【連載】Vol.124「Mike's Boogie Station=音楽にいつも感謝!=」

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ジャン=リュック・ゴダール × ザ・ローリング・ストーンズ伝説の音楽ドキュメンタリー『ワン・プラス・ワン』急遽12月3日再上映が決定!!12月3日はゴダール91歳の誕生日


(C)CUPID Productions Ltd.1970

1960年代後半のザ・ローリング・ストーンズの貴重な映像が急遽公開が決定した。ヌーベルバーグの旗手として世界中で知られているジャン=リュック・ゴダール監督『ワン・プラス・ワン』だ。ゴダールは名作『勝手にしやがれ』『気狂いピエロ』他多くの作品に新たな手法を取り入れた表現の革命を起こした。ゴダールは当初ジョン・レノンを撮ろうとするも断られ、次に狙ったのがストーンズであった。実はデビュー時から映画に大きな興味を抱いていたミック・ジャガーはゴダールのオファーを快諾しグループのレコーディング風景が撮影された。

1968年はストーンズにとって実に重要な年となった。ジミー・ミラーを新たなプロデューサーとして迎え入れ60年代を代表とする「Jumpin‘ Jack Flash」の大ヒットを生んだのだ。続くニュー・アルバム制作もジミーと取り組んでいく。その新作収録予定曲「Sympathy For The Devil」レコーディング風景をゴダールの60年代末という混沌とした時代を投影したもの、これが『ワン・プラス・ワン』だ。


日本盤シングル「悪魔を憐れむ歌」(ダブル・ジャケットに注目だ) from Mike’s Collection

68年6月4日~10日、ストーンズはロンドン/オリンピック・サウンド・スタジオで「Sympathy For The Devil」をレコーディングを行う。この作品『ワン・プラス・ワン』には同曲のベーシック・トラック・レコーディング風景が生々しく記録されている。プロデュースはジミー・ミラー、サウンド・エンジニアはグリン・ジョンズ、若き日のレジェンドだ。数日間のレコーディングから世界的RS研究家、僕の30年以上の音楽仲間でもあるニコ・ゼントグラフ(ベルリン在住)によると20近い同曲録音パート、コーラス・シーン、ギター・リフ他が編集され制作過程ストーリーとなっている。デビュー当時からストーンズを追いかけていた一人としては、この緊張感溢れた録音風景はいつ観てもドキドキだ。思い起こすと69年に映画のショート・ヴァージョンに接し、70年代初頭にやっとフル・ヴァージョンで観ることが出来た。その後OPOは国内で公開された。


1978年日本初公開時の『ワン・プラス・ワン』フライアー 提供:高橋廣行

そして2021年、チャーリー・ワッツ追悼も含め公開から53年目にして改めて劇場上映されるのだ、ストーンズ・ファン、いやロック・ファンは感極まる。

ミック・ジャガー、ブライアン・ジョーンズ、キース・リチャード(ズ)、チャーリー・ワッツ、ビル・ワイマン。5人のストーンがスタジオで録音に臨む。そこにはキーボード奏者、ニッキー・ホプキンスの姿も見られる(僕は彼に一度だけロング・インタビューした)。待機中にブライアンへ煙草&ライターをパスするキース、そのキースはギターで遊ぶ、今と変わらない余裕溢れる仕草に思わず僕は微笑んでしまった。


(C)CUPID Productions Ltd.1970

次にキースがベースを演奏しているシーンに今度はうっとり。ベースのビルはパーカッションも担当している。こんなイレギュラー・パーソネルも堪らない。前半シーンでミックがグループのリーダーに君臨している雄姿が印象付けられる。


(C)CUPID Productions Ltd.1970

その一方でストーンズの創始者ブライアンの孤影悄然チックな姿に涙してしまう。このレコーディング1年後にブライアンはグループ脱退宣告され69年7月3日、彼は28才でこの世を去った。それだけにブライアンがアコギと取り組んでいるシーン、今年逝去したチャーリーのドラミングに涙腺が緩む……。


(C)CUPID Productions Ltd.1970

この「Sympathy For The Devil」はミック作詞作曲だが、レコーディング中にキースのアイディアが採用されぐっとパワフルなサウンドへと変貌していく。そう、このナンバーはパーカッシヴな展開がとても印象的である。ミックはヴォーカルと対立させる為に手拍子を効果的に加えている。更にガーナ出身のパーカッション奏者ロッキー・ディジョンが参加。ビルのマラカスも曲にマッチしている。楽曲の仕上がり具合からコントロール・ルームのジミーの“バンドらしくなった”という一言から臨場感溢れる雰囲気が伝わってくる。



