【コラム】「この状況下でアーティストに何ができるか」…クラプトンの真摯な思いが生み出した最新傑作映像

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Photo by Dave Tree

ロック・アーティストによるアコースティック・ライブの金字塔『アンプラグド』から29年の時を超え、新たな音楽的モニュメントになりうる映像作品が届けられた。エリック・クラプトン『レディ・イン・ザ・バルコニー:ロックダウン・セッションズ』は、『アンプラグド』のコンセプトを受け継ぐライブ作品であり、あまたの名曲たちの復活祭であり、世界的パンデミックの中での一人のミュージシャンのドキュメンタリーであり、イングランド南部の美しい風景を盛り込んだ映像詩でもある。一度見始めたら、およそ80分後のフィナーレまで息を潜め、耳を澄まして聴き入ってしまう、これほど繊細で芸術性の高いライブ映像作品はめったにない。


作品の背景は、こうだ。2021年5月に予定されていた、ロンドンのロイヤル・アルバート・ホール公演が、新型コロナによるパンデミックの影響で1年延期になった。落胆したクラプトンだったが、“この状況下でアーティストに何ができるか”を考え、特別な場所での特別なライブを思いつく。ロンドンの南、美しい田園地帯を擁するウエスト・サセックス州のカウドレイ・パークに立つビクトリア朝のカントリーハウスに、撮影スタッフとミュージシャンが集められた。サウンドプロデュースは『アンプラグド』を手掛けたラス・タイトルマン、そしてネイザン・イースト(B&Vo)、スティーヴ・ガッド(Dr)、クリス・スティントン(Key)と、気心知れた名手たち。かくしてすべてのピースが揃い、限られた人数の撮影スタッフだけが見守る中、至福の音楽が鳴り始める。

素晴らしい田園風景、年代もののカントリーハウス、そして居心地よいステージを作るために働くスタッフたち。ドキュメンタリー風のオープニングに重なる1曲「だれも知らない」に続き、実質的な1曲目「ゴールデン・リング」からライブは始まる。クラプトンはラフなデニムを着こなし、椅子に腰かけ、12弦ギターを弾く。「This One's For Peter」と紹介し、フリートウッド・マックのカバー「ブラック・マジック・ウーマン」「マン・オブ・ザ・ワールド」を歌う。ピーターとはもちろんピーター・グリーンのことで、2020年7月にこの世を去った彼に捧げるパフォーマンスが、特別なライブの始まりをさらに特別なものだと感じさせてくれる。



曲は、ラグタイム風のインストゥルメンタル「ケリー」と、1970年のファースト・ソロアルバム収録曲「アフター・ミッドナイト」という軽快なアップテンポの2曲から、デレク&ザ・ドミノスの歴史的傑作『いとしのレイラ』からの「ベル・ボトム・ブルース」「キー・トゥ・ザ・ハイウェイ」へと、オールドファン感涙の展開へ。スティーヴは右手にブラシ、左手は素手でスネアをはじきながら、繊細を極めたリズムを繰り出す。ネイザンはウッドベースとシンプルなアコースティックベースを持ち替えながら、時折コーラスを交えて歌を支える。クリスは職人のように静かなたたずまいで、ラグタイムからスペイシーなシンセ音まで、表情豊かな音色で彩りを添える。曲が終わるとクラプトンが「今の、良かったよ」とほほ笑む。「ロック・ミー・ベイビー」のイントロで、ネイザンの楽器のチェンジが間に合わず、笑いながらやり直すシーンも楽しい。親密な空気と魔法のような音のつながりが、自分だけが観客の秘密のセッションに招かれたような、素敵な気分にさせてくれる。


ライブ中盤から後半にかけてのハイライトは、やはり「いとしのレイラ」と「ティアーズ・イン・ヘヴン」だろう。どちらも29年前の『アンプラグド』にも収録されていたが、「いとしのレイラ」は年を経てよりスタンダードなスローブルースの風格を身にまとい、「ティアーズ・イン・ヘヴン」はポップスを超える聖歌のように悲しみを癒す力を増した。スライドギターに似たもの悲しい音をキーボードで奏でる、クリスのセンスも抜群だ。

