【インタビュー】My Hair is Bad、アルバム『angels』に3人ならではの音の描写力「20代で育んできた俺たちの形」

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My Hair is Badが4月13日、アルバム『angels』をリリースした。2019年発表の『boys』以来2年10ヵ月ぶり、通算5作目のフルアルバムだ。収録曲は、2020年末にリリースされた「味方」「白春夢」、2021年の全国ツアー<フラッシュホームランツアー>でも披露された「カモフラージュ」「歓声をさがして」を含む全13曲。初回限定盤には『<ブレイクホームランツアー>ドキュメント 〜さいたまスーパーアリーナ編〜 “cola”』がDVD収録される。

◆My Hair is Bad 画像 / 動画

3人の持つ膨大なエネルギーまで封じ込められたアルバム『angels』は、インディー時代からのエンジニアとのレコーディングに加え、収録曲の約半数に新たなエンジニアを迎えるなど、サウンド面でも新境地を切り拓いた作品だ。疾走する2ビート、ファンク/ミクスチャーアレンジ、サンバのリズム、音の隙間を活かしたミドルチューンをはじめ、プレイやアレンジ面でも特筆すべき点は枚挙にいとまがないが、注目すべきは歌詞のストーリーをサウンドとして表現し切った3人のバンド感の高さにある。そしてこのアルバムの根底に流れるテーマは20代最後の作品だ。

20代から30代へと差し掛かる中で湧き起こる感情が様々な形で描かれた5thアルバム『angels』について、椎木知仁 (G, Vo)、山本大樹 (B, Cho)、山田淳 (Dr)に語ってもらった。

   ◆   ◆   ◆

■2年間かけて作ってきた
■止まらずに作って良かった

──アルバム『angels』の全体像に関しては、事前に何か考えていたことはありました?

椎木:僕らの年齢が30歳になるタイミングに差し掛かっていたので、30歳になる前にMy Hair is Badとして作品を残したいと思っていました。それを結構長い期間をかけて、去年1年くらいをかけて形にしたのが、このアルバムです。デモ制作から考えると2020年から制作が始まったものを完成させた感じですね。

──山本さんと山田さんは椎木さんよりも一足早く30歳になりましたが、何か感じていることはありますか?

山田:“もう30になっちゃったんだ?”っていう感じです。バンドをずっとやっていて、自分としてはそんなに変わっていないつもりなんですけど。

山本:僕も中身が変わった感じはそんなにないです。でも、年下と話している時に、ふと“俺、30だ……”ってなることはあります。それが特に何だっていうわけでもないんですけど、一旦呼吸を置くような感覚なんですよね。


──アルバム収録曲の半分くらいを新しいエンジニアさんにお願いしたそうですが、それも年齢的に節目を迎えることと関係していたんでしょうか?

椎木:そうですね。ずっとこの3人でバンドをやってきて、エンジニアさんも今までずっと同じ方だったので、新しい挑戦もしてみたかったんです。新しいエンジニアさんにお願いしたのは、そういうことのひとつでした。録ってくれる人やミックスしてくれる人が違うだけで、かなり変化するというのは発見でしたね。でも、挑戦しつつも、ストリングスやホーン隊を入れたりするのは、また次の機会にしたいというのも考えていました。20代のMy Hair is Badを上手く形にしたいと思っていたので。

──このアルバムを聴いて、3ピースバンドとしての音の描写力を改めて実感しました。これは20代の活動を経て磨かれてきたものですよね。

椎木:2020年に入ってから自分たちのスタジオができたんです。自分たちのライブでPAをやってくださっているエンジニアさんと、そのスタジオでプリプロをする時間がたくさんあったんですね。仮歌詞に対して、それぞれの楽器のパートを寄り添わせる細かい作業ができたのは、大きかったと思います。

山田:僕はあまり深いことは考えずに、“20代で育んできた俺たちの形”みたいなことをイメージしながらドラムフレーズを作りました。だから意外といつも通りみたいな感覚なのかも。最近は曲の作り方が変わってきた部分もあって、PCを使って作ったりもするんです。PCで作るものと自分が実際に叩いて作るフレーズがいい感じでミックスされつつ、自分らしいものになっていると思います。

山本:僕も基本的には今までと変わらないんですけど、作り方に関しては少しずつ変わってきているところもあって。曲の大まかな枠組みを椎木が持ってきてくれるんですけど、そこにベースフレーズもちょっと入っていて、僕のほうで、そこから派生するものを作るようになっています。PAさんと話し合って作った後、3人でもいろいろ話して、さらに練り直したものを椎木に聴いてもらって……っていうような感じ。描写に直結しているかわからないですけど、1曲1曲をよりいい感じで仕上げられるようになっていますね。

椎木:“アルバムを作ってる”というよりは、“本気の曲を1つずつじっくりと作る”という感じの制作期間だったんです。2020年に入ってからコロナの影響でメンバーとすら会えない時期があって、スタジオにみんなで入ることがなかなかできなくなっていたんですけど、“この時間を無駄にしてはいけないな”と思って曲をひたすら作っていました。それをPCで共有してやるようになったのも変化でしたね。今まではスタジオでみんなで話し合いながら作ることのほうが多かったですから。

