【コラム】BLUEVINE、深みを増すバンドが放つ珠玉の2曲「ROY G.BIV」「memento」

蔓植物は宿主に絡みつきながらも天を目指して上へ伸び、青い葡萄は寝かせるほどに熟して深みを増すワインとなる。それを考えるとBLUEVINE、すなわち“青い蔓／葡萄”とは、まさしく彼らにピッタリのバンド名だろう。

cuneのギタリスト・生熊耕治のソロ活動を起点に、ドラムにSOPHIAの赤松芳朋、ベースにSadieのAKI(亜季)を迎えて始まった3ピースは、1年余にわたる準備期間を経て2019年2月にライブ始動。初CDをリリースしたのは1年後で、そこから2年ぶりとなる新曲をこのたび配信と聞けば、その歩みの速度は決して速いとは言えまい。しかし、コロナ禍の中でも早くから配信ライブに取り組み、中止になったツアーを再現する無観客ライブを収めたDVDをクラウドファンディングで制作と、ひたすらに“ライブ”を宿主とした彼らの逞しさからは、各自がこれまでの長いキャリアで得た知見と音楽への情熱が窺える。その中で彼らが確立した個性といえば、シンプルだが繊細さとスケール感を併せ持ち、噛みしめるほどに味わいを増すサウンドとメロディ、そしてメッセージであることを、今回の2ヶ月連続デジタルシングルは教えてくれる。


2月に発表された「ROY G.BIV」は、彼らの十八番とも言えるミディアムなロックナンバーで、タイトルが意味するのは虹の七色。Red、Orange、Yellow、Green、Blue、Indigo、Violetの頭文字を並べたものである。そのネーミングの通り、静と動、儚さと雄々しさを巧みに織り込んだ演奏は、雨が上がったあと空にかかる虹を思わせるほど美しく幻想的。時に呟くように、時に力強く放たれる生熊のクリアな歌声が訴えるのも、すべてを浄化し、大地に恵みと生命を与える虹の光の尊さだ。そこから見えるのは、喜びも苦しみもすべて飲み込んで生きる者たちに向けられた大いなる愛。本作では3年ぶりの楽曲MVも制作されているが、背後から照明を受けて演奏する3人をワンカットで撮影した実験的なものとなっており、煙る光の中、ほぼシルエットの彼らに接近を繰り返す躍動的なカメラワークと相まって、実に神秘的な映像に仕上がっている。


さらに、3月にリリースされる「memento」は、“メメント・モリ＝死を忘ることなかれ”というラテン語から想起されがちなイメージを覆す、メジャーコードのポジティブなロックチューン。そもそも“メメント”単体が持つ意味は“記憶”であり、ここで歌われているのもかけがえのない思い出を抱きしめて新たな場所へと進んでいこうという、至極前向きなものだ。軽やかなイントロからズシリと響くドラムはマーチのように聴く者の胸を高揚させ、ルートを刻むベースが一歩一歩前へと踏み出す足取りを窺わせる。望み願った場所に向かう“君”へと贈られるエモーショナルな歌唱からして、一種の応援歌であると言っても間違いではあるまい。

これまでの彼らの楽曲同様、どちらも雨、空、風といった自然にまつわる単語に彩られ、壮大な世界観を際立たせているが、中でも印象的だった共通ワードは“種”。彼らの音楽もまた、聴く者の胸にさまざまな感情の種をまき、やがて生きる上で大切な果実を花開かせるだろう。そこにどんな水をやるかは、それぞれのリスナー次第だ。

重さと軽さを巧みに操るドラムで歌を立たせるトーク上手な赤松、ベースを構える位置と同じくローの利いた寡黙なAKIと真逆なパーソナリティのリズム隊に、BLUEVINEの立ち上げ主であり、メッセージとメロディの優れた融合を追求する生熊。それぞれ自身を育てたバンドへのリスペクトも胸に、己の人生を音楽に預けて同世代の3人が目指す光は、我々の心に確かな勇気を灯すだろう。

文◎清水素子