【コラム】Bialystocks、映像的な詞とサウンドで満たされた1stEP『Tide Pool』

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映画監督でもあるボーカル/ギターの甫木元空と、ジャズのライブを中心に活動するキーボードの菊池剛からなる2人組バンド、Bialystocks。青山真治プロデュースのもと、甫木元が監督・脚本・音楽を担当した映画『はるねこ』の生演奏上映をきっかけとして、2019年にバンドを結成。2021年には、ファーストアルバム『ビアリストックス』を発表、「I Don't Have a Pen」はdocomo web CMソングに抜擢された。



フォーキーで温かく印象に残るメロディ、甫木元のソウルフルな歌声、ジャズをベースにソウルなどジャンルを自由に横断する楽曲は各方面で評価を受けている。今年1月には、Spotifyが2022年に注目すべき国内新進アーティスト10組を選ぶ"RADAR:Early Noise 2022"にも選出。期待がますます高まる中、バンドにとって2作目となる全国流通音源としてリリースされたのが、このファーストEP『Tide Pool』だ。

バンド結成のきっかけが甫木元の映画だったというのもあり、『Tide Pool』も映画と結びつけて聴きたくなってしまう。実際、どの収録曲もありありと風景や記憶が浮かび上がってくるような映像的な詞とサウンドで満たされている。また、甫木元のみならず、菊池もミュージカル映画やブロードウェイ・ミュージカルに造詣が深い。菊池はメル・ブルックス監督『プロデューサーズ』(1968年)を高校時代に観たのがきっかけで、その後フランク・シナトラなどに魅せられていったという。そもそも、Bialystocksというバンド名は、『プロデューサーズ』でゼロ・モステルが演じた落ち目のブロードウェイ・プロデューサー、マックス・ビアリストックから来ているそうだ。



甫木元と菊池をつなぐ映画、ブロードウェイ・ミュージカルという共通点は、曲作りにも存分に活かされていると言える。例えば、1曲目のAOR的な「Over Now」と2曲目の「All Too Soon」はミュージカルを参考にして作られている。別のインタビュー記事によると、「Over Now」では、1955年のミュージカルで58年に映画化された『くたばれ!ヤンキース』の雰囲気を歌詞に落とし込んでいったそうだ。同作は、野球狂の中年実業家が青年に戻ってプロチームに入団してしまう話だが、そこでのおかしさと哀愁は、「何回目の三振だって 後悔から邁進成功 夢じゃない 嘘じゃない」という「Over Now」の歌詞と音からも感じ取れるだろう。


「All Too Soon」は、グルーヴィーでネオソウル的なトラックに、ハイトーンなヴォーカルと分厚いコーラスが乗った、EPのハイライトになりうる曲だが、こちらはジーン・ケリーの少しほろ苦いミュージカル映画『いつも上天気』(1955年)を参照したそうだ。この曲には「夢の続きを教えて あなたは今 景色になって」というフレーズがあるが、甫木元自身が監督したMVでは、具体的な緑の風景と夢のような描写が混じり合っており、その映像にも惹きつけられる。



ミュージカル映画ではないが、3曲目の「フーテン」では、タイトルはもちろん、「必要とされぬ 夢みがちな男」という詞からも、『男はつらいよ』シリーズの寅さんを真っ先に思い浮かべる。また、歌詞のみならず、曲調も映画のようで、特に高らかなサックスが聞こえてくる後半部分は、まるで昭和の映画のワンシーンを観ていると錯覚してしまうほどだ。映画と夢は似ている、というのはよく言われることだが、映画と密接に結びついた上の3曲は、どれも人の哀愁と夢について歌っているのが印象的だ。映画から作られた音楽と、音楽で歌われる夢。それらがいつまでも続いていくような心地よさと切なさが同居した詞とメロディーは、Bialystocksならではの魅力だと言えるだろう。



本作のタイトルに使われたTide Poolは、潮だまりともいい、海水が引いた干潮のときに岩のすきまに残った水たまりをさす言葉だ。オフィシャル・インタビューにおいて、甫木元は、何か出来事が起こった瞬間にカメラを近づけていくのではなく、「泣いてる人が去ったあとに何が残っているのかというところにカメラを向けたほうが豊かで普遍的に残るものになる気がする」と述べている。水が引いた後に残る、出来事の後に残るTide Poolに目を向け、耳を傾けること。



この作品作りの考え方と本作のタイトルを最も体現しているのは、4曲目の疾走するギターロック「光のあと」ではないだろうか。「波打ち際光るのは あなたを思い出す光のあとで」という言葉からは、波が引いた後にきらめく人の想いや風景が浮かび上がってくるようだ。また、甫木元が監督したミュージックビデオは、夕方の波打ち際に佇む人をじっくりと映したり、夕陽に照らされた人を遠くから見守るように撮っており、後に残った人や景色を優しく見つめるような映像になっている。そして本作は、アコースティックで暖かみのある5曲目「あいもかわらず」で、その余韻に包まれながら終わる。



ネオソウル的なトラックからフォーキーなものまで、曲調は違えど、映画のように情景が浮かぶEP『Tide Pool』。このEPは、切なさと優しさを帯びたメロディーと詞というBialystocks独自の魅力を堪能できる作品になった。甫木元の映像作品含め、彼らが見つめ歌い上げるものは、これからどのように広がっていくのだろうか。

文◎島晃一(映画・音楽ライター、DJ)

■リリース情報

1st EP『Tide Pool』
2022年1月26日(水)発売
PCCI-00006 ¥1,650(税込) ※CD Only
購入・配信:https://lnk.to/TidePool
収録曲:
01. Over Now
02. All Too Soon
03. フーテン
04. 光のあと
05. あいもかわらず

▼CDショップ購入者先着特典
「光のあと(Acoustic Version)」DLコード付ポストカード
※旧譜特典:2021年2月17日発売アルバム『ビアリストックス』には「Nevermore(Acoustic Version)」DLコード付ポストカードが付属

※全国の対象店舗にて『Tide Pool』を購入した方に、先着で上記オリジナル特典をプレゼント。
各店舗で用意している特典数量には限りがございます。
※特典は数に限りがございますので、発売前でも特典プレゼントが終了となる可能性がございます。
※一部取り扱いの無い店舗やウェブサイトがございます。予約・購入の際には、各店舗の店頭または各サイトの告知にて、特典の有無をご確認ください。

■ライブ情報

<Bialystocks 1st EP「Tide Pool」Release Live>
2022年2月25日(金)東京・LIVE HOUSE FEVER
ゲスト:Ryu Matsuyama
OPEN/START 19:00/19:30
TICKET 3,500円(税込・自由)+1DRINK
一般発売中
チケットURL:https://w.pia.jp/t/bialystocks-of/

<Bialystocks 1st EP「Tide Pool」リリース アコースティックLIVE&ジャケットサイン会>
2022年3月2日(水)タワーレコード渋谷店5Fイベントスペース
OPEN/ START 18:30/19:00
アコースティックライブ+サイン会
詳細:https://towershibuya.jp/2022/01/21/162458
※サイン会は購入されたCD『Tide Pool』が対象となります。当日必ずお持ちになってご参加ください。
※実施内容は予告なく情勢に応じて変更となる可能性がございます。

◆Bialystocks オフィシャルサイト
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