【インタビュー】サウンド・クリエイター鈴木光人、『FINAL FANTASY VII REMAKE』オリジナル・サウンドトラック制作の裏側

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■MASCHINE+の最大の強みは
■単体機であるというところ

──鈴木さんはNative Instruments(以下、NI)の音源を愛用されていて、『FFVIIR INTERGRADE』のサウンドトラックでも活用されたそうですが、いつごろからNIの音源を使っているんでしょうか?

鈴木 Pro-52から使い出したので、2000年前後かな。そのときは、まだスクウェア・エニックスに入社してなかったんですけど。当時作っていた音楽で使いまくってました。高嶺の花のアナログシンセサイザーのエミュレートがいきなりソフトで出たんで、とにかく嬉しくて。勢いでアルバム3枚作りましたよ(笑)。

──その後、いろいろなNI製品を使ってきていると思いますが、どんなところが特徴なんでしょうか?

鈴木 NIが立ち上がった初期の時代から20年以上使ってるわけなんですけど、“使い方”が大分変わってきたなって思います。最初は、Pro-52、Pro-53などのエミュレーターの印象がすごく強烈で、シンセサイザーのイメージが強いメーカーだったんです。でもそこからKontaktが出てきて、生楽器の代用品のような、まさにサンプラー的な立ち位置になっていって。そこでかなりイメージが変わったというか……今はその部分がないとどうにもならない制作環境になっていますけど、当時の僕はその辺に興味がなくて。というのも、シンセサイザーが好き過ぎて。あと、代用品として使うぐらいだったら、生楽器を録っちゃえばいいじゃんって思ってたんです。確かに自宅で手軽にデモを作る分には良かったんだけど、自分の中ではそこはあまり重要ではなかったんですよね。それよりも、Kontaktはメロトロンのライブラリーが最高!とか思っていて。でも、サードパーティーを含めライブラリーが増えて音質も上がっていくと、やっぱり便利なんですよ。そこからどんどん取り入れるようになって、今ではKOMPLETEがないと仕事にならないです。

──今回の『FFVIIR INTERGRADE』のサウンドトラックでは、冒頭のお話にも出てきた“かめ道楽”でNIの音源をいろいろ使われたそうですが、使い分けはどのように?

鈴木 “かめ道楽”の音楽はジャンルがいろいろなので、ほぼ網羅してますね。サンプル系はKontaktで、エレクトリックだったらFM8、シンセベース系だったらMonark、それ以外のシンセ系だったらMassive Xとか。あと、MASCHINEの中のライブラリーも使いました。それらが、自分の頭の中のプリセットみたいになっていて、迷いなく立ち上げるって感じです。



──特に気に入っている音源というと?

鈴木 FM8はすごく好きです。大好きでさんざん使ってきたPro-53とは全然音が違いますけど、やっぱり当時のFMの音っていうのは自分の肌に馴染むっていうのがあって。DXエレピは、音色含めてフレーズが頭の中で鳴ることが多いんです。そういう音がFM8にはたくさん入ってるから、立ち上げることが多いですね。Monarkはリード系、ベース系によく使うんですけど、これを立ち上げるようになってから、自宅のアナログシンセ率がちょっと下がったような気がします。ベース系はMonark一択かもしれない。やっぱりそれぞれの役割がちゃんと決まっていますね。あと最近だとSuper 8がお気に入りです。VCOとDCOの頃のシンセをモチーフとしながらもFMオシレータで変調が出来て面白いです。ライブラリー系だとNOIREのピアノも良かったです。これは立ち上げた瞬間にパラメータがパネルに表示されて、瞬時にEDIT出来るので音色を選ぶよりも早く曲作りに必要なイメージに近づける事が出来ます。大体はColor、Dynamic、ReverbのON/OFFで方向性が決まるので、第一階層にパラメータが出てるGUIのピアノ音源ってあまりないから便利ですね。

──MASCHINEというハードウェアの名前も挙がりましたが。

▲MASCHINE+_Pro52sプリセット

鈴木 MASCHINEはそれだけで制作ができるハードウェア/ソフトウェアが統合された製品ですが、『FFVIIR INTERGRADE』では単体では使っていなくて。付属のライブラリーを使っています。ドラム系にはよく使いますね。MASCHINEはライブラリーの音をプレビューするのがすごく簡単で、ボタンをポチポチ押すだけで音がすぐ変わるからアタリをつけやすいんですよ。いわゆるブラウズ機能っていうのかな、ワンショット系のネタの時にすごく重宝していて。今はそれに代わるものがちょっとない状態ですね。6月からPodcastを始めたのですが、Macキーボードのコントロールキーで素早くランダムにプレビューして録音したものをジングルで使用しています。

──中でも、Poly Synthを気に入っているとお聞きしました。

鈴木 それはMASCHINE+の方で使っているんです。『FFVIIR INTERGRADE』を作っているときは、MASCHINE+は使っていなくて。Poly Synthを使い出したのは、ここ2ヶ月ぐらい。次に使おうと思って準備をしている段階で、今いろいろ試しています。Pro-53が廃番になってしまってから、いつか復活しないかとずっと思っていたんです。それほどPro-53っていうのは僕にとって強烈なものだったから。ハードシンセとはまた別モノなんですよ。それでMASCHINE+が出てアップデートされたライブラリーにPoly Synthが入っていて、プリセット名にPro-52と付いているものがあったり。フィルターを触ると、完全にPro-52、Pro-53のフィルターの音がするんですよ。さらにエフェクター込みの音色になっているからすごく扱いやすいんです。嬉しい形でアップデートされていて、遂に復活!という感じでした。

▲水源の森

──では、今後MASCHINE+をこんなふうに使ってみたいというのはありますか?

