【インタビュー】My Hair is Bad、アルバム『angels』に3人ならではの音の描写力「20代で育んできた俺たちの形」

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■10代でバンドを組んでからずっと地続き
■この3人以外でやったことがない

──「花びらの中に」は30代に差し掛かる頃の心情が伝わってきますが、“落ちてく花びらの中に 今夜僕を埋めよう” “若かった過ちの中に 今夜僕を埋めよう”という表現の仕方が印象的でした。

椎木:これは自分の部屋で書いて、ほぼ仮歌詞の状態のまま完成に至ったんです。1人で夜中にこういう曲を書いていると、こんな感じの歌詞になるというか。“20代のことはここで終わります。リセットします”みたいな感じになったんです。暗いわけでもなくて、かと言って誰かの背中を押すわけでもないこういう言葉は、1人で夜中に書いている感じがすごく出ている気がします。

──コロナでステイホームが推奨された時期の雰囲気も表れているのかもしれないですね。

椎木:そうかもしれないです。当たり前に飲み会ができて、夏フェスとかに出演したりしていたら、こういう書き方はしなかったかもしれないですから。

──「花びらの中に」は、20代の自分への葬送曲ですよね?

椎木:そうですね。その通りです。

──葬送曲と言ってもネガティヴな意味ではなくて、ひとつの時期を経て次の世界へ踏み出そうとしている清々しさが伝わってきます。

椎木:“時間が経つことには抗えない。だったら埋めちゃおう”っていうことなので。


──My Hair is Badの今までの曲に関しても言えますが、“過ぎ行く時間”みたいなものは、テーマになることが多いですよね?

椎木:はい。そういうことを曲にするのは大好きですね。“いつか絶対に死んじゃうんだから”みたいな言葉遣いをメジャーデビュー当時からしていましたから。

──「告白」の“いつか死んでしまうんだ”とか?

椎木:はい。その頃から先を見据えたり、過去に浸ったりすることばかりしています。

──今回の曲から挙げるならば、少年から大人になっていく様を描いた「サマー・イン・サマー」が、そういう曲ですね。“思い出は漫画みたいになった じゃあこれはあの日の実写だね”とか、まさに時間が過ぎ行くことに対する実感ですから。

椎木:「サマー・イン・サマー」もこの年齢にならないと書けなかったと思います。

──自転車で一緒に遠出をしていた友達と車で移動していたりすると、ふと不思議な感覚になったりしますよね? “あれ? 俺たち大人になったの?”って。

椎木:ありますね。あと、“なんでこいつとだけずっと仲が良かったのか?”とか。記憶って美化されていく面もあって、大したことなかった出来事も“あの日、良かったな”ってなりますし、そういうのを「サマー・イン・サマー」で描きたかったんです。

──この曲の歌詞、“チャイムが鳴っても騒がしい高橋”が印象的です。

椎木:“これいいな”と思って書いたら、みんなも気に入ってくれています。

──“なんかこの感じわかる!”っていうものがあるフレーズです。高橋という名前の騒がしい同級生の記憶があるわけではないんですけど。

椎木:みんなの中のそういう存在が蘇るのかもしれないですね。

──“騒がしい山田”じゃなくて良かったですね。

山田:それやばいですね(笑)。まあ僕、確かに騒がしかったですけど。

椎木:音的にというか“騒がしい高橋”という響きがめっちゃ気持ちよかったから、これにしたんです。

山本:“騒がしい高橋”は、デモ出しの時からみんなで盛り上がっていたよね?

椎木:うん。

──気になるフレーズ、リスナーの関心を引く“つかみ”を作るのは、やはり椎木さんの得意技だと思います。

椎木:でも、こういうのは書き過ぎるとコミカルに伝わってしまうこともあるから、バランスが難しいんです。狙って書き過ぎないようにバランスは気をつけています。

──「サマー・イン・サマー」は、疾走感のあるサウンドも気持ちいいですね。My Hair is Badの十八番感のある作風だと思いました。

椎木:この曲と「歓声をさがして」と、あと2〜3曲くらいは、僕らがインディーズで初めてレコーディングした大阪のスタジオで録ったんです。昔からお世話になっているエンジニアさんに録っていただいたので、原点回帰みたいなサウンドになっていると思います。



──そういうところでも“20代のMy Hair is Bad”が総括されているんですね。「歓声をさがして」や「カモフラージュ」は、結構前からライブでやるようになっていますね。

椎木:はい。「歓声をさがして」や「カモフラージュ」は、去年末のツアーでやっていましたから。

──「カモフラージュ」は、具体的に物語を描写するというより、イメージの断片を一気に乱射するスタイルですね。僕は勝手に“男2人+女1人”で行動している人たちの姿を思い浮かべていたんですけど。

椎木:そうなんですか⁉

──男性がもう1人いる形で過ごしているから、女性にとってカモフラージュになっているのかなと。

椎木:そのオモシロ解釈、助かります(笑)。みんながそうやっていろいろ考えてくれるといいですね。この曲は、僕の好きなものを詰め込んだだけっていうか。優しさがどうたらとか、海の描写が入ってきたり、でも、結局は何かって言えば、若さみたいなものはどんどん変わっていって、見た目も変わっていくけど、心の中はずっと自由なんだよと……そういう感じです。僕がこういう書き方をすると、意外と思っているようには伝わらなくて。それは今までの経験で知っていたので、“伝わらなくても大丈夫”くらいな感じで好きなように書きました。

──さっきの解釈は伝わらなかった人の一例ですね(笑)。

椎木:ははは。

──“教会の上に光った銀色の十字架 川沿いに立った火ばしら ミファを失ったピアニカ 裏庭に落ちた稲妻”とか、イメージの連打が音としても気持ちいいですね。

椎木:こういうの、好きなんです。

山本:この曲、ライブでやっても、すごく気持ちいいんですよ。


▲アルバム『angels』初回限定盤

──ライブでも感じるんですけど、みなさんはこの3人で音を出すのが大好きですよね?

山田:好きです。っていうか、この3人以外でやったことがないんですけど。

椎木:“他に家を作らない”メンバー3人のバンドです(笑)。

山田:だからよく椎木が言うように、“この3人だったらバンドじゃなくてもいい”くらいの感じがあるんですよね。

椎木:“My Hair is Badやってる”っていう感じなので。バンドを10代で組んでからずっと地続きで、こんなに真剣なモードになっていくとは思っていなかったんですよ。だから根本は、バンドを組んだ時の感覚のまんまなんです。

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