【インタビュー】近視のサエ子、「ゴールは死ぬまで何かを創り続けること。それができたら幸せ」

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2017年よりプロジェクトを始動して以来、“熟せば、ややこしくなるものなのよ女って”をキャッチコピーに妙齢女の劣情を歌い続ける“近視のサエ子”。音楽のほかにも、広告デザイナー・コピーライター・映像作家など幅広く活躍しているクリエイターだ。

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2022年5月25日(水)にデジタルシングル「女、深夜の麵屋にて」をリリースした彼女が今回コラボ相手に選んだのは、ジャパニーズシティポップの王・山下達郎を強くリスペクトすることで有名なミュージシャン、ポセイドン・石川である。本作ではポセイドンが楽曲提供とコーラスを担当し、近視のサエ子が歌詞を担当、またMVはサエ子本人が監督・編集も務めている。ポセイドン・レコーズの楽曲提供第一弾となる今作、ラーメン屋で紡がれる深夜の号泣物語は、はたしてどのような経緯から生まれたのか? 近視のサエ子本人に話を聞いた。


■自分では思い浮かばないコード進行とメロディで
■ものすごく難産だった「女、深夜の麵屋にて」

──そもそもこのコラボはポセイドンさんとサエ子さん、どちらの発案だったんでしょうか?

近視のサエ子:私です。ポセイドンさんのことは以前から一方的に知っていました。私は京都で過ごした学生時代、軽音サークルにいて、インディーズのバンドを知る機会が結構あって。そこで繋がった音楽仲間と、同じく京都で活動されていたポセイドンさんも繋がりがあったんです。だから直接の友人ではないけれど、SNSでは「友だちの友だち」という感じで、存在だけですが知っていたんです。

──ポセイドンさんはテレビでよく拝見します。

近視のサエ子:そうですね。その後もモノマネで活躍されていることももちろん知っていました。SNSなどでも知り合いの知り合いに名前が出てきたりしていて、割と近いところにいる人だなぁと思っていました。それが「この人、いい!」になったのは、今回の「女、深夜の麺屋にて」から始まる連続リリースでサウンドプロデューサーをしてくださっている松浦(恵/Terry&Francisco)さんと打ち合わせをしていたとき。「この人いいよ」といって見せられたのが、ポセイドンさんの「シャチに目をつけられて」のMVでした。それが、ものすっごく良くて!  それで「この人とコラボしたい!」と思って連絡を取りました。

──そこでコラボが決まったんですね。ポセイドンさんが楽曲提供という形になるのは、その時点で決まっていたんですか?

近視のサエ子:いえ、まったく(笑)。勢いだけで連絡しましたから。そもそも私もポセイドンさんも作詞作曲をする人で、制作範囲がかぶっているんですよ。特に私は共作の経験も乏しかったので、ずっと手探り状態でした。色々とああでもないこうでもないとやって、ポセイドンさんが作曲してくださったものに私が歌詞をつけるという形に落ち着きました。

──やはり自分で曲を作るのとは違いました?

近視のサエ子:まったく違いました。私はメロディと歌詞が同時に浮かぶタイプで。先に曲を渡されてそこから歌詞を考えると、思いつく言葉が綺麗に入らないんですね。さらにポセイドンさんの音が、ものすごく複雑なコードを使われていて。ジャズの人が作るメロディラインなんです。めちゃくちゃ難しい。絶対に自分では思い浮かばないコード進行とメロディでしたから、ものすごく難産でしたね。

──ご自身で作曲もできるからこその難産という感じですね。今回のテーマである「ラーメン」は、サエ子さんの発案ですか?

