【インタビュー】上野大樹、「上野大樹という帆を立てたい。聴いてくれる人を裏切りたくない」

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■過去があるから今があると思うし
■過去を全部肯定しながら前に進んでいきたい


――『帆がた』の1曲目「航る」は、現在の上野さんの姿や心情が表れた楽曲だと思いました。《明日を迎えにいこう》と前に進んでいく表現もあるかたわら、《もう一度思い出して》や《重たい荷物は愛すべき重荷だ》といった過去を重んじる歌詞も多い印象がありましたが、どういう真意があるのでしょう?

上野:過去にいろんな人生の分岐点はあったけど、僕はあまり過去を振り返るのは好きじゃないし、過去のことを忘れやすいんですよね。だから常に前向きに目標を立てて進んでいくほうがラクだし楽しいんです。よく“サッカーできなくなってつらかったね”と言われるんですけど、自分にとってはひとつの分岐点を迎えたというだけ、やることが変わっただけなんですよね。

――ああ、なるほど。

上野:サッカーができなくなったからといって、僕という人間が失われるわけでも変わるわけでもない。サッカーであろうと、音楽であろうと、会社員であろうと、立派に結果を出していたら評価されると思うんです。僕はたまたま人目につきやすい音楽だったというだけで。過去を振り返ったり“あの時こうしていれば”とくよくよしたりはしないけど、過去があるから今があるとは思うし、過去を全部肯定しながら前に進んでいきたいんですよね。「航る」の《最後の扉を今目の前に》は、現世と来世の狭間を表しているんですけど、これは“時代が変わったとしても、僕のやることは変わらない”という意味を込めたんです。


――“前に進んでいく”だけでなく、“変化”がキーワードでもあるんですね。

上野:自分の生まれた平成という時代が終わって令和に入ったことで時代は変わったと思うし、令和になった頃はコロナウイルスが蔓延するなんてみんな思ってもみなかった。コロナ禍がきっかけでカルチャーやルール、常識も変わり始めたけど、僕がやりたいことは僕が目指す場所に行くことで、そのためにはギターと歌をもっと練習して良い曲を作るだけ。僕のやることは根本的に変わらないし、同じことを続けていくなかで変化が生まれていくんだろうなと思っています。それを『帆がた』の始まりとして歌いたかったんです。

――「航る」と2曲目「波に木」の世界観は通ずるのでしょうか?

上野:さっき話した『瀬と瀬』をリリースしたあと後悔したことについての後悔を書きました。後悔が吹っ切れたあとに、“あの後悔した時間は、もっと有効活用できたんじゃないか?”という新しい後悔が生まれてきたんです(笑)。

――ずっと悩んでいたことが吹っ切れたあと、そう思うこと多いですね。“なんであんなに悩んでたんだろう”って。

上野:そうなんですよね。みんなもそういう瞬間があるだろうし、《忘れるよりもっと違う形で乗り越えたかった》という歌詞もそういう気持ちから書きました。今悩みに直面している人や、“あの時こうしておけばよかった”と思っている人だけでなく、この先後悔することをわかりつつそれを選択する人もいると思うんです。そういう後悔から逃げたくなっちゃうけど、そんな時にこの曲が流れてきて、もうちょっと強い気持ちで前に進んでいけたらいいなって。だから「航る」と「波に木」は過去のことを歌いつつも、ちょっと向き合い方が違うんですよね。


――「波に木」は大人っぽい雰囲気のアレンジとメロディも印象的でした。

上野:“より説得力のあるアーティストになりたい”というのも、今回の課題のひとつだったんです。同じジャンルの同年代のアーティストと比較されないような歌詞、音、メロディ、歌にしたくて。比較されながら評価してもらうのではなく、“上野大樹”そのものを評価してもらうには大人っぽさも必要だなと思ったんですよね。音楽の定石に縛られないように音作りをしたいとここ1年くらいは思っているので、「朝が来る」では最後にテンポアップさせてみたりして、そこでグッとくるものにもなったし。表現の幅を広げる挑戦は今後もしていきたいですね。

――上野さんの作品は楽曲としてもアルバムとしても、時の流れや流れゆく風景といった流動的なものをコンパイルしている印象がありました。「朝が来る」に《変わりゆく景色の中で》というラインがありますが、それを描いている曲が多いような。

上野:あんまり過去を振り返ったりはしないんですけど、昔住んでいた街とかに行くと、一気に忘れていた過去の風景が頭のなかに蘇るんですよね。自分の過去の記憶は、その時に見た風景と全部結びついているんです。それで悲しい気持ちになったりして(笑)。

――悲しい気持ちに?

