【対談】tofubeats&ケンモチ(水曜日のカンパネラ)、「アニソンは僕らの世代のレアグルーヴ」

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GraphersRockがデザインした、ラムのラブソング(Reboot)Mimixジャケット

年が明けて2022年になると共に、『うる星やつら』が再びテレビアニメ化されるとのニュースが駆け巡った。諸星あたる役を神谷浩史、ラム役を上坂すみれが担当。現時点では具体的な日時などは発表されていないものの、2022年中に「ノイタミナ」枠ほかで放映がスタートするようだ。(フジテレビ毎週木曜24:55からの深夜アニメ枠)

アニメ版の『うる星やつら』は2021年で40周年。そして、この再アニメ化はコミック版の出版元である小学館の創業100周年を記念したもの。もはや海外でも人気を獲得しているクラシックな作品だけに、その話題性は国内に止まらないだろう。もちろん、主題歌の「ラムのラブソング」も、いまや世界的に知られる楽曲に成長している。

偶然にも時を同じくして、その作曲者である小林"mimi"泉美は、「ラムのラブソング」をセルフカヴァー。そして、そのリミックス・ヴァージョンを連続リリースする企画を実施した。その名も「ラムのラブソング(Reboot)Mimix」。原曲は松谷祐子が歌ったものだったが、今回はミミ本人がヴォーカルも担当。いまヨーロッパで再び盛り上がりを見せているジャングルでアレンジし、関西を拠点に活動するトラックメイカーのLimited Tossがジャングル・ビートを制作。2021年の11月17日にミミ自身のオリジナル版が配信スタートし、そこから2ヶ月ほどの間に、3人のリミキサーによる3曲入りのEPを配信。現在、世界各国の9名のリミキサーによる9トラックが公開されている。

今回はそのリミックスに参加していただいた、日本を代表するトラックメーカーのおふたり、水曜日のカンパネラのケンモチヒデフミとtofubeatsの対談をお届けする。tofubeatsはまだ高校生だった2008年に<WIRE 08>に出演するなど、平成生まれのトラックメーカーとしてメジャーシーンとも頻繁に絡みながら、日本のクラブシーンを盛り上げてきたシーンの第一人者。ケンモチヒデフミは、水曜日のカンパネラの頭脳として、微妙に停滞感のあった2010年代前半のシーンを大いに沸き立たせたソングライター/トラックメイカー。今回の音源制作の話から、2000年代以降のアニメを絡めた日本の音楽的感性の変化の話まで、興味深い話が次々に飛び出した。


小林”mimi"泉美 photo by Bohan

■オリジナルにない良さをどこに出そうかって思うと
■変化球っぽくなるのかな

ケンモチヒデフミ:tofubeatsさんとゆっくり喋るのって初めてぐらいですよね。

tofubeats:喋ったのめっちゃ前な気がするんですよ。

ケンモチヒデフミ:名古屋の"リゾビル"で会ったのかな?

tofubeats:あ~、"リゾーム・ビルディング"で会ったのかな。そういうクラブのイベントでちょいちょい会って、道端でちょっと喋ってぐらいの感じだったはずなんで。

──さて、「ラムのラブソング」はいろんな人がカバーしていて、楽曲としても有名なわけですが、もちろん『うる星やつら』の主題歌でもあり、アニメのイメージというのも強くあると思います。今回はミミさんがレコーディングし直したものとはいえ、そういうアニソンのアイコン的な曲をリミックスしていただいたわけですが、いかがだったでしょうか?

tofubeats:ケンモチさんいかがですか(笑)。

ケンモチヒデフミ:急に話を振ってきた(笑)。僕は原曲にめちゃくちゃ思い入れがあったっていうわけではなかったんです。ミミさんの息子さんのSKYTOPIA君とは前から繋がりがあったんですけど、たまたま友人がミミさんのライブに行きたいって言っていて、じゃあ僕もって行ったときに、SKYTOPIA君から「実は母なんですよ」って。それで多分オファーをいただいたのかなと思ってます。そこからミミさんとSKYTOPIA君と、一緒に観に行った友人と、奇妙なリンクが始まって、これはなんか楽しそうだなと思って、あまりプレッシャーなくやらせてもらえたかなって感じですね。

tofubeats:自分も『うる星やつら』は全然後追いで、往年の名曲っていうプレッシャーはあるんですけど、原曲を触るってわけでもなかったので。しかも(音源)データもらったら、何か聴き馴染みのあるっていうか、手に馴染むタイプのジャングルが送られてきたみたいな感じだったんですよ。実は、その新しいジャングル・バージョンを作ってるLimited Tossさんは僕の大学の先輩で、バリバリお世話になってた人だったんですよ。ほんとたまたま。音楽研究部っていう部活なんですけど、そのリミトスさんが部長をやってるときに大学1年生で入ってきたのが僕で。今回のジャケット・デザインをやってるGraphersRockさんにも、僕の作品のデザインを昔からずっとやってもらってて、そういう意味でも個人的にはやりやすかったというか、ありがたかった仕事だなっていう感じです。

