【インタビュー】佐藤智広、ストレートでポジティヴなメッセージ『Moment』

■3曲共通して“頑張らなくては！”みたいなプレッシャーはなかった
■曲と歌詞が“楽しんで歌えば大丈夫”と思わせてくれました

――2曲目の「To The Sky!」はハイトーンのヴォーカルが映えるポップソングです。「Moment」とは少し違うテイストの応援ソングという印象を受けました。

佐藤：「Moment」が全力で引っ張っていく曲なら、「To The Sky!」はひとつギアを落として語り掛けている曲になっていると思います。どちらの曲も“こんな時代に生まれてしまったと嘆き悲しむよりも、自分ができることを”という気持ちを込めていて。それは“失敗してもいいから今やれることをやってみよう”ということだとも思うんですよね。だから「To The Sky!」は安心させる曲だと思います。

――たしかにおっしゃるとおり、ヴォーカルも「Moment」では元気よく引っ張ってくれる雰囲気があって、「To The Sky!」では頼もしさを感じさせます。

佐藤：歌詞には踏み込んだ描写も多いので、しっかり伝えることを心掛けました。シビアなことも直球で伝えて、“それでも僕らは大丈夫じゃないかな”と気持ちを正すような曲かなと思っています。

――シビアなことも言い合える信頼する仲間といった、近い人に向けたメッセージにも近いかもしれませんね。

佐藤：そうですね。それこそ3曲目の「信じるままに」はさらに深いというか、相手の立場に立って歌っているような感覚なんです。

――「信じるままに」はやわらかいバラード。一言一言で深くメッセージが響いてくる楽曲だと思います。

佐藤：「Moment」は広々とした空の下でまっすぐみんなに伝えるように、「To The Sky!」は少人数でじっくり語り合うように、「信じるままに」は目の前にいる人に――だから3曲とも同じようなメッセージを持っているけれど、距離感が違うんですよね。「信じるままに」は親友、恋人、家族くらいの距離感の相手から受け取ったものを歌にしている。まさに歌い出しの歌詞の《言葉にできない痛みのすべて／自分の胸に刻み込んでいる》というか、相手と心を通わせながら歌っている感覚がありますね。

――バラードだから表現できることかもしれませんね。

佐藤：そうですね。これまでミュージカルで歌ってきた楽曲も、プライベートでカラオケで歌ってきた楽曲も、どちらかというとアップテンポのものが多かったのでバラードはすごく新鮮だったんです。最初はなかなか自分のイメージどおりの歌にならなくて、バラードという音楽の繊細さを痛感しました。歌うのが難しいけど、しっかり気持ちを込めて伝えたいからトライアンドエラーを繰り返して。「信じるままに」は自分を成長させてくれた曲ですね。そういったチャレンジもありつつ、3曲共通して“頑張らなくては！”みたいなプレッシャーはなかったんです。曲と歌詞が“楽しんで歌えば大丈夫”と思わせてくれました。

――コロナ禍で傷ついた人やふさぎ込んだ人、生活がままならなくなってしまった人も少なくないので、この3曲が励みになる方もいるだろうなと思います。

佐藤：2020年に入って、急に未知のものが広がって、世界全体が戸惑っていましたよね。いろいろな意見や情報が飛び交う毎日を過ごしながら、細くてもいいからまず自分の芯を持たなきゃいけない時代だな……と思いました。自分以外の何かに頼りすぎてしまうと、振り回されてしまう。

――「To The Sky!」の《人に何かを 求めているだけじゃ／いつかきっと一人で歩けない》という歌詞に通じますね。

佐藤：そうですね。“自分はこう思う”という芯がひとつあれば、自分でいろいろなことを一つひとつ考えていけると思うんです。同じことを考えるにも、“これ以上悪くなったらどうしよう”と考えているとどんどん落ち込んでしまうので、“現状を良くするためにはどうしたらいいだろう？”や“自分が気持ちよく生きていくためにはどういう息抜きが必要かな”と考えられたら自分の軸がブレないんじゃないかな……と思うんです。




――今作はType AからCの3形態がリリースされ、それぞれに収録曲3曲のアレンジバージョンが収録されています。「Moment [Heavy Version]」と「To The Sky! [Remix Version]」はそれぞれ思いっきり振り切れたアレンジで、意外性に思わず笑ってしまいました。

