【インタビュー】平岡優也、自身の20代をパッケージした1stアルバム『20s』

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■“歌わせてくれ!”という心の叫び
■歪んだエレキギターで表現したかった人間の心の根底の部分


──話を『20s』に戻しますが、バラード以外の楽曲も良質ですし、ロック感のあるものやアッパーな曲なども入っています。

平岡:世の中にはいろんなアーティストさんがいて、スタンスも人それぞれですよね。顔を出さないとか、ライブを一切しないとか、YouTubeやニコ生ですごく知名度がある人とか、ボカロPさんとかいっぱいいると思いますけど、そういう中で僕はライブで届けるということを一番大事にしているし、これからもそれを貫いていきたいんです。だから、今回の『20s』もネットで聴いてもらって終わりじゃなくて、その先のライブに足を運びたくなるようなものにしたかった。そこを考えたときに、もちろんバラードが好きという自分はいますけど、ライブが全曲バラードというのはしんどいじゃないですか(笑)。僕のライブはそういうものではなくて、いろいろな楽しみ方をしてもらえていると思うし、そういう部分をもっと増やしたいなというのがあって、ロックなものとか、リズミカルな曲とかを作ったつもりではあります。

──そういった楽曲のクオリティーも高くて、今作を聴いて平岡さんに対するイメージが変わるリスナーも多い気がします。

平岡:へぇー。

──あ、あのぉ……(笑)。たとえばですね、翳りを帯びたミディアム・チューンの「サンゴー缶」は、ピアノエモやギターロックっぽさが香っています。

平岡:「サンゴー缶」は、今回のアルバムの中で唯一共作した曲です。同じ事務所にシキドロップというユニットがいて、そこで作詞/作曲とピアノを手がけている平牧仁という人と一緒に去年の3月に作らせてもらいました。シキドロップもそうですけど、仁さんが作る世界観は陽か陰かでいうと陰で、僕は陽の部分がすごく多いんですよ。だから、光の部分が表に出がちですけど、人間というのはそんなに単純なものではなくて。すごく明るくて、前向きな印象の人でも、家に帰ったらもう本当にネクラだったりするじゃないですか。僕自身もそういう部分はあって、明るくてマジメというようなイメージかもしれないけど、友達と一緒にいるときはメチャメチャ口が悪かったりするんです(笑)。そういう本音の部分だったり、根っこの部分だったりを曲にしたいというところから「サンゴー缶」はスタートしました。サビ自体は変わっていないけど、元々はAメロとかBメロはそんなにリズミカルではなかったんです。でも、仁さんとやり取りをしていて、もっと夜道をどんどん歩いていく感じを作りたいなという話になって、だったらこういう感じがいいんじゃないかというのをお互いにレスポンスし合って、1週間くらいで形にしました。すごくいい曲に仕上がったことを感じていて、気に入っています。

──いい曲ですし、「サンゴー缶」というポップなタイトルも秀逸です。

平岡:ありがとうございます。僕は350mの缶のことを“サンゴー缶”と言って育ってきて、それをチームのみんなに見せたときに「っていうか、サンゴー缶ってなに?」ってすごく突かれたんですよ。それで、“えっ? サンゴー缶って言うのは秋田県民だけなのかな?”と思ったけど、サンゴー缶と言う人はいっぱいいると思うんですよね。

──います。自分もサンゴー缶と言っています。

平岡:おおっ! パチパチパチパチ!(拍手している)。素晴らしい。こっち側の人だ(笑)。それで、サンゴー缶というのは350m缶のことを言っているんですよという話から、ちょっと異物感がある言葉だから、それを活かそうということになりました。

──「サンゴー缶」の他にも「4064(読み:ヨワムシ)」や「ガラスヒーロー」「H」など印象的なタイトルが多くて、平岡さんがキャッチーなセンスを持たれていることを感じます。「サンゴー缶」の歌詞は捨てられた350m缶に自身を投影しつつ“独りぼっちでもいいから希望の歌を歌いたい”という内容ですね。

平岡:そう、闇から光に向かって歩いていくという。ではあるんですけど、一番最後は“歌いたい”ではなくて“歌わせてくれ”と言っているんですよね。“ツラくても負けずにがんばっていこうぜ”という曲は世の中にいっぱいありますけど、でもそうはいっても人間というのはそんなに簡単に変われないし…というところで、人間らしさを最後に入れ込みました。本当は“歌いたいんだ”で終われれば一番きれいなんだろうけど、そんなにうまくいかないよねと。それで、“歌わせてくれ!”という心の叫びを入れることにしたんです。あと、この曲はアレンジャーさんに、本当に汚い、歪んだエレキギターを入れてほしいと伝えました。どうしてもピアノの曲はきれいだと思われがちなので、そうじゃなくて人間の心の根底の部分を表現したかったんです。そうしたら、間奏はメチャメチャ汚い感じに歪んだ音のギター・ソロというアレンジにしてくれました。

