【インタビュー】vistlip、これからの自分たちを見据えて完成したアルバム『M.E.T.A.』

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結成15周年の節目の年に、vistlipが3年4ヶ月ぶりのフルアルバム『M.E.T.A.』をリリースする。

◆ミュージックビデオ

楽曲制作に入る前に智(Vo)が瑠伊(B)に伝えたキーワードは“ポップでアダルトでセクシー”。アルバムが完成した瞬間、1stアルバムを作り終えた時のような達成感と興奮を味わったという瑠伊の発言や、BGMのように聴いてもらっても楽しめるという智のメッセージがその自信を物語る。

それでいて“メタバース”をコンセプトに繰り広げられる世界はvistlipならではの凝った構成で、驚きと発見に満ちている。ヴァーチャルが日常となったコロナ禍で音楽と向き合ったからこそ生まれた発想。聴き手と共有できる仮想空間がアルバムの中に広がっている。楽曲が生まれた背景はもちろん、vistlipの今について考えていること、結成史上初となるエンターテインメント性の高いツアーについて智と瑠伊にじっくり語ってもらった。

   ◆   ◆   ◆

■15年vistlipを続けていることから生まれる大人っぽさが武器だと思った

──アルバム『M.E.T.A.』の構想はいつ頃からあったのですか?

智:まず、楽曲を作っていったんですよ。

瑠伊:作り始めたのは2年ぐらい前ですね。コロナ禍で活動できなくなった時期から曲を溜めておこうって。智から「毎月、1曲ずつ渾身の曲を持ってきて」ってメンバーにミッションがあって。

智:「みんな暇でしょ?」って(笑)。

瑠伊:月末までにみんな曲を提出して「これはアリ? これはナシ?」って選曲して生き残った曲と、アルバムを出すことが決まってから書き下ろした曲がアルバムに収録されています。

智:半々ぐらいの割合ですね。

──アルバムを出すのが決まった時期は?

瑠伊:わりと最近ですね。半年ぐらい前かな。

智:そう、そう。けっこう急に決まって。

──資料には“バンドの原点を見つめ、また新たな方向性を示唆する楽曲を収録した新機軸のアルバム”と記されていますが。

智:新機軸かどうかはわからないけど、今のvistlipを見据えた時に最も適した楽曲を揃えたつもりではあります。これからvistlipがどうなっていくかが見えると思います。

──今のvistlipというところで、曲作りのテーマとして共有したことは?

智:2年前から瑠伊には「ポップでアダルトでセクシーなバンドにしたい」とは伝えてあって、その後、Tohyaにも伝えたんですよね。海には海なりの大人っぽさを出してもらって、Yuhにも曲の世界観を伝えて。

──なぜ、ポップでアダルトでセクシーな方向性にしようと思ったんですか?

智:それはいつまでもガキやってたくなかったっていうのもありつつ。

▲智(Vo)

──確かに大人なテイストを感じますし、今作はサウンドがヘヴィな曲が少なめですもんね。

智:そうですね。いい意味の子供っぽさは絶対、忘れちゃいけないことなんですけど、バンドとして1つレベルを上げるなら、そういう路線が似合うかなと思ったんですよ。

瑠伊:対バンイベントに出たのも大きかったんです。2021年の11月にZepp Haneda(TOKYO)でアルルカン主催のライブに出演したんですけど、そもそも僕らはそういう機会も少なかったので、イベントに対する免疫がなくなっていて「ウチらの武器って何だろうね」ってなって。改めて考えたらラップであったり、15年vistlipを続けていることから生まれる大人っぽさが武器だと思ったので、そこを突き詰めた曲を増やしていきたいねってことになったんです。

智:ガチャガチャやってノセればいいっていうわけじゃないってすごく思ったんですよ。イベントではわざとノレないであろう曲というかヴィジュアル系っぽくない曲を選んでセットリストを組んで、自分たちをちょっと試してみたんです。

──例えばどんな曲ですか?

智:アルバム『STYLE』(2018年)の「ELIZA」だったりとか。ポップでラップのセクションがあって、このイベントでは絶対にウケないよなって(笑)。

瑠伊:でも、それが良かったんですよ。

智:そう。自分たちの自信にもなったし“やっぱりイケるよね”って。見ている人たちを巻き込むことはもちろん大事なんだけど、他のバンドと色が違ってもいい。だって、もともと出演バンドの中で浮いてたんだから。

瑠伊:激しい系のバンドが多かったからね。

智:そこに合わせたら埋もれるよねって実感したんです。イベントは1つのキッカケですけど、だんだん「15年たつな」とか「瑠伊をもっとセクシーに見せたいな」とか「年齢に見合った大人っぽさを海に出してほしいな」って。いろいろ考えた時にたどり着いた答えが、「ポップでアダルトでセクシーなバンド」だったんですよね。

──vistlipの今を俯瞰で見たからこそ?

