【インタビュー】ポータブル・ロック、長い眠りから目覚めた3人の今まさに燃え盛る創作意欲

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■3人それぞれが音楽活動をずっと続けてきて現役でやっていたからこそ
■また集まってこういうことができたのはすごくうれしいことですね


――話は一気に飛んで、今回のポータブル・ロック再始動のきっかけは?

野宮:私のデビュー40周年記念アルバム『New Beautiful』を出すにあたって、一つのコンセプトとして、「40年間の音楽生活の中で深く関わっていただいたアーティストに、今の私に歌ってほしい新曲を書いてもらう」というものがあって。それで、デビューアルバムのプロデューサーである鈴木慶一さんと「Twiggy Twiggy」を書いてくださった佐藤奈々子さんで1曲、ソロの次はポータブル・ロックの活動だったので、30年振りに新曲を書こうということになりました。それともう一つ、ポータブル・ロックはデモテープ集の『Beginnings』というアルバムだけは配信になっているんですけど、それが今、海外の方たちに聴かれることで、イギリスのケロ・ケロ・ボニトが影響を受けたアーティストとして名前を挙げていたり、そういう話が聞こえてきたんです。80'sの音楽が好きな若い人たちが、日本に限らず世界中にいるということがわかったので、まだ配信されていないポータブル・ロックの2枚のアルバムをベストアルバムにして、さらに新曲2曲を書いて出したらどうか?という話になったんです。


▲ポータブル・ロック『PAST & FUTURE ~My Favorite Portable Rock』『New Beautiful』

――では気になるその3曲の新曲について、深堀りしていきます。野宮さんの『New Beautiful』に入っている「Portable Love」は、どんな作り方をした曲ですか。

鈴木:あれは、昔からサポートをお願いしている金津ヒロシ(プラチナKIT)さんが、ひな形を持ってきてくれたんです。金津くんが「今ポータブル・ロックをやるならこういう感じが良いんじゃないか」と言ってくれて、聴いてみたらすごく良くて、じゃあこれを膨らませて新しい曲にしようということでしたね。それを僕と中ちゃんでいろいろ変えて行って、サビは僕が作ったんですけど、Bメロは中ちゃんが作って。

野宮:歌詞は私が書いて。みんなで作りました。


▲野宮真貴ソロアルバム『New Beautiful』

――絶妙な曲調ですよね。2000年代のエレクトロポップ感もあって、80年代の懐かしさもちゃんと入っていて。

鈴木:そうそう。新しい感と古い感が混ざってる。そもそも80年代にポータブル・ロックをやっていた頃は、共作ってあんまりなかったんですよ。なぜかというと、僕と中ちゃんが作る曲が、ジャンルが全然違っていて、僕がアメリカだったら中ちゃんがイギリスとか、中ちゃんがプログレだったら僕はポップスとか、そういう感じだったので。それに、お互いに「その曲は違うんじゃないか」みたいなことは絶対に言わないという不文律があって、その中でやっていたから、共作というのは今回が初めてだよね。

中原:まあこんな感じかな?って。楽は楽ですね、一人で悩むことがないから。

鈴木:途中まですごく根を詰めてやってて、「はい、タッチ」みたいな。楽だったね。

中原:そうだね。良いか悪いかはわからないけど。

――素敵な曲です。そしてポータブル・ロックの『PAST&FUTURE』に入っている新曲が、「Lonely Girl,Dreaming Girl」と「チェルシーの午後」。「Lonely Girl,Dreaming Girl」は、誰がリードした曲ですか。

野宮:それは中原さんです。

中原:昔のポータブル・ロックのイメージもちょっとありつつ、新しく…もないけど、ちょっと新しい感じが出ればいいかなということは思っていました。



――確かに、新曲3曲の中では一番懐かしさを感じる、80年代のポータブル・ロックのイメージに近い曲だと思いました。

鈴木:コード進行を昔と同じものを使ったりして。昔のひな形に新しいものをくっつけてクリエイトするみたいな感じがあったよね。「昔のこの曲、良いよね」とか、言う人がいるじゃないですか。「ダンス・ボランティア」とか、今聴くと良いよね、みたいな。

中原:いろいろ言われるからね。

野宮:「またああいうの作ってよ」みたいな?

