【インタビュー】村上佳佑、染みこんでくる歌声に浄化される「Somebody」

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3か月連続でリリースされた村上佳佑のデジタルシングルの3作目の「Somebody」は「聴く」というよりも「染みこんでくる」という表現を使いたくなる作品だ。彼の歌声が体の中に自然に入ってきて深い余韻が残り、聴き終わったあとで、なぜか空を見上げたくなる。喪失感が伝わってくるのだが、不思議な浄化作用を備えている点も特徴的だ。みずみずしいパワーがみなぎる「風の名前」、包容力を備えた「Close my eyes」、そして「Somebody」とタイプの異なる3曲があることで、シンガーソングライターとしての幅の広さも見えてきた。1stアルバム「Circle」から約2年9か月。新作3曲には彼が音楽と向き合った日々の成果が現れている。「歌のうまさ」よりも「歌の良さ」が際立っているのだ。これからどんな歌を歌うのか、期待が広がっていく。彼の歌に出てくる空のように、彼の目の前には果てしない空が広がっている。

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■3曲続けて出すことで、着実に一歩ずつ進んでいる実感もあった

——3連続リリースとなったデジタルシングル「風の名前」「Close my eyes」「Somebody」は1stアルバム「Circle」から2年9か月ぶりの新作になります。この期間はどんな時間でしたか?

村上:「Circle」を出したのは2018年11月なんですが、あの頃はまだデビューして1年そこそこで、自分がどういう方向に進んでいきたいのか、わかっているようでわかっていなかったんですよ。自分の中でいろいろと確かめる時期だったと思います。そろそろ次の作品を作ろうかという時期がコロナ禍になる直前でした。環境が整わず、出せなかったというのが正直なところです。

——コロナ禍は音楽全般に大きな影響を与えています。その間、村上さんはInstagramでたくさんカバー曲を発表していました。これは?

村上:家にいる時間が長かったので、歌と向き合うことができたという意味では、いい期間になったと思っています。これまでも歌い続けてきていますが、次に歌う時にはめいっぱい自分の曲を歌うぞと考えながら、カバー曲を歌っていました。7月に出した3連続シングルの1発目の「風の名前」はそんな自分に宛てた曲でもありますね。

▲村上佳佑/「風の名前」

——「風の名前」の中には《今がスタートラインだ》というフレーズもあります。始まっていくパワーを感じさせる曲ですが、いつ頃作った曲なんですか?

村上:コロナ禍に入るちょっと前くらいのタイミングで書いた曲なんですが、コロナ禍を体験したことによって、よりリアルな曲になったんじゃないかと思います。コロナ禍になって、自分の身の回りの人たちも〝二の足を踏む”みたいな感じになっている気がしたんですよ。なので、自分に向けたメッセージであると同時に、そういう人たちに向けてメッセージしている曲でもありますね。

——確かに、《今がスタートラインだ》以外にも《止まらないんだ》《今始まるんだ》など、ポジティブな言葉が並んでいます。

村上:僕は言霊ってあると思っているんですよ。ポジティブなことを口にするからこそ、ポジティブなことがついてくるんじゃないか、未来を切り開いていけるんじゃないかと考えています。聴いた人に対して、根拠のない自信であったとしても、そのパワーを感じてもらうことが大切だと信じて、自分を鼓舞しながら歌っていました。歌うことによって、自分も聴いてくれた人も前向きになれる曲だと思っています。

——3か月連続リリースの最初にふさわしい曲でもありますが、そもそも3か月連続でリリースすることにしたのはどうしてなんですか?

村上:久々のリリースということもありますし、「こんな曲もあります」「あんな曲もあります」という感じで、3曲出すことによって、1曲1曲にもパワーを持たせられるんじゃないかと考えました。3曲続けて出すことで、着実に一歩ずつ進んでいる実感もあったので、今の自分にはこのテンポ感がしっくりきてました。

——季節感としても「風の名前」は初夏にふさわしく、「Close my eyes」は夏、「Somebody」は秋に合っている曲でもあるなと感じました。

村上:特に意識はしていなかったんですが、順番を考えた時にこの並びがしっくり来たのは、季節的にも合っていたからかもしれません。

▲村上佳佑/「Close my eyes」

——2作目の「Close my eyes」はいつ頃に作った曲ですか?

村上:これは早くからあった曲です。3、4年前には書いていました。ただしサビに納得がいかず、そのまま放置していたんです。コロナ禍で何もできない状態が続いて、去年の夏に音楽に対する気持ちがつのりすぎて爆発しまして(笑)、とにかく今できることをやろうと決めて、1か月で5曲くらい書きました。その中の1曲のサビが結果的に「Close my eyes」のサビになった経緯があります。とにかく美しいバラードを書きたいと思って作っていたら、広がりのあるサビができたんですが、Aメロがなかなかできない。それでこの曲を引っ張り出してきて、サビを当てはめてみたら、しっくりきました。

——サビの部分、広がりと包容力がありますよね。《夜空に浮かんでる星を数えよう》という歌詞も素晴らしいです。

村上:この曲は部屋の中から始まるんですが、自分のまわりの世界が狭くなっていると感じている時に、空を見上げると、世界が広いと感じる瞬間があるんですよ。小さな世界と大きな世界の極端なコントラストが逆にリアルに思えたり、うれしい時でも悲しい時でも空を見上げた時に、広い世界に包まれているんだと感じたり。そういう瞬間の感覚を表現したいという意識はありました。

——大きな包容力を備えながら、パーソナルな歌声が印象的ですが、どんな意識で歌っていたのですか?

村上:世界観が広がっていく時って、気持ちも広がりがちなんですが、そうじゃなくて、一人の人に対して歌うという意識で歌っていました。恋人でも親でも子どもでもいいんですが、一人に向かって歌うことで体温を伝えたいなと考えていました。

▲村上佳佑/「Somebody」

——この「Close my eyes」の次に「Somebody」が来ると、「Somebody」のせつなさがさらに増します。「Somebody」はどんなところから作った曲なのでしょうか?

村上:曲を作ろうと意識していない時に、ふとおりてきた曲ですね。僕はデビューしてから、北海道でラジオをやっていた時期があって、2週間に1回、北海道に行っていたんですが、行きの飛行機の席に座るか座らないかという瞬間に、サビの歌詞とメロディが出てきました。これはいいんじゃないかと思い、iPhoneのボイスメモで録って、家に帰ってからコードをつけて、Aメロを作って、という感じで作っていきました。

——サビで英語と日本語が交互に来るところでは、いろんな思いが伝わってくると感じました。

村上:英語と日本語は特に意識せずに自然に出てきたフレーズですね。僕自身、自然に英語も話しますし、英語脳なところもあるので、無意識のうちに出てきたんだと思います。飛行機の中で出てきたサビに引っ張られて、Aメロを作ったんですが、サビは洋楽的で、Aメロは80年代の日本の歌謡曲みたいな、どこか懐かしい感じになりました。

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