──たしかに、この曲のギター・ソロも内面の痛みや悲しみなどを感じさせるものになっています。それにしても、“夜道を進んでいく感じ”や“でも人間は”といった言葉が出てくることからは、ただ単に暗い曲を作ろうとか、アッパーな曲でいこうといったイージーな曲の作り方をされていないことがわかります。

平岡:そうですね。僕の中では映画を作っているような感覚があるかもしれない。

──わかります。平岡さんの楽曲は映像的なところがありますので。

平岡:今回リリック・ビデオというか、アニメーションでMVを作らせてもらったんですけど、ウエダツバサさんという方に絵を描いてもらったんですね。絵を描いていただくにあたって世界観を言葉で伝える作業が一番大変なんじゃないかなと思ったんですけど、わりとスンナリ汲み取ってくださったんです。それは、僕の作る楽曲が映像的だからかもしれないですね。


──そうだと思います。「大好きな君を知ったその日から」はサンバ/ラテン感のある華やかな楽曲と、それとは裏腹なせつない歌詞の取り合わせが印象的です。

平岡:この曲も5年前くらいに作った曲で、ブラジル系の音楽を得意とされているアレンジャーさんに元のアレンジをしていただいたのでサンバ・テイストが入っている感じですね。ライブとかでも1曲目にやることが多くて、「盛り上げていこうぜ!」みたいな勢いづけになる曲です。そういう曲調ですけど、亡くなった後輩のことを歌った曲ではあるんですよ。そこには僕の死生観が反映されているというか。人によって死に対する捉え方はいろいろあると思いますけど、僕は亡くなった人が家族であっても自分は元気でいたいんです。お祖父ちゃんが亡くなったときもそうで、“淋しいけど、俺がんばるから大丈夫だよ”という気持ちでいようと思った。もちろん悲しさや淋しさはあるけど、どれだけ悲しんでも亡くなった人は帰ってこないし、悲しんでいる姿を見せたら亡くなった人が心配するじゃないですか。だから、元気な姿をみせたい。それを音楽で表したかったので、「大好きな君を知ったその日から」は歌っていることは悲しいことですけど、曲自体は明るめにしました。

──明るい曲で悲しいことを歌ったほうがよりせつないということは昔から言われていることですが、ということはそれを狙ったわけではなく……。

平岡:狙っていないです。自分はこうだということを表現したかっただけです。

──うーん、すごい……。

平岡:そうか。俺、すごいんですね(笑)。

──ええ、平岡さんは自分で思っているよりも、すごいです(笑)。

平岡:へぇー。いや、そういうふうに言ってくださった方が、今までいなかったから。

──それが不思議というか、なんというか……。周りのスタッフの皆さんは平岡さんにピュアであってほしくて、あまり褒めないようにしているのかもしれませんね。続いて、この曲も驚きましたが、「ガラスヒーロー」はギターロック感を湛えたアップテンポのナンバーです。

平岡:この曲は「アマノガワ鉄道」と全く同時進行で作っていたんです。だから去年の4月で、最初の緊急事態宣言が出て、外に出たくても出られない、誰かと会いたくても会えないという状態になってしまった。そういう規制がかかっている中で、部屋の中からなにか届けたいというところから始まったんです。それで、曲を作って、みんなに投げて、リモートで集まって、ここはこうしたほうがいいというようないろんな意見を出しあって。で、レコーディングも僕が自分の部屋で録った音源をデータで送って、ミックスとマスタリングをしてもらったんです。そういう作り方をした曲で、自粛している部屋の中から“みんなにとっての救いのヒーローとはなんぞや?”と問いかけている曲でもあるんですよ。そういう中で、僕のヒーローはガラスのような弱い心を持った自分自身だよという気持ちで歌詞を書きました。

──いいですね。その話を聞いて思ったことですが、ガラスのような繊細さや弱さを持っていないと、真に強い人間にはなれない気がします。

平岡:おっしゃるとおりだと思います。

──そういう意味で“ガラスのヒーロー”だからこそリスナーの心に響くと思いますし、“もっと自分を信じて、自分らしく生きようよ”というメッセージ・ソングにもなっていますね。

平岡:そう。“ガラス”というのはダブル・ミーニングとしてつけた言葉で、1つは弱い心だったり、壊れやすい自分という意味で、もう1つはAメロとかで歌っているんですけど、誰にも気づかれないみたいな。そこにいるのに誰にも気づかれないということは、透明と一緒ですよね。そういうことを表現していて、でもそんな自分を自分が愛してあげないといけない。そうすることで、前向きな気持ちになれるよ…ということを歌っているので、メッセージ・ソングという側面もあると思います。

──背中を押されるリスナーは多いと思います。話を少し戻しますが、「ガラスヒーロー」はコロナという状態も踏まえて、最初からアップテンポのロック・チューンにしようと決めて作られたのでしょうか?

