【インタビュー】imase、クレバーな観察眼とピュアな優しさが心をつかむ2ndデジタルシングル「逃避行」
「楽器経験のない二十歳の青年がひょんなことをきっかけに音楽を始め、そこから1年でメジャーデビュー」。まるでドラマや漫画のような設定が、現実に起こるのもじつに2020年代らしい。2000年生まれのソロアーティスト/トラックメイカーimase。2021年5月にTikTokで投稿した楽曲が早耳のリスナーから注目を集めるなか、TV番組のオーディション企画への参加が追い風になり、楽曲がTikTokで週間楽曲ランキングにランクイン。同年12月には1stデジタルシングル「Have a nice day」でメジャーデビューを果たした。さらにはそこからわずか約1ヶ月で、2ndデジタルシングル「逃避行」をリリース。R&Bとポップスをルーツにしたキャッチーな楽曲、地声の低音と裏声の高音を使い分けて繰り広げられるヴォーカルスタイルは、さらにその強度を高めている。自らのことを“音楽初心者”と語る彼の音楽が、なぜこれだけ若者の心を掴むのだろうか? そこにはクレバーな観察眼とピュアな優しさがあった。
■J-POPシーンではあまりやっている人がいない
■“地声と裏声を分けて歌う”というスタイルにしました
――imaseさんのツイート面白くて、思わず全部遡って読んじゃいました。
imase:しょうもないことばっかつぶやいてるんですけど大丈夫でした?(笑)。Twitterでもバズ狙ってるんですけど、TikTokの楽曲投稿みたいにうまくいかないですね。
――TikTokでアップしたオリジナル曲が若者を中心に注目を集めているimaseさんですが、音楽を始めたのは2020年11月と、歴としては1年ほどだそうですね。
imase:それくらいの頃に、身の回りでギターを始めた友達がいて、それを見て自分もやってみようかなとギターを買ったんです。それから短い期間で集中して練習したおかげか、ものすごくうまいわけではないけれど結構すぐにギターを弾けるようになって。
――ゲームもお得意とのことですから、手先が器用なのかも。
imase:自分で言うのもなんですけど、FPS系のゲームめちゃくちゃうまいです(笑)。もともといろんなことにチャレンジしたいタイプなので、過去には野球やサッカーをやったり、スケボーもやりました。それまで経験のなかった音楽を始めたのは、その流れもあったんですよね。
――“友達がギターを始めたし、じゃあ俺もちょっとやってみっか”みたいな。
imase:そうです、そうです。始めるきっかけは興味本位なんですけど、負けず嫌いだから一定のラインに到達するまで徹底的に練習するんです。スケボーも最初は友達のほうがうまくて、それが悔しくて毎日夜中の3~4時まで練習して(笑)、基本的なことはできるようになりました。よくカラオケにも行っていたくらいには歌うのも好きだったので、ギターを弾くなら歌おうかな、それなら自分で曲を作ってみようかな……という流れで曲作りを始めました。友達に聴かせたりするようになって、作った曲を“いいね”と言ってもらったりして。
――ギターを始めて3ヶ月ほど経った2021年2月には、YouTubeにDTMの打ち込み楽曲をアップなさっていました。
imase:実家が自営業なので、その書類作りをするためにMacをもともと持っていたんですよね。ソフトとMIDIのキーボードを買えばDTMができることはなんとなく知っていたので、そこから一つひとつ機材を揃えて今の制作スタイルになっていきました。YouTubeにトラックだけアップするようになって、2021年の5月に“TikTokでバズってるアーティストがこれだけいるなら、自分も投稿してみたらバズるんじゃないか?”と試しに歌付きの楽曲をTikTokにアップしてみたら、ちょっと反響があったんです。こんなに反応がもらえるなら……と嬉しくて、そこから本格的に楽曲制作にのめり込んでいきました。
――その頃から地声の低音と裏声の高音を使うヴォーカルスタイルは固まっていましたよね。
imase:初期にアップした曲では、地声で歌った低音と裏声で歌った高音を重ねてましたね。TikTokではあんまりやっている人がいなかったので、ほかの人との差別化をつけるためのスキマ産業的な考え方から始めました。あとは、自分の声に自信がなくて(笑)。2パターンの声を混ぜることである程度聴き心地は良くなるのかなあって。
――それからしばらくして、重ねて使っていた地声低音と裏声高音を、セクションによって使い分けるようになりましたが、ここに至ったきっかけとは?
