【ライブレポート】小山田壮平、下津光史、GLIM SPANKYら4組出演<OMNIBUS The Hall #空間>、剥き出しの音楽で魅せた一夜

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『ミュージックラバーな僕たちはいつだってせわしく回って集まりたい!』をコンセプトに、11月6日、7日の2日間に渡って開催された音楽フェス=OMNIBUS。「The Circuit #回遊」と題された初日は新宿のライブハウス7箇所を使用したサーキット形式で行われ、トラックメイカー、ラッパーやシンガーソングライターなど、多彩な顔ぶれが集結した。

2日目は、もともと「The Park #集合」として新宿中央公園での野外イベントを予定していたところ、場所をヒューリックホール東京に改め、タイトルも「The Hall #空間」として開催。オールシッティングでのアコースティックイベントとなった。集まったのは、日本のロックシーンにおけるオルタナティブ/サイケデリックサイドを彩る個性的な面々。単なるアコースティックライブではなく、それぞれミニマムなセットだからこその剥き出しの音楽の姿を堪能することになった一夜のレポートでお届けする。

◆<OMNIBUS The Hall #空間> 画像


▲KEEPON

まずステージに現れたのは、4歳の時からギターに触れ、15歳で全作詞作曲・多重録音を自身で手掛けたCDをリリースした若きマルチプレイヤーKEEPON。

アコースティックギターを構えるやいなや、いきなりジャン!と鋭いストロークを叩きつける。始まったのは6月にリリースされたシングル曲「ちから」だ。現在18歳とは思えない芯のある歌声とアグレッシブなギタープレイで、一気に観客の心を掴んでみせる。

MCでは「2003年生まれ」と自己紹介をし、「緊張しますが、ドキドキしながら、ライブ感のあるステージをお届けしたいと思います」と宣言。コロナ禍を経ていちばん最近作ったという「関係ないワルツ」では、ゆるやかなテンポに優しいメロディが心地よく、「♪しかたがないことさ」と肩の力が抜けた空気感が印象的だった。

ラストは、アルバム『Rock ON』から「春はガタゴト列車に乗って」。タイトルどおり、春を楽しむポップな楽曲で明るく締め括り、まだまだ未知数の可能性を秘めた瑞々しさでオープニングを飾った。



▲GLIM SPANKY

続いては、オリエンタルテイストのSEに合わせてGLIM SPANKYのふたりが登場。

松尾レミ(Vo・G)はアコースティックギター、亀本寛貴(G)はいつもと同じくエレキギターを持ち、デビューアルバムの1曲目「ダミーロックとブルース」からライブをスタートさせた。バックバンドがいないというだけで、亀本の音量もフレーズもいつもどおりに暴れ回り、会場が一瞬でライブハウスの熱気に包まれる。松尾も、淡いピンク色のマキシ丈ワンピースを翻しながら持ち前のハスキーボーカルを響かせ、GLIM SPANKYならではのアコースティックライブを展開していった。

緊急事態宣言下での自粛期間中にリモートで作ったという「こんな夜更けは」では、亀本がアコギに持ち替え、ハンドマイクで歌う松尾のメロディに寄り添う。さらに、映画『実りゆく』主題歌の「By Myself Again」を温かい雰囲気で披露。ふたりだけで奏でているということが信じられない音の厚みと豊かなグルーヴに身を委ねた。

「僕らふたりの演奏だけっていうのもすごく刺激的で、楽しんでいます」と亀本。意外にも初めて共演する顔ぶれだったらしく、特に松尾は「KEEPONくんは前からめちゃめちゃ気になってて、今日会えて嬉しいんだよね」と喜びを語っていた。

そこから、田舎の朝の風景を曲にしたというカントリー調の「Hello Sunshine」、松尾がウィンドチャイムで柔らかな音を添える「白昼夢」など、映画のように情景が浮かぶ楽曲で空間を染め上げていく。

最後の「大人になったら」では、エモーショナルに歌いあげる松尾の横で、クライマックスとばかりに亀本がステージ前方に出てきて入魂のギターソロを轟かせる。ふたり編成だからこそ、いつも以上にストレートに伝わる楽曲の核と磨き抜かれたギターサウンドに心ゆくまで酔い痴れた。



▲下津光史

会場に残る熱い空気をガラリと変えたのは、踊ってばかりの国のフロントマンとして活動しながら、今年ソロとして2ndアルバム『Transient world』をリリースした下津光史だ。

1曲目に、踊ってばかりの国の「それで幸せ」をソロバージョンで披露し、早速ハイトーンから低音ボイス、リバーブをかけた演出などで独創的な世界を繰り広げた。

『Transient world』からの「Rainy sunday blues」「Super sun goes down」では、自身もリズミカルに体を揺らして、時に足踏みでリズムを加えながら全身で歌いあげる。女性と男性のデュエットのようにも聞こえる変幻自在のボーカリゼーション、巧みなエフェクトと歌詞に誘われ、極彩色の下津ワールドにどんどん魅了されていった。

反響のいいホールの音環境を自身も楽しみつつ「思いのほか、この場所めっちゃ気持ちいいです。歌わせてくれてありがとう」と告げると、赤と緑の毒々しい照明のもとで始まったのは、踊ってばかりの国として5月にリリースしたニューアルバム『moana』からの「Mantra song」。エフェクトを操り、サイケデリックチューンをアコギ1本で表現する圧巻のパフォーマンスに息を呑んだ。多層的な構造の「bird song」、艶やかなムードの「リズム」など、中毒性の高い楽曲を連打したあとは、「今日は壮ちゃん(小山田壮平)がいるので。壮ちゃんとよく沖縄に行くんですけど、沖縄で書いた曲を」と紹介して踊ってばかりの国の最新曲「orion」へ。

