴的な武器を使うキャラだったりすると、やっぱりテンポ感に影響するかもしれないです。幅広い曲調でありつつゲーム全体としての統一性を意識しています。

──具体的な作り方としては、そこからイメージしたメロディだったりリズムだったりを打ち込んで構築してく感じですか?

鈴木 そうですね。映像チームの方から、完成版ではないんですけど、とりあえずこんな感じのシーン展開があって、フィールドがあって、バトルがあってという、結構長い尺の動画が来るんですね。それをDAWに貼り付けて、テンポを見つついろいろ組み合わせていく感じです。

──その過程で音源を選んで使っていくのだと思うんですが、どういう基準で選ぶのでしょうか?

鈴木 実は使うものって、割と決まってるんですよ。オケ系だったらこの音源、リズムだったらこれっていうのが、最初に立ち上げる段階から決まっていることが多いんです。でもなんかね、あんまり面白くないんですよ、その作り方って。

──面白くない?

鈴木 もちろん仕事ではあるんですけど、めっちゃ仕事っぽい感じになるから。ある意味すごくプロっぽい感じになるんです。当然、締め切りまでに納めるっていう前提はありますが、そういう仕事向きのものではなく、あまり関係なさそうな音源を立ち上げて、フックになる音色から作ることも多くて。何か1つきっかけを見つけると、そこからバーッと進めるんです。それまではひたすらシンセサイザーで音を作ってたり、ひたすらリズムだけを作ってたりとか。だから、そういう断片的なパターンがどんどんできていくんですよ。

──インスピレーションが沸くまで何かしら音を出していくっていうことでしょうか。

鈴木 音は出てるんですけど、聴きながら他のことをしてる時間も多いので、仕事しているように見えないかも(笑)。聴きながらメールを書いてたりとか。そこでフっと浮かんできたら、作業に戻って打ち込み始めるんです。そうなると速いです。そういうやり方が面白い。さすがに明日までにこのメロディを書かないと間に合わない時はすぐにピアノで作りますけどね。でも、余裕があるときにはそうやって最初にサンプルを作るところから始まったりします。どこか他の場面でも使えたらラッキーだなって。





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