鈴木 MASCHINE+の最大の強みは、単体機であるというところ。PCにつながなくても制作できる、言ってしまえば音源付き単体シーケンサー。そもそも僕は、単体機がめちゃくちゃ好きなんですよ。それは制限があるから逆に面白いとかそういう話ではなくて、愛着の問題なんですよね。手元でコントロールして音楽を作るのが昔から大好きで。だから、ドラムマシンとか小さいシンセサイザーのコレクションがどんどん増えるんですけど。MASCHINE+は、その感覚に近づいたんです。さしづめバンドメンバーみたいなものです。スクウェア・エニックスは現在、原則在宅勤務体制になっているので、制作環境が完全に自宅になりました。会社では、大きな据え置きのMac Proがあって、慣れたモニタリング環境があって、それは安心感があって何の問題もなかったんですけど、逆に言うとそこから動けない状態だったわけです。それが最近、MacBook Proで作業するようになって、MASCHINE+を一緒に持って、作業部屋からリビングに移動したりして制作するようになったんです。そうすると、MacBook Proも楽器の1つなんだっていう感覚になってきて。

──気楽に制作できるようになった?

鈴木 ちょっと忘れていた感覚だったんです。20年程前PowerBook G3で作業してた時の衝撃に似ており、こんなふうに簡単に楽器を持って行って、いろんな場所で音が出せるんだっていうことを思い出して。電源入れてすぐ音を作れるってすごく重要なんだなと改めて思い始めました。それを突き詰めると、DAWを立ち上げるというひと手間があるのでPCはちょっと面倒じゃないですか?でも、MASCHINE+は単体で動くので、PCがなくても思い付いたアイディアを記録しておくことができる。それに加えて、Poly Synthっていう大好きな音源の進化版も追加されましたから。もうハマるじゃないですか(笑)。これからはいろいろな場所で作ってみようって思ってるんです。

──機動性のある制作ということでしょうか。

鈴木 そう考えると、今後MASCHINE+がBluetoothに対応するようになったらいいなって思います。入力用のコンパクトなMIDIキーボードをつなげられるし。あとスピーカーですね。今は自宅で作業していて、作りかけの曲を作業場で聴く以外に、リビングで聴いたり、お風呂場で聴いたりするんです。iPhoneからBluetoothでスピーカーにつないで聴くんですけど、それがMASCHINE+でできるようになったら最強だなって。あと、現時点でも両手を使って簡単に操作できるので問題はないんですけど、iPadに慣れている自分としては、タッチパネルになったら嬉しいかも。特にエフェクターをいじりたいときに重宝しますからね。あとバッテリー内蔵とか考えたら色々要望がありますね(笑)。

──NI製品のハードウェアとして、32鍵仕様のKOMPLETE KONTROL M32(以下、KKM32)も併せて使われているそうですね。

鈴木 MASCHINE+とKKM32の組み合わせっていうのがベストなんです。その2つを並べると、見た目が美しいんですよ!単体機フェチの僕としては堪らない(笑)。ワークフローも完璧ですね。作業場には61鍵のMIDIキーボードもあるんですけど、それを弾くよりMASCHINE+の前に設置しているKKM32を弾く方がアガるんですよ。パッとフィルターを触れたりするので、シンセ好きの自分としてはこの組み合わせはすごくしっくりきてますね。

──コンパクトなシステムで、直感的な操作ができるという。

鈴木 そうですね。あと関連した話では、インプットの使い方。MASCHINE+にプラスアルファしたいってなったときは、外部音源をMIDIで鳴らすんです。僕がそうやって使うのは、主にTB-303系のアシッドベースの音源。インプットにそのまま入れられるので、ミキサーいらずなんですよ。そういう単体機も使って、MASCHINE+だけで完結するっていう制作環境の構築を今やっている最中です。そうやってどんどん拡張ができるんだけど、メインのDAWと切り離しているってところが気軽だし、使いやすくて。最終的には、ファイルで書き出せばいいだけですからね。コンピューターっぽいんだけど、コンピューターじゃないっていう感じが、僕にとって単体の音楽制作機っていう立ち位置なんですよ。あと息抜きがてらにMASCHINE+で適当にサンプルを選んで、良いサウンドを見つけたらそのままリアルタイムで叩いてDAWに録音したり、とにかく手軽なんです。