(C)CUPID Productions Ltd.1970

そしてこのナンバーの肝は♪woo woo ♪コーラス・パート(ジミーの発案)の録音風景の様子も楽しめる。ミックのリード・ヴォーカル・ポジションとは別エリアにキース、ブライアン、チャーリー、ビル、マリアンヌ・フェイスフル(当時のミックの恋人)、アニタ・パレンバーグ(当時のキースの恋人。元ブライアンの恋人)、そしてマイケル・クーパー(1960年代から70年代初頭にかけてストーンズ他多くのロック・ミュージシャンを撮影したフォトグラファー。豪華本“blind & shutters”はストーンズ・フリーク必携の一冊)。


マリアンヌと筆者 1997年@TOKYO from Mike’s Photo Album


「blind & shutters」発売記者会見でのビル・ワイマン、1990年2月15日@新宿伊勢丹百貨店。このプレス・カンファレンスの司会は筆者が務めた。from Mike’s Photo Album

チャーリーが腕組んで皆とwoo wooのシーン、ここでも再び涙腺が……。いつだったかチャーリーにwoo wooのことを聞いたことがあるんだけど、彼は殆ど声は出さなかったと語っていた。後半のシーンではブライアンが見当たらない。68年に入ってからの「Sympathy For The Devil」を含めて『Beggars Banquet』レコーディングにブライアンはしばしば欠席している。そして後半ではチャーリーが「Sympathy For The Devil」完成に大きく貢献していることを再認識させられるのである。

ストーンズにとって変革期であった68年レコーディングを改めて大きなスクリーンで堪能出来る。これはきっとチャーリーから日本の音楽ファンへの最高のクリスマス・プレゼントではないだろうか…。

タイトル:『ワン・プラス・ワン』
公開表記:12月3日(金) 新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開
作品コピーライト:(C)CUPID Productions Ltd.1970
配給:ロングライド
・・・・・・・・・・・・・
監督・脚本:ジャン=リュック・ゴダール
1968年/イギリス/英語/101分/カラー/1.33:1/モノラル/原題:ONE PLUS ONE/日本語字幕:寺尾次郎    PG12 
出演:ザ・ローリング・ストーンズ(ミック・ジャガー、キース・リチャード、ブライアン・ジョーンズ、チャーリー・ワッツ、ビル・ワイマン)、アンヌ・ヴィアゼムスキー
(日本劇場初公開:1978年)
公式サイト:https://longride.jp/oneplusone/

『ワン・プラス・ワン』は1968年11 月29日に、ロンドンのナショナル・フィルム・シアターで開催されたロンドン・フィルム・フェスティバルで初上映された。我が国では1978年にアダン音楽事務所が公開した。同音楽事務所の社長・高橋廣行とはその1年前にアダン・プロデュースの霧降高原で開催されたNEW WAVE CONCERT(出演:紫 チャー バウワウ。筆者が司会を務めた)以来44年の付き合いで近年も親しくしているが、『ワン・プラス.ワン』公開についての苦労話が彼の近著『イベント仕掛け人が語る“70年代ロック実話”』(アイドルジャパンレコード)に記されている。


『イベント仕掛け人が語る“70年代ロック実話”』 from Mike’s Libarary


『ONE PLUS ONE』1969年公開時ポスター/フランス版(縦118,5cm 横86.6cm) from 高橋廣行 Collection

そして1996年にも『ワン・プラス・ワン』は上映されたことがある。その時のプログラムにピーター・バラカンらとともに執筆した。ここに再録させて頂く(少々エディット・ヴァージョン…汗)。


from Mike’s Collection

1963年に「カム・オン」でデビューしたローリング・ストーンズ、彼らがイギリスのローカル・グループから世界中のファンに注目される存在へとステップ・アップしたのは65年のことだ。アメリカでの初のナンバー・ワン・ヒット「サティスファクション」がそのきっかけだった。以後彼らは「一人ぼっちの世界」「19回目の神経衰弱」「黒くぬれ!」…と次々にベスト・セラーを発表。67年には初セルフ・プロデュース・アルバム「サタニック・マジェスティーズ」をリリースした。

