【インタビュー】ヒトリヨブランコ、ポップだけれどどこかいびつでひねくれた個性

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SNSでも楽曲が話題となり、現在じわじわと中毒者を増やしている3人組ヒトリヨブランコ。その最新作となるミニアルバム『「おしまい」のおまじない』が現在発売中だ。ミュージックビデオが注目を集めている「イエローサブマリン」をはじめ、収録された5曲はどれも粒揃い、ポップだけれどどこかいびつでひねくれた、このバンドの個性をよく表している。首謀者のけえ、類まれな声で楽曲に命を吹き込むムラカミカエデ、そしてバンド加入から約1年、今やヒトリヨブランコの音楽に欠かせないピースとなったせつこ。3人にバンド結成の経緯から今作に込めた思いまでを聞いた。

■ポップな部分と毒々しい部分のどっちも良いねって言われたい
■いろいろ試したいけど今の自分たちの壁は越えたっていう感じがする


――バンド結成の経緯みたいなところから伺えればと思うんですが、きっかけはどういう感じだったんですか?

けえ:僕が発起人なんですけど……僕は音楽をやりたくて上京してきて、いろいろなバンドを試してみたんですけど、どのバンドも熱量の違いがあってうまくいかなかったんです。それで「もうやめようかな」と思ってツイッターの検索欄みたいなところで「バンドやりたい」って適当に打ったんですよ。そしたら一番最初にカエデがアコースティックギターで弾き語りしている映像が上がってきたんです。見たらギターはめちゃくちゃ下手くそなんですけど、声がすごくよくて。(一緒にやるなら)絶対彼だと思って、どこに住んでるかも、何歳なのかもわからないのにDMしたら、家がすごい近かったんですよね。それでやってみようかってなったのが最初ですね。

――運命的ですね。その後、前の体制で活動してくる中で、せつこさんが加入したわけですよね。

けえ:はい。ピアノが欲しいねってなったんですけど、そのときにムラカミカエデのTwitterのフォロワーにいたのが、一度だけ弾き語りで対バンしたことのあったせつこだったんです。それでコンタクトを取ってもらって、まずはサポートをやってもらって。人間性とか考えが合ってるなと思ったので「メンバーにならない?」ってお願いしました。

――カエデさんは、けえさんから声かけられたときにどう感じました?

ムラカミカエデ:いやもう、知らない人だったんでびっくりですよね(笑)。僕もバンドをやりたいなと思ってギターを衝動的に買ったんですけど、その動画は本当に簡単なストロークで弾き語りしてみたのを上げただけだったんで、それでバンドに誘ってもらって大丈夫なのかっていう気持ちはありました。それでも大丈夫って言ってくれて、「じゃあ頑張ろう」って思いましたね。

――けえさんはカエデさんの声のどういうところに一番ピンときたんですか?

けえ:うーん、再生ボタン押して1秒後にはその声の虜になってましたから。僕のセンスが大衆と同じなんだったら、大衆も同じこと思うだろうなって。この子の声はたぶん特別だから、自分たちと一緒にやってもらいたいなって思ったんですよね。

――「大衆」という言葉がありましたが、ポップなもの、人々に受け入れられるものを作りたいという思いがあったわけですね。

けえ:そうですね。自分の性格がひねくれているから、表現者としてそこをちゃんとほどいてくれる人間が必要なんですけど、カエデがそれなんですよね。

――世の中と繋いでくれるというか。

けえ:そうですね。一番繋いでくれるものだと思っています。

――確かに音源を聴かせていただいても、カエデさんの声は大きな武器だなと思います。せつこさんは誘われたときどう思いました?

せつこ:最初は断っていたんですよ。私は元々そんなに本気でやっていなくて。元々はコピーバンドがしたくて、普通に趣味でやってた感じだったんです。でもその頃いたバンドがオリジナルをやるみたいなことになって、それにただついていってただけ、みたいな。それなのにサポートしてほしいって言われたから、私の実力的にそんな大役、みたいな(笑)。だから、ヒトリヨブランコ自体は知っていて好きだったんですけど、「そんなのできません」って断っていたんですよね。でも「もしちょっとでもやりたいなら、気にしないでやってほしい」みたいなすごい圧……けえさんにに言われて(笑)。じゃあ、やってみますって。

けえ:で、泣く泣く加入(笑)。

せつこ:だから「やってみるか」みたいな感じでした、最初は。でも、入ってみたらけえちゃんとカエデくんの熱量というか、真剣な感じとかを見て信頼できるなと思って。この人たちと一緒に頑張っていったらバンドで売れるかなとか、大きすぎて無理だなって諦めていた夢が叶いそうだなって思ってついていきました。

――この3人になってから現在まで、バンドとしてはスムーズに進んでこれました?

けえ:そうですね、そんなに壁もなく。人間性もやっぱり合うし、音楽性も、みんな好きな音楽が一緒なんで。この体制になって1年ぐらいなんですけど、全然楽しくやれてるから、よかったなって今も思っています。

――好きな音楽も結構かぶってるんですか?

けえ:3人ともほぼ一緒なんです。だから僕がやりたい音楽もわかってくれる。

――具体的にはどういうものがそれぞれ好きなんですか?