「いつの時代も、音楽は人間の味方であるので。僕は音楽に縋り続けます」と語り、ラストに選んだのは下津が所属するもうひとつのバンドGODの「愛のバラード」。情熱的に愛の歌を熱唱してオーディエンスを圧倒すると、スッキリした笑顔で「おおきに」とステージをあとにした。



▲小山田壮平

イベントのトリは、自身のソロ弾き語りツアーを開催したばかりの小山田壮平。

椅子に座ってアコギを構え、ハープを首にかける――といういわゆる弾き語りのスタンダードなスタイルが、このイベントでは異質に思えるのがおもしろい。「夕暮れのハイ」から「雨の散歩道」へ繋ぎ、個性がぶつかり合ったあとのホールの空気をオーガニックな佇まいで以て自分の色に染め替えていった。

小山田の歌はいつも、まるで隣で歌っているかのような近さで響くけれど、より1対1で心に届く感覚は弾き語りゆえだろう。細かな息づかいまでがリアルに感じられ、優しくもどこか切ないメロディが心の琴線にそっと触れてくる。

広いホールを見渡し、「ちょっと緊張してる(笑)」と慌てたそぶりを見せつつ、ドラマ『直ちゃんは小学三年生』のエンディングテーマとなったポップな「恋はマーブルの海へ」、アップテンポな「スライディングギター」を立て続けに投下。

間のMCでは、「3日前くらいから『ロングバケーション』にハマっていまして、昨日、つい最終回まで観てしまって寝不足です」と暴露。「寝不足だからってライブが悪くなるわけじゃないし、徹夜明けとかのほうがいい時もある。それが今日です!」と笑顔でフォローして笑いを誘っていた。

和やかなムードの中、続いて贈られたのはandymoriの「ハッピーエンド」。色褪せないメロディと歌詞がじんわりと胸に染み渡る。そのあと、下津の沖縄ソングへのアンサーとしてか「♪いーやーさーさー」のかけ声が印象的な「月光荘」や、溢れる郷愁が泣ける「ゆうちゃん」「汽笛」など、のびやかな歌をホールいっぱいに響かせていった。

そして、ピンスポットライトに照らされる中で始まった未発表曲「時をかけるメロディー」が、今夜のラストナンバーとなった。ひとりひとりを包み込むような歌声がひときわ優しく、力強く、タイトルどおりこれから長く愛される楽曲になるに違いない。

全10曲を通して色とりどりの感情に寄り添ってみせた小山田の熱演に温かな拍手が湧き起こり、イベントは幕を下ろした。

アコースティックイベントと銘打ちつつも、まさに多種多様なパフォーマンスを体感できたOMNIBUS。それぞれ音楽への深く熱い愛情を全身で感じたとともに、間違いなく「音楽に愛されている音楽家」たちの稀有な共演だった。決して万全の状態とはいえない情勢の中、彼らが音楽で描き出す希望が、確かにオーディエンスの胸に灯ったはずだ。

取材・文◎後藤寛子
撮影◎堅田ひとみ

■<OMNIBUS The Hall #空間>11月7日(日)@ヒューリックホール東京 セットリスト

■KEEPON(Opening Act)
1.ちから
2.海が近い
3.関係ないワルツ
4.春はガタゴト列車に乗って

■GLIM SPANKY
1.ダミーロックとブルース
2.Flower Song
3.こんな夜更けは
4.By Myself Again
5.Hello Sunshine
6.白昼夢
7.風は呼んでいる
8.大人になったら

■下津光史
1.それで幸せ
2.Rainy sunday blues
3.Super sun goes down
4.Mantra song
5.bird song
6.リズム
7.orion
8.愛のバラード

■小山田壮平
1.夕暮れのハイ
2.雨の散歩道
3.恋はマーブルの海へ
4.スライディングギター
5.ハッピーエンド
6.月光荘
7.ゆうちゃん
8.汽笛
9.君の愛する歌
10.時をかけるメロディー

■<OMNIBUS>開催概要

<The Circuit #回遊>
【日時】2021年11月6日(土) 12:00開場、 12:30開演
【会場】新宿ACB HALL/新宿Marz/新宿Marble/新宿Motion/新宿Zirco/新宿紅布(レッドクロス)/新宿ReNY
【出演】asobi、 Wez Atlas、 80KIDZ、 おかもとえみ、 ODD Foot Works、 Campanella、 kiki vivi lily、 Kvi Baba、 クボタカイ、 Kuro、 (sic)boy、 SUKISHA、 鈴木真海子、 Sleepless Sheep、 ぜったくん、 仙人掌、 sooogood!、 DinoJr.、 田我流、 どんぐりず、 PEAVIS、 VivaOla、 YOSA&TAAR、 YonYon、 Ryohu

<The Hall #空間>
【日時】2021年11月7日(日) 15:30開場、 16:30開演
【会場】ヒューリックホール東京
【出演】小山田壮平、 GLIM SPANKY(Acoustic ver.)、 下津光史(踊ってばかりの国)、 KEEPON(O.A)
【配信】イープラス Streaming +にて生配信 ※アーカイブ配信は11月13日(土)23:59まで
【配信視聴券】1,000円(税込)
【配信チケット販売】イープラス    https://eplus.jp/omnibus/

【主催】公益社団法人日本芸能実演家団体協議会
【共催】小田急電鉄株式会社
【企画・制作】株式会社サンライズプロモーション東京 / 株式会社小田急エージェンシー
【お問合せ】 サンライズプロモーション東京 0570-00-3337(平日12:00~15:00)

■文化庁 大規模かつ質の高い文化芸術活動を核としたアートキャラバン事業「 JAPAN LIVE YELL project」


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