──ミミさんって人を繋ぐ才能がありますよね。

ケンモチヒデフミ:確かに不思議な人ですよね。僕、元々ミミさんを知ったのが、サウンド&レコーディング・マガジンの、海外のトラックメーカーを紹介していくみたいなコーナーで、そこでミミさんが、ロンドンとかの当時のIDMの人たちをインタビューしまくってたんですよ。2000年代前半ぐらいかな。

──1990年代に日本のソニーで、ヨーロッパのテクノ系のレーベル、R&S、WARP、Compostとか、ああいうのがまとめて出たときがあったんですけど、あれをコーディネートしたのがミミさんなんですよね。逆に、石野卓球さんとかを海外に出したのもミミさんっていう。

Tofubeats:いやすごいっすよね。ソニー・テクノの立役者っていうことですよね。


──それで、実際にリミックス作る作業はいかがでしたか?

ケンモチヒデフミ:最初、お話をいただいて、ジャングルのリミックスを聴いて始めたので、アグレッシブなやつは既にあるから、僕は割と原曲に即した形のリミックスをやろうかなと思って。ミミさんの歌が割とラテンのノリで、グルーヴが後ろに引っ張られるような感じなんです。ここをちょっと活かしたいなと思って。あと、クラブでも使えるようにベース回りを太くしたんですけど、他の方々のリミックスを聞いたら、ベースを出しすぎると重心が変な方向にいって、ヴォーカルのその後ろノリの良さが回らなくなるなって後で気付いてしまったっていう(笑)。

tofubeats:僕はボサノヴァとラヴァーズ・ロックを強引に合わせてみたんですよ。コロナで全然クラブに出てなかったんで、クラブ・ユースにしないで、プレイとか一切考えない感じにしようって。0秒目から声が入ってるみたいな感じの、日本の企画盤に入ってるようなおもしろリミックスみたいにしたいなって思ったんですよね。展開も途中で変わる方がいいなってことで、2曲作ってがっちゃんこみたいな感じで。自分的には結構いいなと思ってるんですけど。何より原曲のジャングルが相当ハードなんで、何やっても大丈夫そうだったのが、すごい助かりましたね。

ケンモチヒデフミ:あれが幅を広げてくれましたよね。

Tofubeats:ジャングル・バージョンに実際使われたやつは、ボーカルがめっちゃエディットされてましたよね。それと加工が入ってないバージョンのアカペラと両方いただいて、自分はドライ(加工をしていないデータ)の方を使ったんですけど。この加工をしてあった方を使った方がよかったかなって、結構最後悩んだんですけど。


ケンモチヒデフミ:僕は最初、ウェット・バージョンしか素材をもらえてなくて、これ使っちゃうと前のやつと差が作れないなと思って、ドライ・バージョンももらえますか?って言って。

──ケンモチさん、いちばん最初のひとりでしたからね。

tofubeats:ああ、ケンモチさんのパワーでオレにドライが回ってきたんだ。ありがとうございます(笑)

ケンモチヒデフミ:tofubeatsさんのミックスの、「ああ~男の人って~」からの抜け感がめっちゃ良くって、そこのアレンジすげえ好きなんですよ。

tofubeats:なんかムード音楽みたいなのを狙ってたんですよね。でもケンモチさんのリミックスも、めっちゃクラブ・ユースってわけじゃないじゃないですか。鳴りはハードなんですけど、いい感じで在宅具合が高まってきて。打ち込みはすごいやってるけど、クラブは言うほど行ってないみたいな感じが今回の全リミックスに表れてて、企画としてよかったなと思ったんですけど。

