【インタビュー】K、新しいところに足を踏み入れて見たことのない景色を見たい「Touchdown feat.VILLSHANA」

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DJ RYOWがプロデュースしたトラックに、東海エリアの若手ラッパー・VILLSHANAをゲストに迎えて完成された「Touchdown feat.VILLSHANA」。前作「Day 'N' Night feat. MADz's」でも明確に示されていたが、最近のKは新境地を切り拓くことに対する意欲がとても強い。このような姿勢の背景にある想いとは何なのか? じっくりと語ってもらった。

■「見えないところにボールを投げたら、そのボールは返ってくるか?
■それともどこかに飛んでっちゃうか?」っていうワクワクを楽しみたい


――前作「Day 'N' Night feat. MADz's」のインタビューの際に、「あんまり自分で枠を決めずに、フレキシブルにいろんなことに挑戦していける1年にしたいです」とおっしゃっていたんですけど、今回の「Touchdown feat.VILLSHANA」も、その姿勢が表れている曲だと思いました。

K:そうですね。MADz'sとの曲があったり、sloppy dimの作品に僕がフィーチャリングで参加したり(配信アルバム『Coordinate』に収録されている「Pool feat. K」)。それを経て今回の曲という形になりました。

――新しい出会いと、そこから広がる世界を追求している2021年?

K:今年ももちろんそうなんですけど、去年、一昨年辺りから今までの枠の中で曲を書くとかではなくて、「とにかく今わくわくするものだけを作っていけたらな」という想いが強くなったんです。今回の曲もそういうところから生まれました。

――MADz'sとの出会いはSpotifyでしたし、気になる曲をShazamとかで調べることがよくあるそうですけど、新しいものは日頃から求めているんですね?

K:はい。そういうのはずっとやっています。昔はレコードショップに行って好きなCDを買ったり、店頭のレコメンドを参考にしたりする出会い方だったのが、今はいろんなところから流れてくる音楽を自分から受け取るか受け取らないかっていう方向に変化してきているんだと思います。だから「常にアンテナを張っている」ではなく、「いつも探している」という感じですかね。

――DJ RYOWさんは長年にわたってトップクリエイターですからご存知だったと思いますが、VILLSHANAさんとの出会いはどういう形だったんでしょうか?

K:ずっと自分でトラックを作って、メロディや歌詞も自分で書いてきたので、「プロデュサーと仕事をしてみたい」というアイディアがまずあったんです。自分が今までやってきたのとは違うフィールドに踏み出す時に、それを助けてくださる方にお願いしたかったんですよね。それでDJ RYOWさんに声をかけさせていただきました。でも、その時はまだどなたとコラボするのかは決まっていなかったんです。

――まずはDJ RYOWさんとの制作から始まったんですね?

K:そうなんです。DJ RYOWさんから10トラックくらいいただいて、「ここから選んでメロ、リリックをつけてみてください」と。それで僕がある程度作って、「誰とコラボをするのか?」を考えた時に、VILLSHANAくんが思い浮かんだんです。DJ RYOWさんと出会う前から彼のことは気になっていたので。VILLSHANAくんはDJ RYOWさんとずっとやっていたというのもあったので、今回、声をかけさせていただきました。


――VILLSHANAさんに注目していたというのは、Kさんの感度の高さを示していると思います。

K:どうなんですかね? アンテナを張っているような感じはないんですけど。新しいものと出会ったりするのが好きですから。今はそういうのが楽しいんです。

――やはり好奇心旺盛なんですね。

K:そうなんですよ。いつまでも少年でいたいというか。そういう想いが今は強くて。前はどちらかというと「こういうテクニックで攻めたらこういう結果が出る」ということで確実に行きたいタイプだったんですけど、今は真逆です。「見えないところにボールを投げたら、そのボールは返ってくるか? それともどこかに飛んでっちゃうか?」っていうワクワクを楽しみたいモードになっています。

――ロジカルに作るというより、感覚的になってきているということですね?

K:そうなんです。今、まさにそうですね。16年、17年間音楽をやってきた上でのことだとは思うんですけど。自分の中で「ある程度冒険をしてもゴールに辿り着ける」っていう確信があるのからなのかもしれないです。でも、毎回の作品でいっぱいいっぱいですけど(笑)。

――音楽は感覚的な部分も大切ですけど、当てずっぽうでやっても上手くはいかないですよね?

K:そうなんですよ。若い世代はすごく感覚的にリリックをのせたりする音作りの人もいて、僕はそういうのも好きなので踏み込んでみたいんですけど、それと同時に「厳密に作ったらこういうサウンドになる」とか「1音足すだけでこんなに広がりが出る」みたいな部分が好きな自分も今でもいるんです。だからその両方を強みにしていきたいと思っています。

――そういう想いが今回の曲にも表れているのを感じます。DJ RYOWさんとVILLSHANAさんとの接点は、もともとあったわけではないんですよね?

