【プロミュージシャンのスペシャル楽器が見たい】Unlucky Morpheus FUMIYA、進化・増殖した多点ドラムセットはメロディを意識したプレイのため

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多数のタムやシンバルがぎっしりと詰め込まれた多点ドラムセットを操り、Unlucky Morpheus(あんきも)でスピーディなドラムプレイを聴かせているのがドラマーのFUMIYA。その原点がX JAPANのYOSHIKIモデルにあるというこの多点セットは、ドラムもメロディを意識してプレイしたいという彼のこだわりを存分に詰め込んだものだ。多点セットならではのセッティングの悩みや音色に対するこだわりなど、このドラムセットについてFUMIYAに大いに語ってもらった。


――FUMIYAさんといえば多点セットのドラム。今日はそのセットについて色々と聞かせてください。

FUMIYA:僕が今使っているのはTAMAのドラムセットです。もともと僕は、X JAPANのYOSHIKIさんがきっかけでドラムを始めたんです。

――それでYOSHKIさんと同じTAMAのドラムを。

FUMIYA:そうです。僕がドラムを始めたのは中学生のころなんですが、実は2バス4タム2フロアというYOSHIKIモデルのドラムセットが、それ以前からすでに家にあったんです。

――なぜそんなドラムセットが家に?

FUMIYA:姉が買ったんです。僕の姉はなんでも形から入ってしまう人で、X JAPANのファンだからってドラムセットを買ってしまった。それがTAMAのロックスターデラックスのYOSHIKIモデルです。姉は結局ドラムを叩けなくてしまってあったんですが、それを僕が引っ張り出してきて使い始めたんです。

――そのセット、今は?

FUMIYA:今も使っていますよ。というか、そのセットの一部が今使っているセットに組み込まれているんです。バスドラムの片方とか、フロアタムとかは、当時のセットからそのままずっと使い続けています。


――今のセットの構成もYOSHIKIモデルを踏襲したもの?

FUMIYA:2バス4タムで基本的には同じですが、バスドラムは一回り小さい22インチに替えました。YOSHIKIモデルのバスドラムは口径が大きく24インチなので、連打を長いこと続けると疲れてしまうんです。僕は今ツインペダルを使っているんですが、それは連打が多い場合はバスドラムが1つのほうがタイトに決められるから。それで右足側のメインのバスドラムは22インチで作ってもらったんです。左足側のバスドラムはアコースティックセクションで数曲使用するだけなので、24インチのものをそのまま残しています。

――ほかに変えたところは?

FUMIYA:タムのサイズも変えました。YOSHIKIモデルって胴が深いタイプで、セッティングするときに色々とほかのものと干渉してしまうので、タムも特注しました。正確なサイズはちょっと覚えていないんですが、TAMAで作ってもらえる胴の中でもっとも浅くしてもらったと思います。タムの口径は6インチ、8インチ、10インチ、12インチです。さらにオクタバンという、筒状の長い胴のタイコも2つ追加してあります。あとフロアタムは今は16インチが1つだけなんですが、最近のレコーディングで18インチを足して2フロアでやってしまったので、今後はそういう構成になる可能性もありますね。

――本当に点数の多いセットですね。

FUMIYA:僕はフィルインを入れるときにも音程を気にしてプレイするタイプで、ドラムをメロディ楽器の感覚で演奏するところもあるんです。それで必然的に置くものが多くなってしまうんです。

――音程を気にするとなると、チューニングもシビアにしますか? ドラマーの中にはチューナーを使ってタムの音程を決める人もいますよね。

FUMIYA:いや、そこまではしないですね。チューナーを使う人もたしかにいますが、曲の中の音階と当たるかどうかをそこまで気にしてもしかたないし、そもそも曲が変わったり曲の中で転調したりすれば音階も変わりますよね。僕はピアノもやっていたので、音程については自分の直感も信じているんです。その直感で、自分の頭の中にある気持ちいい音程を目指してチューニングする感じですね。

――シンバルも多いですね。

FUMIYA:多いです。シンバルに関してはYOSHIKIさんの影響はあまりなくて、むしろ海外のドラマーからの影響が大きいですね。たとえばドリーム・シアターにいたマイク・ポートノイとか。スプラッシュシンバルとか重ねシンバルとか、エフェクトシンバルは海外のメタル系のドラマーがかなり参考になっていますね。


――多点セットを組むのに、どんな工夫をしていますか?

