【インタビュー】河口恭吾、様々な物語や背景が詰まった20周年の集大成アルバム『No Rain No Flower』

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■自分の中にある、自分がまだ知らない可能性みたいなもの

──そんな濃いコラボ曲がありつつ、今回のリード曲「Shibuya」もかなり特殊といいますか。資料によると、本来ならばデビュー曲「真冬の月」の次に発表する予定だったものの、当時の所属レーベルが倒産してしまい、リリースがそのまま流れてしまっていた曲だったそうですね。それが今回発掘されたという。

河口:去年、事務所の社長から「すごくいい曲があって、ずっと聴いているんだけど、もう一回聴き直してみてほしい」という連絡があって。僕としてはその曲のことを忘れていたんですが、もう20年も前の曲だけど、今でもメロディはわりといけるかもなと思いましたし、20周年という節目のアルバムに、出すはずだったシングル曲を入れるのもいいんじゃないかなって。描いている世界観も、変わってしまった街だったり、愛している人だったりするので、内容的にも合っているかもな、と。この曲は小幡英之さんが書いてくださったんですけど、僕自身あまりこういうテイストの曲を書かなかったりするので、逆におもしろいのかなとも思いましたね。ほとんどデモテープのままのアレンジなんですよ。

──当時から全然変わってないんですか?

河口:変えたいなと思って他のアレンジャーに発注を出したんですけど、みんなこのイメージから抜け出せなくて、結局元に戻りました(笑)。


──20年前の歌を改めて歌ってみていかがでした?

河口:20年いろいろあったなぁという思いもありますし、当時はこの曲のもう半音上のキーでやっていたので、ものすごく高い声で張り上げまくって歌えていたんだなぁって。

──その当時ってどんなことを考えていましたか?

河口:いやぁ……全然、何も思い出せないですね(苦笑)。何も考えていなかったんじゃないですかね。

──ただただガムシャラに、みたいな感じでした?

河口:そうですね。売れたいなぁっていうのはきっと毎日思っていたと思うんですけど。

──その当時と変わっていないものはあったりします?

河口:なんでしょうね……やっぱり声もどんどん変わっていきますし、書きたいテーマも日々変化していると思いますし。バラードの「桜」がヒットしたので、その後はミディアムとかアップテンポで行ってみようとか、いろいろと試行錯誤していた時期もありましたし、その辺りは自然と変化しているような感じもしますけど。でも、いい曲書きたいなっていう。そこだけは唯一変わらないですかね。

──意識的に変わらなきゃいけないと思っていたときもありました?

河口:それは常に思ってますよ。やっぱり同じことをやっていても自分に飽きてしまうので(笑)。今回コラボをした理由も、そういうところにありますしね。自分の中にある、自分がまだ知らない可能性みたいなものに出会いたいというのは、日々思っています。

──オリジナル曲に関してですが、「涙がこぼれる」は、聴いた方の心情にフォーカスをあてるというよりは、20周年を迎えた今の心情を綴られているニュアンスが強い印象を受けました。

河口:これは、聴いてくれる人たちの感情とかを考える前に書いた曲なんですよ。自分が今置かれている状況、40代中盤を超えたミュージシャンという自分のありのままを書いた曲ですね。40代に入ってから、人生の折り返しを超えたんだなという気持ちが、一時すごくあったんですよ。そういう気持ちを引きずったまま47歳になったけど、以前、誰が言ったのかは忘れてしまったんですが、“40代というのは人生の秋なんだよ”と言われたことをふと思い出したんです。そこはもう歌詞に書かれている通りなんですけど、自然と湧き上がってきた感じでしたね。

──実際に強く感じますか。人生の秋みたいなものは。

河口:やっぱり体力的にも声の感じも20代の頃とは全然違いますし、そういう変化みたいなものにどうやって自分自身が折り合いをつけていくのかみたいなことと毎日向き合っている感じはありますけどね。

──どこかで折り合いをつけなければいけないと思いつつ、そこに悔しさみたいなものもあったりします?

河口:もちろん。《涙がこぼれる》といっているぐらいなので、やっぱり基本的には悲しいんだと思いますね(笑)。

──価値観の変化についても書かれていますよね。

河口:それも40代を境にして非常に大きくあったような気がしますね。昔はCDのセールス枚数みたいなものが、仕事の成果として指標になっていた時期もあって。なかなか自分が思うような結果が得られない年月の中で、そこを目標にしていると、自分自身がミュージシャンとして続けていけなくなってしまうということを感じていて。そうじゃないものを見てやっていく必要性みたいなものを迫られたようなことは、結構大きかったと思いますね。

──セールスや再生数といった数字では証明できない感動を得られるのが音楽でもあるから、難しいところでもあるといいますか。

河口:難しいですよね。とはいいつつ、いい音楽はきっとたくさんの人に届くだろうというのを信じつつ、やってはいるんですけどね。

──《別の生き方に憧れながらも》という一節もありますけど、音楽とはまた違うことをやってみたいなと思う瞬間もあるんですか?

