【俺の楽器・私の愛機】698「You are my rock.」

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【Fender USA American vintage 1957 Storatcaster (1997年製)】(東京都 Yujiro H. 46歳)


ギターを弾きたいとは思わなかった ただバンドがやりたかった。ボーカルをとれる程 歌はうまくなかったから 次にかっこいいのはギターだと思った。しばらくは友人に借りたギターを使った 見た目さえ良ければなんでも良かった。音の良し悪しなんてわからなかった アンプからデカい音が鳴って バンドをやれてるだけで満足だった。上手に弾きたいなんて思わなかった ただかっこよく弾きたいと思った。

初ライブを1ヶ月程後に控えた頃 人前で弾くにはもう少しまともなギターが必要だと思った。かっこつけたかっただけだろう 見栄を張りたかっただけなんだろう。その頃 たまたまライブハウスで見たバンドのギタリストがえらくかっこよかった。彼が肩からさげるギターはフェンダーのストラトキャスターと言うものだった。フェンダーのストラトキャスターは僕が思うギターそのもののルックスだった。

ローンを組むぐらいならと母が貸してくれた10万円を握り締め 御茶ノ水へ向かった。わからない事を店員に聞く事も ましてや試奏など出来る勇気もなく 急いでフェンダーのストラトキャスターを見つけ これくださいとだけ店員に伝え 逃げる様に持ち帰った。フェンダーのストラトキャスターを肩からさげ 鏡の前で構える僕は最高にかっこよかった。

バンドでメシを食っていこうなんてさらさら思ってもいなかったから 当たり前の様にバンドは解散し 当たり前の様に僕は就職した。部屋の片隅に追いやられ 壁にもたれ掛かるフェンダーのストラトキャスターは 引っ越しを機に押し入れの奥へとしまわれる事となった。

人間生きてりゃ不幸話のひとつやふたつは持ってるだろう。不幸自慢をするつもりも 他人の不幸にも興味はない。ただ僕は昼夜問わず働き続ける人生を余儀なくされただけだった。あんなに楽しかったバンドの青春時代を振り返る事も あんなに大好きだった音楽に耳を傾ける事も 僕にはそんな余裕は無くなっていた。

2011年 東日本大震災を受け 大好きだったHi-Standardが復活する事となった。胸が熱くなった 日本を元気にしたいと言った彼らの言葉通り 僕も元気になった日本人のひとりだ。その後 3人の活動を追いながら バンドをやっていた当時好きだった音楽を聞き返す様になった。

ある時 大きく白い綺麗なギターを抱き締める様に弾く横山健の姿が目が止まった。笑みを浮かべ なんとも穏やかな表情で弾く彼の姿を見て勝手に想像した。彼にとってギターは全てじゃないとしても ギターに寄り添い支えられ 心の拠り所になっているんだと。心の拠り所を持つ彼を羨ましく思った。そして彼が抱き締めるギターはGretschのWhite Falconと言い 世界で最も美しいとされるギターだと知った。

僕は初めてギターに興味を持った。たくさんのギターを見たいと思った たくさんのギターを知りたいと思った。何度も何度も楽器屋に足を運び ギターを眺めた。そして僕はギターを弾きたいと思った。

押し入れの奥で忘れ去られていたFenderのStratocaster。Fender社が作り上げたエレキギターの王道 定番であり名品だ。このギターがなんなのか もう僕にはわかっている。このギターを手に取って 僕の第2のギター人生がスタートした。

僕はこのギターに夢中になった。1日の限りある時間をこのギターに費やした。弦を変える度 細部までピカピカに磨いた。難しいフレーズが弾ける様になって興奮して声を上げた。上手に弾けない事すら楽しかった。それでも今度は上手に弾きたいと思う様になった。

鬱に苛まれ 酷い不眠症に陥った時 寝れない時間の全てをこのギターと共にした。弾かずとも膝の上に抱えてるだけで安心した。指先と体の間から鳴るエレキギター特有の生音に癒された。ギター全体から響く微細な振動が心を落ち着かせてくれた。いつの間にかこのギターが僕の心の拠り所となっていた。僕はこのギターに寄り添い支えてもらっていた。そのルックスもその音も 至るところにある無数のキズも雑に貼られたたくさんのステッカーも このギターの全てが愛おしくなった。僕はこのギターが本当に大好きだ。

長年重労働で体を酷使し続けたからだろう 左肘と右手首がおかしくなった。日常生活に支障をきたし始めた頃 あれだけ何時間も弾いていられたギターが弾けなくなった。病院に行くお金も時間も無かった。そして続けなきゃいけないのはギターではなく仕事だとすぐに悟った。僕は心の拠り所を奪われた。

今日このまま このギターを押し入れの奥へしまおうと思う。諦めた訳じゃない いつになるか僕の第3のギター人生が始まるまで大事にしとくためだ。今度は忘れ去られる事なんて絶対にないから 僕のFenderのStratocaster 毎日想うよ。

また会おう。



   ◆   ◆   ◆

いわゆるヴィンストと呼ばれる今なお人気衰えぬストラトを、ぱっと手に取り即購入したというそのエピソードすら、ちょっとした天運を感じます。一生相棒として寄り添ってくれるにふさわしいギターですから。私が一番胸に響いたのは「弾かずとも膝の上に抱えてるだけで安心した」という言葉。ギターとともに歩む人生には、いろんな形があります。私も弾きもしないで抱えたままデスクワークをしていることがよくあります。いいんです、弾かなくたって膝の上にあるだけで。ギターは弾いてなんぼという言う人もいますし、かつては私もそう思ったものですが、今ではその思いも変わっています。どう付き合ったって、どう触れ合ったって、どのように愛でたっていいじゃないですか。だからYujiro H.さんも、今すぐケースから出して抱えましょうよ。弾かなくたって弾けなくたって、むしろ大事なのはそこじゃない。これ、私の本音です。(JMN統括編集長 烏丸)

★皆さんの楽器を紹介させてください

「俺の楽器・私の愛機」コーナーでは、皆さんご自慢の楽器を募集しています。BARKS楽器人編集部までガンガンお寄せください。編集部のコメントとともにご紹介させていただきますので、以下の要素をお待ちしております。

(1)投稿タイトル
 (例)必死にバイトしてやっと買った憧れのジャガー
 (例)絵を書いたら世界一かわいくなったカリンバ
(2)楽器名(ブランド・モデル名)
 (例)トラヴィス・ビーン TB-1000
 (例)自作タンバリン 手作り3号
(3)お名前 所在 年齢
 (例)練習嫌いさん 静岡県 21歳
 (例)山田太郎さん 北区赤羽市 X歳
(4)説明・自慢トーク
 ※文章量問いません。エピソード/こだわり/自慢ポイントなど、何でも構いません。パッションあふれる投稿をお待ちしております。
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