【コラム】エルヴィス・コステロ、67歳とは思えないすさまじい熱気

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Photo by MARK SELIGER

2022年1月、デビュー45周年の始まりを自ら祝うように、エルヴィス・コステロのニューアルバムがリリースされる。

タイトルは『ザ・ボーイ・ネームド・イフ』。間にソロ名義の『ヘイ・クロックフェイス』(2020年)をはさみ、エルヴィス・コステロ&ジ・インポスターズ名義の作品としては、第62回グラミー賞「最優秀トラディショナル・ポップ・ヴォーカル・アルバム」を受賞した『ルック・ナウ』(2018年)以来の新作。これが実に素晴らしい内容で、コステロを愛するすべてのファンをうならせる会心の一作に仕上がっている。コステロ自身がアルバムに寄せたコメントを紹介しよう。

「アルバムのフル・タイトルは『The Boy Named If(And Other Children's Stories)』。“イフ”は架空の友達のニックネームで、実は隠された自分自身。自分で否定していることも全部わかっている存在で、食器を割ってしまったことや、失恋したことに対して僕たちが責任を負わせる相手だ。この友達“ボーイ”については、同じ名前の曲の中で詳しく歌っているよ」

「アルバムは13枚のスナップ写真のコレクション。途方に暮れていた少年時代から、子どもっぽいふるまいを咎められて屈辱を感じる瞬間まで思い起こさせるものだ」

どことなくザ・フーのロック・オペラを思わせる興味深いコンセプトだが、現時点では歌詞対訳が手元にないので、楽曲とサウンドの印象だけで語ろう。2002年から始まった「エルヴィス・コステロ&ジ・インポスターズ」名義の作品は常に、コステロの王道であるワイルドなロック+メロディックなポップ路線をひた走ってきたが、本作も例にもれず、生き生きとしたバンドサウンドで貫かれている。そしてバート・バカラックとの3曲の共作を含む『ルック・ナウ』がポップ寄りだとすれば、今作は明らかにロック寄りだ。1曲目「フェアウェル、OK」でいきなり耳に飛び込んで来る、ドタバタ暴れる騒々しいロックンロールと、マイクに噛みつくようにシャウトする歌声。お世辞抜きで、デビュー当初の怒れるパブロッカーだったあの頃を思い出させる、67歳とは思えないすさまじい熱気に吹き飛ばされる。


Photo by Diana Krall

近年は「ジャズなコステロ」「クラシックなコステロ」「ロックなコステロ」などを同時進行させてきたコステロだが、2曲目以降も「ロックなコステロ」が好きなファンを狂喜させる楽曲がずらりと並ぶ。ジ・インポスターズのピート・トーマス(Dr)、スティーヴ・ナイーヴ(Pf、Key)、デイヴィ・ファラガー(B)が、ベテランとは思えない(?)、気合一発の荒々しいプレイで曲を加速させる。3曲目「ペネロピー・ヘイプニー」など、ピートの弾くチープでファニーなオルガンの音色は、1970年代末~1980年代初頭の懐かしいニューウェーヴサウンドそのままだ。その一方でメロディはどれもポップで愛らしく、4曲目「ザ・ディファレンス」のように、コステロらしくクセの強い歌い回しと、サビでポップに突き抜けるメロディの対比は、かつてのポール・マッカートニーとの共作を彷彿とさせるほど、多面的な魅力に溢れている。

もちろんアッパーな曲ばかりではなく、ミドルやスローテンポの曲も大きな聴きどころだ。6曲目「ペイント・ザ・レッド・ローズ・ブルー」の、あまりにロマンチックな美しいメロディは感涙ものだし、8曲目「マイ・モスト・ビューティフル・ミステイク」の、ヘヴィなミドルテンポのリズムとエモーショナルなメロディの組み合わせは、どことなく「マイ・エイム・イズ・トゥルー」を思い起こさせる。コーラスで参加したアメリカのシンガーソングライター、ニコール・アトキンスの渋く劇的なボーカルもばっちりハマってる。


スティーヴの、ニューウェーヴ丸出しの不協和音オルガンが最高に楽しいグルーヴィーなロックチューン「マグニフィセント・ハート」、そして1960年代半ばのキンクスやザ・ビートルズを思わせる、陰影あるメロディとシャッフルビートを組み合わせた「ザ・マン・ユー・ラヴ・トゥ・ヘイト」。様々な時代の音楽的意匠を巧みに操りながら、お洒落なフレンチポップ風の「トリック・アウト・ザ・トゥルース」を経て、ラストは素晴らしくハートウォーミングでクラシカルなアコースティック・ロックバラード「ミスター・クレッセント」で締めくくる13曲。日本盤CDにはさらに1曲、ボーナス・トラック「トゥルース・ドラッグ」のおまけつきだ。


円熟味を帯びたワイルドでパワフルな「ロックなコステロ」でありつつ、60's、70's、80'sなどを横断するバラエティ豊かなアレンジと音色でとことん楽しませてくれるエンタテインメント性。そして、デビュー当初の若々しいコステロの姿をも思い出させてくれる、まったく衰えを見せないボーカルの素晴らしさ。45年間のキャリアの中で「傑作」には事欠かないコステロだが、この『ザ・ボーイ・ネームド・イフ』は、2020年代の新しい傑作として評価される作品になるだろう。早く手に取って、歌詞を確かめながら聴き直したい。そしてもう一度、この熱量をナマで伝えてくれる来日公演が観たいと切に願う。

文◎宮本英夫

エルヴィス・コステロ『ザ・ボーイ・ネームド・イフ』

2022年1月14日発売
UICY-16039 ¥2,750 円(税込)
※日本盤ボーナス・トラック1曲収録 /日本盤のみ SHM-CD仕様
1.フェアウェル、OK
2.ザ・ボーイ・ネームド・イフ
3.ペネロピー・ヘイプニー
4.ザ・ディファレンス
5.ホワット・イフ・アイ・キャント・ギヴ・ユー・エニシング・バット・ラヴ?
6.ペイント・ザ・レッド・ローズ・ブルー
7.ミストゥック・ミー・フォー・ア・フレンド
8.マイ・モスト・ビューティフル・ミステイク
9.マグニフィセント・ハート
10.ザ・マン・ユー・ラヴ・トゥ・ヘイト
11.ザ・デス・オブ・マジック・シンキング
12.トリック・アウト・ザ・トゥルース
13.ミスター・クレッセント
14.トゥルース・ドラッグ*日本盤ボーナス・トラック


◆エルヴィス・コステロ・レーベルサイト
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