ケンモチヒデフミ:確かに。ベースが出ても何かキックさえ強くなければ、割とソフトに聞こえるという。今の時期に即したみんなの気持ちが表れているんでしょうね。


tofubeats:超絶アンセム狙いみたいなのがない感じも結構面白かったな。

ケンモチヒデフミ:原曲がめちゃくちゃアンセムだから。

tofubeats:みんな割と変化球っぽい感じできてるのは面白いなって感じがしました。

ケンモチヒデフミ:オリジナルにない良さをどこに出そうかって思うと、ちょっと変化球っぽくなるのかな。

Tofubeats:あとここで触れていいのかわかんないすけど、サイケアウツさんのやつがあるじゃないですか。あれをやっぱり親の声ぐらい聴いて育ってきた身としては(笑)

ケンモチヒデフミ:(笑)

──サイケアウツは関西のアンダーグラウンド・シーンをベースに活動してたグループで…あれはテクノと言っていいんでしょうか。「ラムのラブソング」もやってましたね。

tofubeats:関西で若手時代を過ごすと、あの曲を聴きまくることになると思うんですけど。あれもあって原曲もあってってなったときに、自分ができるアプローチはかなり限られてくるなってのは正直思いましたね。

──ちなみにおふたりは他の方のリミックスも聞かれてますか。

ケンモチヒデフミ:みんなかっこよかったですね。

Tofubeats:自分と似たようなアプローチでいうと、安西(史孝)さんのやつとか。


──安西さんは『うる星やつら』の最初のアニメ版や映画版の音楽を作ってらっしゃった方で、1980年代にフェアライトを日本に持ち込んだ最初の人ですね。

tofubeats:やばいですね。

ケンモチヒデフミ:いやマジですごいな。

tofubeats:手先でちょろちょろじゃない、この堂々としたこのリミックスの感じってのは結構大きいなと思いますね。

ケンモチヒデフミ:サイモンガー・モバイルさんのもめっちゃ面白かったですね。まさにリミックスってこういうことだよなっていう。

Tofubeats:ああ、あれ最高でしたね。

──サイモンガーさんは、任天堂のDSとか、ゲーム機でファンク・ミュージックを作ってる人なんですよ。それで自分で歌って、奥さんがメロディオンを弾いて。で、曲の最後に必ずジングルを入れるのがお決まりで。

tofubeats:やばいですよね。サウンドタグ。

ケンモチヒデフミ:俺がリミックスしたぞっていうのがね、曲聴くだけで分かるっていう。いいですよね。

tofubeats:自分もやってるんですけど、人のリミックスに自分の声入れるタイプの人、めっちゃ好きなんですよ。図々しくて(笑)。なんか自由を謳歌してる感じが出るんで、自分もよくやってしまうんですけど。タダノリみたいな感じがあっていいなぁって思うんですよ(笑)。

ケンモチヒデフミ:しかもイントロから自分の声を被せていくってなかなかですよね。

tofubeats:喋りからっていうのがめちゃいいんですよね。


■絵の方が現実よりも省略されてるから、
■雑多な世界がシンプルに表現できる

──『うる星やつら』は1980年代に放映されていたわけですが、その後だんだん日本のアニメは海外に輸出されるようになっていきますよね。それと共に、日本の音楽が海外に出ていくのはだいたいがアニメ絡みで、そういうところでアニメの存在感の大きさって結構あると思うんです。tofubeatsさんのジャケットは必ずイラストですし、水曜日のカンパネラの場合も、コムアイさんがアイコンみたいな感じというか、キャラとしてすごく立ってる感じがありました。音楽に到達する前にワンクッションある感じは、アニメとアニメ音楽の関係にも似てるのかなと。そういうところから、どんなスタンスで創作されているのかなと思ったのですが。

tofubeats:難しいですね。イラストを使ってるっていうのはそうなんすけど…。


tofubeats

──1980年代までは音楽とアニメを絡めるっていうのは、あんまりなかったんですよね。むしろ、アニソンは下に見られる傾向がありました。それがいつの間にか全部混ざっちゃった感じがあると思うんです。

tofubeats:僕の世代(1990年生まれ)ぐらいから後は、そういう偏見とか全然ないんじゃないですかね。クラブでJ-POPかけてもいいよ、アニソンかけてもいいよみたいなのがちょうど出来上がったぐらいで、僕らが天然でそういうのをかける奴として出てきた第1世代。ひとつ上の世代の人たちに、昔は大変だったんだよって聞かされるみたいなのが、僕ら1990年前後の平成初期生まれなんですよね。さっきツイートを調べたら、僕は2009年に『うる星やつら』を全話見てたんです。「大学が暇なんで『うる星やつら』を全話見ます」って書いてる。DJとしてやってたアカウントにそういうこと書いてるくらいなんで、単純にユースカルチャーになっちゃってるのかなっていう気はします。ケンモチさんぐらい上になると、どうですか。