平岡:そうです。結果的にボツになっちゃったんですけど、最初はSHISHAMOさんみたいに元気で、背中を押してあげるアレンジにしたいですと言ったんです。そうしたら、そのアレンジャーの方がいろいろ考えてくださって、そのときはブラスが入っていたんですよ。でも、総合的に見たときにちょっと違うかなということでブラスは抜いて、ロックな感じになりました。

──「ガラスヒーロー」はライブですごく盛り上がることは間違いないですね。アルバムを締め括る「1,000,000」も深淵さがあると同時にドラマチックでもあるという独自の世界観が魅力的な1曲です。

平岡:この曲は24歳くらいだったと思うんですけど、すごくきれいな夕陽を見たときに、こういうきれいなものにも終わりがあると思って、すごく儚い感情になってしまって。そこから派生して、人間というのはわかっていても愚かな生き物だなと思ったんです。明日がんばろうと思っていても、いざ明日になったら全然がんばれなかったりするし、こんな自分はダメだと思っていても、そんなにすぐに変われなかったりする。それを歌に込めたくて、よく言われることですけど、“明日自分は死んでしまうと思って1日1日を過ごさなきゃいけない”という気持ちを書きました。曲の世界観が最初から壮大だったこともあって、そういうところにいきましたね。この曲のタイトルは、元々は「茜」だったんです、夕陽からインスパイアされて作った曲だったから。でも、“茜”という字を使った曲は世の中にいっぱいあるじゃないですか。「茜色の〇〇」とか。そういうタイトルよりも、さっき言った異物感みたいなものがほしいなということで、歌詞にある“100回の「愛してる」よりも会いたい”というセンテンスからイメージが膨らんで“1,000,000(読み:ミリオン)”という言葉が出てきたんです。

──「茜」もいいタイトルですが、「1,000,000」という言葉のほうがこの曲を的確に表していると思います。さて、『20s』は必聴といえる一作に仕上がりました。初のアルバムを完成させて、今はどんなことを感じていますか?

平岡:今回に関しては、「よし、じゃあアルバムを作りましょう。はい、どうぞ!」といってスタートを切ったわけじゃなくて、今まで自分が作ってきたものが中心になっているじゃないですか。自分が10年間の中で培ってきたものを詰め込んでいるので、本来のアルバムの作り方とは違うのかもしれないけど、こういう作り方を今回できたというのはいい経験ができたなと思います。自分の20代をパッケージした作品を作れたというのはすごく意味があると思うし。今後の自分の糧になると思うんですよね。冒頭に話が出たように、本当に等身大の20代の自分の姿をさらけ出した作品で、それがより多くの人に届いて共感してもらえたり、自分を見つめ直したり、なにかを始めるきっかけになったりするといいなと思います。

──きっとそうなると思いますし、『20s』を聴いて今後の平岡さんの活動が一層楽しみになりました。

平岡:今後の動きに関しては緊急事態宣言も明けて、結構お声をかけていただくことがまた増えてきているんです。もちろん誘われるのを待っているだけではなくて、自分でもライブを切っていこうと思っていますし。そういう地道な活動をしつつ、やっぱりストリートが僕の基盤ではあるので、そこは変わらずにやっていきたいですね。僕は聴いてくれる人の顔を見ながら歌うのが本当に好きなので、来てくださった皆さんと一緒に楽しい時間を過ごせるといいなと思っています。

取材・文◎村上孝之


リリース情報

1stアルバム『20s』 (読み:トゥエンティーズ)
2021年10月20日(水)配信リリース

収録曲:
1. 4064 (読み:ヨワムシ)
2. 虹色ライン
3. サンゴー缶
4. アマノガワ鉄道
5. すぐ側にある
6. 大好きな君を知ったその日から
7. ガラスヒーロー
8. ボクノライト
9. H (読み:エイチ)
10. 僕が君を選んだ理由
11. 1,000,000 (読み:ミリオン)

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