【インタビュー】松下優也、表現者のこだわりと果てなき欲求が詰まったカバーAL『うたふぇち 伝わりますか』

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俳優としても活躍の幅を広げる松下優也が、初の邦楽カバー・アルバム『うたふぇち 伝わりますか』を、3月30日にリリースする。1970〜2010年代の名曲と向き合い、バンド・メンバーとディスカッションをしながら作り上げたという渾身の10曲は、俳優として、アーティストとしての活動を重ねたいまだからこそできる表現や、こだわりを随所に散りばめた仕上がりとなっている。

◆松下優也 画像

■YOUYAができる前の自分だったら、
■松下優也という名前で出すカバー・アルバムは、この選曲にはなっていない


──松下優也名義でリリースするカバー・アルバム、ということで、昨年YOUYA名義で発表した『OVERTURE』とは異なる角度の作品という印象を受けました。まずは、『うたふぇち 伝わりますか』を作ろうと思ったきっかけを教えてください。

松下優也:カバー・アルバムはずっとやりたかったし、ここ数年、日本語の名曲に挑戦したい気持ちも凄いあって。18歳の時にデビューして13〜14年経ちますけど、ここ2年ぐらいで歌の伸びみたいなものを実感しているというか、昔に比べて成長したと自分の中では思っているんです。その大きなきっかけの一つは、役者としての活動だと思っています。役者、特にミュージカルの場合は、音楽からのアプローチと、芝居からのアプローチがあって、その中で自分自身の歌について気づいた部分もあったので、現在の年齢とキャリアを考えた時に、いまカバー・アルバムを出すのが、タイミング的に相応しいと思いました。

──2020年にYOUYA名義でアーティスト活動をスタートさせていますが、オリジナルで楽曲を制作することと、既存の曲のカバーに挑むことは、気持ちの上で違いはありますか?

松下優也:歌としての部分で言うと、オリジナルは一から構築する必要があるけど、『うたふぇち 伝わりますか』ぐらい名曲が揃ったものをカバーする場合は、オリジナル・バージョンも素晴らしいですし、あらゆる人がカバーしたものを聴けたりするので、その狡さみたいな部分はありますよね。このパターンはこう歌う、このパターンはこうやってる、このパターンはこういう演奏をしている、だったら誰もやってない一番いいやつをやろうってことはできちゃいますよね。オリジナルはそれがない。表現についての違いはそれぐらいですね。

──カバーをするにあたって、オリジナル曲はどれぐらい意識しますか?

松下優也:もともと聴いていたし、歌っていた曲がほとんどなんですけど、作品を制作する期間はあまり聴かないようにしました。メロディーを確認する上でちょっと聴いたりするぐらい。自分は耳がいい方だと思うので、その方の歌い方が自然と声帯に移って、歌い方にでちゃうんですね。だから、色んな人のパターンを聴きました。自分が大切にしているのは、メロディーやオリジナルに敬意を払いつつ、休符を意識しながら歌っていくことなんです。日本語って硬いし、英語みたいに一音のなかに単語が入るんじゃなくて、一音に一つの文字しか入らないから、そこに表現力の差が大きく出ますよね。あとは、もう一回自分の歌として構築していくことを一つ一つ丁寧に考えました。勢いに任せて歌うよりかは、ファンの皆さんはもちろん、ファン以外の方にもこのバージョンのこの曲が好きって思ってもらえるようにしたいし、他と似通ったものを作るなら、わざわざカバー・アルバムなんて出す必要ないので。

──確かに。バンドとのディスカッションにも反映されている部分だと思うのですが、具体的にどんなことを話しましたか?

松下優也:抽象的な表現で言うと、タイムレスなものにしたかったんですね。最近の曲もあれば古い曲もあるけど、1曲目から10曲目まで聴いて、最初に戻った時にずっと流しておける感じ、バラバラに聴こえないようにしたかったので、それはバンドメンバーの方に伝えました。そこから、キーを決めるところから始まって、どういう演奏にしていくかっていう打ち合わせを細かく重ねて、「この曲はこういう雰囲気で」って提案をもらったり、自分からアレンジの話もして、リファレンスみたいなのもありながら作っていきました。細かいところで言うと、「傘がない」は、ロックな感じではあるけど自分はR&Bも感じてたから、よりR&Bにしたい!とか。自分的にはこういうイメージの曲なんですよねって話もしたし。今回、ミュージシャンの方達が本当に大御所の方ばかりだったから、優しく全部受け止めてくれた感じです。


▲『うたふぇち 伝わりますか』初回限定盤

──収録曲の中で、特に印象に残っている曲や、難しかった曲はありますか?

松下優也:一番時間がかかったのは「ファイト!」です。登場人物がたくさん出てくる曲だから、一つのアレンジ、演奏じゃ表現しきれないと思って、時間をかけて音を探りながら進めていきました。それこそ自分が役者をやっているからこそできる表現があると思っているので、自分なりの解釈だけど、人物像をなんとなく想像しながら、ブロックごとに録りました。「ファイト!」が一番、芝居寄りかもしれないですね。あとは「ノンフィクション」かな。めっちゃいいなと思って聴いていたけど、いざ歌ってみたら難しい。同じメロディーを行き来するから、そのなかで表現の幅を作らなくちゃいけないし、単調に聴こえがちだから、そうならないように意識しました。

──「伝わりますか」は、タイトルにもなっていますよね。

松下優也:もともと洋楽が好きで、日本の曲はほとんど聴いてこなかったけど、ここ数年ですごい聴くようになって。特に好きな人を挙げると、男性は玉置浩二さんとASKAさん、女性は美空ひばりさんと、ちあきなおみさんなんです。だから、ASKAさんが作って、ちあきなおみさんが歌っている「伝わりますか」も、たくさん今まで聴いてきたし、元々好きだったから、選曲する時に一番に挙がった曲かな。まずこれ、みたいな。だからこそ、タイトルにも入れさせてもらいました。

──先ほど、「ファイト!」の表現が芝居寄りというお話が出てきましたが、役者と歌手という部分での表現の違いはありますか?