FUMIYA:僕は運がいいことに、ドラムを始めたときからフルセットがあったので、そのころからセッティングを研究していました。このタムとこのタムの間隔が何ミリ、こっちは絶対に何ミリって、もう測って決めていました。そのころは性格も細かかったので(笑)。最初からそういうところに気を遣っていたことが、点数が多くなってきた今、役に立っていると思いますね。身体の大きい海外のドラマーなら簡単に左右の端まで手を移動できるセットでも、僕みたいにそんなに身体が大きくないと、ちょっとでも余分なすきまがあると移動が大変になる。だからいかに無駄なスペースをなくすか、そこはつねに気にしていますね。

――ライブやレコーディングだと、マイクの配置も難しそうですね。

FUMIYA:そうなんです。PAさんには毎回苦労をかけていると思います。すき間が全然ないのに、こんなところにマイクを入れるのかよ、みたいな(笑)。位置もそうですけど、マイクのカブりも大変なんです。タムのすぐ上にスプラッシュシンバルがあるので、どうしても音がカブってしまうんです。あと、僕はフィルインのときにシンバル類をたくさん使うので、シンバルだけを別にマイキングしてもらうことも多いですね。自分の持ち味を出すのはそういうところだと思っているので、色々やってもらっています。ホントPAさんには毎回すみません、と(笑)。


――すき間なく色々なものが並んでいるというのは、FUMIYAさんらしい高速フレーズにも役立っているのでは?

FUMIYA:そうですね。本当はマイキングのためにも場所をもっと広くとってセッティングしたいんですが、あんきものドラムって速いフレーズが多い。だから移動のロスをなくすことが重要で、そのためにすべてのものを最低限の間隔で並べているんです。

――これだけ点数が多いと、セッティングも毎回大変でしょう。

FUMIYA:最初は大変でした。でも今はラックにすべて組んでしまっているので、楽になりました。一度セッティングを決めてしまえば、あとは毎回簡単に再現できますから。

――ラックはいつごろから使っていますか?

FUMIYA:TAMAのエンドーサーになったときからなので、5~6年前からですね。これだけの物量を普通の三脚のスタンドでやると足元がごちゃごちゃするし、見た目もカッコ悪いので使うことにしました。昔から海外のメタル系のドラマーにはラックを組んでいる人が多かったし、90年代のビジュアル系とかジャパメタ系にもラックの人が多かった。そういうのをずっと見てきたので、ラックに憧れていたというのもありますね。


――ラックだと、さらに色々なものを追加するのも簡単になりますよね。

FUMIYA:そうなんですよ! だからやっぱり色々追加したくなって、それでここまで増えてきたというのもあります。ただ、ラックだと周りを囲まれてしまうので、小さい会場だと出入りできなくなっちゃうんです。左側にもサブスネアがあるので、本当にもう牢獄(笑)。

――場合によって点数を減らしたりすることは?

FUMIYA:2バンドまでのイベントならフルセットを持っていきますが、3バンド以上の場合は、転換のことを考えて簡略化することもあります。そうなったときに最低限持って行くものも決めてあります。

――最低限だとどんなセットになるんですか?

FUMIYA:タイコは4タム1フロア、シンバルはスタックとスプラッシュ、ベルが必須で、それ以外はセットリスト次第ですね。左上のチャイナシンバルはあまり叩かないのでカットできるし、サブスネアも基本リズムを刻むわけではなくて、曲によっては1回出るかどうかということもあるので、カットすることはあります。


――音については、どんな特徴のあるセットですか?

FUMIYA:22インチのバスドラムと浅胴のタムはTAMAのStarclassic Performer BBなので、バーチとブビンガの合板です。ほかにはYOSHIKIモデルの深胴のセットしか使ったことがないので、音についてはあまりどうとか言えないんですが、BBは胴が分厚くできているので、胴がちゃんと鳴るドラムだと思います。ヘヴィメタルってタムのアタックだけが聴こえてくる場合が多いんですけど、ドラマーとしては胴の音もしっかり鳴らしたいですよね。でもこれは胴が感じられて、自分の好きな中音域がちゃんと鳴ってるな、と思います。

――たしかに、FUMIYAさんのドラムはナチュラルな音が特徴ですよね。メタル系だと、バチバチっとアタックだけが聴こえるドラムが多いんですが、それとは違う。

FUMIYA:そのバチバチの音、嫌いなんです。バチバチのアタックではなくて、胴の音、ヘッドの皮の音、ボワンというタムの丸い感じもちゃんと残してほしい、そういつも言っているんです。

――タムにクリアヘッドを使っているのも、丸みのある音を狙っているからですね。

FUMIYA:そうです。あの音は好きですね。僕はドラマーとして胴のある楽器を叩いているんだから、胴もちゃんと鳴らしたいんです。だからPAさんは大変だと思いますよ。同期モノがガンガン鳴ってギター2本にバイオリンもいて、色々な音の帯域が埋まっている状態ですから。でもそこは僕の中では譲れないところなので、つねにバランスのとれるところを探っている感じですね。

――スネアもハイピッチで抜けが良いけどナチュラルな音ですね。どんなスネアを使っているんですか?

