【ライブレポート】スカートが描く濃密なサウンドスケープ

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澤部渡のソロプロジェクト、スカート。ニューシングル「海岸線再訪」のリリース10日前となる12月5日に、東京・LIQUIDROOMにてワンマンライヴ<The Coastline Revisited Show>が開催された。

◆ライブ画像(18枚)

本公演はスカートとして初のLIQUIDROOMでのワンマンであり、ワンマンとしては昨年9月に開催された<10周年記念公演「真説・月光密造の夜」>から約1年3ヶ月ぶり。さらに開催日は澤部の33歳最後の日だという。彼はコロナ禍の影響から制作面でスランプに陥るも、今春新しいギターを購入。刻一刻と変わる荒波とも言うべき状況のなか少しずつ調子を取り戻しながら新曲を制作してきた。このライヴを喜びのなか迎えられたのは、困難も多いなか真摯に音楽と向き合ってきた証だろう。開場から終演まで、スカートの音楽への強い思いが隅々まで行き渡っていた。


開演前のDJは、スカートのライヴではお馴染みの臼山田洋オーケストラ。その横には澤部によく似た人物がいるなと思っていたのだが、よくよく見てみるとまさかの澤部本人ではないか。彼は音楽に合わせて身体を揺らしたり、レコードのジャケットを手に取って見入ったり、お経を取り入れたデューク・エイセスの「The Zen」にご機嫌だったりと、自身の出演が控えているというのに開演の15分前まで至近距離でDJを愉しんでいた。


映画『エクソシスト2』のテーマであるエンニオ・モリコーネの「パズズ」をSEに、澤部とバンドメンバーの佐久間裕太(Dr)、佐藤優介(Key)、シマダボーイ(Perc)、岩崎なおみ(B)がステージに登場すると、「沈黙」の軽快かつ粘りのあるグルーヴでライヴがスタート。その後も「おれたちはしないよ」、「駆ける」と立て続けに披露する。ポップでありながらどこか歪なユーモアや毒気を感じさせる楽曲たちは、心地好さや美しさの裏側にある闇や恐怖、哀愁をほんのりとちらつかせるようだ。長く伸びるヴォーカルや洗練された音像が印象的な「静かな夜がいい」ではソロ回しとともにメンバー紹介を繰り広げる。序盤ながら、濃密なサウンドスケープが会場を充実感で満たしていた。


「CALL」など明かりをテーマにした楽曲をじっくりと演奏したあと、MCで「コロナが憎い!」と嘆きの声を上げる澤部。佐久間の小気味のいい合いの手に誘われて、ミュージックビデオの撮影もできず、スランプにより曲が作れず、1年前にリリースしたフルアルバム『アナザー・ストーリー』のレコ発もできずという状況を切々と語ったのち「この憎しみをなんとかシュガーコーディングしてみなさんにお届けしようじゃないかと」と告げると、客席からは大きな拍手が沸いた。


そのMCを踏襲するように「ストーリー」、「セブンスター」と、『アナザー・ストーリー』の頭2曲を立て続けに演奏してブーストを掛け、さらに「新しい曲を1曲」と述べ、ニューシングルに収録されるParaviオリジナルストーリー『最愛のひと~The other side of 日本沈没~』イメージソングに起用された新曲を披露。凛々しさで魅了するセクションだった。ドラマチックな展開とメロディが印象的な「君がいるなら」ではパーカッションの繊細な音づかいが楽曲をより鮮やかに色づけていく。澤部のギターのカッティングで締めくくるラストも、繊細なコードワークと相まって非常に趣深かった。


2019年にアルバム『トワイライト』を作り、ライヴを経ていくことでスカートがライヴバンドになったことを実感したという澤部は、「ここからまたちょっとずつ(ライヴバンドとしての力を)積み上げていければと思うので、お付き合いいただければ」と頭を下げる。ミディアムテンポの「四月のばらの歌のこと」、一筋縄ではいかないユニークなサウンドスケープと斬新なメロディで圧倒する「さかさまとガラクタ」、力強さと爽やかさを併せ持つ「さよなら!さよなら!」と、ライヴバンドとしての底力を音でもって立証した。

