【インタビュー+機材紹介】五味孝氏が語る、T-BOLANサウンドの変わらぬ本質「より血の通った音楽に」

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■メインはダンカンのテレキャスタイプ
■20~21歳のときからずっと使っています

──続いてギターソロについて話しましょう。『愛の爆弾=CHERISH ~アインシュタインからの伝言~』はテイスティーなギターソロを全編で味わえることも大きな魅力になっています。

五味:ソロもバッキングと一緒で、まず弾いちゃうんです。結果、1stテイクを活かした曲が結構あります。ただ、ソロバックのコード展開が難しくて、1stテイクだけではいけない曲もあるんですよね。“ええっ? 俺こんなコード進行考えていたっけ?”みたいになって、アドリブではいけないという(笑)。そういうときは途中までのアドリブのフレーズを活して、コードが複雑なところは改めてその場で考えて、最初からもう一回弾き直します。

──自然と出てきたものと、構築したものを融合させるんですね。印象的なフレーズや心に染みる泣きの瞬間が散りばめられたソロが多いので、事前に練り込んでいるのかなと思いました。

五味:それは全くないです。1990年代当時から今まで、事前に考えたソロというのはひとつもないんですよ。今回のアルバムでも、たとえば「My life is My way 2020」の1コーラス目が終わったところにロングトーンのテーマメロディーみたいなものが出てくるけど、それすらアドリブなんです。


▲Fulltone OCD/Y.O.S.ギター工房smoggy Overdrive
 写真左のOCDは“自分のアンプを使えない状況で、エフェクターの使用を余儀なくされる場合”を想定して開発されたオーバードライブ。クリーンアンプでもパワフルで芯のあるドライブトーンが得られるほか、深く歪ませた際にもピッキングのニュアンスが損なわれない。「OCDは結構ガッツリ歪むけど、僕はシングルコイルのギターを使っているのでOCDだけだと足りないんですよ。なので、smoggy Overdriveと併用しています」
 写真右のSmoggy Overdriveは伝統的なチューブドライブサウンドを再現するハンドメイドペダル。ギターやアンプの個性を最大限に活かした上で音色に磨きをかけてくれる。リッチなオーバードライブトーンを引き出せるほか、クリーンブースターとしても使用可能で、ローノイズを実現させていることも魅力。

──うーん、すごい……。印象的なフレーズもその場で出てくるし、泣きのギターも自然と弾けてしまうんですね。

五味:どうなんだろう? 泣いていますかね(笑)?

──泣いています。

五味:そう感じてもらえたなら嬉しいです。これもインタビューとかで話すことが多いんですけど、僕はギタリストとして自分自身を器用だと思っていたんですよ。いろんなジャンルを通ってきたし、結構なんでもできるよと。でも、レコーディングすると自分と向き合うことになって、そこで初めて不器用かもしれないって気づいたんです。

──そうでしょうか?

五味:たとえば僕は、イベント<Being Guitar Summit>に参加していて、増崎(孝司/DIMENSION、B.B.クィーンズ)さんとか、柴崎(浩/WANDS、abingdon boys school)君みたいに縦横無尽に弾く人と一緒に演奏する機会があるんですけど、そういう現場では“これしかできないよ、俺”みたいな気持ちになったりもします(笑)。それでいいと思っていますけど、どこかで“自分もああいうふうにテクニカルに弾いてみたい”という思いもあるわけで。たま~にそういうことにトライしてみたりもするけど、やっぱりダメなんですよね。

──テクニック指向になると音数が増えて、五味さんならではのエモさや“泣き”などは薄まってしまうかもしれませんね。

五味:そう。“俺はこれだよ”っていうものが消えなければいいけど、テクニカルになると消えてしまう気がして。だから、ああいうふうになりたいという自分もいるけど、これしかできないというところに落ち着くという。