■あえてルール的なものを破る人が
■出てきたら面白いなと思います

──ところで、8月に開催された<CEDEC2021>で、“コール&レスポンス!- FINAL FANTASY VII REMAKE インターグレード - 生ライブでプレイしてるかのような音楽演出と日英2言語対応プロセス”というサウンド制作の裏側を解説するセッションが行われたそうですね。

鈴木 <CEDEC>は、Pro-Fiveが発売された時期と近い1999年から開催されており、ゲーム開発者向けの技術交流会のイベントで、年2回東京と福岡でやっていて、ゲーム開発をしている人たちには有名なカンファレンスなんです。僕もこれまで何回か登壇していて、今回は『FFVIIR INTERGRADE』のサウンド演出や、曲の作り方について解説しました。あと昨年は、コロナの影響でどうしてもリモートの作業が多くなったので、その辺を全部ひっくるめて、『FFVIIR INTERGRADE』のサウンド制作における事例をFFVIIRの社内音楽制作メンバー(鈴木光人・河盛慶次・土岐望)でお見せしたんです。実際ゲーム開発が始まって発売されるまでの間は、自分たちがやっていることを振り返れることって少ないんですよ。ひたすらゴールという締め切りを目指してるから。<CEDEC>での発表によって、制作期間をイチから全部さらうような感じになって、初めて客観的になれる部分がたくさんありました。次に生かす材料になりましたね。


──Webのセッション・レポートを拝見しましたが、ゲーム音楽のクリエイターだけでなく、音楽制作全般に役立つようなテクニックも公開されていました。

鈴木 パワポの資料を見せるだけというやり方は、サウンド解説においては現実味がないので毎回必ずリアルタイムで音を鳴らして発表しているんです。例えば今回だったら、NIとアライアンス関係にあるiZotope RX 8を使ったバックグラウンド・ノイズの取り方や、日本語と英語歌詞の音楽的ワークフローや音楽演出について解説しました。

──ゲームのサウンドを制作するクリエイターになりたいという人は、今の時代すごく増えたと思います。そういう人に向けて、アドバイスをいただけますか?

鈴木 僕は年齢的に、ゲーム音楽が盛んになってきた時期を体験しているんですね。80年代初頭からゲーム音楽と呼ばれるものが徐々に盛り上がって、技術が進んで再生方式が変わっていって、音楽としては今はもうほぼポップミュージックと同じような作り方をするようになっている。昔はゲーム機の内蔵音源でたくさんの音を鳴らせなかったので、どうしても単音のメロディ重視な曲が多かったんです。それが今、完全にサウンド重視のサウンドトラックが増えてきていて、海外のゲームにおいてはBGMがなくてシーンの環境音だけが鳴っているものも増えてきています。そういう表現方法がある一方で、『FFVIIR』はBGMが常に鳴っている。もう途切れなく、頭から最後まで鳴っている。それがゲームの特徴にもなっているので、今回の“かめ道楽”はまさにそうですが、いろんなジャンルの曲を開発チームから求められるんです。そうやってオーダーされたときに、引き出しがないとやっぱり駄目。ゲーム音楽を作りたいと思って今頑張っている若い世代の人がいるとするならば、常にいろんな音楽を作っているべきだと思うんです。そこがまず1つのスタート地点なんですよ。

──引き出しを増やすのがスタート地点ということですね。

鈴木 でも実は、そこからが難しくて。そのスタート地点には、多分全員が立っているんです。そこからは、すごく激しいふるいにかけられる。そこで何か突き抜けていないと、この仕事で生き残れる可能性は非常に少ないかもしれません。ただ、今の日本のポップミュージック・シーンでは、20代の人たちが作る音楽がめちゃくちゃ面白いじゃないですか。これはDTMが飛躍的に手軽になったから、この状況になっていると思うんですね。僕らの世代にはこんな発想できないなっていうものがどんどん出てきて非常に面白い音楽が日々生まれています。ゲーム音楽の世界でもそういうことが起こるかもしれない。ただ、肝心のゲームに乗せた時に調和していなかったら、それはやっぱ使えないものですからね。とは言え、そこのバランスの取り方は、本人たちには手の届かないことかもしれないので、若いうちはとにかくどんどん作ればいいと思うんです。でも1つ大事なことは、あくまでゲーム音楽であって、自分が作りたい音楽を持ち込むのとは意味が違うんですよ。その上で、あえてルール的なものを破る人が出てきたら、面白いなと思いますし、その人にしか作ることができない光るものがあったらぜひ一緒に仕事をしたいです。情報は常に発信しているので、ぜひチェックしてほしいですね。

取材・文:山本奈緒


『FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE』Original Soundtrack

2021年6月23日スクウェア・エニックス
CD3枚 ¥3,850(税込)
SQEX-10875-7

◆Native Instruments オフィシャルサイト
◆鈴木光人 Twitter
◆『FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE』オリジナル・サウンドトラック
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