【ライブレポート】アーティスト・崎山つばさの新たな一面

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俳優・アーティストの崎山つばさが、4月29日(金・祝)に東京・品川プリンスホテル ステラボールでワンマンライブ<TSUBASA SAKIYAMA PREMIUM LIVE 2022 -petit fours->を開催した。同公演の昼公演をレポートする。

◆ライブ写真

4月27日(水)にリリースされた同名ミニアルバム『petit fours』は、崎山自身が全曲の作詞を手掛けた意欲作だ。また、今回のライブは2021年5〜7月にかけて全国3都市で開催された<Billboard Live 〜latte〜>以来約1年ぶり。<Billboard Live 〜latte〜>は限られた人数の観客が食事をとりながらゆったりと音楽を楽しむアコースティックライブで崎山の大人の魅力が詰まった特別な公演となったが、今回のライブでは雰囲気が一変。会場に入るとステージの上にはバンド編成のセットが並び、前回とは趣向の異なるライブであることに否が応でも期待値が高まっていく。

そんな崎山の思惑どおりか、会場が暗くなると観客は一斉に立ち上がり手拍子やペンライトで崎山を迎える。1曲目の「地図(ルート)」は明るく疾走感のある応援ソングだ。コロナ禍の逆風に立ち向かうかのような勢いのあるスタートに、「エンタメが帰ってきた」と早くも胸が熱くならずにはいられない。


ちなみに今回の崎山の衣装は、大きく開いた襟が特徴的な白シャツに、ゆったりとした黒のジャケットとパンツのセットアップ。オーバーサイズのシルエットが崎山の動きとともにひらひらとひらめく姿はどこか愛嬌があり、観客の目を存分に楽しませていた。

勢いそのままに、自身が主演を務める映画『クロガラス3』の主題歌でもある「正偽」へ。崎山にしては珍しくハードでロックテイストな曲調を歌い上げ、ステラボールの最後列までその存在感を知らしめていく。歌唱途中の「語り」部分は崎山の内なる衝動の発露なのか、観客に問いかけるような力強い言葉が胸を衝く。

「<TSUBASA SAKIYAMA PREMIUM LIVE 2022 -petit fours->へようこそ!」から始まったMCでは、「コロナ禍の今しかできないライブを作りたい」と強調する崎山。普段は舞台役者として活動している崎山は、新型コロナウイルスの影響で歯痒い思いをしたことは数知れないだろう。“今しかできない”ことの重さを知っている彼だからこそ、このライブにかける本気の思いが伝わってくるようだ。さらに、「気持ちでぶつかりあえるようなライブにできたら」というひと言からは、常に変わらない崎山とファンの強い信頼感が垣間見える。


続く「Story」は<Billboard Live 〜latte〜>でも披露した楽曲だが、アコースティック編成時とは異なる力強いサウンドと歌声で、ガラッと異なる印象を受けた。そして、鬱憤を晴らすような崎山の魂の叫びにも聞こえる「叫べ」は、文字通り叫び出したくなるような衝動が感じられた。ここまでの4曲だけでも、楽曲により音色を操るアーティスト・崎山の底力を存分に感じることができるだろう。

ここでヒートアップしてきたのか、ステージ上でジャケットを脱ぐ崎山。ジャケットの下にはサスペンダーをつけており、予想外なかわいさ溢れるコーディネートは観客にとっても嬉しいサプライズだったはず。さらに崎山は、声を出さずに楽しむために「振り付け」という新しい試みを用意してきたと楽しそうに語り、ここで“崎山先生”による振り付けレクチャーがスタート。

事前のインスタライブでも振り付けのレクチャー動画を配信していただけあって、観客のほとんどは準備万端という優等生ぶり。“崎山先生”の振り指導にしっかりついていく観客を見て、「キュートですね、みなさん!」「羞恥心をなくしてください!」と“生徒たち”と楽しそうにコミュニケーションをとっていた姿が印象的だった。そんな振り付けと共に歌唱した「(i+i)」は、キュートな振り付けにぴったりのラブソング。恋の悩みをポップに表現した楽曲を甘い歌声で歌い上げた。

バンドメンバー紹介を挟み、ここで再び「ダンシング☆サムライ」と「太陽系デスコ」の振り付けレクチャーへ。またしても登場した“崎山先生”は、「どこが分からないか先生に言ってみろ!」と観客に直接語りかけ笑いを誘いつつ、「さぼってると見えるからね!」「完璧です! 先生もう教えることない!」とさらに会場を盛り上げていく。

こうして始まった「ダンシング☆サムライ」「太陽系デスコ」ではミラーボールがまわり、会場は一気に華やかでバブリーな雰囲気に。思わず体が動いてしまうようなノリのよいキラーチューンが連続し、ライブ後半戦に向け会場のボルテージはどんどん高まっていった。