▲idea sound product IDEA RTX/idea sound product IDEA BMX
 写真左のIDEA RTXはヴィンテージRATをブラッシュアップした1台。ゲイン/ハイゲイン/ローゲインというRATに近い3つのモードが選択可能。「RTXはシングルコイルとの相性がよくて、厚みがあって滑らかなディストーションサウンドが出せるんです」。今作では「愛の爆弾=CHERISH ~アインシュタインからの伝言~」「京恋歌」「声なき声がきこえる」などで使用。
 写真右のIDEA BMXはフェンダー・ベースマンの現代的解釈モデル。ファットなローを押し出しつつ、ゲインをフルにすると低音弦が絶妙に潰れた心地いいドライブトーンが味わえる。ミッドブースト/ノーマル/ベースブーストの3way仕様、RTX同様にハンドメイドだ。「フルテンにしてもほとんど歪まないので、プリアンプ的に使っています」。

──プレイの幅が狭いわけではないので、五味さんのままでいてほしいです。幅広さといえば、今作の「俺達のストーリー」や「ひとつの空 -no rain no rainbow-」「ありがとうのうた ~あいのたね~」などではボトルネックも披露されていますね。

五味:ボトルネック奏法は、誰かをコピーして学んだというわけではないんです。ボトルネックはオープンチューンにすることが多いけど、僕はレギュラーチューニングでやっていて、オープンチューニングにしたことすらない。つまり僕にとってのボトルネックは、ギターを歌みたいに聴かせるための手段でしかなくて。完全に自己流なんですよ。最近でこそ、スライドバーを薬指にはめるようになったけど、それまでずっと中指だったし。そもそもボトルネックって、弦高が高くないと弾きにくいでしょう?

──弦高を高くしたボトルネック用ギターをセッティングしてるギタリストもいますね。

五味:ところが、僕のギターは弦高が低いものが多いから、ボトルネックするとスライドバーがフレットにあたってカタカタカタという音が入ってしまうんです。だから、弦を押さえつけないように、なるべく柔らかくやるという(笑)。

──かなり意外です。というのは、同じボトルネックでも「俺たちのストーリー」はワイルドにいきつつ、「ありがとうのうた ~あいのたね~」はペダルスティール風とニュアンスを変えていますよね。

五味:ニュアンスは変えているけど、ペダルスティールをイメージしたわけじゃないんです。曲に合うなと思ったボトルネックを弾いただけなんですよ。


▲Vemuram Jan Ray/Vemuram SHANKS ODS-1
 写真左のJan Rayは1960年代のフェンダー・ブラックフェイス・サウンドが再現されたハンドメイドモデル。ギター自体のサウンドを尊重し、レスポンスの速さやピッキングニュアンスの再生性の高さ、飽和寸前のブーミーなドライブサウンドが特色。耳に心地よいハイと豊かなミドルを備え、ウォームでアダルトなトーンをクリエイトできる。今作では「京恋歌」でプリアンプとして使用。
 写真右のShanksはジョン・シャンクスのシグネチャーモデル。オーバードライブとディストーションの要素を融合した本機は、ウォームなオーバードライブからライトなディストーションサウンドまでカバー可能だ。

──形に捉われずに良質なギターを聴かせる辺りはさすがです。今回のレコーディングで使用した主な機材も教えていただけますか。

五味:メインギターは、ダンカンのテレキャスタータイプ。20~21歳のときに新品で買ったギターで、それをずっと使っています。フェンダーのテレキャスターとダンカンの決定的な違いというのは、要因としてたぶんピックアップが大きいんだと思うけど、フェンダーの音はクールなんですよ。一方で当時のダンカンは音が熱い。それに歪ませてもハウリング対策がしっかりできている。だから純粋なテレキャスターとはトーンが違うけど、すごく自分の好みな音がして、扱いやすい。そこを気に入ってずっと弾いています。

──新品のギターを長年にわたって弾き込んで、自身でビンテージにされたんですね。ブラックフィニッシュのフェンダーテレキャスターとの違いは?

五味:このテレキャスもすごく気に入っているけど、ライブでしか使わないんですよ。たしか1961年製かな。クールかつビンテージらしい温かみのある音がします。あと、今回のレコーディングではフェンダーカスタムショップのストラトキャスターもセットしていて。ストラトは音を揺らしたいときとか、ハーフトーンを出したいときに使っています。ハーフトーンはストラトじゃないと出せないですからね。

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