ケンモチヒデフミ:僕は1981年生まれなんですが、10代の頃まではアニソンと街中で聴く一般的な音楽ってちょっと乖離があったような気はしていて。そういうのが徐々になくなっていったのが、多分、菅野よう子さんの「カウボーイ・ビバップ」(1998年)とか、『攻殻機動隊』(2002年)。いわゆるクラブ・ミュージックとかジャズの文脈が入ってきて、アニソンでもこんなカッコいい音楽があるんだよっていうのを、当時のオタクの人とかが布教していって、どんどんイメージが中和されていったのかなっていう印象があります。あと、やっぱりニコニコ動画と初音ミクじゃないでしょうか。おそらくそこから入ってる世代にとっては、人間の生声とかの方が違和感あるくらいになっている。水曜日のカンパネラを始めたときも、コムアイは元々音楽の経験も音楽をやりたいっていう意志もあったわけでもなくて、グループになったときに、僕らが担げるいいお神輿が必要だったんですよ。そういう御神体的なところに、おそらく初音ミクや「ラムのラブソング」のラムちゃんも、あったんじゃないですかね。シンボル的な。今はそれがどんなお神輿かによって、お祭りのムードとか、行きたいイベントかどうかが変わってくるから、すごい大切な要素になってるんだと思います。tofubeatsさんが今まで出されてたジャケットとか全部、実写だったら多分イメージ変わってますよね。

tofubeats:今年に出るやつから、イラストなんですけど自分の顔に変わるんですよ。でも今までもモチーフはずっと美少女ってわけでもなくて、イラストではあるけど神輿ってわけでもないし、オブセッション的なものが描かれてるわけでもなく…。なんでイラストにしてるんだろうっていう根本的な問いに今ぶち当たってる(笑)。でも、絵の方が現実よりも省略されてるじゃないですか。なんで、イメージを想起させるものではあるなと思うんですよ。あとは逆に省略されてることによって、雑多な世界がシンプルに表現できるっていうのがあるじゃないですか。アニメからちょっと離れるんですけど、最初に決めた人たちとやりたい、続けることが大事だと思ってるんで、イラストレーターの山根慶丈さんとデザイナーのGraphersRockさんにお願いするってことだけは常に決まってて、何を書くかっていうのはイラストレーターさんのムードに委ねたいっていう感じなんですよね。

ケンモチヒデフミ:あの登場人物って全部同じ世界観の中にいる人たちなんですか?

tofubeats:そういうのも全然決まってないし、決まってたとしても僕はそれを聞かないっていうルールになってます。出てきたものに基本文句は言わない。お互いお題を出し合って、類推し合ってやるっていうのが面白い。そういう高度なコミュニケーションを取れる人って一握りなんで、そういう人と続けてずっとやるっていうスタンスですかね。

──コラボレーションの感覚の方が強いって感じですか。

tofubeats:そうですね。チームとも思ってないし。大喜利の出し合いみたいなもんやと思ってるっていうか。リミックスもそうだと思うんですけど、答えを見せて、またその答えを見て向こうが考えるみたいなのが面白いって思ってるんで。

ケンモチヒデフミ:この創作のキャッチボールをしてる間に、いい意味で勘違いの飛躍が起きて面白くなるみたいな。

──毎回同じイラストレーターの方だと、自然にテイストが整ってくるじゃないですか。だからこれが自分の顔代わりというか、そんなイメージなのかなと思ったんですけど。

tofubeats:自分の場合はそういうのとは違うんだなってことを、今日話してて気付きました。あと、顔としてちゃんと重要視してくれてたんやねって。


ケンモチヒデフミ(水曜日のカンパネラ)

■アニソンはもうクラシックというか、
■レアグルーヴ

──こんなアニメが好きでしたとか、こんなアニメ音楽に影響されましたみたいものはありますか。

ケンモチヒデフミ:さっきも言いましたけど、菅野よう子さんの一連の作品が入り口になりましたね。高校のときにやってたバンドのドラマーがハードロックとかメタルを聴いてたんですけど、その彼がめっちゃいいから聴いた方がいいよって『ブレンパワード』(1998年)のサウンドトラックを貸してくれたんですよ。それも菅野よう子さんが担当されてるんですけど、「愛の輪郭(フィールド)」っていう曲がいいなって思って聴いてたりとか。あとは、その繋がりで『マクロスF』(2008年)とか。若い頃の自分だったら、よくわかんないなと思ったかもしれないですけど、いろんな音楽を一周ぐるっと聴いて、クラブ・ミュージックとかも聞いた後に、アニソンってめっちゃエモいなって気づいて。『マクロスF』のアニメも全部見て、曲聴きながら涙してましたね。