FUMIYA:この3~4年、メインで使っているのはブラスです。2000年代初めのウォーロードシリーズで、深さは6インチです。メタル系だからハイピッチ気味にしてスネアの抜けを良くしたいんですが、さらにふくよかな感じも欲しかったんです。とすると、スチールよりは中音域があたたかいブラスがいいだろうと。

――これはどんなきっかけで入手したものですか?

FUMIYA:これ、摩天楼オペラというバンドの前のドラマーだった、悠さんという方に譲っていただいたものです。悠さんはもうドラマーを引退されちゃったんですが、引退のときに譲り受けたものなんです。

――そうなんですか。

FUMIYA:はい。悠さんはジストニアで手が動かなくなって引退されることになって、摩天楼オペラでの最後のライブがあったんです。僕は泣きながらずっと見ていたんですが、もう動かない手で力いっぱい叩いていた悠さんの音が忘れられなかった。その後、悠さんのお別れ会のときに悠さんとトイレで一緒になって、二人で並んで用を足しているときに泣きながら“あのスネアはオレが引き継ぎたい、オレにくれ”って(笑)。それでブラスとアルミの2つのスネアを譲ってもらって、それを今もずっと使っています。

――そのスネアは好きな音だったんですか?

FUMIYA:音色がどうというより、あの日の悠さんの姿がすごく強烈に印象に残ったということが大きいですね。ブラスの音はもともと好きだったし、深さは最低6インチないとダメだと思っていたので、その意味では僕の好みに合うスネアでした。深さについては、音の抜けの良さを考えれば5インチとかもアリだとは思いますが、深いほうの音が好きですね。深いと音量も出ますし。


――スネアについて、ほかにこだわっているところはありますか?

FUMIYA:スナッピーですね。これは絶対に響き線が42本のもの、と決めています。

――42本はかなり多めのタイプですね。

FUMIYA:そうですね、僕は胴の音を鳴らしたいので、スナッピーをゆるめにしているんです。そうすると、本数が少ないとスナッピーにかからないでポンポンした音になっちゃうんですが、42本くらい多ければ、ちゃんとスナッピーのザラザラ感が出るんです。

――これの前にメインで使っていたのはどんなスネアですか?

FUMIYA:えーと、なんだったかなあ(笑)。正直、それまではあまりスネアにこだわりはなかったんです。というのも、ふだんの練習とかイベントとかだと、スネアよりほかに持って行きたいものがあったので(笑)。

――普通、一番にスネアですよね(笑)。

FUMIYA:普通のドラマーはまずスネアでしょうけど、僕は小口径タムとかエフェクトシンバルとか、飛び道具的なところで違いを見せようと決めていたので。スネアならスタジオにもライブハウスにもある、だったら替えがきかないもの、ツインペダルとかエフェクトシンバルとかを持って行きたいと。

――サブスネアはどんなものを?

FUMIYA:口径が12インチ、深さは5インチか5.5インチだったと思います。サブスネアに関してはあまりこだわりがないですね。小口径タムと同じ感覚でおもにフィルで使うので、ハイピッチでコロコロころがるような音にしています。

――ところで、練習はどこでどんなふうにしているんですか?

FUMIYA:自宅です。ローランドの電子ドラムのフルセットがあるので、それで練習しています。

――電子ドラムもやっぱり多点セットなんですか?

FUMIYA:そうです。写真をお見せしますけど、ローランドの方からも、電子ドラムでこんなセットを組んでいる人はほかに見たことがないと言われたくらいで(笑)。

――これはすごい! それにしても、これだけ点数があると1つのモジュールではコントロールできないですよね?

FUMIYA:モジュールは3つ使ってMIDIで連携しています。さらにパソコンにもつないでいるので、これでレコーディングもできちゃいます。ドラムを始めたころに親戚から電子ドラムのセットをもらって色々やっていたので、MIDIの使い方とか、そういうのもそのころから理解していましたから。


――これはいつもの生ドラムと同じ構成なんですか?

FUMIYA:いや、ふだんのセットよりも点数が多いんです。ホントは生ドラムもこのくらいの多点セットにしたいんですけど、マイクの本数とかを考えると現実的にはまだ無理かなと。スタジオで練習するにしても、毎回あのセットを持ち込むわけにはいかないので、自宅にこの点数のセットを置いて練習できるようにしているんです。セッティングも、この電子ドラムの配置に準拠して生ドラムのセットを組んでいます。だから自宅の電子ドラムでどこに手を伸ばせばどこに届く、みたいなことを身体に叩き込んで、それから生ドラムに向かう、という感じになっていますね。


――スティックについても教えてください。

FUMIYA:TAMAで作ってもらった僕のシグネチャーモデルを使っています。シグネチャーモデルって、試作品を作ってもらってから何回かやり取りをするんですけど、僕はあまり何回も再調整をお願いしたので、TAMAの方にも驚かれました。

――どこをそんなに調整したんですか?

