【インタビュー前編】Qaijff、「音楽をやめたくなる」苦悩を乗り越えた今

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■譲れないものがより鮮明になった

──オーケストラライブへの道のりについても聞かせてください。実際にどういうところから着手していきましたか?

内田:地元の名古屋で開催したい、森の母校という繋がりも活かせたらいいなと思って、まずは自分たちでプレゼン資料を作って、名古屋音楽大学に連絡するところから始めました。あとは、自分たちが新しい目標としてやりたいという想いが大前提にありつつ、学生のみなさんもコロナ禍で演奏会とかがまったくできてない状況で。しかも、音大の方たちっておそらくポップスのアーティストと共演する機会はあまりない気がしたんです。なので、無観客の配信ライブだとしてもそういう場が作れるのは、お互いにとって生きがいになる、いいことなんじゃないかなと。そんな想いも込めて、企画を提案させてもらいました。

森:母校の名古屋音楽大学は学校案内の卒業生紹介の欄に、私のことをいつも載せてくれていたんですよ。で、広報の方とメールのやり取りはもともとしていたので、「実はこういうことをやってみたいんですけど、いかがでしょうか?」みたいな感じでお願いしたのが最初ですね。そしたら、けっこう大がかりな案件にもかかわらず、「じゃあ、ちょっとお話ししましょう」と取り合ってくださって。そこで上田じん先生を紹介していただいたんだよね?

内田:そうそう。前回の配信ライブのときは指揮を振ってくれて、今回の有観客コンサートではトランペットを吹いてくださった上田じん先生が 「じゃあ、僕がオーケストラメンバーを全部集めますよ」と言ってくださって。


──すごいですね!

森:急なお話なのに、快く受けていただいて本当にありがたかったです。そこからは“どの楽器が何人必要か”などの具体的な話が進んでいって、オーケストラアレンジに取りかかっていった感じで。

──これまでやったことがない新たな挑戦ですし、想像を絶する大変な作業だったと思います。

森:大変でしたよー(笑)。もともと自分たちのデモを作るときに使っているLogicの画面に、オーケストラの楽器をずらーっと並べて打ち込んでみて。それを譜面に起こすっていうスタイルから始めたね。

内田:最初は慣れない部分も多くて、ものすごく苦労してアレンジしましたね。でも、コンサートの1曲目に演奏した「Salvia」は、作った当初の段階からアレンジがほぼ変わっていなかったりもするんですよ。で、どうにかひとつ完成できると作業が楽しくなってきて。

森:うんうん。“ここでフルート欲しい!”みたいな閃きで音を足していく感じとかね。実験的ですごく楽しいんですよ、アレンジするのは。

内田:そうだね。譜面作りはもっともっと大変でした。バンドのときも作ったりしてなかったし。

森:バイオリンだけとか、小編成でストリングスを入れたライブは何度かやった経験があったので、そういうときにちょっと作ることはあったけれど。いざ、オーケストラのスコアを作るのは......! 膨大な楽器の数だし、信じられないほど時間がかかりましたね。もう、どれくらい費やしたか正直わからないくらい(笑)。

内田:オーケストラのみなさんには、楽譜を見て弾いてもらうわけですからね。バンドだったら「ここはこういう感じで」みたいに言えばいいけど、そのニュアンスを譜面に起こさなきゃいけないから。僕らはそこを伝える知識が最初はぜんぜんなくて、自分の書いた意味合いが演奏者にはわかってもらえなかったことも多々ありました。その都度、じん先生に教えてもらったり。

森:オーケストラアレンジのための本を買って勉強したり、トランペットの音域がどこからどこまで出るのかを調べたり。“この楽器だと、この高さの音は出せないんだ!”とか、そういうのをひとつひとつ学んでいきました。いろんなオーケストラの動画もネットで観ましたね。“ここでこういう音色が来ると効果的なんだな”みたいな感じで。


──コロナ禍で時間ができて新しいスキルを身に付けたミュージシャンはたくさんいるけど、こういう挑戦をした人はやっぱりいないと思います。Qaijffの演奏にもともとプログレッシブな側面があったことも大きいんですかね?