ここまでの14曲は『アンプラグドⅡ』と言ってもいい形だが、最後にクラプトンはエレクトリックギターに持ち替え、よりパワフルでグルーヴィーなスタイルでブルースを思い切り楽しんでみせる。マディ・ウォーターズ「ロング・ディスタンス・コール」「モジョ・ワーキング」、そしてファーストアルバムからの「バッド・ボーイ」。サウンドが一気に分厚くなり、スティーヴのドラムも風を切るようにスピードを上げる。エレキをアコギのように指弾きする、クラプトンの滑らかなスローハンドが冴えわたる。「BRRRRR!」と楽し気にフェイクを入れながら歌い、曲が終わってメンバーと笑い合う。「ビリーヴ・イン・ライフ」の軽快なリズムに乗せて、のどかな田園風景に彩られた空撮のエンドロールが、まるで1本の映画を見終わったような深くて長い余韻を残す。

76歳になって円熟と枯淡が絶妙に溶け合うクラプトンの歌とギターはもちろん、名手揃いのバンドメンバーのプレーをじっくり楽しめる美しい映像。そして、実際のライブで言えばMCや楽器チェンジのタイミングでインサートされる、朝日、雨、風、夕暮れと刻々と移り変わるイギリスのカントリーサイドの素晴らしい風景。『レディ・イン・ザ・バルコニー:ロックダウン・セッションズ』は、“この状況下でアーティストに何ができるか”という、クラプトンの真摯な思いが生み出した最新傑作映像だ。

このライブの日本盤には様々な種類が用意され、最も充実した「ブルーレイ+DVD+CD」と40ページのハードバック・ブック仕様を合わせた〈デラックス〉セットから、DVDやブルーレイの単体、アナログLP、さらにCDのみのシンプルな形態までが揃う。CDには日本盤のみボーナストラック「イズント・イット・ア・ピティ」(ジョージ・ハリスンのカバー)が入る。60年以上に及ぶエリック・クラプトンのキャリアの中で、どの時代が好きかを問わず、全年代のファンに楽しんでほしい作品だ。

文◎宮本英夫


『レディ・イン・ザ・バルコニー:ロックダウン・セッションズ』

2021年11月12日発売
DVD/ブルーレイ/CD
1.だれも知らない
2.ゴールデン・リング
3.ブラック・マジック・ウーマン
4.マン・オブ・ザ・ワールド
5.ケリー
6.アフター・ミッドナイト
7.ベル・ボトム・ブルース
8.キー・トゥ・ザ・ハイウェイ
9.リヴァー・オブ・ティアーズ
10.ロック・ミー・ベイビー
11.ビリーヴ・イン・ライフ
12.ゴーイング・ダウン・スロウ
13.いとしのレイラ
14.ティアーズ・イン・ヘヴン
15.ロング・ディスタンス・コール
16.バッド・ボーイ
17.モジョ・ワーキング
18.イズント・イット・ア・ピティー※[CD]日本盤のみボーナス・トラック

●デラックス・セット DVD+ブルーレイ+CD
UIBY-75133 8,800円(税込)
日本盤のみ
・日本語字幕付
・[CD]ボーナス・トラック1曲収録
・解説付/英文ライナー翻訳付
・SHM-CD仕様
・完全生産限定盤

●DVD+CD
UIBY-15124 5,500円(税込)
16ページ・ブックレット付
日本盤のみ
・日本語字幕付
・[CD]ボーナス・トラック1曲収録
・解説付/英文ライナー翻訳付
・SHM-CD仕様

●ブルーレイ+CD
UIXY-15045 6,600円(税込)
16ページ・ブックレット付
日本盤のみ
・日本語字幕付
・[CD]ボーナス・トラック1曲収録
・解説付/英文ライナー翻訳付
・SHM-CD仕様

●DVD
UIBY-75134 4,400円(税込)
16ページ・ブックレット付
日本盤のみ
・日本語字幕付
・解説付/英文ライナー翻訳付
・完全生産限定盤

●ブルーレイ
UIXY-75016 5,500円(税込)
16ページ・ブックレット付
日本盤のみ
・日本語字幕付
・解説付/英文ライナー翻訳付
・完全生産限定盤

●CD
UICY-79757 2,750円(税込)
16ページ・ブックレット付
日本盤のみ
・ボーナス・トラック1曲収録
・解説付/英文ライナー翻訳付
・SHM-CD仕様
・完全生産限定盤


◆エリック・クラプトン・オフィシャルサイト
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