FUMIYA:一番こだわったのはスティックのショルダーの部分ですね。スティックの先端に向かって細くなっていく部分なんですが、できるだけ先に行くまで細くならないようにしてもらったんです。このショルダーの部分がもっともシンバルに当たるところなので、根元に近い位置から細くなっていくスティックだと折れやすいんです。それと、先まで太さがあることで重心が先端のほうにいくので、軽く振ってもスティックの重さで強く叩けるんです。高速のフィルをやるときに、そのほうが身体が楽なんです。あと、チップはナイロンにしました。金モノをたくさん使うので、その音を際立たせたかったから。でもここはギリギリまで悩みましたね。ナイロンにするとタムの音も変わってしまいますから。

――ナイロンチップはアタックが強いのでバチバチッという音になりますよね。

FUMIYA:そうなんですよ。そういう音は好きではないんです。でも、やっているのがメタルというジャンルなので、最低限のアタックは出たほうがいいかなと思って、ナイロンにしました。

――スティックには梵字が書いてあるようですが、なにを表しているんですか?

FUMIYA:これは千手観音です。やはり多点セットを使うドラマーとしては、あれだけ手があったらいいのにな、と思うじゃないですか(笑)。憧れの存在ですね。


――FUMIYAさんの多点セット、今後はどうなっていくんでしょう?

FUMIYA:電子ドラムと同じような点数のセットを生ドラムでも組みたい、というのがひとつですね。それと、シンバルについてもこれからまた追求していくことになると思います。というのは、まだ日本ではあまり知名度が高くないんですが、AGEANというシンバルメーカーのエンドーサーに最近なったんです。AGEANシンバルって、ハードロックとかメタル向けも含めてすべてオールハンドメイドなんです。豊洲PITのライブのときにフルセットでAGEANを使ったんですが、音がものすごく良かったんです。このメーカーと出会って道が開けた気がしますね。

――オールハンドメイドだと、シンバル1枚1枚の個体差もかなりありそうですね。

FUMIYA:そこが好きなんですよ。僕は“一期一会”みたいなことがすごく好きで、同じ音のシンバルは2枚ない、っていうほうがロマンがある(笑)。良い個体に当たったときは割れてほしくないって思いますけど、割れたら割れたで運命だし、そういうのが自分の生き方には合っているのかなと思っています。

――では最後に、FUMIYAさんがドラマーとして大事にしているところは?

FUMIYA:ドラムはメロディ楽器だ、というところですね。もちろん、ビートをおろそかにするつもりはありませんが、メロディックスピードメタルってドラムが面白くないことが多いなあと思っていたんです。ドッタンドドタン、ドコダコドコダコ、みたいなのばっかりで(笑)。それが僕は好きではなかったので、このバンドを始めたときからそれだけはやるまいと思っていたんです。だから誰も聴いたことがないようなフィルを入れるとか、ギターソロが上昇フレーズなら僕もタムで上昇していくフレーズを叩くとか、メロディっぽいドラムを叩こうと。でもやはりバンドのメインはボーカルなので、ボーカルがサビでハイトーンを張り上げているなら、それとカブるようなエフェクトシンバルは絶対に使わない、みたいに、メロディに対してどういうドラムを叩くか、ということをいつも考えてやってきたつもりです。

――FUMIYAさんのドラムは単にリズムを出すだけの打楽器ではない、と。

FUMIYA:そうですね。これだけの点数を置いている理由というのが、そこにあるんです。

取材・文●田澤仁


▲Unlucky Morpheus(写真左より:仁耶、小川洋行、Fuki、紫煉、FUMIYA、Jill

リリース情報


『evolution』
価格:2,800円(税抜)
品番:ANKM-0041
01. evolution
02. “M”Anthem
03. アマリリス
04. Welcome to Valhalla
05. 誰が為に
06. Wer ist Faust?
07. The Black Death Mansion Murders
08. Serene Evil
09. “M”Revolution
10. 夢幻


『“XIII”Live at Toyosu PIT Blu-ray』
価格:5,000円(税抜)
品番:ANKM-0038
01. Unfinished
02. Unending Sorceress
03. Near The End
04. 籠の鳥
05. Salome
06. Make your choice
07. Top of the“M”
08. Dogura Magura
―Violin Solo―
09. Carry on singing to the sky
10. “M”Revolution
―Bass Solo―
11. Spartan Army
12. Wings(acoustic)
13. 願いの箱舟(acoustic)
14. Vampir
15. Opfer
16. La voix du sang
17. Phantom Blood
18. Angreifer
19. Change of Generation
20. Knight of Sword
―Drum Solo―
21. Black Pentagram
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