上野:過去の自分と今の自分の考え方はまったく違うから、過去の自分は今の自分と別人のような感覚なんです。でも昔見た風景を見たら過去の記憶が蘇ってくる。そういうギャップを感じた時に曲を書きたくなることが多いんです。それをきっかけに、今発信したいことを書いているイメージです。だから“時の流れや風景の移り変わり”と受け取ってもらっているのかもしれないですね。でもそれも曲を書くなかでの選択肢のひとつです。25歳になって視野も広がってきて、周りの人の人生の歩み方も見えてきたので、そういう視点で曲を書けるようにもなってきました。


――今作に収録されている「白花」は、「ラブソング」や「青」同様に死について綴られた曲ですが、これもその選択肢のうちのひとつということでしょうか?

上野:「白花」は「ラブソング」や「青」と近い時期に書いていた曲なんです。どれも実話がもとになっていて、「白花」は友達のお父さんが余命宣告をされたことを曲にしています。友達からその話を聞いた時に、残りの時間でお互いのことを思い合いながらゆっくり過ごすって温かいな、素敵だなと思ったんですよね。僕は死を描きがちと思われるんですけど、それは死がインパクトのあるわかりやすいテーマだからじゃないかな。死はどの世代にとっても考える機会の多いことだと思うんです。だから僕はスピリチュアルでも重いテーマでもなく、ナチュラルにそれを描きたかった。みんながじっくり考え事をしてくれるような曲を作りたいし、「白花」「ラブソング」「青」はそういう3曲だと思っています。

――曲を聴いた人が、じっくり考え事をしてくれることが重要であると。

上野:そうですね。僕は自分の考え方がしっかりあるタイプだと思っているので、どの曲も僕なりの答えがあるけれど、それをみんなに知ってほしいというよりは、それぞれで考えてほしい。そういう意味で曲そのものを受け取ってほしいし、曲が届いてほしいんですよね。アルバムの最後は「合い着」という自分の原点である弾き語りの曲にして。この曲はアナログレコーディングだからその場の空気やブレス、身体の動きの雰囲気も入っているので、最後にみんながそういう温かさに触れてくれたらなと思っています。

――『帆がた』は、上野さんが帆を完成させたアルバムなのかもしれませんね。

上野:ここからしっかりとその帆を立てていければいいですね(笑)。アルバムを作るのはめっちゃくちゃ大変だけど、チームみんなで完成に近づけていくのも楽しいし、完成した時の喜びは本当に大きいし、その作品を広めるためにこうやってインタビューを受けさせてもらったり、DAM CHANNELに出演させてもらうのも特別なことだと思うんです。『帆がた』を通して音楽をまた好きになったし、早くまたアルバムを出したいですね。次のアルバムを出す時には、『帆がた』をきっかけにもっとアルバムを待ちわびてくれる人が増えたらいいな(笑)。今まで以上にヒットする曲も作りたいし。

――最後に直球の野心を口にしていただきました。

上野:やっぱりサッカーをしていた名残かもしれないですね(笑)。僕にとって音楽活動は日常というより、まだまだ追いかけている夢のような存在で。2022年もその夢を追いかけていきたいですね。

取材・文:沖さやこ

リリース情報

2ndアルバム『帆がた』
発売中
1.航る
2.波に木
3.白花
4.揺れる
5.朝が来る
6.フィルム
7.アカネ
8.彼方
9.リジー
10.合い着

ライブ・イベント情報

<3man Live>
1/15(土)渋谷ストリームホール
出演:上野大樹、小林柊矢、KEISUKE

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