K:はい。フィールドが違うので、なかなかお会いする機会はなかったんです。やっぱり音楽を作るのは人間で、人柄が楽曲に表れるって僕は信じています。だからDJ RYOWさんと初めて会った時に、「この人とだったら絶対に良い作品ができる」って思いました。プロデューサーっていろんなタイプがいますけど、DJ RYOWさんは「牽引してくれる」というよりも「こっちが持っているものをどんどん引き出してくれるタイプ」だと、一緒に作品を作りながら感じました。僕はクインシー・ジョーンズとかが好きですけど、昔のプロデューサーはどちらかというと「こう歌いなさい」「こういう歌詞を書きなさい」という牽引していくやり方で、そういう中でアーティストが自分の良いところを探していくことが多かったと思うんです。でも、ヒップホップのプロデューサーは、どちらかというと自由にやらせてくださる人が多いのかもしれないですね。DJ RYOWさんもそういうプロデュースのやり方でありつつ、「こういうのもいいんじゃない?」とかアイディアもくださったので、新しい発見もありました。あと、今回は自分でトラックを作っていないので、すごく自由が利いたというか。自分でトラックを作ると、「大体こういうメロディで、トップはここに来るな」というのがなんとなくわかるんです。だから、その幅の中から飛び出せない感覚があるんですよね。でも、自分でトラックを作らないと可能性が広がるっていうか。そういう部分がありました。

――自分で作った方が自由が利きそうですけど、逆なんですね?

K:そうなんです。多分、逆だと思います。トラックに自分は関わっていないので、変な話ですけど、最後の最後までどういうコード進行なのかわからずにやっているんです。それが僕には新鮮で面白くて。そういえば、ちょっと前に東京でライブをやった時に、「こういう新曲が出るんですよ」って言ってちょっと歌ってみたら、コードがわからなかったんです(笑)。歌詞もメロディも全部覚えていて歌えるんですけど。今までに経験したことのない不思議な現象でした。自分でトラックを作っていない曲の制作は、「コードは何なんだろう?」っていうこともあまり思わないというか。それが自分にとって面白い発想の作り方だったんです。あと、これは完全に余談ですけど、自分でトラックを作らないとめちゃめちゃ楽(笑)。メロディと歌詞を作って、あとは歌をレコーディングしてミックスを待つだけなので。そういう点でも、今回は自由度が高い制作でした。

――普段だったら出てこない発想が生まれたりもしたんじゃないですか?

K:そうですね。やっぱり自分でやっていると、作りながらどこか決めているところがあるんだと思います。

――新しい扉を開くことに対する意欲は、「Touchdown」のリリックにも表れているように感じます。

K:前作のMADz'sとの「Day 'N' Night」は恋愛系の曲だったと思うんですけど、おっしゃる通り、今回の作品は今の自分が表れていますね。新しいところにどんどん足を踏み入れて、見たことのない景色を見たいという気持ちが入っています。これがVILLSHANAくんが先に作ったものがあって、そこに後から僕が加わったら、また違った感じになったかもしれないですけど。僕が完成させた後にVILLSHANAくんにリリックの説明をして書いてもらうという流れでした。


――前に進む意志がものすごく伝わってきます。

K:どの立場にいる人も、こういうことを感じると思うんです。「変わっていきたい」というのと「変わらずにいたい」の両方があるのが大事なのかなと。「変わっていきたい」と思わないと「変わらずにいる」ということはあり得ないし、「変わらずにいたい」と思うのならば「変わっていきたい」ということも必要。その両方の姿勢をバランス良く持つのが大事なのかなと僕は思うんです。だから新しいところにどんどん踏み込んでいくためには、変わらずにいる部分である「音楽への愛」とか「作り方」も持っていないといけないのかなと。そういうことを活動15周年を過ぎて改めて思うようになっていますね。新しいことをやりたい気持ちがあると同時に、今までやらせていただいたこと、支えてくださったみなさんの存在が自分の力になっていると感じたので。

――「Touchdown」は、自分の人生を重ねて聴く人がたくさんいる曲だと思います。

K:コロナのこともありますし、いろいろ環境が変わった人って多いと思うんです。僕もそうですし。そういう方々に聴いていただいて、少しでもパワーに変えられるような曲になったらいいですね。リスクを背負ってでも変化を「面白い」と捉えられる感覚でいられるか、「このままでいい」と思うかは、人それぞれの考え方ですけど。

――Kさんは変化を面白いと捉えられる人ですよね?

K:そうなのかもしれないです。僕がデビューする前に日本に来るきっかけとなった、あるオーディションがあったんですけど、僕はその前に韓国でアルバムを1枚出して、自分が思っていたような形にならなかったんです。だから歌手をやめて軍隊に行くか、作曲家、アレンジャーの道に進むかで悩んでいた時期がありました。でも、日本からお誘いをいただきまして、不安はあったんですけど、親父が「後から“行けばよかった”と思うのだけはやめてね」って言ったんです。「行って失敗したらやめればいいし、とりあえず行ってきなよ」と。その言葉は今でも僕が何かを決める時に、すごく大きなものになっています。「やってだめだったらやめればいい」っていう考え方になりました。チャレンジできるというのは、ありがたいことなんです。今の僕もチャレンジできるチャンスを得ているんだと思っています。人によっては「なにをやっているんだろう?」って思う人もいるかもしれないですけど、それよりも「後悔したくない」っていう気持ちが僕の中で勝っているんでしょうね。

――もともとは言葉もわからなかった日本に来て音楽活動をするというのは、プレッシャーもすごかったですよね?

K:みなさん、そうおっしゃるんですけど、あんまりそうでもなくて。でも、ニキビが出ていたので、プレッシャーはあったのかも(笑)。今はそういう感覚もないと思います。僕は2019年に『Curiosity』を出して、そこから『自分のワクワクするものだけを作る』ってなりつつも、どこか孤独に感じる部分もあったんです。それはそうなんですよね。今までに踏み込んでいなかった世界へと進んで行くわけですから。そういう環境をスタッフが支えてくれるありがたみも常に感じていますし、孤独と付き合っていくことになるんだろうなと、改めて思うようになっています。

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