近視のサエ子:そうですね。まず、ポセイドンさんとコラボすると決まったときに、過去にラーメン屋で働いていたという経歴を聞いて。そこでMVのネタがまず浮かびました。「ポセイドンさんに湯切りしてほしい!」と(笑)。私は映像作品も作っていて、普段からショートストーリーを書き溜めているんです。その中のネタに、「号泣しながらラーメンを食べている、きちんとした身なりの女性」というものがあって。ポセイドンさんのラーメン屋の話を聞いたときに、「この路線でいこう!」となりました。


■私の作るものの一貫したテーマが
■「おもしろ悲しい」

──ポセイドンさんといえば山下達郎さん愛で有名ですが、サエ子さんご自身はいかがですか?

近視のサエ子:もちろん山下達郎さんは好きですが、ポセイドンさんの知識には敵いません(笑)。小5のときに出会ったKinkiKidsの曲が私の初めて触れた山下達郎さんの楽曲で、それ以来ファンです。たまたまなんですが、近視のサエ子でずっとベースをお願いしている川内啓史さんが、竹内まりやさんをはじめとするスマイルカンパニー所属アーティストの作品にも参加されている方。今回の参加ミュージシャンを解禁したら、ポセイドンさんのファンの方が「ベースが川内さんだ!」と喜んでいらっしゃるコメントもついていて、心の中で「よしよし♪」って(笑)。 川内さんのベースがすごくかっこいいんです。ご本人に言ったことないですけど、2020年に出した「近づかんとって」は、川内さんのベースありきで作りました。今回の曲も、レコーディングするより前からずっと脳内で川内さんのベースが鳴っていました。あと、ポセイドンさんに関しては、達郎さんのモノマネがというよりは「シャチに目をつけられて」のMVがあまりにもぐっときてしまって。本当に大好きなんですよ。メロディはスローテンポで、シャチに目をつけられたという歌詞とゆるい午後の光景。その世界観にハマりました。


──「シャチに目をつけられて」のMVを拝見しましたが、なんというか独特な世界観ですよね。

近視のサエ子:ですね。ポセイドンさんに絶賛したら「あれが好きな人は限られている」って言われました(笑)。でも、あの哀愁がすごく良くて。実は私の作るものには一貫したテーマがあって、それが「おもしろ悲しい」なんですね。パッと見たら笑えるけど、なんとなく悲しい。それが、「シャチに目をつけられて」にもあったんですね。あれこそ、「おもしろ悲しい」だろうって。何か悲しいことがあったときに、自分に酔って私可哀想って浸るのってなかなか人には伝わらない気がしていて。それだったら「嫌なことがあったときに、チキンラーメンにキムチを入れて、それを泣きながら啜る」の方が伝わるんじゃないかなって。「生きてる」って感じがしてすごく愛らしい姿を、自分のなかで「おもしろ悲しい」としています。


──確かに「本当に辛いことがあったんだな」と思いますね(笑)。ところで今回のMVではサエ子さんが着物を着た“麺の精”を演じていらっしゃいますが、あれは?

近視のサエ子:実は最初は私が“泣く女”を演じる予定だったんです。寸劇をやるつもりでした。ところがこのMVを制作する直前に、私が広告ディレクターのお仕事で堤幸彦監督の映画『truth~姦しき弔いの果て~』の宣伝ビジュアルを担当する機会がありまして。その映画に出演していたのが、今回“泣く女”を演じてくれた福宮あやのさんでした。彼女の幸が薄い演技を見て、“泣く女”は福宮さんしかいないなと。宣伝ビジュアルの撮影中に、自分のMVが浮かんできました。そこで私はMVには出ないことにして、それをビジュアルディレクターの雨森さんに共有したところ、「出なくちゃダメっしょ!」と言われてしまい(笑)。サウンドプロデューサーの松浦さんからも「出なくちゃダメでしょ!」と同じことを言われ。でも“泣く女”を演じるとなっても、私だとどうしてもビジュアル的に物悲しい感じが出ない。そこで考え直して、「妖精がいたら楽しいな」と(笑)。「そこにいるようでいない存在」を作ることにしました。イレギュラーな姿に見えるように、手持ちの衣装の中から考えていって。

──あれは私物だったんですね。でも、あの着物の黒と赤が作品の印象に一役買っているように見えます。

近視のサエ子:色味には本当にこだわりました。全体的に青みがかった画面に仕上げていますが、撮影中にカメラマンさんに映像を見せてもらって、都度確認しながら。最終的には編集段階であの色に寄せていきました。

■これまで重ねていった経験値で
■表現できることもいっぱいある

──編集もご自身でやられているんですか?