そして1968年である。60年代後半、若いジェネレーションを中心としたカルチャーが大きな変革を見せた。その中核を成していたのがロック・ミュージックであった。政治、文学、ファッション、思想、映像…と多岐に亘る分野と深く関わりながら、ロックは若者の主張としてひとつの大きなムーブメントを作り上げた。ストー ンズは勿論その先頭を走っていた。一方でロックがドラッグとも深い関係を持っていたのもこの時期の特色のひとつだ。ストーンズも勿論、というよりは官憲からジャンキー・グループとして狙い撃ちされた。ミック・ジャガー、キース・リチャーズ、ブライアン・ジョーンズが次々に捕まった。特にブライアンはどっぷりとその世界に浸っていた。グループの創始者/リーダーでありながら、ミックにその存在を完全にもぎ取られ、恋人のアニタ・パレンバークもキースに奪われたのだった。もう 彼はドラッグへと逃げ込むしかなかった。ギターを弾くこともままならないこともあった。度重なるドラッグ・ト ラブルでストーンズの活動にも支障を来すようになった。特にコンサートが出来なくなったことはストーンズにとって重大な問題だった。グループはレコード・デビュー前からライヴ・ バンドとして頑張って来た。63年のUKツアー以降、彼らは世界中でワイルドなライヴを続けた。だが67年夏からコンサート・ツアーが途絶えた。68年ストーンズがファンの前に姿を見せたのは5月の第6回ニュー・ミュージカル・エクスプレス・ポール・ウィナーズ・コ ンサートでのステージだけだった。ミックはブライアンを何とか立ち直らせ、グループを再起動させようと試みた。68年1月新たにジミー・ミラーをプロデューサーに迎えた。「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」を大ヒットさせた。そしてニュー・アルバムの制作にも取り掛かった。3~5月、5~6月にロンドン/オリンピック・サウンド・スタジオで多くの作品を完成させた。アルバム『ベガーズ・バンケット』は録音後すぐにリリースされる予定だったが、ストーンズが考案したトイレ落書きジャケットに対し、レコード会社からクレームが付き、発売がぐっと遅れた。その年の後半になってホワイト・ジャケットという形でファンの前へ登場したのだった。『ベガーズ~』のオープニング・チューンが「悪魔を憐れむ歌」。ジャン=リュック・ゴダール監督によるこの《ワン・プラ ス・ワン》は、その「悪魔を憐れむ歌」のレコーディング風景を映画化したものである。フィルムにするということも加味して、「悪魔を憐れむ歌」は「ロンドン・ジャム」も含めて15とも20ともいわれるテイクが収録されたのである。バック・コーラス・パートを収録するところでは故ニッキー・ホプキンス他、当時のミックの恋人/マリアンヌ・フェイスフル、キースの恋人/アニタら も参加している。ミックはマリアンヌの勧めで読んだ、ロシアの小説家/ミハイル・ブルガーコフの「巨匠とマルガリータ」からヒントを得て作詞した。歌詞にはロシア革命などの歴史的事実やケネディ兄弟暗殺などを大胆に登場させ、悪魔賛歌としての性格をも打ち出している。この年の11 月29日にロンドン/ナショナル・フィルム・シアターで開催されたロンドン・フィルム・フェスティバルに《ワン・プラス・ ワン》は出品された。その後のタイトルは《SYMPATHY FO R THE DEVIL》に変更されたが、ゴダールはこのことに大きな怒りを感じると述べている。

ストーンズ・ファンとしてのこの作品のひとつの大きなみどころは、あの時代のストーンズ構図を知ることが出来るということ。ブライアン・ジョーンズのグループ内での立ち位置をはっきりと感じさせられてしまう。デビュー当時から彼らを追いかけているひとりとしては、改めて悲しさみたいなものを覚える。ローリ ング・ストーンズというグループの歴史的側面をはっきりと垣間見ることが出来るのである。ストーンズのレコーディング風景を見られるだけでゴキゲン、キースのベースを弾く姿だけでも最高、なんだけどそれ以上に、もうすっかり全体を取り仕切っているミックの凄さ、リーダーとしてのきびきびとした動きに感心させられる。このミックのしたたかさとやる気こそが、ストーズが今日までシーンのトップで君臨している起因でもあるのだ。28年も昔のレコーディングなのだけど、それは現在の彼らとは同じであったりするのだ。1960年代という時代をダイレクトに感じさせながらも、一方でストーンズの現在まで継承されている、基本姿勢がこのよりプライベー トチックなシーンからうかがえるということも見逃せい。68年末、《ロックン・ロール・サーカス》に参加したブライアン・ジョーンズだったが、69年に入りグループ内で益々孤立化、6月には遂にグループ脱退を勧告されてしまうのである。黒人音楽を演奏したくて結成した自分のグループから追い出されてしまった。そして、それから1ヶ月もしない7月3日、彼はコッチフォードの自宅で水死したのである。あまりにも悲しい出来事だった。この《ワン・プラス・ワン》を見るたびに、チェルトナム・スパのブライアンのお墓にまた行かなくてはと思うの。ひとつの楽曲レコーディングという、ある意味ではシンプルなシーンの連続かもしれないが、このゴダール作品からストーンズ・ファンは様々な思いが駆け巡るの。素晴らしい映画である。