imase:これはもう、弾き語りオーディション企画の参加が決まったからです。
――Z世代を対象にしたオーディションのTV番組『~夢のオーディションバラエティー~DreamerZ』ですね。
imase:そうです。人前で歌うということはヴォーカルを重ねることができないし、弾き語りだからほとんどの人はギター、もしくはピアノだろうからどうしよう? と考えた結果、自分の好きな海外のR&Bシンガーがやっていて、J-POPシーンではあまりやっている人がいない“地声と裏声を分けて歌う”というスタイルでやってみることにしました。それでほかの人とかぶらないように楽器はカオスパッドを使うっていう……。裏声はその時にひたすら練習しました。
――同世代のアーティストと同じ場で、さらに一流芸能人の方々にご自身の楽曲をパフォーマンスを観てもらうという経験はいかがでしたか?
imase:人前で歌った経験が初めてだったことに加えて、スタジオにはかなり有名な方々が揃っていて……びっくりしましたもん! 三次審査で落ちてしまったんですけど、いい経験になったなと思います。
――人と違うことをやろうとして、それを短期間で実現にまでこぎつけられるところは、負けず嫌いさんだから出せる底力かもしれません。
imase:いやあ、だいぶ運の要素も強いと思います。5月に1回ちょっとバズったけど、そこからはどの曲も思ったほどハネなくて。でもオーディション企画がきっかけで今の歌唱スタイルをするようになって、その手法で歌った動画を10月にアップしたらTikTok週間楽曲ランキングで1位になって。それまでみたいにただただTikTokに楽曲をアップしているだけでは、地声と裏声をセクションごとに使い分けるという発想にまで至らなかったと思います。だから『DreamerZ』のオーディションの参加は本当に良いきっかけになりましたね。
――2021年12月には1stデジタルシングル「Have a nice day」でメジャーデビュー。こちらは2021年5月にショートヴァージョンをアップしていた楽曲で、コロナ禍で感じたことがしたためられているそうですね。
imase:僕自身は田舎に住んでいるのと、職種的にもそこまで大きな影響を受けたわけでもないんですけど、コロナ禍はみんなの共通体験でもあるから共感性が高いし、つらい経験をした人のためにもなったらいいなと思って作りました。コロナ禍について歌っている人はいらっしゃると思うんですけど、それを自分なりに書けたらなって。
――サビの《戻れないね 離れないで/喜びも驚きもないままで/戻れないね 離れないで/喜びも驚きもない中で》という歌詞は、しゃれていると同時にコロナ禍での複雑な感情をシンプルな言葉で言い当てていると感じました。
imase:コロナ禍での感情を、韻を踏みながらどうやって言い表そう?といろいろ連想していって出てきた言葉ですね。「Have a nice day」というタイトルと《離れないで》で韻を踏むのも面白いかなって。幼少期にJ-POP、10代の頃に米津玄師さんを聴いていて、そこからSIRUPさん、iriさん、VivaOlaさん、韓国のDEANさんとR&Bのアーティストにハマっていったのもあって、それらの要素が合わさった曲ができることが多いんです。
――歌詞の言葉回しもただ韻を踏むだけではなく、簡潔な言葉で洗練された言い回しをなさっているところもimaseさんの楽曲の特徴だと思います。
imase:メロディと一緒に歌詞のフレーズが出てくるので、メロディから言葉を探していく感覚で書いてます。あと直接的な表現よりは、ちょっとひねってロマンチックにしたいんですよね。
◆インタビュー(2)へ
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