智:そう、そう。

──では、完成したアルバムをどう捉えていますか?

瑠伊:僕はめちゃめちゃ手応えを感じましたね。1stアルバム『THEATER』(2009年)を録り終えた時ぐらいテンションが上がって、疲れも喜びもひっくるめて「やりきった!」っていう感覚がありました。期間があいていたのもあるかもしれないけど、1stアルバムの時の気持ちって1度しか味わえないと思っていたので、あの感覚をまた体感できた!って。だから、早くリリースしたいと思ったんですよね。

──そんなに達成感があったんですね。

瑠伊:他のアルバムももちろん自信を持って出してきたんですけど、一段階違う手応えがあって。待ち遠しくて仕方ないし、早くみんなの感想が聞きたいと思いました。

智:vistlipの中でもいいアルバムになったと思うし、手応えも感じているし、早くこの曲たちをライブでやりたいです。音源だけで完結する感じの作品じゃないのが新しいと思っているんですよ。ライブで見てもらうとさらにレベルアップした世界が味わえる。そういう作り方をしたのは初めてだったので。

──ライブを想定した曲は今までも作ってきたと思うんですが、アルバム全体でライブを意識したということですか?

智:1曲、1曲のノリとかそういうことではなくて、作品としての世界観ですね。

瑠伊:ショー的な見せ方ができるよね。

智:この曲はこういう照明でこういう演出でステージでこんなふうに見せたい、って考えながら作ったのが今までと違うところではありますね。

──『M.E.T.A.』は“招待状”という意味のインスト「PW:Invitation」で幕を開けて「BGM「METAFICTION」」に移行しますが、構成にもこだわりがあるんですよね。

智:タイトルはみんなに相談した結果、『M.E.T.A.』に決まったんですけど、今の時代だからこそ“メタ”を使いたかったんですよ。昔から“メタバース”は存在していたけれど、Facebookの社名がMetaに変わったり、メタバースに参入する会社が増えてきたり、ここまで現実味を帯びたのは今の時代だからこそだと思うんですね。だからこそ、今使わないとって。

瑠伊:今じゃないとタイトルとして成立しなくなっちゃうもんね。

智:先取りしたかったんですよね。メタバースはアルバムのコンセプトのひとつで、CDを聴いている時やライブを見ている時を仮想空間と位置づけているんです。なので、Tohyaに仮想空間への招待状というイメージでSEを作ってもらって、世界に突入する音を入れてちょっとハイテクな世界観にしている。そこから場面が切り替わって「BGM「METAFICTION」」に繋がっていくイメージですね。

瑠伊:SEは智とTohyaの2人で練っていったんですけど、最初に聴いた時から仮想空間の入り口にピッタリで「さすがだな」と思いました。その時点でツアーが3本なのがもったいないなって。

──メタフィクションはゲームやアニメ以前から小説で使われている手法ですよね。虚構の世界に作者や読者が登場して、現実世界との境界線を曖昧にするというか。

智:そう、そう。現代で言うと映画『コンフィデンスマンJP』のオープニングで長澤まさみさんが語りかけてくるとか。あれがいわゆるメタフィクション。
「BGM「METAFICTION」」も曲の中から僕が語りかけているイメージですね。仮想世界を演出している。そういう楽しみ方をしてほしいと思ったんです。

──智さんは昔からそういう手法を取り入れていますよね。

智:そうですね。この曲は僕の中では始まりを示唆するポジションで3曲目の「"TOXIC"」がオープニングテーマというか、本編の始まりの曲です。

──なるほど。リード曲「BGM「METAFICTION」」はミュージックビデオを撮影しているんですよね。どんな映像になっていますか?

瑠伊:映画っぽいですよ。

智:『M.E.T.A.』の舞台のイメージが海外の方たちが想像する日本なんです。
ちょっと中華っぽいというか。

──例えば映画『ブレードランナー』に出てくるようなオリエンタルでサイバーな世界だったり?

智:そう、そう。

瑠伊:ネオン管の看板になぜか日本語と中国語が混ざってるんだけど、よく見ると「東京」って書いてあったりするセットを組んでもらったんです。

──vistlipはそこの住人というか。

智:このアルバムの仮想空間の住人。ライブが思うようにできないコロナ禍のミュージシャンにも、仮想空間って通じるものがあるなと思ったんですよね。アーティストが現実味のないものになってきたから、メタバースをテーマに楽しんで終われるエンタメなものにしたかった。

──確かにオンライン上でのコミュニケーションが増えましたよね。今回、それでヴィジュアルも派手なんでしょうか?