鈴木:そうそう。でもこれは、最初に中ちゃんが持ってきた時、「新しい路線をやってるな」と思ったよ。

中原:あ、ほんと? 俺、デモテープ作るのが下手なのよ。ちょっとしか作らないから。苦手なんだよね、とにかく。

鈴木:すぐ本番に行きたいタイプだからね。


▲野宮真貴(Vo)

――3人のマジックが、見事に絡み合った曲だと思います。野宮さん、「Lonely Girl,Dreaming Girl」の歌詞の世界は、どんなイメージで?

野宮:歌詞の世界は、今回の自分のアルバムの曲も、ポータブル・ロックの曲も、アンドロイドというか、レプリカントというか、そういう感じなんです。

――『ブレードランナー』の世界ですか。

野宮:まさに。「Lonely Girl,Dreaming Girl」にも、そういうニュアンスが入っています。人間の恋だと、始まりがあると終わりがあるじゃないですか。でもレプリカントの恋だと、始まらないから終わりもない。

――かっこいい…。

野宮:別に、普通のラブソングとして受け取っていただいていいんですけど、でも自分の中では、音とか世界観を含めて、そういうイメージはありました。

――そしてもう1曲が「チェルシーの午後」。一聴して「おお、ネコアコだ」と思っちゃいました。

鈴木:その通りです(笑)。ポータブル・ロックを始めた頃は、ネオアコ…という言葉が使われる全然前だったんだけど、それまでエレキギターを弾いてた人がフォークギターを持って爽やかにやっているみたいな、そういう世界を狙っていたんですね。実際、そういう曲もあるんですよ。たとえば「グリーン・ブックス」とか、クロスビー、スティルス&ナッシュとか、70年代の、3人で生ギターを持ってハモっちゃうみたいな、そういうイメージはありました。それで曲を作って一応詞も書いて真貴ちゃんに渡したら、「ちょっと直させて」ということで。

野宮:もちろん詞の物語も大事なんですけど、歌った時のメロディへの日本語の乗り方とか、歌いやすさで、少しだけ直させてもらいました。

鈴木:それで、すごく良くなった。こういう共作も初めてだよね。

野宮:初めて。というか、私、以前はポータブル・ロックに詞を書いたことないよね。


▲鈴木智文(G)

――そうなんですよね、実は。

中原:だから、そこが一番心配だったの(笑)。鈴木くんが「自分で書く」って言うから。

野宮:私が、「作詞家に頼んだら?」って言っても、いくら経っても全然返事がないし。

鈴木:締め切りの直前にならないと動かないから(笑)。

野宮:だから「これはやるしかない」と思って。ギリギリに上がった鈴木くんの歌詞を手直ししました。

鈴木:良かったですよ。初めて共作したけれど、これからもやってほしいなと思いました。なんで今までやってこなかったんだろう?と思うけど、(野宮真貴は)基本的に、お題があって、それに乗ってパフォーマンスしたり、いろいろ着替えたり、マネキン的な感じもあるから。ピチカートの時もそうだけど、小西(康陽)のビジョンがあって、そういうものをずっと実践してやってきたから。ポータブル・ロックもそういうところがあって、「あえて主張することはそんなにないです」みたいな感じだったからかな。

――そこは、時を経て、野宮さんの中で、より自然体になってきたということですかね。

野宮:そうですね。書きたい曲なら書くし、書きたくない曲は書かない。という自然体ね。無理はしないタイプなんです。それと、ピチカートのあと、ずっとソロで20年ぐらいやっていたので、また3人でバンド活動するのは楽しいということもありました。レコーディングも楽しかったし。歌うだけじゃなくて曲作りの醍醐味を味わえて新鮮でした。

――中原さん。あらためて、この『PAST&FUTURE』はどんな作品ですか、自身にとって。

中原:けっこう気に入っています。

鈴木:今から変えろって言っても無理だからね(笑)。

中原:ああしておけば良かったな、というのはちょっとあるけど。

鈴木:「クリケット」の2番のコーラスとかでしょ?

――あら(笑)。そうなんですか?

