折坂悠太の<心理ツアー>ファイナル公演、5日にWOWOWで放送・配信

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折坂悠太が2021年12月に東京・LINE CUBE SHIBUYAで開催した<心理ツアー>追加公演の模様が、2月5日にWOWOWで放送・配信される。以下、ツアー最終日となった同公演のオフィシャルレポートをお届けする。

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シンガー・ソングライター折坂悠太が全国8都市を巡るホールツアー<心理ツアー>を開催。2021年12月2日(木)・3日(金)、LINE CUBE SHIBUYAにおける2DAYSをもって完走した。折坂は、上野樹里主演ドラマの主題歌「朝顔」で世に広く知られることとなった偉才。ツアー名に掲げた「心理」とは、2021年10月に約3年ぶりにリリースした3rdアルバムタイトルでもある。コロナ禍による制作プロセスの中断、楽曲の再編を経て生み出された深遠なる作品世界を言い表すには“これしかない”と感じさせる言葉であり、それはライブに関しても同様だった。WOWOWでオンエアされるのは12月3日(金)のファイナル公演の模様。ステージ上で繰り広げられた、音楽ライブでありながら舞台演劇のような、詩であり文学作品を具現化したようでもあるパフォーマンスは未知なる体験をもたらし、「心とは何か?」という答えの出ない問いを投げ掛け続けていた。

海の底、あるいは奥深い森を思わせる暗く闇に沈んだステージ。楽器の発する音なのか生き物の鳴き声なのか判別がつかない、謎めいた音が響いている。幕開けの「kohei」から、「爆発」「心」「悪魔」の4曲は、アルバム『心理』収録曲を続けて披露。穏やかな波のようなピアノフレーズで始まったのは上述の「朝顔」。客席の壁面には影絵の花のようなライトが投影される。繊細な心情を描きつつも絶望に陥らず、差し込む光を感じさせる名曲。折坂は柔らかな笑みを浮かべながら歌い奏でていた。続く「針の穴」では観客にハンドクラップを誘う場面も。かといって、通常のライブでよくある“一体感を求める”という距離感のアクションでもない。暗闇でギターを鳴らしながらの独唱でスタートした次曲「トーチ」以降、ほぼ最後まで、ステージ上は日常世界から切り離された、観る者を深く引き込んでやまない神秘の空間となっていた。



バンドメンバー各自の個性と存在感も強烈。折坂の真後ろで上裸のパーカッショニストが野性的にプレイする姿にはとりわけ目を奪われた。どこかサーカス団のようなムードも備えた魅力がある。「ワーン、ツー!」とマイクを通さず大きな声で折坂がカウントし、各々に音で衝動をぶちまけるセッションで始まる「鯱」。マイルス・デイヴィスの「Bitches Brew」を想起するジャズのフィーリングと、日本民謡を思わせる歌メロディーが融合したような唯一無二のパフォーマンスに圧倒された。続く「荼毘」に宿る濃厚な死の気配、狂おしく乱れていくエモーショナルな演奏。折坂はギターを掻き鳴らしながら歌ったり、「炎」では直立不動であったりと、曲によって佇まいが大きく変化する。「星屑」は童謡を歌う少年のようなイノセンスも漂わせた。温もりを帯びた歌声と、全ての演奏が粒立って聴こえつつ混ざり合う、リヴァーブの心地良い音響。プリミティヴな懐かしさと最先端の音楽性とが絶妙なバランスで融合する、折坂悠太の世界から一瞬たりとも目を離すことができなかった。

「윤슬(ユンスル)」は、美しいメロディーラインと深い残響音、フィーチャリングヴォーカル イ・ランの歌声の意味深長なリフレイン、それらすべてが合わさって詩情溢れる印象をもたらした。ステージ上にいくつか設置された銀の幕に照明が当たり煌めく情景は、月や太陽の光が水面に反映する様を意味した韓国語の曲タイトルどおりで、幻想的だった。折坂自らリズミカルにスレイベルを鳴らしながら歌う「春」は、古来の儀式を見るようでもあり、どこか未来的でもあり、時空を超えた不思議な魅力満載。折坂はただメロディーラインを正確に辿るだけではなく、ある時はくぐもった呻き声のような、ある時は詩を朗読するような、多種多様な声色を次々と繰り出して惹き付け、幻惑した。どの曲、どの瞬間も同じことの繰り返しがなく、ただただ聴き入り、観入るばかりだった。


メンバー紹介に続くMCで、ステージ上は一瞬日常世界へと戻って来た。新型コロナウイルスの感染拡大状況を見据えながらどのアーティストもライブを開催している昨今、折坂ももちろん例外ではない。ツアーを完走できたことを安堵した口調で語りながら、「今日は何だかステージに立っていると、あまり“終わり”という感じはしなくてですね。“まだ終わらせるな”と言われているような感じがします」と感慨深そうにコメントした。「このツアーは本当に人に恵まれ、場所に恵まれ、そしてタイミングに恵まれて、無事こうやって終わらせることができます」と続け、「でも、どこかで会うでしょう、皆さんまた。私は、ステージは循環するものだと思っておりまして」と言葉を繋いだ。「私は今ここに立っていますけども、次は、何か皆さんのなさった仕事をまた私も受けるわけでございます。私はこうやって、今日の音楽をやりました。順々にやっていきましょう。よろしくお願いします。今日は本当にありがとうございました」とユニークな表現で感謝を述べると、アンコールとして「坂道」「さびしさ」「鯨」を送り届けた。

最後の音が鳴り終わると一つずつスポットライトが消えていき、ライブ冒頭の暗闇に回帰。得体のしれないあの音が再び聞こえてくる。明かりが点くと、ステージにはもう誰もいなかった。長い夢から突如目覚めたような感覚。激しい音を打ち鳴らすことなく、大きな衝撃をオーディエンスの心に与えてライブは静かに幕を閉じた。分かりやすい説明や解説を寄せ付けない<心理ツアー>。純粋に音楽に身を浸す楽しみと同時に、オーディエンスそれぞれの内なる自問自答を誘発するような、刺激に満ちた舞台芸術のようなステージは他に喩えようのない、まさに唯一無二のライブだった。是非、オンエアで体験していただきたい。

Text by 大前多恵
Photo by Yukitaka Amemiya

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『折坂悠太 心理ツアー』

2022年2月5日(土)20:00 [WOWOWライブ][WOWOWオンデマンド]
放送終了後〜1か月間アーカイブ配信あり
WOWOWオンデマンドでは無料トライアル実施中

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