佐藤：リリースイベントで披露したとき、お客様も別バージョンのアレンジに目を丸くしていて（笑）。僕も最初聴いたときに驚いたので、そうだよねえ、そういう反応になるよね～と思いました（笑）。「To The Sky! [Remix Version]」を披露したときはかなり盛り上がりましたね。

――たしかに、「To The Sky! [Remix Version]」は華やかなシンセが効いている、かなりアゲアゲなアレンジで。

佐藤：音が違うから、自然と歌い方も変わってくるんですよ。おまけにアレンジが違うと自分に響いてくる歌詞も違ったりするから面白くて。お客様にもそういうところを楽しんでほしいですね。

――「信じるままに [Acoustic Version]」も、音がシンプルなぶん歌にスポットが当たって、緊張感が心地よくもあります。

佐藤：レコーディングのときに“音がはずれないように気にしすぎているかも。全然気にしないで歌ってみて”と言ってもらって。自分としては気持ちを込めて歌っているつもりだったけど、どこかでキーにとらわれていたんだなと気づかされました。歌の難しさをあらためて噛み締めましたね。どこまで自分を解放できるか、さらに技術を磨くことによって、歌は変わってくるんだろうなと思います。

――表現には感情と技術、どちらも大事ですものね。

佐藤：本当にそうですね。精いっぱい心を込めているつもりでも“棒読みに聞こえる”と言われることがあると思うんです。気持ちを引き立てるのは技術なんだろうな、気持ちと技術のシンクロ具合は大事なんだろうな……と思いますね。

――リリースイベントも行ってらっしゃいましたが、ご自身の楽曲をステージで歌うのはいかがですか？

佐藤：仲間とひとつのものを作り上げていくミュージカルとは全然感覚が違いますね。自分次第でこのステージが良くも悪くもなる。それは不安にもなるけど、“やってやるぜ～！”とこみ上げてくるものもあるので、不思議な感覚があります。お客様に“佐藤智広の楽曲”を届けることが新鮮だし刺激的で……こんな未来が近いうちに来るなんて思ってもみなかったので、本当にありがたいですね。

――ライヴはその瞬間瞬間で観客のみなさんと作っていくものでもありますしね。

佐藤：ミュージカルは舞台上で物語の世界を作り上げて、それを観ていただくんですけど、ライヴとなると会場一体で空気を作り上げる。空間すべてがステージになるんです。お客様から気持ちをいただくことでどんどん自分のテンションも上がっていって、自分の歌でお客様のテンションも上がっていって……その相乗効果も面白いです。ライブでしか歌えない歌もあるなあと実感しています。

――『Moment』を完成させ、リリースイベントを行って、新しいスタートに立った佐藤さんは、現在どのような心境でしょうか？

佐藤：まだまだやれることがこんなにあるんだな、やるべきことがたくさんあるんだなと思いましたね。自分の表現を芝居以外に、CDという形でお客様に届けられるのもうれしいです。インストアライヴを経て、ライヴハウスやもっと大きな会場でライヴをしたいし、それを多くの人に届けたい。コロナ禍に入る前、ミュージカルから派生したコンサートイベントに出たことがあって、そのときの感覚が身体に残っているんです。あれを早くみんなでやりたい！（笑）

――そうですよね。『Moment』の楽曲にはシンガロングできる場所もありますし。

佐藤：僕もライヴが終わったあとにも続く“ああ、声がガラガラだ～！　それだけ楽しかったんだなあ”みたいな高揚感が好きで。あれを早くみんなで味わいたいです。コール＆レスポンスしたいところでもできないのはむず痒くて……。声が出せる状況になって、どんどんみなさんと盛り上がりたいですね。この期間に僕からお客様に届けられる表現を増やしていきたいですし、“この曲はライヴでどんなふうになるんだろう？”と一緒にワクワクしてほしいです。

――今後どんな楽曲を発信なさっていくのかにワクワクしていただいてもいいでしょうし。

佐藤：そうですね。『Moment』の3曲は僕らしいけど、人間はいろいろな顔を持っていると思うんです。元気な人がずっと元気かというとそうではないし、元気がある人が落ち込んだときに歌える歌があると思うんです。それこそ『Moment』のジャケットで髪の毛を上げたことも、僕にとっては“らしくない”んですよね。でも僕はこんな面も持っている。お芝居や音楽だけでなく、“佐藤智広はこういう人だよね”の範疇で収まらない、いろんなことにチャレンジしていきたいですね。

取材・文：沖さやこ


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