野宮:あのコーラス、誰がやってるの? あの輪唱は。

中原:やったのは俺たちだけど、言い出したのは慶一さん。やったというか、やらされた(笑)。

鈴木:本当はやりたくない気持ちがあったんだけど、当時、慶一さんには言えなかった(笑)。そういうことはありますよ、やっぱり。


▲中原信雄(B)

――そういう、当時ならではのアレンジの面白さもたくさんあって。『PAST&FUTURE』は、ニューウェーヴやテクノポップのマニアックなファンにも楽しめると思いますし、新しい世代のリスナーには、とてもフレッシュに感じる音になっていると思います。

野宮:それがすごく楽しみですね。どういうふうに反応があるのかな?って。

鈴木:いろんな人に聴いてもらいたいです。特に若い世代に。新しいものとして聴けると思うので。

――最新型のポータブル・ロック、だと思います。そして、このあとの活動の予定は?

野宮:「ポータブル・ロックってこういうバンドです」ということは、この1枚でわかっていただけると思いますので、あとはライブですね。7月9日に、新代田FEVERで結成40周年記念ライブをやります。やっぱり40年という時間が経って、当時のままというわけにはいかないですけど、今の私たちがやるとどうなるのか?ということを、自分たちも楽しみにしています。でも80年代の作品も本当にしっかりと作っていたんだなということは、あらためて聴いて思うので、ライブでどう再現するかが楽しみですね。あとはスペシャルゲストを考えています。若いミュージシャン。「新旧ニューウェーブが交差する奇跡のライブ!」みたいな。ニューウェーブって人と違うことをするアティチュードが大切だから。

――そしてその先は…。

中原:まずはライブを乗り切って、その時の感じを見て。先のことは考えてないです。

野宮:そういう感じだと思いますよ。そんなに先のことを考えてもね。とりあえずひとつずつ目標を作って、それをやって、積み重なっていけば…。

鈴木:歴史になる(笑)。気づいたら、うしろに道ができていた。

野宮:もしかしたら、すごくライブが楽しくて、続けていこうと思うのか、新しい楽曲ができてくるのか。どうなるのかわからないですが、とりあえず目の前のことをやっていきます。

鈴木:まだまだ頑張る気持ちはあるんですけどね。

野宮:とにかく3人とも、それぞれが音楽活動を40年間続けてきて、こうやって現役でやっていたからこそ、また集まってこうしてバンドが再開できたわけで、それはすごく嬉しいことですね。当時の音楽仲間は、もう音楽をやっていない方もいたりする中で、こうやってまた集まって、曲を作って、レコーディングして、ライブもできる。それはすごくありがたいことだと思います。遅れてきた青春を楽しんでみようかと。

取材・文:宮本英夫

リリース情報

『PAST & FUTURE ~My Favorite Portable Rock』
TKCA-75049/定価\2,800(税抜\2,545)
01. グリーン・ブックス (1983: Remastered)
02. クリケット (1983: Remastered)
03. TuTu (1985: Remastered)
04. CINEMIC LOVE (1985: Remastered)
05. アイドル (1985: Remastered)
06. 夏の日々 (1985: Remastered)
07. 春して、恋して、見つめて、キスして(1986:Remastered)
08. 憂ウツのHOLD ME (1987: Remastered)
09. ダンス・ボランティア (1987: Remastered)
10. 裸のベイビー・フェイス (1987: Remastered)
11. イーディ (1989: Remastered)
12. スウィート・ルネッサンス (1989: Remastered)
13. Lonely Girl, Dreaming Girl (2022: 新録音)
14. チェルシーの午後 (2022: 新録音)

野宮真貴ソロアルバム
『New Beautiful』
VICL-65698 \3,300(税込)
01.東京は夜の七時 (feat. Night Tempo)
02.陽の当たる大通り (feat. Phum Viphurit)
03.スウィート・ソウル・レヴュー (duet with Rainych, feat. evening cinema)
04.CANDY MOON
05.おないどし
06.大人の恋、もしくは恋のエチュード
07.Portable Love
08.美しい鏡
09.夢で逢えたら (duet with 鈴木雅之) from 『野宮真貴、還暦に歌う。』ライブ (2020.8.19)
10.サンキュー from 『野宮真貴×矢舟テツロー ~うた、ピアノ、ベース、ドラムス』ライブ (2021.12.18)

ライブ・イベント情報

ポータブル・ロック 結成40周年記念ライブ
<PAST & FUTURE ~My Favorite Portable Rock>
2022年7月9日(土)東京都 新代田FEVER
◆https://www.fever-popo.com/schedule/2022/07/09/

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