【ライブレポート】大貫妙子、<アコースティックコンサート>にめったに聴けないような音体験

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12月8日、大貫妙子のライヴ<アコースティックコンサート2021>が東京オペラシティ コンサートホールで行われた。通常のポップスのコンサートよりはるかに穏やかで、それでいて当たり前のものが一つもない一夜だった。何気ない日常をオリジナルな視線で描く大貫さんの詞の世界にも似て。

◆大貫妙子 画像

まずご本人の歌。'70年代から続くそのキャリアの中で、その歌い方は一貫している。ゆったりとしたテンポの楽曲が多い彼女だが、そうした場合にありがちな熱く歌い上げる方向にはいかない。短い音符をメロディーの上にポンポンと置いていくことでストーリーを語るような歌唱だ。一時はパリに住み、タイトルにも作風にもフランスの気配が散見できる彼女ゆえ、シャンソンの影響もあるのかもしれない。


今回はそんな歌を取り巻く面々もめったに聴けないような音を体験させてくれた。まずドラムは日本のレジェンド、林立夫さん。もともとクラシック用に作られたオペラシティのホールは大音量禁止。ゆえに林さんは終始スティックではなくブラシで密やかに叩いていた。ベースの鈴木正人さんもウッドベース。そしてピアノにフェビアン・レザ・パネさん。ドラム、 ウッドベース、ピアノとなればジャズトリオのような構成だがそこで、フェビアンさんはクラシック的なうっとりするように繊細なタッチで聴かせていた。

そしてゲストは二組。まずバンドネオン (アコーディオンとは別種の蛇腹楽器。それこそシャンソンでは多用されてきた)の小松亮太さん。大貫さんとは以前からコンビを組んでいて2015年には共作アルバム『Tint』で『第57回輝く!日本レコード大賞』優秀アルバム賞を獲っている。それから彦坂カルテット。これはジャズやポップスではなくクラシック系のサックス四人組。出てくる音も一般的なこの楽器のイメージとはまったく違う、たとえようものないぐらい柔らかなサウンドだった。

それぞれの分野のトップミュージシャンを、なかなかない形で結集したステージ。曲によって様々な組み合わせでステージは進んでいった。たとえばバンドネオンと歌のみ。そこにベースが加わる。あるいはピアノと歌のみ、といった具合に。大貫さんが音楽を担当した映画『東京日和』のテーマはピアノの独奏だった。また後半では彦坂カルテットだけのコーナーも設けられていた。サックスというものの解説から始まりクラシックのナンバーを2曲披露するという構成で。本編13曲のうち3曲が主役抜き、という大胆な配分。が、そこは名手たちの演奏ゆえ、舞台装置を変えたぐらいのメリハリをセトリに提供していた。


この日のコンサート。こうして列記してきた部分がすべてだったとしたら、相当にアーティスティックなものになっていたかもしれない。が、実際はそんな実感はまるでなかった。誰もが余裕を持って表現していたので純粋に音楽の深みを堪能できた。そして大貫さんのMC。ほぼ1曲ごとぐらいの印象で挟みこまれていたこれが、たえず場内を笑いに誘っていた。たとえば小松さんが初めて大貫さんから共演を求められたとき驚いて「でも大貫さんが外交辞令を言うわけない」と思った、と告白すると思いっきりブーッと吹き出してしまう。あるいはまだもう1曲出番がある小松さんにさよならを言いかけたり。この素晴らしくマイペースな人柄もまた、場内の空気を解きほぐす大きな力だった。

アンコールはNHKみんなのうたの「メトロポリタン美術館」と映画『Shall we ダンス?』の主題歌「Shall we dance?」。大貫さんの音楽歴のほどが垣間みれる場面だった。

なお2022年1月26日には『シンフォニックコンサート2020』もリリースされる。これはオーケストラと今回の基本メンバーによるライヴで、ゲストの坂本龍一の登場からなんとMCまでノーカットで収録されている。しかも美しくデザインされたLP、CD、DVD、BDの4メディアを使ったまれにみるボックスセット。こんなところにも大貫さんの一味違う表現がある。

取材・文◎今津甲


■BOXセット『Onuki Taeko Symphonic Concert 2020』

2022年1月26日発売 (予定)
【専用BOX入り (Blu-ray1枚+DVD1枚+CD1枚+LP2枚組+ブックレット+公演時配布パンフレット)】
POXS-25001 19,800円(税込)
※Blu-ray、DVD、CD、LP単品の発売は現在未定です。
※収録予定曲目
▼Blu-ray・DVD
01. Overture
02. 幻惑
03. 夏に恋する女たち
04. RAIN
05. 光のカーニバル
06. RENDEZ-VOUS
07. グランプリ
08. 風林火山 (千住明:NHK大河ドラマ「風林火山」メインテーマ)
09. 宿命 (千住明:TVドラマ「砂の器」挿入曲)
10. 黒のクレール
11. Tango
12. 空へ
13. ベジタブル
14. Shall we dance?
15. ピーターラビットとわたし
16. 色彩都市
▼CD
01. Overture
02. 幻惑
03. 夏に恋する女たち
04. RAIN
05. 光のカーニバル
06. RENDEZ-VOUS
07. グランプリ
08. 黒のクレール
09. Tango
10. 空へ
11. ベジタブル
12. Shall we dance?
13. ピーターラビットとわたし
14. 色彩都市
▼LP-1
-SIDE A-
01. Overture
02. 幻惑
03. 夏に恋する女たち
04. RAIN
-SIDE B-
01. 光のカーニバル
02. RENDEZ-VOUS
03. グランプリ
▼LP-2
-SIDE A-
01. 黒のクレール
02. Tango
03. 空へ
-SIDE B-
01. ベジタブル
02. Shall we dance?
03. ピーターラビットとわたし
04. 色彩都市

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