tofubeats:いい話だなあ。

ケンモチヒデフミ:あとニコ動で「完全勝利する淫夢くんUC」っていう、『ガンダムUC』(2010年)のテーマ曲をバックに、お猿さんがくすぐられて手をぐーっと上げるネタ動画があるんですけど、どんなしょぼいシーンでも、『ガンダムUC』の壮大なテーマ曲を当てるとめっちゃ盛り上がって見える。弾幕でも「まだ早い」とかネタのコメントがあって。そういうネットミーム的な面白さは日本らしいなっていうのがありました。あとは『東方Project』(1作目は1996年)っていうZUNさんっていう方が作ってたキャラが全員美少女のシューティング・ゲームがあるんですけど。その音楽のファンがめちゃくちゃ多くて、ジャズ・アレンジにしたりクラブ・ミュージックにしたり、勝手にメロディーに歌詞や歌を乗っけるっていう『東方Project』のゲームの音楽だけのサークルでイベントが開かれるぐらい一大ムーブメントになって。

tofubeats:同人といえば、みたいな感じですね。ここ15年ぐらいの。

ケンモチヒデフミ:「東方アレンジ」って言われたんですけど。その感覚はリミックス文化でもあるから、日本ってすごい面白いところにいるんだなって感じて、めっちゃチェックしてましたね。

tofubeats:「ゆっくりしていってね」っていうネットミームがあると思うんですけど、あれの元ネタも『東方Project』ですよね。

ケンモチヒデフミ:「ゆっくり解説」ですね。

tofubeats:この東方のメイン・キャラのふたりが対話形式でいろんなことを説明してくれるという動画があるんですよ。二次創作が作られすぎて、最終的に今ああいう形になってるっていう。いまこの動画を作ってる人は、もはや『東方Project』のキャラっていうことすらも知らないと思うけど。

──そういう動画結構ありますよね。アニメの女の子が2人で解説してくれるやつ。

ケンモチヒデフミ:あの子たちは、最初はシューティング・ゲームのキャラだったんです。

Tofubeats:僕が音楽始めたときは、もう完全なる東方全盛期、ニコ動黎明期だったんですよ。僕のキャリアのスタートはアニメ音楽のサンプリングで、大学生のときにレンタルビデオとかでアニメのアーカイブにいっぱい触れたんですけど、影響としてはでかかったけど、ちょっと前の作品が多かった。『エヴァンゲリオン』(1995年)とかもリアルタイムじゃないですし。GraphersRockさんから教わって見だした『少女革命ウテナ』(1997年)はめっちゃ好きで、未だにちょいちょい見返しますね。『エヴァンゲリオン』もそうですけど、編集して切り貼りしてグルーヴを作るみたいなとこは結構影響があるかもしれないですね。

ケンモチヒデフミ:tofubeatsさんは結構早い段階からジャージークラブ・リミックスとか作ってましたけど、ジャージークラブのリミックスって、割と原曲へのリスペクトが消えるじゃないですか。

tofubeats:そうですね、ドライに。

ケンモチヒデフミ:だから、アニソンをアニソンとして扱ってないリミックスの感じがめっちゃ良かったと思うんですよ。

tofubeats:それは若い人間特有のね、オタクと思われたくないという自意識が、せめてもの抵抗がそうさせてたかもしれないなって今になって思うんですけど。どうみてもオタクなんですけど(笑)。

ケンモチヒデフミ:抵抗感があそこでだいぶ薄まって、こんな使い方ができるんだなって。当時を思い返しましたね。

Tofubeats:あと、ケンモチさんやさらに上の世代からしたら、レアグルーヴみたいなものって、普通にちゃんとした音楽のことを言うと思うんですけど、僕の世代は10年前の音楽を探してもアニソンとJ-POPしかないわけで。ってなると、必然的にその割合も増えていくのかなっていう。だって、僕らが17~18歳の時点で『カウボーイ・ビバップ』は既に10年前とかなんで。名作なんで聴いた方がいいよって聴かされるとか、中学校の図書館で『エヴァンゲリオン』観るとか、そういう感じだったんですよ。