けえ:僕は本当にメロディが一番だと思っているんで、メロディが良ければ海外のものであれ、音楽も別にバンドじゃなくたって聴きます。とにかく何か引っかかる点が一つでもある音楽。最初はASIAN KUNG-FU GENERATIONとかでした。

ムラカミカエデ:僕は邦楽ロックを中心に聴いていて。メロディーや声が良いと思う人にハマりがちですね。親の影響で結構Mr.Childrenが好きで、そこからだんだん広がっていきました。

せつこ:私はBUMP OF CHICKENとかRADWIMPSとか。andropが一番好きですね。

――わりと王道というか、邦楽のロックのど真ん中って感じですね、3人とも。

けえ:うん、真ん中ですね。

――今ヒトリヨブランコをやっている中で、そのルーツって出ている感じはしますか?

けえ:どうだろう。やろうとは思っているんですけど、結局できてんのかなって思っていて。周りの声を聞いても「特殊だね」とか言われるんです。変人扱いされて嬉しいけど、それでいいのかという。

――嬉しさもあるんだ。

けえ:そりゃ嬉しいですけど、やりたいのは邪道じゃなくて王道だからって思うと、ちょっとどうなんだろうってふわふわしてる状態です。

――でも、王道な、ポップなロックの感じというのは確かにヒトリヨブランコにはありますよね。ただそれと同時に、ひとつ捻りが入っているというか、毒がまぶされているというか。そこがオリジナリティなのかなって。そういう部分というのは自然と出てきちゃうものですか?

けえ:サウンド面はみんなどう考えてるかわかんないですけど、曲を作るときは歌詞から書くんで、その時点で歌いたくなるフレーズや、自分が今まで生きてきた人生の中で思った感情をうまく引っかかるように作っています。そこはたぶんめちゃくちゃ意識している。

――歌詞は本当に独特ですよね。よく言われると思いますけど。

けえ:一番嬉しいし、一番言われる言葉ですね。

――でもそれってけえさんの中ではまっすぐなものなんですか?

けえ:まっすぐ出してるけど、まっすぐじゃないだろって思っている。ここもひねくれてるんですよね。

――ふたりはけえさんの書く歌詞についてはどう受け止めていますか?

ムラカミカエデ:けえにしか書けない歌詞だなっていうのはもちろん思いますし、自分も作詞するんですけど、そういうときに、やっぱりけえのセンスというか、書くものや作るもののすごさみたいなものを感じますね。自分にはできないなって思う。

せつこ:言葉遊びとかもあって、言葉が好きなんだなみたいなのが伝わってくるのが楽しいですよね。


――今回の『「おしまい」のおまじない』がこの体制になってから初めてのミニアルバムとなりますが、この3人になってヒトリヨブランコはどう変わったと思いますか?

ムラカミカエデ:本当にキーボードのせつこが入ってからできることの幅が広がって。なんか本当にやりたかったことがどんどんできているし、求めていたサウンドになっていってるとすごく感じます。僕もロックが好きっていうよりはポップなものが好きなので、そこにピアノとかキーボードの音があるだけでも違ってきますし、コーラスも今まで自分で歌っていた部分を歌ってもらったりして。そうすると、なんか、いいんですよね、すごく。僕の声にも合ってるなって思いますし。

――今作を聴くと、ヒトリヨブランコのポップな部分をすごくセツコさんが担っている感じがあるなと感じます。

ムラカミカエデ:うん、ありますね。

けえ:あります。

せつこ:確かに客観的に見たら、ポップになったのかなって思いますけど……私は「良い曲ができたな」って思っただけですね。あまり変化とかは気にしてなかった。

――けえさんの中ではこの体制になったことによって、作る曲に変化はありました?

けえ:これまでとは全く違う作り方になっていると思います。初めてせつこがサポートから入ってくれたときから……「ナイトライトトーキョー」と「堕落ダクダーク」(いずれもデジタルシングル『東京キアロスクーロ』収録)からせっちゃんを意識して作っていたところがあって、めちゃくちゃポップになったんです。せっちゃんが入ることで、バンドサウンドよりもピアノをイメージしたり、もっとカエデの声をいかそうと思うようになったり、同期使ってバンド以外の音をプラスすることによってもっとポップにしようみたいなことを考えたりするようになって。彼女が加入してから大きく考え方は変わったと思います。

――でも今回の作品がポップ一辺倒かというとそうじゃないのがいいなと思うんです。ポップな側面も最大化されるのと同時に、その裏側にあるひねくれてダークな部分もすごく強調されている感じがして。結果的にヒトリヨブランコがどんなバンドなのかを両面で伝えるものになったんじゃないかと思います。

けえ:それはすごく嬉しいですね。やっぱり一点だけ見てよかったって言われるのも嬉しいですけど、自分たちは、みんなが思ってるよりもちょっと神経質にやっているんで。ポップな部分もあるけど、ちょっと毒々しい部分もあって、どっちも良いねって言われたいんですよね。だから今作は今までで一番理想的な音源になったなと思います。もちろんまだいろいろ試したいことあるんですけど、今の自分たちの壁は越えたなっていう感じがする。

ムラカミカエデ:今まで納得できなかった部分とかも、この作品の5曲を通していろいろ試せたし。「これで正しかったな」とか、逆に「これはちょっと間違ったかな」っていう部分もやっぱりあるんですけど、今後、自分がボーカリストとして目指したい部分が見えた作品かなというのは思います。

――せつこさんはどうですか?

せつこ:私は、入ってからずっとうまくできるか心配ですごく不安だったんですけど、全部できて、良い作品になってホッとしています。元々ヒトリヨを知っていたから、私が入って悪くなったらどうしようかとすごく思っていたんで。

――せつこさんは基本そのモードなんですね(笑)。でも多分けえさんとカエデさんから見たら、そういうことじゃないと思うんですよ。

けえ:何の不満もマイナスもなかったですからね。

せつこ:ああ、ありがたいですね。

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