【インタビュー】上野大樹、「上野大樹という帆を立てたい。聴いてくれる人を裏切りたくない」

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第一興商が企画する2022年1月度D-PUSHアーティストに選ばれた、シンガーソングライターの上野大樹。彼が2021年12月15日に2ndフルアルバム『帆がた』をリリースした。2020年2月にYouTubeにてMVを公開した「ラブソング」はクチコミで広まり、その後も精力的なリリースを重ねていく。小学4年生からサッカーを始め、U-14では西日本選抜選手になるも、怪我と病気で高校1年生でその道を退いたという過去を持つ彼は、いったい今どのような心境で音楽と向き合っているのだろうか。DAM CHANNEL収録前の彼をキャッチし、新作やカラオケにまつわるエピソードを訊いた。

■前作の後悔があったからこそ
■メロディの強い曲を増やすことができた


――このたびDAM CHANNEL収録直前にお時間をいただきました。カラオケというコンテンツに馴染みはおありでしょうか?

上野大樹(以下、上野):音楽を始める前はサッカーばっかりやっていたので、友達とカラオケに行ったりする機会はあまりなかったんですけど、たまに兄貴と姉貴に連れてってもらっていました。ふたりとも年齢が僕より16歳くらい上なので、僕が小学生くらいの頃には社会人だったので。

――となると少年時代はお兄様お姉様の音楽の影響を受けたりも?

上野:兄と姉が車や家でよくかけていたMr.ChildrenやDEENをよく聴いていましたね。ふたりともライヴに足を運ぶくらいミスチルが大好きなので、カラオケではミスチルばっかり歌っていました。

――上野さんの楽曲を歌うにあたり、どんなところに気を配ると良いでしょう?

上野:僕の曲はそんなに難しくないので、みんな気持ち良く歌ってもらえたら。しいて言うなら、僕は聴いてくれる人に届けたいことを歌詞にしているので、言葉をしっかり歌うようにしていて。同じように歌ってもらえたら、それらしい歌になるんじゃないかな。ここ1、2年で自分の曲をカヴァーしてもらったり、カラオケで歌っていただく機会が増えて。SNSを眺めていて目に留まった弾き語り動画が、よくよく聴いてたら俺の曲のカヴァーじゃん! ってことがあるんです(笑)。

――はははは。カヴァーしたりカラオケで歌っている人が、自分流にアレンジしてらっしゃったりして。

上野:僕の曲であっても僕以外の人が歌うと違う曲に聴こえたりすることが多いですね。それってその人の歌の個性だと思うんです。僕の曲も、歌う人の気持ちの良いメロディで歌ってもらっていいと思っています。今回DAMで配信される「揺れる」は盛り上がるタイプの曲ではないけど、四つ打ちのリズムも入ったポップな曲だし、歌詞も元気づける内容なので、カラオケで歌ってもしんみりしないから歌いやすいし、歌い上げることもできると思いますね。


――2021年12月15日にリリースされた2ndフルアルバム『帆がた』は“自分自身が目印になるように帆が立つような存在になりたい”という願いが込められているとのことですが、そう思われたのはどのタイミングでしょう?

上野:もともとのきっかけは、2020年12月にリリースした1stフルアルバム『瀬と瀬』が思うように広がらなかったことですね。大好きな作品だからこそ、初めてのアルバムだったので出来なかったこと、“もっとこうしておけば良かったな”と思うことが浮かび上がって、後悔も少しあって。

――後悔、ですか。

上野:前作を作っている時は自分がフォークにハマっていて、聴いていて心地良くて起伏が少ない楽曲が多かった気がしていたんです。でも今回はもっともっと広まる作品にしたかったからサビが強い曲を作りたい、音作りからもっとしっかりと向き合っていきたいと思ったんです。この1年でツアーやワンマンをやってきて力もついたので、“ここからまた上野大樹がスタートしますよ”という意味も込めています。その後悔があったからこそ、メロディの強い曲を増やすことができたんだと思います。

――たしかに、前作もアコースティックやバンドサウンドなど多種多様なアプローチの楽曲が揃っていましたが、今作は音作りにも向き合ったというだけあって、歌の存在感の大きい作品かもしれません。

上野:だからサビも相当高いキーが多くて苦労しました(笑)。でも今作でそういうチャレンジができて良かったです。後悔も挑戦も、すべて意味のあるものになったと思っています。

――“帆が立つような存在”というと、具体的にはどういうイメージでしょう?

上野:“自分の音楽を曲げずに、さらに成長していく”というイメージですね。“聴いてくれる人を励ましたい”みたいな自分のエゴはあんまり押し付けたくないので、聴いてくれる人が遠くから見た時に“上野も頑張ってるんだな。自分も頑張ってみようかな”と思ってもらえるのが理想です。みんなが仕事や学校で日々頑張っているように、僕は音楽をやっているだけなので、俺についてこい!というよりは、どこからでも見えるくらい自分の帆をしっかり上げたいんですよね。

――聴いてくれる人の生活の中心になりたいというよりは、ラジオやTV、スマートフォン、カラオケボックスといったものをきっかけに、ふと目に飛び込んでくるような存在になりたいということでしょうか。