ブライアン・ジョーンズの墓参り/筆者 1990年 from Mike’s Photo Album

【ライヴinfo】
Blue Note TOKYOでの久々の外国人アーティスト公演、コリー・ヘンリー以来実に1年9カ月ぶり。リー・リトナーが日本の土を踏む。



屈指のギタリスト“キャプテン・フィンガーズ”リトナーは、1970年代からその名を知られるようになる。日本人アーティストのコラボも多い。後にママス&パパスのレコーディングにも参加していたことがあるということが判明しロック・ファンを吃驚させたこともある。今回はBLUE NOTE TOKYO ALL-STAR JAZZ ORCHESTRAとのジョイン、増崎孝司(GTR)とのコラボ公演が実現した。楽しみである!

◆BLUE NOTE TOKYO ALL-STAR JAZZ ORCHESTRA directed by ERIC MIYASHIRO with special guest LEE RITENOUR



*2021年12月14日 Blue Note TOKYO
ファースト・ステージ 開場14:30  開演15:30
セカンド・ステージ  開場17:30  開演18:30
*2021年12月15日 Blue Note TOKYO
ファースト・ステージ 開場15:30  開演16:30
セカンド・ステージ  開場18:30  開演19:30
http://www.bluenote.co.jp/jp/artists/bnt-all-star-jazz-orchestra/

◆LEE RITENOUR with TAKASHI MASUZAKI
featuring HIROYUKI NORITAKE, RYOSUKE NIKAMOTO, SARA WAKUI
Guest : WESLEY RITENOUR



*2021年12月13日 COTTON CLUB
ファースト・ステージ 開場15:45  開演16:45
セカンド・ステージ  開場18:30  開演19:30
http://www.cottonclubjapan.co.jp/jp/sp/artists/lee-ritenour/index.html

◆BLUE NOTE TOKYO ALL-STAR JAZZ ORCHESTRA directed by ERIC MIYASHIRO with special guest LEE RITENOUR & LISA ONO



*2021年12月12日 高崎芸術劇場 大劇場
開場 17:00  開演 18:00
http://takasaki-foundation.or.jp/theatre/upload/concert/559/16346153927148ecc6c590858104126.pdf

☆☆☆☆☆

【湯川れい子 洋楽裏話 千夜十夜 with マイク越谷
“第三夜“】 
エルヴィス・プレスリー 
ローリング・ストーンズ 
クイーン 
ジャイアンツ・オブ・ミュージック・ヒストリークリスマス・スペシャル



遂に実現!ミュージック・シーンのビッグな存在、エルヴィス・プレスリー、ローリング・ストーンズ、クイーン。我が国を代表する彼らのスペシャリスト3人が揃い踏み!!他では絶対聞けないまさにビッグなクリスマス・プレゼント・イベントなのです。
クイーンなら東郷かおる子さんでしょう!
ストーンズならマイク越谷さんでしょう!
エルヴィスなら湯川れい子さんでしょう!
そしてれい子先生&マイクの大仲良し、チャーリー・ワッツやキース・リチャーズ、フレディ・マーキュリーに海外現地インタビューした中野利樹さんもジョインします。彼はアメリカで長きに亘ってローリング・ストーン誌やクリーム紙などに寄稿してきたのです。

果たして2時間余りで決着がつくのか!?貴重なメモリアル・ショット&グッズも披露……。
ミュージック・フリークの皆さん、こぞってジョイン・プリーズ!!!

◆ゲスト : 東郷かおる子   
◆ナビゲーター:湯川れい子 @yukawareiko
◆ナビゲーター:Mike Koshitani https://www.barks.jp/keywords/mikes_boogie_station.html
◆ナビゲーター:中野利樹  https://twitter.com/toshnakano
◆日時:2021年12月5日(日曜)
OPEN 12 : 30
START 13 : 00
◆入場料:予約¥3000(+お飲み物¥600 アルコールもご用意してあります)
▲お食事もございます
◆ご予約は下記のURLからお願いします!
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/loft9/192550

◆お問い合わせ:LOFT9 Shibuya
TEL: 03-5784-1239(12:00-22:00)

◆「Mike's Boogie Station=音楽にいつも感謝!=」まとめページ
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