【ライブレポート】CONDENSE、<MIKU BREAK ver.1.0>で完遂された初音ミク的コンセプト

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2022年2月24日(木)、川崎CLUB CITTA'で<MIKU BREAK ver.1.0>が開催された。昨年12月に同地で行われた<MIKU BREAK ver. 0.9>はプレイベントという扱いだったが、今回はその本編である。

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トップクラスのダンサーによって結成されたテックダンスフュージョン集団CONDENSEと初音ミクのコラボレーションは、文字通り様々な境界を“BREAK”していた。昨今盛り上がりを見せる2.5次元的な文脈はもちろん、同プロジェクトは初音ミクがこれまで培ってきた“双方向的な”コンテクストまで踏襲している。パフォーマンスとして2次元/3次元を活用しただけでなく、「MIKU BREAK」はステージと客席、あるいはオフラインとオンラインを繋ぎ、ライブを展開していた。平凡な異なるカルチャーの掛け合わせではなく、本プロジェクトは融合型コンテンツとして最高位にあるのではないかと感じる。

少し前置きとして長くなりそうだが、レポートに移る前に初音ミクについて整理しておきたい。初音ミクはクリプトン・フューチャー・メディア株式会社が開発した、歌詞とメロディを入力して誰でも歌を歌わせることができる「ソフトウェア」だ。大勢のクリエイターが『初音ミク』で音楽を作り、インターネット上に投稿したことで一躍ムーブメントとなった。「キャラクター」としても注目を集め、今ではバーチャル・シンガーとしてグッズ展開やライブを行うなど多方面で活躍するようになり、人気は世界に拡がっている。その誕生からビッグアーティストに駆け上がるまでをリアルタイムで経験しているアラサー世代の筆者は、彼女を“媒介的存在”としても認識している。初音ミクは、アーティストとオーディエンス、アーティストとアーティスト、あるいはオーディエンスとオーディエンス、さらには異なるコンテンツ同士を媒介し、従来の“メディアミックス”ともまた違う形であらゆる領域をコネクトしていった。ニコニコ動画のコメントが表現やパフォーマンスに大きく影響する体験は、「メルト」(2009年)の時代から続いている。今回の<MIKU BREAK ver.1.0>は、そこに極めて意識的だった。ライブの前から専用のアプリでオーディエンスに参加を促し、当日もステージの外側から参画できる余地(言わずもがなオーディエンスは声が出せないので自身のスマートフォンなどを用いてなどといったそれ以外の方法で)があった。先述したように、今回のライブは双方向的だったのだ。

そしてそれを実践しているのがCONDENSEだという点も強調されるべきだろう。ストリートダンス世界一を獲得したToyotakaを中心に、世界規模で活躍するRYO、gash!、SHINSUKEのダンサーと、ラッパーでありながらダンスもこなすSHUNたちが所属するHIPHOPクリエイティブ集団・Beat Buddy Boi、日本人初のブレイクダンサー世界チャンピオン・植木豪、FREESTYLE BASKETBALLの世界チャンピオン・ZiNEZ a.k.a KAMIKAZEといった国内の名うてを集めたスーパーダンスグループにギタリストのTKYK。初音ミクは、今やストリートの極致にまでインスピレーションが及んでいる。

なお、CONDENSEのメンバーの中には『ヒプノシスマイク』シリーズにも関与している人物もいる。つまり、「MIKU BREAK」プロジェクトに限らず、彼らにも2次元コンテンツへの文脈的な正当性があるのだ。というか、初音ミクが誕生した2007年以降、全くボーカロイド文化に触れずにインターネットをくぐり抜けた人の方が少ないのではないだろうか。

留意すべきはそれぐらいだろう。あとはライブレポートの中で書き述べてゆく。


1曲目はボカロP、作詞・作曲・編曲家のemon(Tes.)による「Overlap」。この曲の歌詞が、今回のプロジェクトを端的に言い当てていたようにも感じる。「フリーアクセス いまOK」というオープンマインドな態度は、ボーカロイド、ひいてはニコニコ動画のカルチャーであり、それはまさにストリートの感覚でもあると思われる。この曲に乗せてミクのソロダンスが披露され、高らかに開幕が宣言された。モーションキャプチャーの技術は日進月歩で発展しており、ミクのライブを見る度にそのパフォーマンスのクオリティは向上しているように感じる。「MIKU BREAK」は超絶ダンスパフォーマーとのプロジェクトであることから、動作性の追求にも強い執着が感じられた。指先や足の踏み込みにまで情念がある。



CONDENSEの面々が登場するのは2曲目から。彼らのオリジナル楽曲「Break the Bias」では、グループ唯一のMCであるSHUNのラップが冴え渡る。この曲はCONDENSE側から見た、MIKU BREAK的なマインドセットを表しているように感じた。