近視のサエ子:はい、MVでは監督と編集も自分でやっています。撮影はビジュアルディレクターの雨森さんがメインカメラもされています。あとは、スタジオライティングもできるカメラマンをもう1人サポートで呼びました。

──こうしてみると、ご自身もそうですがいろんな才能を持ったスタッフさんがサエ子さんを支えているように見えますね。

近視のサエ子:本当にありがたいです。せっかくインディーズなのだから、やりたい人とやりたいことをやりたい。そう思っていろんな人に声をかけた結果かなと思います。今までやってきた仕事の人脈を限界まで駆使して(笑)。そこは10代の頃にはできなかったことだなと。ありがたいなあとしみじみ思います。ただ、ちょっと葛藤もあって……音楽業界で頑張っているインディーズの人たちは、自分の力だけでやっている人も多い。私は広告ディレクション等のお仕事で収入や人脈がある。それって、ちゃんと音楽に向き合っていないんじゃないか? そういった葛藤があって、命がけで音楽をやってないなって思うこともあるんです。

──音楽を専業でやっていないことへの負い目がある。

近視のサエ子:そうですね。20代半ばぐらいまでは、「私、歌わなかったら死ぬ」っていつも言ってたんです。でも、あるときから「そもそも命を懸けることかな?」「あ、私、歌わなくても死なない!」って思うようにもなって。ただ、広告制作をやってキャンペーン企画をやってって、別のことをやっているからこそできることもいっぱいある。もちろん若い頃に才能が開花して音楽だけをやって生きていくことに憧れはあったけど、これまで重ねていった経験値で表現できることもいっぱいある。今はそんな風にも思っています。

──これまでの経験をフルに使って、今だからこそ作れる作品を作る。それもまた、音楽への真摯な向き合い方という気がしますね。それでは最後に、ご自身のゴールを教えてください。

近視のサエ子:ゴールは死ぬまで何かを創り続けること。それができたら幸せだと思います。あとは、大阪ABCラジオの「ABCミュージックパラダイス」に出たいです。子どもの頃から、朝は親が聞いていた「おはようパーソナリティ道上洋三」から始まり、夜は「ミューパラ」を聞いて寝ていたんです。特に「ミューパラ」は、10歳の誕生日に父がラジオを買ってくれてから、寝ているふりをして布団に潜って毎晩聴いてました。「ミューパラ」はヒット曲をランキング形式で紹介していく番組なんです。いつか私も出たいので……ヒットを出すまで音楽を作り続けなきゃ(笑)。

取材・文:坂野りんこ
(C)Short Sighted Saeko / Poseidon Ishikawa
Photo by Maki Amemori


「女、深夜の麺屋にて」

2022年5月25日(水)
配信リンク https://big-up.style/LrIDkK3aId

Vocal & Lyrics : Short Sighted Saeko
Music & Chorus : Poseidon Ishikawa

Sound produce & Arrange : Kei Matsuura
Guitar : Takuro Kinoshita
Bass : Keishi Kawauchi
All other instruments : Kei Matsuura
Recording Engineer : Ayuki Sodegami
Mix & Mastering : Yuichi Nagayama

Hair styling : Miki Yamaguchi
Assistant Cinematography, Lighting : Keiko Harada
Kimono Styling : Ayano Fukumiya
Photography : Maki Amemori
Artwork Design : Sae Kanenobu

◆近視のサエ子 オフィシャルサイト
◆近視のサエ子 Twitter
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