【音楽ギョーカイ片隅コラム】Vol.139「フォトグラファー、ミック・ロックが伝えた音楽と日本文化」

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憧れの音楽時代を生き、その輝きを後世に伝えたフォトグラファー、ミック・ロックが11月18日に向こうの世界へ旅立った。72歳だった。


ミック・ロックとは、デヴィッド・ボウイ、QUEEN、イギー・ポップ、シド・バレットなどの70年代ロックシーンを代表する作品のアートワークを多く手掛けた人物で、作品とミュージシャンの魅力、そして時代の息吹を寸分狂わず捉えてブレンドして撮影することを得意としたフォトグラファーだ。彼の写真を素に創られたカバーアートは、その音作品はもちろんのこと、時代をも象徴してしまうほどのインパクトを生み、音もろともに音楽史へ刻み込まれるという類い希な作品づくりに関わったことで知られる。


なかでもイギーの『ロー・パワー(淫力魔人)』、ルー・リードの『トランスフォーマー』、QUEENの『クイーンII』はあまりに有名で、彼の名を知らずとも彼が関わった作品のアートワークを知っている人は多いだろう。ほかにも、T・レックスやオジー・オズボーンらが活躍した70年代のUKロックシーンを足がかりに、ラモーンズ、モトリー・クルーなどのUSバンドも手掛け、2000年代以降もファレル・ウィリアム、レディー・ガガ、アリシア・キーズ、スヌープ・ドッグなどを撮っていた。

90年代からがリアルタイムでそれ以前の作品は掘って知ったクチだが、趣からしてわりと濃いめ強めの作風は変わらないものなんだなとか、それこそが彼特有のフィルターなんだろうなどと勝手な解釈で楽しんできた。だから今、彼の次の作品が見られないことを悲しんでいる。

写真とは、目に見えない音楽をイメージ化して支えるという重要な役割を担うアートでもある。たとえ音は聞こえなくても、目にすると頭の中では音が鳴るアートワークは多く存在する。それに助けられた経験がある人は多いだろうが、私もその中のひとりだ。そしてその写真を撮った人は他ならぬミック・ロックだった。彼の活動のひとつにエキシビションがあげられるが、一度だけ、ミック本人によるガイド付きツアーに参加したことがある。そこで見た写真作品によって私は自分を取り戻すことができた。


2006年9月から翌年1月までマンチェスターで開催された<Rock ‘n’ Roll Icons: the photography of Mick Rock>は、QUEENの『クイーンII』とボウイのジギー・スターダストツアーの写真がメインに置かれ、その他にも70年代の面々やブロンディ、パティ・スミス、ケイト・モスなどの女性アーティスト、当時ニューカマー的に人気を博していたカサビアン、レイザーライトらのアートワークやポートレートで構成され、触れ込みどおり“ミック・ロックの40年に及ぶキャリアが凝縮された世界”だった。

当時日本の音楽業界で夢破れ、身も心もボロボロ状態だった私は逃げるように渡英したのだが、マンチェスターに降り立った翌日、街の中心に掲げられていたおびただしい数のイギーの写真入り宣伝フラッグのおかげでその催しを知ることができた。


場内をミック・ロックと共に練り歩き、フレディーがどうとか、ルー・リードがこうだとか、ミック・ロンソンがあーだったとかボウイはこうだったといったファンにはヨダレものの撮影当時の秘話を各作品の前で撮影者本人が説明してくれるというガイド付きツアーは、憧れのミュージシャンが活躍していた過去の歴史的場面へとタイムスリップして当事者の口から知り得なかった新情報を語られるという恐るべき経験となり、グラムロック好きな30手前の和製女の停止していた思考の復活と閉ざしかけていた音楽への情熱を再燃させる大きなきっかけとなったのだった。


あの日は撮影が許可されていたようで、ツアーの模様を撮った写真があるのだが、結構な枚数があるにもかかわらず、手ぶれが酷すぎて一枚もピントがあっていない。カメラ目線まで送ってくれているのにご覧の有様で、当時の己の興奮度合いを計り知ることだけができる代物だ。そういえば、会場付近で映画『ロッキー・ホラー・ショー』がクリスマスに投影されたりもして、土地柄なのか偶然なのか分からないけれど、あの年の冬はなにかとミック・ロックづいていた。感謝しかない。


それからもうひとつ、彼の幅広い活動の中で特に興味深かったものとして、歌舞伎俳優の18代目・中村勘三郎を撮っていたことを挙げたい。70年代のイギリスと言えば、ボウイが歌舞伎に影響を受けていたことを連想してしまうわけだが、ミックは2004年にニューヨークで開催された平成中村座の舞台をきっかけに、2007年には<魂TAMASHII MICK ROCK meets 勘三郎 写真展>を東京で開催するに至るほどの関係性を築き上げた。そんなミック・ロックもすごいのだが、その挑戦を受けた中村勘三郎もまた素敵なアウトサイダーである。

ミック・ロックの訃報に際し、彼がロックミュージックシーンの一時代を築いた立役者の一人であることは周知の事実だけれど、日本を代表する伝統芸能の歌舞伎の稀代の名優をもアートとして捉え、異国文化を美しく切り取っていたアヴァンギャルドなイギリス人フォトグラファーとしての彼の側面も漏らすことなく讃えたい。

文・写真◎早乙女‘dorami’ゆうこ


◆早乙女“ドラミ”ゆうこの【音楽ギョーカイ片隅コラム】
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