河口:毎日思ってますよ(笑)。ここ5、6年、カフェツアーというのをしているんですが、そこのカフェのオーナーさんとご飯に行ったときに、仲間の人を呼んでくれて、異業種の人たちと話をするのが結構楽しんですよ。いろんな仕事が世の中にあって、みなさんそれぞれの価値観があって。そういう話を聞いていると、自分は音楽が好きで、10代のときからミュージシャンの道に飛び込んだんですけど、人生の秋を迎えて、違う生き方という選択肢もきっとあるんだろうなと思いますし。そういった違う人生への憧れみたいなものは、やっぱりありますね。もし違う仕事をしていたらどうなっていたんだろうなとか。

──憧れながらも《またここに立って結局歌ってる》と歌詞を続けているのもあって、やはり自分は歌いたいんだなという気持ちがあると。

河口:でも、その後に《涙がこぼれる》といっているので、歌以外でお伝えするのがなかなか難しいところではあるんですけどね(笑)。自分でも受け入れられるところと、受け入れられないところと、いろんな気持ちが入り混じってのものなので。ただ、ソングライティングの話で言うと、今回いろんな曲を作ってみて、自分の中での伸びしろみたいなものを感じたので、そこは自分の中で非常によかったなと思いますね。

──実際に収録されている楽曲の曲調がそれぞれ違うのもおもしろいなと思いました。

河口:アレンジは最後に考えたんですが、ここ1年半、とにかく外に出られないという状況の中で、自分自身が自分自身でいるために、音楽に向き合わざるを得なかったんですよ。そういう時間の中で、とにかく曲を書く日々だったので、結果としてバラエティに富んだものが自分の中から出てきました。向き合っている時間も今までで一番長かった気がしますし、結果的に濃密な時間の中から出てきた曲かなと思います。

──伸びしろというお話がありましたけど、このタイミングでこの曲を書けてよかったと思うのはどの曲ですか?

河口:タイトル曲の「No Rain No Flower」で、《僕ら》と歌っているんですが、そういう言い回しって今までそんなにしてこなかったんですよ。そこは、このコロナの日々のことをどうしても曲として表現したかったということと、できればそれを共感という形で、聴いてくれるみなさんと共有できればという思いがあって。そういうふうに思った発想自体も自分にとって新しかったんですが、どこまでコロナのことを突っ込んで書くのかというさじ加減とかも考えつつ、曲にできたのは大きかったですね。

▲『No Rain No Flower』

──アルバムを完成させてみて、いまはどんな気持ちですか?

河口:アルバムは完成しましたが、ほぼ2年ぐらい有観客でライヴができていないということを一番心配していまして。いつもであれば、アルバムを作ったらすぐにツアーに出て、生で聴いていただいて、そのフィードバックを感じて、また次の作品にという循環が、多少滞っている状態ではあるので、そこは一番気にしているところではありますね。他のアーティストの方もそうだと思うんですが、聴いてくださる音楽ファンのみなさんとアーティストの距離感って、やっぱりコロナ前と今とですごく変わってしまったと思うんですよ。それをここから再度構築していくためにも、大前提ではありますけど、いいライヴをしていかなければいけないなと思っています。

──「No Rain No Flower」のアウトロで、シンガロングしているパートもありますが、そこにはそういう思いもあって。

河口:そうですね。そこで繋がっている風景を描きたかったし、それをリアルで体験したいという思いもすごくありました。

──12月11日(土)には、渋谷duo MUSIC EXCHANGEにて、<20th anniv. 河口恭吾 ALL YOUR SONGS supported by mont-bell>と題したライヴが決定しています。

河口:『No Rain No Flower』からの曲と、過去の楽曲を織り交ぜつつ、バンドで演奏する感じのライヴになるんですが、どの辺りまで過去の楽曲をやるのかというバランスを考えている最中です。あと、曲によってそれぞれメッセージやテーマはあるんですが、やっぱりせっかく来てくれた方が、ちょっとでも前向きになれるというか、幸せみたいなものを感じて帰っていただけるような曲ばかり演奏したいなというのは思っていますね。

──そういう曲ばかりというのもすごいですね。

河口:自分自身もそうなんですけど、こういう時期に現実味を帯びたものや、苦しい日々みたいな曲は聴きたくないだろうなという気持ちはあると思うので。基本的に過去のシングル曲はやりつつという形にはなると思うんですけど、来てくださった方と20年間を共有できるようなライヴになればいいかなと思います。

取材・文◎山口哲生


リリース情報

デビュー20周年アルバム『No Rain No Flower』
2021年11月24日(水)リリース
CRCP-40627:¥3,000(税抜価格¥2,727)
※ジャケット原画提供:片岡鶴太郎

収録楽曲:
1. マイ・アイデンティティー (feat. FLYING KIDS)
2. lai・lai・lai (feat. ISEKI)
3. 明日は晴れるだろう
4. come back to me
5. 夜を汚して
6. Shibuya
7. 涙がこぼれる
8. ヘアゴムとアイライン
9. ぬれ椿
10. Stay Blue (feat. 川崎鷹也)
11. No Rain No Flower

<20th anniv. 河口恭吾 「ALL YOUR SONGS」 supported by mont-bell>

2021年12月11日(土)東京・渋谷duo MUSIC EXCHANGE
開場 17:15/開演 18:00
チケット代金:¥4,500(税込)ドリンク代別
チケット受付(各プレイガイド):https://www.kawaguchi-kyogo.com/live

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