【人間椅子連載】ナザレス通信Vol.77「どん兵衛のきつね」

コロナ禍の中、人間椅子の新譜「苦楽」発売記念ツアーに駆けつけてくださった皆さま、誠にありがとうございました。たくさんの制限やご迷惑をおかけして本当に心苦しい限りでした。自分達は久しぶりに大きな音を出して楽しかったのですが、皆さんはマスク着用を強いられ、声を出すことも制限されて、さぞかし嫌な思いをしたことでしょう。ご協力に感謝いたします。次のライブは事態が好転するのを見計らって行うことにしたので、何卒これからもよろしくお願いします。

感染予防期間中のツアーで一番大変だったのは食事です。ライブ終了後は飲食店が閉まっているのでコンビニおにぎりとどん兵衛のきつねになります。翌日次の土地に移動するとやはりお店が閉まっているのでコンビニおにぎりとどん兵衛きつねです。ライブ直前は川端くんに買っておいてもらったコンビニおにぎりです。ツアーが終盤にもなるとコンビニおにぎりを見るのも嫌になって、夕食はどん兵衛きつねのみになります。やがてそれすら飽きてくるのですが、そこでどん兵衛の天ぷらそばに浮気することはなく、そこはあくまでもきつねうどんです。和嶋くんとノブくんはコンビニの食事が嫌いなようで、スーパーで食材を買って工夫しているようです。一度二人の真似をしてスーパーに行ってみたのですが、結局カゴに入れたのはどん兵衛きつねでした。どん兵衛を美味しく食べるにはコツがあって、まず、お湯を線よりも3ミリほど少なく入れます。線までだと少し味が薄いからです。そしてざくっと切ったキャベツを上に乗っけて、作り方に書いてある5分よりも数分長く待ちます。そうするとぶよぶよしたちょうどいい食べ頃のうどんになります。キャベツは吉田うどんの真似です。吉田うどんは大好きで、富士吉田の道の駅にあるお店まで食べに行ったりします。何軒か食べて回りましたが、そこの味が自分に合っているようです。

今回のツアーに限らず、毎回大変なのが機材車での移動です。移動距離が短ければ2～3時間で済みますが、長い時は10時間以上も車に揺られています。当然メンバー間で楽しい会話が交わされるはずもなく、どんよりとした重い空気で狭い車内が澱み切っています。過大なストレスのせいで、些細な言葉でもイラッとする可能性があるので、黙っているのが一番だということを全員よく知っているからです。この修行のような苦しい雰囲気を和らげてくれるのは、ブリティッシュではなく、ストレートなアメリカンハードロックです。BOSTONはその代名詞と言ってもいいでしょう。軽快なドラム、弾むベース、そしてスカッとしたギターは、重苦しい空気をエアドッグのように吸い取ってくれます。特に吸収力が優れているのは1stアルバム「BOSTON（邦題　幻想飛行）」です。バンド創始者、Tom Scholzのギターから湧いて出る唯一無二の音は、作り込まれた珠玉の乾いた響きで、聴く者の心を軽くしてくれます。2ndアルバムからの大ヒット曲「Don't Look Back」も名曲で、メインリフ「チャラーラランラーラー、ツクツク」の「ツクツク」部分の空（から）ピッキングが気持ちよくて、当時のギター小僧はこぞって弾いたものです。DOOBIE BROTHERSの「China Grove」もそうですが、「ツクツク」したギターイントロで始まる曲はかっこいいですね～




ツアーで大変な事がもう一つあります。それは衣装の洗濯です。宿泊するホテルのコインランドリーで洗うのですが、洗濯機が一台しかない箇所では4人で争奪戦になります。どこだったかは忘れましたが、チェックインして直後に衣装を抱えて向かう途中、和嶋くんに「いや～、一台しかなくて自分が今使用中～」と声をかけられて少しイラっとし、一時間後、止まった洗濯機の中にノブくんの衣装を発見して脱力し、更に一時間後、乾燥機の窓からTHIN LIZZYのTシャツがグルグル回っているのを見て川端くんにも先を越されたことが判明するに至っては、敗北感に打ちひしがれるのでありました。



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