ケンモチヒデフミ:アニソン…そうですよね。たしかにクラシックというかレアグルーヴに近いような。

──『カウボーイ・ビバップ』の「TANK!」は、学校のブラスバンドのテーマ曲みたいになってますよね。

tofubeats:ああ、確かに多いかもしれないですね。

ケンモチヒデフミ:小編成のブラスバンドで、イントロからあんなにかっこよく始まる曲って、そうそうないんですよね。「TANK!」ってすごいそれに適してる。


菅野よう子/シートベルツ「COWBOY BEBOP」

──菅野よう子さんの音楽って、ジャズからワールドミュージックまで、もう何でもかんでも入ってるじゃないですか。あの自由さってアニソンを作ってる人にはすごい影響を与えていると思うんですけど、逆に、いわゆるちゃんとしたアーティストは不自由になっていってる気がするんですね。

tofubeats:アイドルとアニメは、お客さんはアイドル(の人)とアニメ(の作品)を見てるんで、曲は何でもいいって言ったらあれなんですけど、多少変なことをしてもバレない、みたいなことを誰かが発見したんでしょうね。例えば、ロック・バンドのライブに行ってロックじゃないことをやり始めたら、それはお客さんが求めてたものじゃないっていうか。それを誰かが発見して好き勝手やりだして、それを聴いた我々世代が、アニメ音楽は好き勝手やっていいんやみたいになって、どんどんそれが強化されていくみたいな。好循環なのか悪循環なのかわからないけど(笑)。実際自分がアニメの仕事するときも、”ど”ジャングルの曲をNHKに渡したけど、全然何も言われないのでOKかなとか。やっぱりアニメって何やってもいいんやみたいな(笑)。

ケンモチヒデフミ:ある時からアニソンがJ-POPの中で一番尖ってるジャンルになりましたよね。アニメのオープニングの限られた秒数の中でいかに爪痕を残すかみたいな。日本の音楽のBPMを速くしたのってアニソンだと思ってます。他の国はそんなに速い曲って流行らないんですけど、日本、特に渋谷界隈だけ異常にBPMが速い曲が流行るんですよ。規定の時間内にやるっていうルールがあって、情報量をとにかく詰め込んで、そこでみんなの耳が開発されたんじゃないかなと思います。

tofubeats:作曲家もコンペが多いと思うんですよね、日本って。海外とかだったらヴァースとコーラスを1分で入れればいいのを、Aメロ、Bメロ、サビってカルチャーがあるせいで詰め込む必要がある。そういうのはコンペ・カルチャーとアニソンによってできたみたいな。あと、アニメって実際よりも尺がシビアじゃないすか。だからそれによってどんどん暴走族みたいな感じになっていたんでしょうね。

ケンモチヒデフミ:インパクト暴走族みたいな感じで(笑)。どっちが面白い曲作るか勝負だ!って。アイドルとかでも、ももクロ(ももいろクローバーZ)さんとかがその走りだったと思うんですよね。

tofubeats:そうですよね。多展開構造。

ケンモチヒデフミ:ももクロさんのファンになった人たちって、アイドルファンじゃないんですよね。今まで普通にロックとか聞いてましたっていうおじさんとかが、こんな曲聞いたことないぞって集まってきて。今はそれがアイドルソングのフォーマットになってしまって、80’sとかのアイドルが歌ってたみたいな曲は、往年のアイドルソングみたいな。アイドルソングのイメージが逆転したかもしれないですね。

◆小林泉美「ラムのラブソング(Reboot)/万物流転」(spotify)
◆ラムのラブソング(Reboot)Mimix EP.1(spotify)
◆ラムのラブソング(Reboot)Mimix EP.2(spotify)
◆ラムのラブソング(Reboot)Mimix EP.3(spotify)

取材・文◎池上尚志


tofubeats『REFLECTION』

tofubeats

1990年生まれ神戸出身。人気アーティストと数々のコラボレーションや、カンヌ映画祭のコンペティション部門に出品された映画『寝ても覚めても』の主題歌・劇伴を担当するなど活躍の場を広げる。2021年から始まった「ラムのラブソング(Reboot)Mimix」にも参加。ニューアルバム『REFLECTION』5月22日発売。

ケンモチヒデフミ

1981年生まれ。2012年より「水曜日のカンパネラ」を結成し作曲・編曲担当。平井堅、ももいろクローバーZ、iriなど人気アーティストへの楽曲を手掛ける。映画『猫は抱くもの』の劇伴やCM音楽など幅広く活躍中。2021年から始まった「ラムのラブソング(Reboot)Mimix」にも参加。
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