【インタビュー】KEIKO、「良い音を届けたい、以上!」

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■未知のアプローチと作曲という新たな世界

──そうした冒頭3曲で聴かせることで、アルバムとしてのバリエーションも見えますよね。なのでそこからアグレッシブな「ミチテハカケル」への展開も良い楔になっているというか。

KEIKO 昔からなんですけど、テンポ感やコード感とかで聴く人のテンションをどう持っていきたいかって考えるのがすごく好きで。そうなった時に、3曲目までのテンポ感からするとやっぱりアゲたくなるんですよね。なので次はBPMが高いものをと思っていたので、そこに「ミチテハカケル」がぴったりだったんですよ。

──ここで一気にアクセルを踏み込むような加速感がありますよね。
KEIKO:BPMが190ぐらいあって、私の曲の中で一番速いんですよ。もともと2ndアルバムは音楽性としてもあまり広げていかないアルバムにしようと思っていて、アッパーな曲もいらないんじゃないかって思っていたんだけど、バランス的にも絶対にあって良かったなって思いました。

──これによってアルバムの幅もぐっと広がりましたし、さらに次の曲が良い意味で読めなくなりますよね。

KEIKO:そう。一瞬、次の展開を見えなくさせてくれますよね。景色を一度ガラッと変えてくれる、テンポ感ある曲は力があるんだなって私も思いました。

──だからこそ、続くKEIKOさん作詞の「ラテ」もより効果を発揮するというか。

KEIKO:この曲、びっくりしませんでした?

──まさに。これまでのKEIKOさんにはないアプローチで、ある種ボーカルを空間的に聴かせるような……。

KEIKO 正解! 澄川さん正解!(笑)。そうなんですよ。この曲は8月の夜に与田さんからいきなりデモ音源が飛んで来たの。それで開いてみたら、オシャレな空間音楽みたいな曲が流れてきたんですよ。その時はピアノのシンプルなメロディだけが送られてきて、どちらかというと夜にドライブしながら流して聴いているような、夜がずっとループしていって欲しいなっていうサウンドで。あまりにもオシャレ空間で、与田さんに「なんですかこれ?」って聞いたら、「意外性だよ、KEIKO」って(笑)。「KEIKOの意外性を試したいんだよね」って提案された曲でした。



──確かに浮遊するような序盤からビートが足されていくダンサブルなアプローチは意外でした。

KEIKO:自分でも意外だったので、こういう空間的な音楽をどれぐらいのテンション感で歌えばいいのか、歌詞も含めてどういう風に表現するのが正しいのかって考えました。なので「作詞はKEIKOだな」ってふんわり言われて「はい」って言ったけど、そこから1ヵ月ぐらいかかりました。他の楽曲の制作もしていたし、梶浦(由記)さんのツアー中という言い訳もさせて頂きますけど(笑)。

──今までの自分にはないアプローチだからこそ、そこにハマる言葉がなかなか見つけられなかった。

KEIKO:この音にどんな言葉を当てはめたら良いのか正解がわからない。どっちかというと「通り雨」とかの方が語りやすかったです。でも「ラテ」はラップに近いというか、響きとして気持ちが良い言葉遊びみたいな、そういうのが良いんだろうなって思いました。

──確かにここでの歌詞は他の楽曲にはない軽やかさがありますよね。

KEIKO:重くなっちゃいけない。声的にも重たい言葉とか景色が出てきちゃうんですけど、すっごく軽い言葉が欲しくて。でもその軽い言葉がなかなか出てこなくて、「どうしよう!」って思っていたら、そのときラテを飲んでいたので「私の日常を切り取るのでいいや」と思って書いてみたら、こういうのが合うってなったんですね。そのきっかけを掴んだ瞬間、バーっと書けました。

──それこそ“風走る 夢走る 2人 音走る 先走る”という軽快なライミングというか。

KEIKO:そう、ほんと言葉遊び。

──そこからサビでは“シャナン シャナン シャナン”というスキャット的なフレーズになるという。

KEIKO:結局、自分が歌い慣れてきた造語になりました。でも自分がずっと歌ってきた、自分がずっと歌ってきた、妖艶な世界観の造語とはまた違った、少しキャッチーな感じ、軽い感じ(笑)。

──そうしたアプローチはフレッシュな一方で、KEIKOさんに合っている気がします。

KEIKO:うん、最終的に楽しかった。今回のアルバム全体の歌唱もちょっとおしゃべりしながらの発声みたいな感じなんですよね。これまでは響き的に背中や胸周りとかと共鳴するような発声が多かったんですけど、今回は喉周りと口頭周り、胸や背中より上のほうで響かせるような発声が多くて、そこはアルバム全体で統一させました。「ラテ」も深い所で響かせると重くなるので、軽やかなビートに合わなくなってしまう。その辺は制作しながらも面白かった部分ではあったかな?

──そうした新しさがあった後には、ejiさんとの「八月の空」でまた序盤の空気感が戻ってきます。ここでは作詞だけではなく、作曲も担当されていますね。

KEIKO:そうです。これはejiさんがコードだけポーンと投げて下さって、与田さんからも「ちょっと鼻歌で作曲やってみなよ」って言われて、自分の心地良いメロディを見つけてみて、ふふふんって歌ってみたものを録音しようってなったんですけど……これまた難しくて。



──その鼻歌でのメロディを見つけるのが難しかった?

KEIKO 鼻歌が全然まとまらなくて(笑)。思いついても結局「なんだこの鼻歌」ってなってしまって、没没没って繰り返して。やっと「できたかな?」って、ある程度まとまったものを次の打ち合わせに持っていっても、まとまったものだと思って蓋を開けたらまとまってなかった(笑)。

──なかなか自分で納得するものが出来なかったわけですか。

KEIKO:これまで自分が“美しいな…キャッチーだな”と思うメロディラインの楽曲に惹かれて歌ってきたからこそ、自分が作った音符たちは“歌いたい”という気持ちにならなかったんですよね。高まらなかった…。

──シンガー・KEIKOが課すハードルをなかなか越えられなかったんですね。

KEIKO:挑戦することは大事だし、「やってみようよ」っていうのが今のチームの前向きな所で私も支えられているんですけど、やってみなよっていう子供のような遊び感覚な気持ちが、作詞作曲になるとついつい忘れがち。なのでちゃんと子供に戻って「よし、鼻歌だ!」ってなって、他の作業をしている時に「1時間ぐらいこもっていい?」ってお願いして、そこで「ちょっと出来てみた!」ってものをejiさんに整えてもらったんですね。

──ちなみに自分が作ったメロディを歌った感想はいかがでしたか?

KEIKO:RECの時もそうだし、ライブで歌ってみてもそうなんですけど、悩んで作ったからか抜けないし、パって飛ぶことはないです。それが面白かった。緊張して一瞬真っ白になる経験はあるんですけど、この曲は自分の体の感覚と、自分の思っている感覚で出てきたものだから、これが私なんだなって。

──それもこれまでにはない経験であり、KEIKOさんの新しい魅力を発見できたのかなと。

KEIKO:だといいけど……。私って、もともと梶浦さんの曲に惚れていて、歌いながら「このメロディ最高!」って惚れているんですよ。そういう流れで「Nobody Knows You」とか「通り雨」とか「桜をごらん」とかも「いい!」ってなって、それが声に乗っていくタイプなんですよね。だから嫌なものも声に出ちゃう。自分の中から出たものだとしても、良いものじゃなかったら絶対歌わないから、その辺は頑固だと思います。だからこうやって世に出させて頂くものになったということは、少なからず心地良かったのかな?

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