内田:そうかもしれないです。オーケストラやクラシック音楽もテンポとか拍がすごく変わったり、プログレっぽい匂いがけっこう感じられますもんね。僕らはバンドで演奏するときも「そこでそんなフレーズが来るの!?」みたいなことをよく言われるんですよ。今回のオーケストラバージョンで挙げるなら、「Salvia」の間奏かな。初めて聴いた人がギョッとするようなアバンギャルドな展開を作ったんですけど、自分たちにとってはその不可解さが痛快だし、こういうアプローチがあるからこそ、ストレートな手法により開放感が生まれると思っていて。

森:びっくりさせる感じも含めて、そういうアレンジをするのが好きなんですよ。

内田:オーケストラに惹かれた理由はそこにある気もしますね。



──そして、名古屋音楽大学のみなさんとの関係も深めながら、なんとか配信ライブまで漕ぎ着けたと。

森:リハーサルのたびに演奏が良くなっていきましたね。オーケストラのみなさんとは「はじめまして、よろしくお願いします!」と、譜面を渡すところから始まって。最初は呼吸が合っていない部分も多かったけど、コミュニケーションを取っていくうちにだんだんといい感じに。

内田:音楽用語は森のほうがわかるし、音大生に伝えられるボキャブラリーがあるので、僕がしゃべることを通訳してもらう感じでオーケストラの方々に伝えてもらったり(笑)。

森:アレンジは内田が主導でやってくれてたから、2人のどっちが欠けても無理でしたね。全員マスクをしている状態なので、最初は表情もあまり読めなかったりして。こっちの意図が伝わっているのかどうかとか、不安もけっこうあったんですよ。でも、回数を重ねるとマスク越しでもみんなが楽しんでいるのがわかって。ライブが終わってからも、SNSで「楽しかった!」と言ってくれてたのが嬉しかったです。


──楽しさが戻ってきた感じしますね。

森:ようやく取り戻したというか。そういうのを見ると、私たちもめっちゃ嬉しくなるんですよね。有観客のコンサートはプロでやっている方もオーケストラに混ざってもらったんですけど、配信のライブで楽器を演奏してくれたのはみんな在学生だったので、フレッシュな気持ちに原点回帰できる感じも強くて。

内田:自分たちが願っていたことだったし、素直によかったなと思いました。

森:1回目は無観客の配信ライブという形でしたけど、やりたかったオーケストラとのコラボというものがひとつ実現できて、メンタル的にも復活しましたね。観てくれた方に喜んでもらえるのももちろん嬉しいんですけど、いっしょに出てくれた人に楽しんでもらえたのが本当によかったですね。そうじゃないと意味がないって思ってたので。

──有観客のコンサートで披露していた新曲の「だって」にも“わたしがわたしじゃなくなったら どれだけ手に入れても意味がないの”という歌詞があったし、こうやってお話を聞いていても感じるけど、Qaijffは譲れないものがしっかりあるバンドなんだと思います。

森:今回、斎藤ネコさんにアレンジしていただいてバンド結成当初からやっている「変わって」を演奏したんですけど、その曲にも“誰かになりたいわけじゃない”という歌詞があって。私はずっと同じようなことを感じて、歌にしているんだなと思いました(笑)。言い換えれば、絶対に譲れないポイントなんでしょうね。結局、どれだけ年を重ねても環境が変わっても、そこは変わらないんだなって。


──それを伝えることも、今回のオーケストラコンサートの意味だった気がしますね。

内田:嬉しいです。そこまで汲み取っていただけて。

森:ラストの「ナンバーワン」がいちばんわかりやすいメッセージでしたよね。あの曲を作った頃もしんどいメンタルだったんですけど、そのときの想いを全部詰め込みたくて、“誰にも邪魔できない この気持ちは”“譲れない 負けない愛を叫ぼう”と歌いましたから。



──僕はそこがQaijffのいちばんの魅力だと思います。演奏力とかびっくりするような転調とか素敵な部分は他にもたくさんあるけど、リスナーの方が惹かれるのはどうしようもないくらいに人間味が強いところじゃないのかなって。

内田:はー、なるほど! 意外とわかってなかったです。

森:自分たちだとよくわからないし、うまく説明できないんですよ(笑)。

──「meaning of me」や「愛を教えてくれた君へ」もそうなんですけど、感情が歌の中でせめぎ合ってるじゃないですか。曲の1番と2番を通して行ったり来たりする気持ちを表現しつつ、自分の心ととことん向き合って、最後の最後で自分たちなりに決着をつけるところまで持っていく感じ。その歌詞の書き方、正解の導き出し方、単にエモいじゃ片付けられない懸命さ、人間臭さがいいんですよね。それがひいては、このバンドならではの真摯さに繋がってるし、これだけ必死に作っているから切実なシチュエーションにも寄り添ってくれる、何回も聴きたくなる曲なんだと思います。

森:わー、ありがとうございます! 言われてみて、初めて気づく部分です。歌の中でもがきまくっていたんですね、私たちは(笑)。確かに、本当にそうだなあ。MC でも言いましたけど、どれも魂を込めて作ってきた、自分たちの分身のような音楽ですからね。

内田:うん。譲れないものはありますね。いろんな出来事を通して、それがより鮮明になった気がしているし、その信念が Qaijff らしさなのかもしれないです。

(後編に続く)

取材・文◎田山雄士
写真◎瀬能啓太


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