智:派手ですね。海を中心に、瑠伊も提案してくれてヴィジュアルを決めたんですけど。

瑠伊:派手にはしたいけど、子供っぽくはしたくないという前提があった上で僕は「こんな服が着たいな」って意見を出したり、メンバーが悩んでいたら、「こんな感じはどう?」って助言したぐらいですけど(笑)。

──では、制作過程でこの曲が生まれたからアルバムがより明確になったというナンバーはありますか?

智:僕は「BGM「METAFICTION」」と「"TOXIC"」ですね。「"TOXIC"」ってかなり前に出来てた曲なんですよ。

瑠伊:2020年の前半に作ったんです。アルバムの構想が全くない頃の曲なので、出すことが決まってから、より世界観に寄せてバンドサウンドを意識して新しいセクションを付け足したりしました。

智:原曲をしっかり作りこんでいった感じです。

──冒頭で話してくれたポップでアダルトでセクシーにピッタリの曲ですね。ジャジーなアプローチだし。

瑠伊:まさにジャズの方向ですね。YouTubeでジャズのライブをたくさん見て構成やコード、ドラムのフレーズをひたすら自分の中にインプットして時間をかけて構築していきました。ジャズセッションってソロ回しがあったりするから、5人の見せ場を作ろうって。ソロでピンスポットを当てたいイメージで作ったのでライブが楽しみですね。

▲瑠伊(B)

──ここまでジャズ色を強くしたのはvistlipでは初めて?

瑠伊:そうですね。振り切っちゃってるので。シャッフルビートでキャバレー調の曲にずーっと挑戦したかったんですけど、なかなか上手く出来なくてやっっとキャッチーにナチュラルに聴けるように仕上げられたと思います。

智:この曲を最終選考会に持っていった時の大人たちの驚きっぷりが凄かったね。

瑠伊:「vistlipでこれやるの?」って(笑)。

智:逆に「そんなに驚くならやった方がいい」と思って、ボーナストラックっていう意見もあったんだけど、ツアータイトルを<vistlip ONE MAN LIVE TOUR「META TOXIC」>にして外せないようにしちゃったの(笑)。

瑠伊:なるほどね。

智:そしたら前半に入れられるから、仕組んだんですよ。

瑠伊:策士ですね〜(笑)。

智:歌詞は最後の方に書いたんですが、本編の始まりということを念頭に置いて、ちょっとワルっぽくてアダルトなアルバムのテーマソングを描きたかったんです。ファンの気持ちをちょっと暴力的に奪うというか「全部よこしな」っていうことを言いたかった。

──『コンフィデンスマンJP』じゃないけど、主人公に怪盗みたいなイメージを抱きました。

智:そう、そう。何ならギャングみたいに乱暴なやり方で惹きつけたいなって。

──同じく2人の共作曲「蟻とブレーメン」はどんな過程で生まれました?

瑠伊:これも2年ぐらい前に作った曲ですね。ネタが尽きて苦しんでて天井を見ながらアコギを弾いていたら生まれた曲。難産であればあるほどいい曲ができる場合が多いので、僕は選曲会でいちばん推しました。サビのコード進行は作っていて楽しかったですね。

──アルバムの中でも、特に開放感が感じられる一曲です。

瑠伊:そうですね。いちばんポップでキャッチーかもしれない。

──リズムセクションが派手なナンバーでもありますね。

瑠伊:そうですね。

──この曲の歌詞には希望が感じられます。

智:唯一、コロナ禍を背景に歌った曲です。

瑠伊:現実味がありますね。

智:とは言え、AメロとBメロはよくわからないことを歌いたかった。

──占いで手の平のホクロが意味することを歌っていたり?

智:そう、そう。「なんでホクロの話?」っていう遊び心を入れたかったんですけど、コロナ禍の希望を歌った曲ではありますね。

──後半で“僕らは枯れた分を取り戻さなきゃ終われない。”と歌っていますが、この“僕ら”はvistlipを指しているのかなって。

智:いろいろ奪われちゃったけど、諦めないで取り戻そうねって言いたかった曲ですね。最後の“欲張りでいいんだ。”っていうのはなんとなく「”TOXIC"」にも通じている気がします。「ちょっとちょうだい」じゃなく「全部ちょうだい」っていう。どうせ生きるなら、そういうふうに生きたいというか、わざわざ控えめに生きる事ないよなって。

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