だがこの“ライヴバンド”モードはさらにパワーアップ。ニューシングル収録曲の「この夜に向け」を皮切りに、間髪入れずに次々と演奏を畳みかけていく。「返信」、「スウィッチ」とユーモラスかつ愛嬌のあるサウンドを躍動感たっぷりに繰り広げていく様は非常に爽快で、己のポップ道を貫いてきた人間の強さが眩しいくらいに輝いていた。


この日のライヴの開催の喜びを噛みしめる澤部は、13年前に高校時代のクラスメイトであるsleepyheadの武瑠がSuG時代にLIQUIDROOMでライヴを開催するなど、同級生の活躍にショックを受けていた二十歳前後の時代を語る。それから時を経て、この日の彼のLIQUIDROOMワンマンはソールドアウト。心身の調子も少しずつ戻ってきていることを告げ、あらためて感謝を口にすると、客席からは大きな拍手が起こった。


心に染み入る美しいメロディを堪能できる「遠い春」を演奏し終えると、「まだまだ油断できない状況だけれど、ここを起点としていつでも動き出せるように態勢を整えていくつもりです」と語り、本編ラストに届けたのはニューシングルの表題曲「海岸線再訪」。ゆっくりと、だけど雄大に動き出すような堂々としたサウンドスケープは、復活の狼煙に相応しい晴れやかさだった。


アンコールではまず“セットリストを組んだら本編から漏れちゃった曲”という「視界良好」を披露する。続いての「ODDTAXI」では、共演相手であるPUNPEEがサプライズゲストとしてステージに登場。観客の驚喜の拍手はシャンパンの泡のような煌めきを帯び、楽曲をより豊かに彩った。澤部を“同じ板橋区出身”と語るPUNPEEは、「せっかく来たのでもう1曲セッションをできれば」と続け、「回想」を披露。PUNPEEの“回想”と“板橋”にリンクしたレペゼン要素の強いラップが、クールなムード漂う同曲をより艶やかにした。


これでライヴは終了のはずだったが、鳴り止まない拍手に応えるかたちで澤部がステージに再登場。「なんも用意してなくて……。弾き語りになっちゃうかも。何がいいですか?」と観客に問うなかで、初期曲の「ガール」に着地する。ダメ元ながら袖に向かって「「ガール」一緒にやってくれる人いない?」と呼びかけると、まず佐久間が姿を現し、そこからやおらメンバー全員がステージに再訪。急遽スタッフのiPadでDropboxから譜面を引っ張り出したり、澤部がイントロを弾いて各々が確認したのち、約2年ぶりの「ガール」の演奏が実現した。


「ガール」が本来持つ空気感と、バンドのフレッシュな演奏が抜群の相性を放つだけでなく、演奏が進めば進むほど5人のグルーヴが高まっていく様子も非常に生々しく、エキサイティングだった。“起点”を象徴するような清々しい空気でこのライヴを締めくくったことは、スカートにとって、とても意味深いことだったのではないだろうか。彼の34歳の、そしてひと足早い2022年のプロローグを観ているような、胸の高鳴る1日だった。

取材・文◎沖さやこ

セットリスト

1.沈黙
2.おれたちはしないよ
3.駆ける
4.静かな夜がいい
5.CALL
6.ともす灯やどす灯
7.ストーリー
8.セブンスター
9.新曲
10.ランプトン
11.君がいるなら
12.四月のばらの歌のこと
13.さかさまとガラクタ
14.さよなら!さよなら!
15.この夜に向け
16.千のない
17.返信
18.スウィッチ
19.わるふざけ
20.遠い春
21.海岸線再訪

en1.視界良好
en2.ODDTAXI
en3.回想
en4.ガール

<スカート ワンマンライブ “The Coastline Revisited Show”>アーカイブ配信情報

[配信チケット]
チケット料金:1,500円
受付期間: 12月12日(日) 20:00まで
受付URL: https://kakubarhythm.zaiko.io/_item/344876

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