松下優也:正直、『うたふぇち 伝わりますか』と役者としての表現に関しては、割と近しいものがあると思っていて、だから松下優也という名前でやっているんですよね。YOUYA名義でもよかったけど、YOUYAはアーティストとして表現したいものを作っていく感じだし、それぞれに違いはあるんだけど、結局芯は全部一緒で、ベクトルがちょっと違うだけ。自分にとって、「芝居」「歌」「作る」っていうことが分散しているからこそ、枠に収まらないような表現がいまできているし、意図的に違いは作ってますね。YOUYAができる前の自分だったら、松下優也という名前で出すカバー・アルバムは、この選曲にはなっていない。もうちょっとバランスをとって、『うたふぇち 伝わりますか』っていうタイトルにもしていないですね。わかんないけど『YUYA MATSUSHITAなんちゃらかんちゃら…』になっていたと思う(笑)。

──そうなんですね(笑)。

松下優也:いまは表現を分けて、敢えて人格を変えることによって、「お前そのままでいいんだよ」って自分に対してやってあげられるというか。「YOUYA、媚びるな、お前は作りたいもの、かっこいいと思うものを表現しろ」「歌手としての松下優也は、YOUYAとしてできないもの、お前は歌としてだけ表現したいものをやれ」「芝居の時の松下優也は、かっこいいとか思われなくてもいいから、その作品の中で成立する人間であれ」っていうのを、全部分散できる。人格を意図的に分けられるという意味では全然違いますけど、それを敢えて意図的にやっているというか、それが自分なんですよね。以前は、こうでいなきゃいけないっていう部分を、自分の中で作っていたんですよ。10代からやってきたから変な固定概念みたいなものが出来ていて。だから今が楽しいですね、自分の中で分けてやっているから。

──先程、バンドのみなさんとの話し合いについて伺いましたが、制作するにあたって、こだわった部分はありますか?

松下優也:なんだろう、こだわる事がこだわりというか。自分がそこに立たなかったとしても、すごい人たちが集まってきてくれたから、なんとでも形にはなると思うんですよ。ただ、どれだけこだわって作ったとしても、出来上がった時に、「もっとああしておけばよかった」って思っちゃう。これは、すべての表現においてあるので、自分の中で明確な答えが見つかってなくても、とりあえず意見を投げるようにしています。そうしたら、これでしょって見つけてくれる人たちがいるから、俺も安心して言えるし。ライブや表現といったプレイヤーとしての楽しさもあるけど、制作していく段階が好きというか。舞台の稽古の時でも、演出家の方や他の人たちとディスカッションしながら対等にものづくりができている時が一番楽しいですね。

──なるほど。

松下優也:ダンサーにしてもスタッフにしてもミュージシャンにしても、何か気づいたこと、思ったことは言って欲しいっていつも話していて。自分が出したものがすべてだとは思わないし、自分にないものを持っている人たちが集まって、アイディアを出し合って、いい作品を作ることがゴールだから。自分が一方的に喋って、他の人の意見が何も出ない現場って、めっちゃ不安になる。俺、言ってること間違っているかな?みたいな。間違っていたらこっちの方がいいんじゃないかって言って欲しいし、自分も別に自分が正しいと思っているわけじゃないんで。今の自分の活動って、ある程度他力本願にならないとできないんですよね。全部自分で請け負っていくのは無理だし、ボールを自分に渡されたからって、100%ゴールまで持っていく必要はないじゃん?って。作るものの方が大事だから、現場でいろんな人の意見も聞きます。あと、わがままを結構言うようになったかも、この年齢になって。

──と、いうと?

松下優也:ものづくりの上でわがままを言っちゃいけないなんて、絶対にないですから。言うのはただだし、それで感じ悪く思われるのか、こいつもうねえわって思われるのか、それがこだわりなのかわかんないけど、自分の中での予定調和は壊さないと。今回のアルバムも、「傘がない」なんてレコーディングし直しましたからね。一回出来上がった時に聴いて気に入らないからもう一回レコーディングしたいって言って録り直しました(笑)。もちろんどこかで妥協はしなくちゃいけないし、「もういいでしょ」って言ってくれる人も必要だけど、自分が気になる部分を言うことによって、他の人たちも妥協したらあかんなって感じてくれるんじゃないかなっていうのもあるんです。本人がここまでいうなら、自分も思ってることを言おうってなって作っていく方がいいと思うから。

──みんなが言い合える環境を作ることが、一番難しくないですか?

松下優也:そうですね。僕も昔は言えなかったです。だから環境ってすごい大事だなと思います。もちろん、自分自身が成長した、変わった部分は大いにあるけど、それをやってくれている人が周りにいるからこそ、こういうやり方ができているので。少し話が変わりますけど、物事って、その時々でいいか悪いかの判断はできるけど、長い目で見ると、嫌なことが役に立つ場合もあるじゃないですか。自分もしんどいことや苦しいことも自分なりにはあったし、ああしておけばよかったって思う事もあるけど、だからこそ今こういう表現に辿り着けている部分は確実にあるし、感謝もしています。経験をしていないと表現の幅って狭まるし、わからないものは作れない。お芝居の場合も、芝居は嘘っていうけど、役として他人になりきることが芝居ではなくて、それを本物に持っていくことが重要だから、自分にない表現はできないと思うんですよね。

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