「偏見? I don't give a damn 自由に楽しめ」と宣い、強烈なビジュアル表現と共にワールドクラスのダンスが繰り広げられる。スクリーンに映像が投写され、その裏側と表側でメンバーがそれぞれ2.5次元的なパフォーマンスを展開。さながら初音ミクのソロダンスへのアンサーのようだった。3曲目の「Do It Like This」からは、CONDENSEと初音ミクの混合編成が熱いドラマを生んでゆく。

記事の冒頭で述べたように、今回のライブではオーディエンスが参画する余地があった。その企画のひとつが、イベント前に専用アプリ内に実装されたサンプラー機能と連動したものである。ミクのボイスがサンプリングされたサンプラーを使い、オーディエンスがビートメイクする。それらをCONDENSE側で「#ミクラップ」のもとにハッシュタグで募り、優れたビートはライブでフィーチャーされる。すなわち、舞台上でMPCを鳴らすRYOとオーディエンスが、スマホデバイスを介して共演したわけだ。Twitterにも作品が上がっており、多くの参加者がカジュアルに各々のビートをプロトタイプしていた。まさしく、ここでも初音ミクはMPCの面白さを伝えるための「媒介」だったのである。


そのすぐあとにも、同じくリスナー参加型のセクションがあった。先ほどから言及しているアプリに実装されているのはMPCだけではない。ヒップホップのストーリー・モードとミクの育成モードも搭載されており、いずれもライブに影響する仕様となっていた。こちらは育成モードに基づいており、イベント前に専用アプリ内で、ミクに飴を最も多く与えたオーディエンスの中から8人がこのセクションでピックアップされた。“ミク VS 植木豪 & SHINSUKE”という構図のもと、この8人がミクにヘルプアイテムを供給する役割を担っていた。

余談として、この企画に筆者も参加したが、他のオーディエンスが猛者揃いだったこともあり、8人の中に1ミクロンも食い込めず惨敗したことをここに記しておこう。


以降は、たたみかけるようなライブパフォーマンスが続く。Toyotakaのヒューマン・ビートボックスから「千本桜」のRemixに繋がり、「Move Your Body」ではLive Setまで展開された。RYOによるMPC、TKYKによるギター、植木豪によるトークボックス、Toyotakaによるヒューマン・ビートボックスのサウンドが絡み合い、厚みのある音像を繰り出していた。印象的だったのは、このパフォーマンスがそれぞれのスペースをスクリーンで区切った状態で行われたことである。まるで生身の人間がミク側(デジタルワールド)に渡ろうとしているようで、さながら映画の『トロン』を彷彿させた。


そしてこのイメージは、続く楽曲「らしさ」でさらに加速する。MCのSHUNとミクの2人がスクリーンの裏で対峙し、共にリリックを紡いでゆく。観客側から見ると、2人は“同じ次元にいる”ように感じられるのだ。メロウなトラップビートに乗せ、スムースな旋律を歌う両者は、様々な意味で対等な存在だった。


CONDENSEと初音ミクが同次元のアーティストとして結実したのは、アンコールの「Overlap」だったように思う。1曲目に披露されたときはミクのソロだったが、ラストでは“全員バージョン”で行われた。それはバトルでありながら、デュエットであり、紛いなきコラボレーションだった。オーディエンスもこの日一番の盛り上がりを見せ、ペンライトがそこらじゅうで狂喜乱舞していた。そこには目頭が熱くなる光景が広がっており、境界を打破するという「MIKU BREAK」の本懐は達成されていた。様々な文化圏からCLUB CITTA'にやって来た老若男女が、CONDENSEとミクに声援を送る(もちろん声援は送っていないが)。この日、壊された境界線はひとつではない。

会場をあとにしてからも、Spotifyで「MIKU BREAK」のEPを聴き続ける程度には、今も筆者はこのプロジェクトに喰らっている。恐らく同じ思いの人がいるはずだ。最後にひとつ書き残しておきたいが、シンプルに曲が良かった。

取材・文:Yuki Kawasaki



<MIKU BREAK er.1.0>

2022年2月24日(木)
 夕方公演:16:15開場 / 17:00開演 / 18:00頃終演予定
 夜公演:19:15開場 / 20:00開演 / 21:00頃終演予定
会場:川崎CLUB CITTA’
出演:初音ミク / CONDENSE
URL:https://mikubreak.com/


■EP『MIKUBREAK ver.0.9』
2022年2月24日発売
https://karent.jp/album/3114
1.Overlap
2.Shower
3.らしさ
4.SPACE
5.BREAK OUT
(C)CFM / (C)T&S
※「VOCALOID(ボーカロイドは)ヤマハ株式会社の商標登録です。

◆<MIKU BREAK ver.1.0> オフィシャルサイト
◆「CONDENSE」 オフィシャルサイト
◆EP『MIKUBREAK ver.0.9』レーベルサイト
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