上野:そうですね。街を歩いている時に僕の曲が流れていて、“この曲知ってる。久し振りに聴いてみようかな”と手持ちの機器で再生して、曲を聴いて“あの頃よく聴いてたな”とか“自分も頑張ろう”みたいにいろんなことを思ったり感じてほしい。僕が音楽家としても人間としても成長して良い曲を作っていくなかで、僕の存在が知れ渡っていくことが“帆が立つ”ということだとも思っています。

――今のお話をうかがって、上野さんはリスナーと良い距離感を保ちながら、リスペクトし合うような関係性を理想としているのかなと思いました。

上野:リスナーとアーティストの関係性って近くもなければ遠くもないし、絶妙ですよね。僕はみんなのために音楽を作って、みんなは僕のために僕の曲を広めてくれる。信頼関係とはまた違う関わり方だなと思っています。「揺れる」はまさに、リスナーや支えてくれる周りの人への感謝の気持ちを書いた曲なんですよね。……世の中は僕が考えているよりも優しい世界だったなと気付いたんです。“有名になってやるぞ”と欲を全開にしなくても、良いものを作っていればたくさんの人に気付いてもらえる。

――音楽の世界で活動をしていたからこそ気付けたこと、ということですね。

上野:サッカーはすごく厳しい世界だったので(笑)。だからこそ今は誰かと張り合ったり蹴落としたりするのではなく、ただ“上野大樹という帆”を立てたい。聴いてくれる人を裏切りたくないし、私生活も音楽も頑張っていきたいんです。そう思い始めた時に今のレーベル・制作チームと出会ったんですよね。一つひとつの音にじっくり向き合える環境ができたし、音楽に掛ける時間が増えて、自分の音楽に自信が持てるようにもなって。“こういうふうにしてみたら?”というチームの意見が入ることで、曲が僕以外の人の思いを背負ってくれて、より強く“音楽を作っている”という実感を持てています。


――今話していただいたメンタリティは2021年9月にデジタルリリースした「海の目」にもつながるのかなと思いましたが、いかがでしょうか?

上野:そうですね。誕生日の翌日にデジタルリリースすることになって、久し振りに自分のことを歌いたいと思って作ったのが「海の目」です。自分のことをがっつり歌うことは最近あまりなかったんですけど、夏のツアーで久し振りに地方を回って、音楽や情勢を間近で感じることが多かったから、思うことがいろいろあったんですよね。だからいいタイミングだし曲にしようかなって。だから「海の目」は特別な曲なんですよね。

――「海の目」や『帆がた』しかり、“海”は上野さんにとって重要なモチーフとお見受けします。

上野:山口県宇部市の生まれなので、実家から自転車で10分で海に行けるんです。サッカーを辞めてすぐの頃、家帰っても何もやることがないからひとりで海に行って考え事をすることが多くて。今も実家に帰ったら必ず海に行きます。瀬戸内海なので、水平線の向こうに四国や九州が見えるんです。だから夜の海は暗闇のなかに街の明かりがキラキラしているんですよね。“向こうにも人の生活があって、そこで暮らしている人たちも頑張っているんだろうな”とあたたかみを感じるんです。特別な存在というよりは、自分の日常に当たり前に存在していたものというか。だからパーソナルなものが濃く出た曲には“海”がリンクしていくのかな。

――“海”を彷彿とさせるものは、ご自身のことを歌っていると。

上野:そうですね。前作の『瀬と瀬』も今回の『帆がた』も、やっぱりアルバムは自分のものだという自負があるので、海に関係するタイトルをつけたいと思ったんです。『帆がた』も“帆が立つ”という言葉を掲げたい気持ちはあれど、まだまだ自分は未完成だから、ここをきっかけに帆を立てて航海をしていこうという気持ちも込めて、“帆が立つ”とは言い切らない“帆がた”にしたんですよね。

――『帆がた』という作品でコンパイルするにあたり選曲基準というと?

上野:デジタルシングルでリリースした曲よりは新曲を入れたいし、アルバムとしての流れを作りたいなと考えていました。アルバムだと、これをシングルでリリースしても広まりにくいだろうなと思うアプローチもできるし、そういう曲の必要性や意味が生まれてくると思うんです。

――先行リリースした「リジー」も、デジタルシングルとして単体で聴くのと、『帆がた』の9曲目で聴くのとでは、かなり印象も変わりました。

上野:この曲はリスナーに向けて書いた曲でもあるので、最後までアルバムを聴いてくれた意味を作りたかったし、聴けば聴くほど僕の内側に近づく感覚になれるアルバムになればいいなと思ってこの曲を9曲目に置きました。Mr.Childrenのアルバムもアルバムだからこそできるアプローチで成り立っているし、僕はそれを聴いて育っているので、アルバムだからこそ味わえる良さを残したいし、伝えていきたいんです。

――救いのない暗闇にいるような「フィルム」は、まさにアルバムの醍醐味ではないでしょうか。

上野:これは6曲目、アルバムの折り返し地点なので、5曲聴いた人が自分の世界に浸るタイミングだから、聴き流せるくらいでもいいかなと思って。部屋にひとりでいて、窓の外をずーっと眺めて1日が終わっていくような、何も起こらない曲を作りたかったんです。人生は何も起こらない1日のほうが多いし、こういう暗い1日を経験したことがあるから、それを曲にしたかったんですよね。

――逆にデジタルシングルは「MOTHER」のように単体で成立する世界観の楽曲や、「楕円になる」や「勿忘雨」のように弾き語りやアコースティックのイメージを飛び越えた、華のあるアプローチもできるということですよね。

上野:そうです。

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