──スタジオの完成ほか、オンラインでのやり取りなど制作環境面の変化もあったんですね。

椎木:はい。でも、20代最後のアルバムなので、そういう作り方で進めるだけではもったいないという気持ちもあって。制作後半で作った曲に関しては、スタジオに一緒に入ったんです。“こういう感じ”って伝えて弾いてくれたベース、叩いてくれたドラムの雰囲気を踏まえつつ、また僕がデモで作り直すこともしました。


──各曲で描かれていることに関しては、先ほどおっしゃった“全員が30歳になるタイミング”というお話を聞いて、なるほどと思いました。「味方」「正直な話」「花びらの中に」とかは、ある程度の年齢に達しつつある人の心情が伝わってきますから。優しさや温かみもすごく感じる曲たちです。

椎木:優しいとか、温かいっていうものが僕も好きで。でも、“優しさって、優しいだけじゃ伝わらないな”と感じる瞬間もあって。だから軸には優しさがありつつも、いろんな表現の仕方をしている曲が、今回のアルバムにはいっぱい入っているのかなと思います。例えば「正直な話」の“僕の言うことは信じないで”とか、ちょっと否定的な言葉があったほうが、意外と優しさって伝わるのかもしれないなと。そんなことを思って出てきた表現です。この歌詞は何度も書き直したんです。単に“温かい曲だね”で終わらせたくなかったので。

──「味方」の、“もう悪になろうと 君の味方でいたいから”も、そういうものを感じるフレーズですね。これ、ライブでも何度も聴かせていただいていますが、すごく良い曲です。

椎木:僕も良い曲だと思っています。3ピースの演奏では足りないのかもしれないなと思っていたんですけど、やればやるほど“3人で歌っていい曲だな”って感じるようになってきています。「味方」の“そばにいれば それでいい” “そばにいた日々が真実だ”は「正直な話」と通ずるものを何となく感じていて、自分は本質的にそう思っているんだろうなというのもありますね。

──“優しさって何だろう?”という迷いや自問自答の積み重ねの中で自ずと滲み出る温かみを感じるのが、「味方」や「正直な話」です。そういうのも今の椎木さんのリアルな感覚なんでしょうね。

椎木:そうですね。今回のアルバムの曲は2年間をかけて作ってきたものなので、ちょっと前の自分に向き合うような感じもあるんですけど。コロナの影響はいろいろありましたけど、止まらずに作って良かったなというのも改めて思いますね。


──「翠」もとても深みのある曲です。“誰よりも愛されたいのなら 誰かをまずは愛さなきゃな 人は鏡なら人は僕だ あぁなりたいになれなくたって なりたくないだけにはならないでいたい”とか、はっとさせられるものがあります。

椎木:「翠」はレコーディングの順番で言うと最初に録った曲です。この曲もそうですけど、全部自分に対して言っているところがあるんです。自分みたいな人がちょっと楽になるような曲がお客さんに伝わったら、それが一番いいなあって思うので。自己啓発を自分でやっているような感じもあるのが「翠」ですね。あと、この曲は“髪を切るだけ”というセリフをどうしても使いたかったんです。「舌」と同タイミングで作っていて、あれは“このまま君の舌を噛み切ったら”ですから、意味合いはそれぞれの曲で全然違うんですが、近しい言葉を使っている感じもあって。そういうのは歌詞を書いて面白いなと思うところです。

──My Hair is Badの曲は、歌い出しにドキリとする言葉がくることが多いですよね?

椎木:はい。それは僕のクセで。サブスクがまだない時期はCDショップの試聴機で聴くことが多かったから、何気なく聴いてくれた人にもうちょっと聴いてもらうやり方を考えたんです。だから曲頭は強い言葉を使うのがクセになっています。「真赤」の“ブラジャーのホックを外す時だけ〜”という歌い出しも、そういうことなんですよね。

──なるほど。「翠」や「味方」とか、10年後とかに振り返っても、“当時の俺、いい曲作ったんだな”って感じると思いますよ。

椎木:ありがとうございます。コロナ禍は今までの自分の曲と向き合う時間が多かったんですけど、作った当時、“これで大丈夫なのかな?”って思っていた曲でも、“めちゃくちゃ良かったんだな”と感じたり、時間が経ったことで許せたりする感覚がありました。このアルバムの曲は、さらにそうなっていくんだろうなと思っています。

──楽器の演奏に関しても、そういうものはありますよね? 技術はキャリアを重ねれば向上しますけど、“この感じは、この頃の自分しか出せないよな”というのがあるでしょうから。

山田:そうなんですよね。この前、昔のライブ映像を観たら、マジでめちゃくちゃ速過ぎて、“今の俺、こんなのできないよ”って思いました(笑)。でも、その映像、めちゃくちゃカッコよかったんですよ。今の自分が退化している感じは全然ないんですけど、昔の自分がちょっと羨ましい感じがありました。

山本:その感じ、わかる! 昔はミドルテンポとかバラードが少ないっていうのもあるんですけど、ライブ中の汗のかき方もすごいんですよね。“若いってこういうことなのかな?”って思ったりもします。

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