ここで再びMCを挟むと、「Salvia」を作詞したときのことを振り返り、当時予想していなかった人生の壁や躓き、不安を感じていたと吐露する崎山。「Salvia」がリリースされたのは2019年8月。2019年といえば、主演舞台を多く務め、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだった時期だ。華やかな表舞台の裏には、ひとりの崎山つばさという人間としての苦悩があったのだろう。

しかし、そんな苦境を受け止めながらほんの小さな光でも見失わないようにしなければと気がつき、自身のファンも困難に立ち向かうときに好きなものを忘れずにいてほしい……「Salvia」はそんな思いを込めて作られた楽曲だという。切なる崎山の独白に真剣に聞き入る観客は、彼からのメッセージを確と受け止めたようだ。ファンにとっても、崎山自身の素直な気持ちを聞くことができるライブの場は貴重なものなのだろう。そんな崎山を包むように、「Salvia」歌唱後には暖かな拍手が会場を包んでいた。

「まだまだいけますよね!」の煽りでライブは後半戦に突入。「今日しかないライブを皆さんと作りたいと思っています」と冒頭の発言を強調し、勢いそのままに「幻想人」と「Raise」を熱唱。最後まで観客を激しく煽り、拳を高くあげながら観客のテンションを解放していく。

打って変わってスローテンポな「if u」では、「忘れないで 僕がいるよ」とファンに語りかけるようなフレーズを甘やかな歌声で歌唱し、最後の最後まで観客を魅了していく。そして、歌唱後は深々とお辞儀をしステージを後にした。まだまだ崎山が作り出す世界に浸っていたい……観客のそんな思いに呼応してか、拍手はすぐにアンコールを求める手拍子へ。そんな手拍子に応えるように再登場した崎山は、「桜時雨」を歌唱した。


続くMCでは、アンコール用に着替えたライブグッズのTシャツと首元に巻いたバンダナを指し「入学式みたいでしょ?」とひと言。バンダナについては「本当はカチューシャを作りたかったが難しく、バンダナになった」という制作秘話を披露して観客を沸かせていた。

また、惜しくも雨模様だったライブ当日の天候について「晴れ男だったんだけどね」と少し残念そうな顔も覗かせる崎山。しかし、会場内に限っていえば、雨雲を吹き飛ばすかのような“快晴”の天候に恵まれていたといっても過言ではない。それはひとえに、崎山自身と観客が作り出す温かな空気によるものだろう。

そんな崎山がライブ最後の曲として選んだのは「春始笑」。今の季節にもぴったりなこの曲は、小さな四季の移り変わりに目を向ける崎山の細やかな視線が感じられる一曲だ。「皆さんが大切に思っている人や思い出を、いつも胸に抱きながら前に進んでほしい」という歌詞に込めた崎山の思いを受け取ってか、聴き入りながら涙を流す観客も見受けられた。

歌唱後は「どうやったら皆さんと一緒に盛り上がれるかすごく考えて臨みました」とライブを振り返る崎山。「声を出さないライブを楽しんでもらえるのか迷いもあった」と語りつつも、「今日皆さんとライブをすることができて、こういう状況でもできることはあると思ったし、皆さんが精一杯伝えようとしてくれているのをすごく感じて迷いがなくなり楽しむことができた。本当に皆さんのおかげです」と最後の最後まで観客への心からの感謝の気持ちを述べ、晴れやかな表情でライブを締めくくった。


前回のライブでは抑制された演出のなかにエモーショナルが感じられたが、その抑制を振り払うかのように観客と目一杯楽しむことを目的としていることが随所に見受けられた本ライブ。もちろん、どんなライブであれ観客への真摯な思いは変わらずに伝わってくるのが、崎山が多くのファンから愛される所以だろう。

また、今まではどこか「舞台人・崎山つばさ」を感じさせるライブ構成の印象が強かった崎山だが、今回のライブでは「アーティスト・崎山つばさ」を全面に押し出し、歌一本で勝負しようという気概のようなものが感じられたのも、彼の新たな一面を垣間見たようで印象的だ。

会場を後にする観客に手渡された特典のシールには「if u」の歌詞から「ずっとそばでStay with you」の文字が。“崎山つばさ”と“ファン”。ふたつの翼が共にあることでどこまでも高く飛んでいける——そんな力強いファンとの絆が感じられたライブだった。

取材・文◎鈴木 幸

セットリスト

1.地図(ルート)
2.正偽
3.story
4.叫べ
5.(i+i)
6.ダンシング☆サムライ
7.太陽系デスコ
8.Salvia
9.幻想人
10.Raise
11.if u

en1.桜時雨
en2.春始笑

◆崎山つばさ オフィシャルサイト
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